第264話 今後の事を話し合った時の事
セレッソさんに変な目で見られたが、とりあえずアポなし訪問でカルツァ家前に転移をし、偶然にも在宅中だったので、ちょっと無理を言って乗り込ませてもらった。
「単刀直入に言いましょう。このままだとクリームで国が動くか買い取られるかになります、少し対策会議をしましょうか」
お茶が運ばれてくる前にその一言だけを言い、とりあえず今の状況を簡単に説明した。
「……とりあえず生産に対して需要が高すぎると。そして争いの原因になるから、いっその事国が管理するとか言い出しかねないって事ね」
「えぇ、そして大変失礼な事を聞きますが、カルツァ様って爵位的……貴族社会的にどの程度力を持っていますか?」
「あの時聞いていたでしょ? 私自身特に何もしてないって評価よ。けど地位的には上から数えた方が少し早いわ」
「そうですか。ならカルツァ家の紋章を入れましょう。勝手に模倣し、販売したらカルツァ家に喧嘩を売っている事になりますよね? そしてある程度生産体制が整うまでは一般流通をさせない。個人的に娼館には壺で持っていったので、一応アクアマリンが絡んでいる事を知っているのは極々一部です。ですのでその娼館周辺にしか出回らないです。幸いにも娼婦の統括的な方が義理堅いので、商人が来ても教えないか追い払うでしょう」
そして話をしている途中でお茶が運ばれてきたので、失礼だと思うが【氷】を大量に入れて飲み干した。
「それだと貴方が面白くないんじゃない? 今までの事を考えると、自分の事以外には結構アレよね?」
「まぁ、アレですね。ですが必要ならやるしかないでしょう。上や他に全部持っていかれるよりはマシです。ですので何か理由を付けて、アクアマリンでしか製造できない事にしつつ、お墨付きにしたカルツァ家がそのまま依託している感じで。まぁ、今のところ材料的にそうなんですけどね」
「そこで紋章って事ね。そして流通は貴族社会に浸透させつつ、事業拡大して生産性を上げてゆくゆくは一般に」
「えぇ、そうですね。箱の焼き印は一目でカルツァ家の紋章ってわかるようにしますが、貼ってある紙をそのままにするか、そっちも変えるか。その辺は追々やるとして、まずはできあがった商品の販売経路ですね。港から専用の馬車に積み込んで王都辺りに出荷か、カルツァ様が商店を作って直で販売するか……。まぁ、前者は王都に店を構えつつ許可とか申請しないと不味いですよね。後者はこの町に小さい店舗とか必要ですかね?」
そしてメイドさんにそのまま注いでもらった、まだ少し氷が浮いているお茶を一口飲んで、奴隷の事やガラス工房の報告を済ませた。
「つまりどうするかは私次第って事ね……」
「えぇ、自分の早まった行動でこうなってしまったのは認めますが、まさかここまでとは……。本業ではないのでこういう所で詰めが甘く、重要な所でポカをやらかすんですよねぇ……」
乾いた笑いを出しながら熱いお茶を飲み、天井の隅の方を見る。まぁ、最悪カルツァにこの事業を任せよう。
「箱に私の家の紋章。けど中の紙はアクアマリンでいいんじゃないかしら? 手に入らないからどうにかしろって言われた時の、逃げ道が私は欲しいわね。それに横から全部かっさらうと、この間みたいな事になり兼ねないしね」
いきなり来て島を寄こせって奴か。まぁ、アレはなぁ……。思ってたより俺がしっかりしてなかった可能性の結果だし。けど今回は確実に俺も悪しいしな。
「まぁ、危険な事を別けるのは良いと思いますよ。秘密を探りに来るのがココか島かになりますので。まぁ、奴隷を買ったので秘密を島外に漏らさない事はできますし、来て宿泊を求めた奴は警戒できますので。そちらはお墨付きにしてるだけで作り方は不明。定期的に一定数作れって事にしてれば火の粉は避けられる」
「投資者が現れたらどうするの? 多分。っていうか絶対出て来るわよ?」
「別に金はある。材料がないだけってのを理由に断ります。変に横から口出しされたら、たまった物じゃないので。最悪大喧嘩になりますが、こっちからは手は絶対に出しません。攻撃を確認してからにしますのでご安心を」
「全く安心できない、素晴らしいくらい作った笑顔ね。歴代の魔王が討伐されてる島で。色々な人種が入り混じった状態でドレが魔王なのかを判断するのって大変そう。勇者も人族いるし、最悪また戦争ね」
