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第十五章 KP株式会社

第十五章 KP株式会社


木村の起業宣言から4日が経っていた。その間、わかっていたことだが何度もアプローチを受け、その度に運営内容を修正しつつ理想論を聞かされ続けた。ただ、本気で考えているようであり、現実味を帯びた話も交えられ、サブリミナル効果のごとく僕は本当に社会で通じるんじゃないかと思うようになっていた。

そして、同様に洗脳された部員が次々に採用となり、みんな木村に騙されるんじゃないかと思いつつ”大学生での起業”ということに興味を持ち、軽い気持ちでやってみようと行動に移していった。

そしてついに僕も7日目には起業メンバーとなることを了承し、結果的に水島先輩、武田先輩、夏樹ちゃん、僕、合計4人が話に乗ってしまった。

会社名はさすがに木村大統領株式会社では絶対に嫌だってことで、別の社名を考えることとなり、本決定までの仮名称はKP株式会社となった。ちなみにKは木村のKで、PはプレジデントのPだ。

具体的に事業を始める前に、資本を集めることと、運営母体を作る必要があった。運営方針は木村がだいたい決めており、既に有名な教授が在籍している学校に渉外活動を始めているということだった。

社長は当然木村だと思っていたが、木村いわく営業活動を行ううえで知識と理論を説明するために不本意ながら木村営業部長として甘んじてやるということで、流れ的に、まあいつものことだが僕が代表取締役をさせられることとなってしまった。社長と言っても当面は起業のための書類を読んで判子を押したりすることで、会社というシステムの勉強がメインだった。水島先輩は木村と一緒に渉外活動を行い、武田先輩はシステム構築のために動いているらしい。夏樹ちゃんは会計関係の仕事をするために資格の勉強を始めた。

慌しく始まった起業準備は、ガラにもなく真剣な木村の行動によって飛躍的に進み、運営方法に賛同してくれそうな学校が2つほどあると報告があった。僕の方も会社を始めるための準備を進め、意外と簡単に株式会社が創れることがわかった。まあほとんどの段取りは木村が済ませていたのだが。


そうして数ヶ月後、僕たちはKP株式会社(結局この名前となった)を立ち上げ、僕はその代表取締役となってしまったのだった。

といっても会社が立ち上がってしまえば僕の仕事はなくなり、木村をメインとした外交部隊からの報告を待つだけだった。


そしてある日、事件は起こった。いや、正確には気付いたと言う方が正しい。

KP株式会社が借りていたオフィスが消えたのだ。実際には消えたんじゃなく、使っていたデスクや椅子、パソコンなどのAO機器、コピー機に書類棚までもがキレイに無くなっていて、空間だけがぽっかり存在していた。

僕は何が起こったのか理解できず、しばらくの間は呆然と立ち尽くすしかなかった。やっと頭が働くようになったとき、木村に電話をかけた。

嫌な予感は的中した。電話のアナウンスが無情に流すのは、現在使われていませんという決まり文句。続いて夏樹ちゃん、水島先輩、武田先輩、全員が同じ結果だった。

どうしてこうなった?倒産した?でも連絡がつかないのはなぜだ?社員ではなかったレナ先輩にも電話するが、同じ結果だった。1回生にかけると3人全員につながったが、みんな何も知らなかった。

そういえば僕はみんなの実家の電話番号も住所も知らない。そうだ、言語研究会の顧問の先生に聞けばわかるはずだ。

だが、ここで僕の淡い期待は跡形もなく砕かれた。大学の教務課に聞くと、そんな先生はいないと言われ、さらに言語研究会という部も存在していないという。そんなバカな。部室があり活動もしていた。合宿だって学園祭の展示だってした。僅かな希望を求め、大学の保養所に行くと、合宿で対応してくれた女性は既に辞めていた。受付などはすべてその人が行っていたということだが、一切の記録は残っていなかった。学園祭での展示については、言語研究会という部からの申請ではなく、一般団体からのスペース使用許可申請だったことが判明。部室は倉庫として使用されているはずの空き部屋を勝手に使っていたようだ。鍵はもちろん複製されたものだと思われる。

僕はなす術もなく時間だけが過ぎていった。1回生にはうまく事情を説明できず、ただ部の活動自体を当面は休部とすることだけ伝えた。色々と質問されたが、今の僕にはその答えを持ち合わせていなかった。


そして事件から2ヶ月ほど経ったある日、大阪豊北銀行の融資担当者を名乗る人から電話があり、信じられないことを聞かされたのだった。それは、KP株式会社に対し融資した件で、返済が滞っていること。そして当然ながら代表者である僕がその債務について支払う義務がある内容の契約であること。

僕は話が理解できず、銀行まで行って話を聞いたが返答は同じであり、代表者である僕が理解できないことに苛立ちを覚えた融資担当者が、今後の返済計画について履行できない場合には担保物件について競売にかけることになるという事実を念押ししてきた。担保物件なんて僕は知らないというと、不動産登記簿謄本の写しを見せられた。そこには僕の実家の地番が記載されていた。そんなことがあっていいのだろうか?僕の所有財産じゃない物件が担保として提供されている。これは法律的に違法では、そう考えたが僕は諦めた。そう、抵当に入れる際、不動産所有者の承諾がある以上、法律的にはまったく問題ない。手続きが出来てしまっていることからその点にミスはないのだろう。そして登記簿の次のページを見ると、共同担保目録として、おそらく僕の親が所有してると思われる物件のすべてが担保として抵当権をつけられたのだ。その融資限度額は2億2千万円。木村に僕の実家の状況など話した覚えはないのだが、会社の起業の際に作成した書類の中にあったのかもしれない。的中してほしくない予感が当たったようだ。そうだ、僕は騙されたのだ。入部当時に部員だった人間すべてがグルで、最初からこういう計画だったのだ。1年以上もかけた人間関係を築き信用させ、全員が起業に賛成し、僕だけが断れない状況を作り出したのだ。おそらく最初から僕はターゲットとして選ばれていた。それは実家が地主だからなのだろう。20歳を過ぎて成人したことをきっかけとして動き出し、社長として実印などを作らせたのもすべてはこのため。信じたくはないが他に理由が見当たらない。


