第十四章 起業妄想
第十四章 起業妄想
「ご清聴ありがとうございます。この度、僕様は会社を立ち上げようかと決定中です。つきましては、馬車馬のように働く社員を指名します。はいそのとおり、もちろん草野くん、君は決定です。それから水島先輩にレナ先輩、ついでに夏樹も入れてやろう。」
「ありがたいお申し出だが、全力でお断りします。」
「なんでだよぉ、草野ぉ、せっかくのマヨネーズ係だぞぉ?」
「まだそれ引きずってんのかよ。冗談はそんだけか?」
「こらぁ!冗談じゃないぞ、本気で会社を創設し、世界を征服するのだ!」
「なんの会社だよ。だいたい木村に付き従う奴なんていないだろ。」
「あたしも辞退しまーっす。どうせ怪しい会社でしょ?」
「夏樹め、僕様の用意した椅子では不満か?このビッチめ。足元を見るんじゃないよ、このエッチ!」
「はいはい、わかったわかった。」
「木村くーん、別にいいんだけどなぜに僕の名前が挙がっていないのかなぁ?」
「ああ、武田先輩、いたんですか。先輩も僕様の会社に入社しちゃいたいのですね?よかろう、今日から僕様のことをお父様と呼びなさい。」
「社長だろ普通。ったく、武田先輩も相手にしちゃダメですって、調子に乗るだけですから。」
「おい草野、・・・おい草野、本気にしてないな?」
なぜに二回呼んだ。
「当たり前だ。だいたいどんな会社の設定なんだ。」
「木村大統領株式会社。」
「ぶはっ!バカじゃん!なんで大統領なのに株式会社なんだよ!思わず吹いたわっ!」
「バカは貴様だ。僕様の崇高なお考えに賛同する愚民どもから金を調達するには株式会社にしておく必要があるのだよ。これはいわば仮の姿。いずれは世界のトップ企業に君臨するのだ!だから草野ぉ、今なら専務させてやるからさぁ。」
「専務でも副社長でもお断りだ。日本国で大統領制をやろうってんだろ?一寸先は闇、どころじゃなくて既に真っ暗闇じゃねーか。」
「何を言ってるんだ君は。日本は天皇制だよ?君の脳みそはアメリカか?脳内スティーブンか?営利目的の法人に決まってるじゃないか。ちんけな脳みそで貧しい発想してんじゃないよ、まったく。これだからマヨネーズ係は嫌いなんだよ。」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか。ちょっと傷ついたぞ。」
「じゃあ今晩、僕様が慰めて、あ・げ・る♪」
こいつ一度殺してみようかな。一度や二度殺しても死なないだろ、きっと。
気付けば僕たち以外には誰もいなくなっていた。なんだかんだ言って木村の相手をしていたのは僕だったのだ。
はぁ、情けない。
「それで、だ。会社の事業としてはインターネットを基盤としたものを考えているんだ。草野は他の大学の授業内容に興味を持ったことはないか?有名な教授や名物先生の授業なんかを聞いてみたいって。そこで僕様考えた。もちろん大学の許可がいるけど、人気の高い教授や専攻科目などの映像を編集し、カリキュラムを組むんだ。そう、ネットで大学の講義を受けるんだ。まあ一方的に聞くことになるけど、実際の講義でもそんなもんでしょ?」
「そんなこと大学が許可しないだろ。許可したら入学者が減るじゃないか。」
「そのとおり。だから飴を渡すんだ。こっちはビジネスだから、いくらカリキュラムを組んでも本来は単位がもらえず、当然卒業もできない。ただ提携することで講義ごとの修了証が受領できるようにしておく。それは受講後に提携している大学に入学すれば正式な単位として扱われる。その発行数に応じて僕様の会社から謝金が出る。そんな感じでどうかな?安直だけど、大学もビジネスなのだ。それに人気の教授がいて、クオリティの高い講座があれば、映像じゃ物足りなく感じる有能な人間はたくさんいるはず。ネットで世界中から閲覧できるから、バイリンガルも必要だが世界中に大学を宣伝できるわけだ。これってメリットじゃないか?」
「うーん、僕では理解できても、所詮は机上の空論って感じがするけどな。」
「まあ僕様も昨日考えただけだから、そんな簡単にうまくいくとは思ってない。」
「昨日かよっ!」