「あぁ、王都にいる勇者とは友好関係を結んでいますので、戦争になる前に俺より頭の良い奴が出てきて、話し合いで済ませると思いますよ。大魔王様……国王様のあの時の話を信じるのであれば、多分魔族側も不介入でしょうし、あの方ならお前達でなんとかしろって言いそうです」
実は国王同士集まって、停戦に持ち込むためにラズライト(※1)の国王はハブられてたし。
「そ、そ、そうね。国王様もそう仰ってましたし」
カルツァは変な汗を出しているが、やっぱりアレはトラウマ物なんだろうなぁ……。俺もある意味思い出したくないでき事だったし。
「けど、あまりにも酷いなら出張ってくる可能性がありますけどね。けど、殺される前に殲滅くらいはできると思いますよ? 海賊船の船底に大穴を開けて、泳がせてる間に弓を使えば。実際にそれで一組ほど損害なしでやってますし。財産を守るなら同族でも殺す覚悟は……一番偉い者としては持ってますので」
それも一応笑顔で答えておいた。
「そうね、それはないと困るわ。因みに同族殺しの経験は?」
「人族しかないですねー。まぁ、殺し方なんか変わらないでしょうし、初めて会ったカルツァさんの時みたいに、横暴じゃなければ話し合いの余地はあるかと……。まぁ、もしもの対策話はいつでもできますので一旦止めておきましょう」
その後は、最終的な確認作業に入り、何とか三人で妥協点を見つけて方針が決まった。
旦那? 最初っから部屋にいたけど?
「では……。箱にはカルツァ家の紋章、中の紙はアクアマリン。投資は受け付けず、材料がない事を理由にしばらくは生産数を抑える。何かあれば連絡、馬鹿がカルツァ家に来たら矛先をアクアマリンに向け、たらい回し状態で、はぐらかす方向で良いですね?」
俺はとりあえずメモを見ながら確認を取った。あとでフルールさんを持ってこないとな。
「そうね、それでいいわ。そしてこの町に、カルツァ家の紋章の入った馬車で運搬し管理。襲われたらこっちの情報網を使って処理、そっちに誰かが入り込んだらそっちで処理。模倣品が出回ったら潰す方向で私達が動くわ」
カルツァはそう言い終わると、ソファーの背もたれにため息を吐きながらもたれかかった。まぁ、一つしかない題材の話し合いだけど内容が濃かったしな。
そして旦那が呼び鈴を鳴らすとメイドが入ってきて、ダイニングルームに案内された。
「食事にでもしましょう。時間的にも夕食よ。それとも帰って奥様達と食べた方がいいかしら?」
カルツァがニヤニヤしながら言っているが、その挑発乗ってやろうじゃねぇか。
「これでも一応島の代表です。何かあってこの様に食事に誘われる事もあるでしょうし、多分理解はしてくれるでしょう。ありがたくご相伴させていただきます」
俺はニコニコと返し、運ばれて来た料理を丁寧に食べてカルツァを驚かせてやった。多少テーブルマナーを知ってる転生者なめんじゃねぇぞ。俺が寒村出身の魔王でもこのくらいできる事におどろけ。ってかこの魚料理美味いな。ホワイトソース系だから、牛乳があれば近い物は作れるな。
「では、ご馳走様でした。また何かありましたら伺わせていただきます」
「そうね。そうしてくれるとありがたいわ。それにしても結構……。かなり食べるのが上手ね、誰かに師事してもらったのかしら?」
「えぇ、魔王になったのでそれ相応の事は学ばせていただきました。たしか……元貴族の、貴族の子供を数十名教育してきた、寒村でも噂に聞くベテラン女家庭教師に」
確かそういうのはカヴァネスとか言われてた気がする。その辺探せば多分いるだろうし、それっぽいからこう言っておけば間違いはないな。某メイド漫画で読んだから多分あってる。
「ただいまー。ごめんねー、ちょっと化粧品の事で、女貴族と急遽話し合いする事になっちゃって」
蠅帳なんかはないので、俺の夕飯は多分戸棚にしまわれてる可能性が高いが、先に二人で夕食を食べた形跡がある。
「魔王になる前からたまにあったし、私は気にしない」
「だねー。あの女貴族ってのが少し気に障るけど、お仕事なら仕方ないよね。で、ご飯は?」
「ごめん、誘われて断れなかった」
「あちゃー、まぁ仕方ないかー」
「じゃあ肉は私がもらう」
「じゃ、野菜系は私がー」
「ちょっと、妊娠中なんだから気を付けてくれよ」
「薄味だから平気」
