波紋
「爆薬さんは、私の研究室で仕事よ」
魔女が、さらりと言った。
「貴方のお仲間さんが居るから、挨拶しなさい」
お仲間?ああ、ミーヤか。
「おう!任せろ!」
爆薬さんが、やたら元気よく返事をする。
……ホント軽いやつだな。
研究室に入った瞬間、爆薬さんの目が輝いた。
「ほぉぉぉ……!」
試験管。蒸留器。粉末。金属片。
「いい匂いだ……!」
いや、匂いって何だ。ミーヤが、振り向く。
「……あなた、火薬?」
「おう!」
即答。
「爆薬と罠の専門家だ!」
専門家なのか。
ミーヤは、じっと爆薬さんを観察した。
そして、ぽつりと。
「……使える」
おい。
「爆発は、制御出来れば力」
爆薬さんが、満面の笑みを浮かべる。
「分かってるじゃねぇか!」
嫌な意気投合の仕方するな。
魔女が、にやりと笑う。
「辺境の防衛には、爆破罠も必要よ」
爆薬さんの輪郭が、少し濃くなる。
やっぱり、役割に沿った行動は安定するらしい。
……他の奴らの方が、まだ普通か?
てか、何を持って“普通”と言うのか、既に訳分からんけどな……
盾さんは、既にユーシアと並び立ち、護衛の動線を確認している。
磁石さんは、城内と街の簡易地図を作り直している。
守くんは、ユーシアの後ろに立ち、真似る様に姿勢を整えている。
……うん。
エリシアの護衛は、これでバッチリだろ。
多分。いや、きっと。
その頃。
王都を含めた幾つかの大きな街では、静かな騒ぎが起きていた。
最初は、骨董商の一角からだった。
「これは……どこから仕入れた?」
「秘密です」
商人は、曖昧に笑う。
市場に出回り始めた金貨と銀貨。
古い刻印。王国成立以前の王家の紋章。
そして――見た事の無い純度の魔石。
「この魔石、どの鉱山の物だ?」
「分かりません。ですが、本物です」
鑑定士が、眉を顰める。
「こんな物が、急に市場に出るはずが……」
やがて、噂は広がる。
“埋蔵金が見つかったらしい”
“どこかの貴族が、隠し財産を放出している”
“王都外の領地で、何かが起きている”
噂は尾ひれを付け、やがて王城へも届いた。
「例の古銭の件か」
低い声。書類が、机に置かれる。
「複数の街で確認。量は少量ずつ。だが、出所不明」
「調べろ」
短い命令。
「流通経路を洗い出せ」
「はっ」
そして、別の書類。
「魔石の品質が異常に高いとの報告も」
一瞬の沈黙。
「……面倒な事をする」
視線が、窓の外へ向けられる。
遠く。辺境の方角。
「第二王女は、今どこに居る?」
部屋の空気が、僅かに冷える。
辺境。
俺は、その事をまだ知らない。
「なあ、ポチ」
ネルが、ふわりと横に並ぶ。
「金が動くと、人も動くぞ」
……嫌な言い方するな。
「当たり前だろ」
「いや?」
ネルが、にやりと笑う。
「面白くなってきたって事だ」
……波紋は、広がっているらしい。