そして、僕を待っていたのはさらに厳しい現実だった。大阪豊北銀行の返済催告の後、続けて4社の銀行や信用金庫などからも同様の催告があり、また、消費者金融などからも借金を重ねていたことも判明したのだった。KP株式会社が背負った借金の総額は約4億円。そしてそれは僕個人、草野拓斗が背負った借金という意味だった。


出来れば本人たちと話し合いをしたかったが、連絡がつかないので警察に行き、事のあらましを入学時点から説明した。すると担当者ということで別の刑事が現れ、こう言った、”また奴らか”と。詳しく聞くと、同様の相談が今年に入ってから僕で3人目らしい。現在、警察が事件の首謀者を追っているようだが実行グループが複数あり、また痕跡をまったく残さないことから捜査は難航、足取りもつかめていないとのこと。僕の他の被害者が持っていた実行犯の写真を見せられたが、木村たちじゃなかった。結局有益な情報が得られないまま、ただ早急に会社の破産手続きと、僕自身の自己破産を勧められた。自己破産すれば当然ながら抵当権がついた僕の親の所有財産すべてが競売物件として売りさばかれる。かといって返済なんて出来るはずもない。僕は途方にくれた。


僕は実家に戻り、洗いざらい説明し、ただただひたすら謝った。父も母もそんな僕を怒らなかった。そして各金融機関と話し合いをし、所有不動産のうち手放せる物件を売却していき、借金の返済に充てていった。その結果、なんとか家だけは残してもらい、借金の返済を続けていくことで自己破産は免れたのだった。もちろん借金を返済するのは僕ではなく僕の親と、そして巻き込んでしまった親族だ。


木村、色々バカなことを話したりしたが、あればすべて演出だったのか?あのキャラはお前自身じゃなかったのか?僕はお前のことを面白いって思い、嫌いではあったけど友達として好きだったのも事実だ。

水島先輩、あの優しさは全部嘘だったんですか?みんなの世話を焼いてくれてたのも脚本通りだったんですか?僕は将来を見据えたあなたを尊敬していました。

武田先輩、は別にどうでもいいか。

レナ先輩、個性的だったけど、本当はとてもいい人で、後輩想いの先輩でした。でもそれも全部嘘だったんですね。木村とのやり取りは僕を惹きつけるための囮だったんですね。

夏樹ちゃん、僕は君が・・・いや、あの夏樹ちゃんは本当の夏樹ちゃんじゃなかったんだ。


あれから2年が経った。僕は借金を返済している親族のため必死で勉強し、そして刑事になっていた。今でも勉強は続けており、いずれは検事になるつもりだ。刑事になったのは、今でも実態がつかめていない”ファントム”と呼ばれている詐欺集団を捕まえるためだ。結局2年前の被害件数は7件まで増え、被害額は低い人で1億円程度で、多かったのは僕ともう1人の4億円クラスだった。首謀者はおろか、実行犯の1人も捕まっていないため、捜査本部は事実上稼動しておらず、今では名前だけになっている。でも僕はこのまま終わらせるつもりはない。絶対に奴らを捕まえて罪を償わせてやる。

頑張れ草野、負けるな草野、正義を貫き通し、いつか笑えるその日まで。


・・・


「長々と聞きましたが、それで、オチはなんですか武田先輩?まさかそれで終わりですか?僕様はそんなちっぽけな4億円のために起業するなんて言ってませんよ。最終目標は世界だって言ってるじゃないですか。聞いて損しました。僕様のお時間を返してください。」

「ご、ごめんなさい木村くん。」

「武田先輩、僕の実家はふつーーーーーーーの家です。妄想を働かせるのはいいですけど、勝手に設定を作らないでください。あと勝手に僕の心理状況や部員に対する想いを語らないでください。恥ずかしいです、聞いてる僕が。」

「ご、ごめんなさい草野くん。調子に乗りました。」

「武田くんさぁ、私の出番が全然ないじゃない?どうせ話を作るならもっとスリリングな話で私も活躍させてよ。」

「そ、それは僕の勝手じゃ・・・ごめんなさい水島さん。」

「あたしはけっこう面白かったですよ、武田先輩の話。最後にもうちょっと盛り上がる展開があればよかったんですけど。」

「ありがとう夏樹ちゃん、君だけが僕の味方だよ!」

「死ねばいいのに。」

「ひどくないっ!?それはあんまりだよレナちゃん。」


こうして木村の起業話を元ネタとした武田先輩の妄想した話は終わりを告げた。まったく、どうして僕が被害に合わなきゃいけないんだ。そして木村の考えた会社に入社するなんて恐ろしい真似をするはずないじゃないか。今日ばかりは木村と同じ意見だ。貴重な時間を返してほしい。


武田抹殺計画 始動


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