いや、元の栄養的な意味でさ? 肉ってたんぱく質とか多いし。
その後はトウモロコシのヒゲで作ったお茶を飲みながら、今日の事を話した。
「久しぶりにカームのうっかりが出た」
「たまーに詰めが甘いんだよねー。それでも他の人に比べたら少ないだろうけど」
「けど、その分規模が大きくなる」
「不思議だよねー」
「そうね。不思議ね」
妻達からあまりありがたくない言葉を聞きながら、少し申し訳なさそうにお茶を啜り、苦笑いをしながら聞いておいた。
「具体的にどうするの? 聞いてる限りだと探りは入りそうだし、カームの事だから処理はするんだろうけど」
「だねー。前に少し弱音吐いてたよね? 確かコーヒーの頃だっけ?」
あー。執事を殺した時に言った気がする。胸に顔を埋めながら。
「ヤるしかないでしょう。大切な財産だし、情報が盗まれたら大変だし。まぁ、あの白い塊が何の油だかわからなければ、どうにもならないけどね。他の場所で取れそうな場所もないし」
カカオバターは結構白いからなぁ。最悪牛脂とかと間違って出回ったら面白いんだろうけど。
「島に来たらが問題なだけで、多分あの貴族が動くでしょ。ベリルの貴族は裏で動いてる事をお父さんが言ってたけど、ここの貴族はまだよくわからない」
「島だしねー。情報が入りにくいのも少し問題だよねー」
なんで故郷の貴族が裏で動いてたの知ってるの? 義父さん、あんた何者だよ。孫の悪い噂が出たら動く気満々だったし、そんな事をなんでスズランに喋ってんだよ。
「諜報系に優秀である事を祈るしかないね。こっちは明らかに怪しい馬鹿をどうにかすればいいだけになってるし。その辺多少はなんだかんだで領地を守る貴族してるわ。対処が楽な方をこっちにくれたし」
本当、第一印象からは想像もできない変わりようだわ。クラヴァッテは今もサボり癖のある、酒を飲みながらの緩い奴ってのは変わらないけど。
貴族なのに敬称はいらないって結構凄いよなぁ。公的な場では流石に様付けだけど。
◇
「で、昨日はそんな事を話し合っていたんですか」
「えぇ、こちらのミスです。ですがある程度の対策や流通方法、生産の規模をじわじわ伸ばしていく感じで纏まりました。後で箇条書きにしたものを渡しますので、目を通したら返してください。燃やしますので」
翌朝、ウルレさんと軽く話し合い、クリームの今後の流れを説明した。
「しばらくは儲けが出なさそうですが、まぁ、仕方ないですね。次に活かしましょう」
「そうですねぇ、けど助かりました。買った人族の体調とかもありますし、一度に大量に作るのも無理そうなので、じわじわ慣らしていく感じで」
まぁ、各村からを十人とか連れて来れば可能だけどね。
「イセリアさんでしたっけ? あの方で、体の不自由な方に仕事をさせる事ができるかを確かめたんですか? 確か一番年上の方は左腕が……」
「ウルレさん……。これからはそういう方でも働ける場所も必要なんですよ。たまに島に来るセルピさんが言ってました。イセリアさんはココがなければ最低ランクの娼館か、そういう女性が好きな男が集まる娼館のどちらかだったと。なので、将来的には噂を聞きつけたそういう方々の職場も一定数は用意するつもりです。産まれながらにして公平でない者は多いですが、そういう方にも機会は与えてあげるべきです。それに女性だけじゃないですよ? 戦争で負傷した方の補償なんか殆どないですからね。職場も同じなら気の合う男女が……ね?」
「カームさんらしいと言えばカームさんらしいですね。けど他の方の半分より少し少ない程度の給金と考えれば、それなりに儲けが出るんですかね?」
「その場の損得より、その人達が結婚して、子供を産んだ時の事を考えた方が良いですね。最悪な環境下で育つよりも、この島で育ってそれなりの教育を受け、いずれは島の為に働いてくれるかもしれないって考えないと。次世代に繋がる事も少しずつしていかないと、色々と栄えませんよ」
「カームさんは……どこまで先の事を考えてるんですか? かなり先の事まで考えてる様ですが」
「そうですね……。買って来た人族の少女達の夕飯を、何にしようかってくらいまでは考えてますよ。体の状態が元に戻るまでは、どうしても似たメニューになりますので」
言ってて恥ずかしくなったので誤魔化しておいた。
※1 会田さんが裏で操ってる人族の王都
 