「思いついたら即実行、これが僕様の主義だ!そうしないと先を越されて、あー、それ、しようと思ってたのにぃ、なんてこの世で最も惨めな台詞を吐くことになるのだよ軍曹!もっとちゃんと穴がないように考えればこのビジネスは成り立つはずなのだ。そのためには部下がいるのだよ、わかるかね?無能でもいいから足が使える部下がねっ!」
「おい、当の本人を目の前にそれは言っちゃいかんだろ。」
「はっ!しまった!僕様ったら正直過ぎちゃった。はぐぉっ!?ごほっ!ぅぐぅ・・・草野め、喉チョップは反則だぞ。僕様じゃなかったらヒデブッ!!だったぞ?」
「何をわけのわからんことを。とにかくそんな怪しい会社に入るつもりはない。内定もらってない武田先輩にでもアプローチするんだな。」
「安心しろ。奴は既に僕様の手の内だ。」
「は?本当に一緒に会社するって言ってんの?」
「うむ。武田雑用部長という立派な椅子を用意した。最もまだ武田先輩は僕様の会社とは知らないはずだがな。」
「なんだか嫌な予感120%だが、一応聞かせてもらおうじゃないか、木村社長。」
「大統領と呼びたまへ。先日、武田部長が入社試験を受けた会社の結果だが、当然不採用だったわけだ。」
「そこで当然と言うのはいかがなものでしょうか。武田先輩、泣いちゃいますよ?なんであの人そんなに採用されないかわからないな。」
「彼は普通過ぎて特徴がないのだよ。今、企業ではもっとやる気と能力を両方持ち合わせていたり、使える資格を持ってたり、とにかく即戦力が必要なのだ。昔みたいに新入社員を教育して育成する時間的及び金銭的余裕はないのだよ。だから彼よりもいい人材が先を行く。そして武田先輩はいい企業に入ろうと高望みをしてるから受からないのです。」
「おぉ、正確な分析をありがとう。納得しました。それで?」
「うむ。大手企業だから不採用者には一々連絡しないと踏んで、僕様が当企業の関連会社を装って封書を送達してあげたのだ。なんと彼のような不出来な人材を採用してあげようじゃないか、という内容のね。」
「おい、それって丸っきり嘘じゃないか。詐欺っすよ。」
「嘘じゃないよ!詐欺じゃないよ!本当だよ!僕様の会社は彼を必要としているのだ!」
「雑用部長として、ですがね。」
「確かに採用通知の会社名は僕様の会社名ではない。しかし、哀れにも架空の会社に採用された武田くんを、僕様の会社が架空の会社を吸収合併して受け入れてやろうというのだ、なんて神的な僕様。むしろボクガミサマだよ。」
「その架空の会社もすべて貴様の仕組んだ罠ではないか。何がボクガミサマだ。魔王クラスの悪魔だよお前は。武田先輩に伝えておくからな。」
「ふぇっふぇっふぇっ、止めておいた方が幸せだぞ?お前に絶望を背負う勇気があるか?不採用の通知書でトランプができそうな武田先輩に唯一落ちてきたスペシャルカード。それを破り捨てた時の大いなる絶望、魔界の海より暗く、そして冷たく、深ぁい闇だぞ?」
「スペシャルカードじゃなくてジョーカーだ。知ってて言わない方が罪だろ。ったく、ホントにロクでもないことに力を注ぎすぎだ。じゃ、僕はこれで帰るからな。無駄だろうけど木村、お前から武田先輩に謝っておけよ。」
「わかった。草野がそういうなら僕様が直接事実を話して謝罪しておくよ。」
「す、素直な木村には必ず裏がある。変なマネはするなよ?あっ!水島先輩を餌に使うつもりだな!?」
「君には失望したよ。僕様を理解してくれているのはこの広い世界の中でも佳代子と草野だけだと思っていたのに。」
「なぜにお前の母親と同レベルなんだ。とにかく、武田先輩の人生をお前の手で潰すようなことだけはするんじゃないぞ?」
「わかったって言ってるじゃないか。まったく心配性なんだから草野は。そんなんだからハルンケアが必要なんだよ。」
「僕はまだ尿漏れはしていない。」
本当に木村が武田先輩に謝罪するとは思えなかったが、いざとなれば僕が伝えればいいと思い、その日は特に何もしないことにした。
どこまで本気で言ってるのかわからないが、木村の話すビジネススタイルはやり方次第で通用するのかもしれないな、なんてバカなことを考えてしまった。




