第263話 なんか愚痴の多かった時の事
ガラス工房の旦那さんの描写はしましたが、奥さんの描写をしていませんでした。同じ爬虫類系と思っていてください。
奴隷ですが、出番が多くなり、必用になったら名前を出します。多くなりすぎてもアレですので。けど、まとめ役の左腕の肘からない女性の名前は出すかもしれません。
あの後は家に帰り、スズランとラッテにとりあえず訳を話した。
「ふーん。カームに手を出さなければ問題はない。シスターもメイドも見てるなら死なないでしょ」
ふーんって……。ポケットマネーで相談もなしに買ったんだから、もう少し何か言ってもいいんじゃないかな?
「まぁ、仕方ないんじゃない? 仕事の関係上秘密が外に漏れたらダメなんでしょ? カーム君は優しいし、手を出す事はないと思うし。アドレアもパーラーもそう言ってたなら、多分平気でしょ。もう少し酷い状態の子とか何度も見てるし。聞いている以上の状態だったら、何やっても死んじゃうんだよね」
俺と会う前に何があったんだよ……。
とまぁ、少し突っ込みたくなる台詞が飛び出たが、取りあえず問題はなかった。
◇
奴隷を買ってから五日。俺はガラス工房に行き、容器の買取と返事を聞きに来た。
「あ、カームさん」
店に入ると奥さんが気が付いたが、よくよく考えたら名乗ってねぇわ……。どんだけ緊張してたんだよ俺。けど注文とか書いた時の紙に、アクアマリンの代表として名前を書いた気がする。
「あ、どうもー。できてるだけガラスの買い取りに来ました」
一応まだ聞かない事にする。色々と終わってからさりげなく聞こう。
「あの、話し合った結果ですが、この工房を買い取って下さい」
「……はい。ガラスの代金を支払ってから詳しいお話しをしましょう。あと前回と同じで、梱包して島に送ってください」
気を利かせた俺の常識がズレているんだろうか? 言いにくそうだったから、さりげなく行こうと思ったのに。
その後は、ガラス容器を作る為の拡張予定場所を決め、増やす職員の数や施設を話し合い、どのくらいの給料を支払いつつ、見習いにはどの程度払っていたかを話し合った。
結果的に言うと、隣の入っていない空き物件を一件買い取って、広さを二倍にして、そっちでガラス容器専門で作る施設を作りつつ、新人教育もする事になった。
「では手続きなんかはこっちでやりますので、そのままお願いします。増築する業者は、あの蒸留施設を頼んだ大工に任せようと思いますが、中の施設まではちょっとわかりません。ですのでそれはそちらでお願いできますか?」
「はい、わかりました」
「では、色々と手続きが終わったら、細かい擦り合わせとか、大工さんとの話し合いも含めて伺います。では、容器の生産をこれからもよろしくお願いします」
俺は丁寧に頭を下げ、これからもお世話になるので印象を良くしておく。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。夫に好きな事をさせつつ、従業員にお給金を払えて生活ができるんです。こんなにありがたいお話はありません」
やっぱり生活に安定は欲しいよなぁ。
「そうですよね。安定し、確実に利益が出た方が安心はできますよね。では役所の方に行ってきますので、これで失礼します」
そう言って俺は無理矢理切り上げてきた。だってずっと話が続きそうだし。
と言っても、下級区のやる気のない役所しか知らないんだよなぁ……。
そう思いつつ、前にお世話になったちーちゃんの所に行き、席が空いていたので目の前に座る事にした。
「ちーちゃんさん。少しお話があります」
「はい! なんでも言って下さい」
この間の蒸留施設の事もあるのか、俺が座ったら笑顔でハキハキと答えてくれた。わかりやすすぎでしょ……。
「大変失礼な話なのですが、ここのスラム周辺から通りを挟んだ、向かい側にある商業区の管轄の場所を教えて下さい。勝手とか知らないので、前にお世話になった方に聞いた方が早いと思いまして」
そう言ったら、ちーちゃんは少しだけ困った顔になった。そりゃそうだよな。県境で死体が見つかって、どっちの警察に作戦本部を置くとかで揉めそうな感じと似てるし。
そういや、栃木と群馬と埼玉の県境で死体が見つかったドラマもあったしなぁ。
「ちーちゃん、問題ないよ。行ってあげなよ。上に取り次いであげて。その子蒸留所の人でしょ? 町長も酒税が取れて、商人の往来が増えて税金も取れて喜んでるから、連れて行ったら多分喜ばれるよ。僕達の事は気にしないで、そのまま取り次いで上級区の勤務になれるように貢献してもらったら? こんな掃き溜めから抜け出すチャンスだよ。あそこの地区は上級区も管理してるし。おかげで僕達のおちんぎんにも少し色が付いたし。君、また何か企んでるでしょ?」
「え、えぇ。まぁ。それなりには……」
一番奥に座っていたエルフは、俺の事を指さし、なんかズバズバ言ってきた。少しは隠して欲しいな。まぁ、貢献したのは確かだけどさ……。あと掃き溜めって……。ひでぇ言い方だな。
「では、案内しますね」
その後はちーちゃんさんに案内され、目的の地区の工房の拡張予定の話をちーちゃんさんを交え、管轄の職員と今後の計画を話していたら、なぜか町長が挨拶に来た。
そして別室に案内され、お茶を出されて世間話になり、君のおかげで良い事だらけ、町全体が賑わった、治安が良くなった、カルツァの機嫌がいいとか言われた。
なんか待遇良くないっすか? 町にある大企業のお偉いさんが、少し多めに税金払って、町全体で数千人を雇ってる的な? まぁ、確かに酒で利益を上げつつ税金も払ってるし、そろそろ拡張してもう一基増やそうかって話は出てるけど……。
そう考えると俺は、スラムに雇用生み出しつつ、治安をよくした男になるんだよなぁ……。酒も商人が買ったら税金とか多少は払うんだし。潤ってるって言っちゃ潤ってるな。そのうち港町が街になるか? 防壁の拡張も視野に入れねぇと、街として広げられねぇぞ? それは町長とカルツァの仕事だけどな。
「くっそ疲れた。なんで工房を広げる話し合いに来たのに、町長に町の事を語られないといけないんだ……。カルツァに話せってんだよ。まぁ、町に貢献してる商会のお偉いさんが来た雰囲気だから、しゃーないっちゃしやーないけどさ」
苦笑いをしているちーちゃんに愚痴りながら歩き、スラム近くの役場で別れて酒場に行って、マスターからリモンチェッロをもらい。食後酒だけど休憩中に飲む事にした。
「マスター。結局娼館はいかなかったよ」
「お? どうしたんだいきなり」
「いやー、愚痴ですんません。この間先に奴隷買いに言ったら、すんごくガリガリの人族の女の子が出てきちゃいまして、今にも死にそうな感じなんですよ。俺も悪いんですけどね。一番安いのって言っちゃったんで」
「で、どうしたんだ? 情に負けたか? お前の事だから多分負けたんだろうな」
「そうっすね。見てて耐えられませんでした。その子と仲の良い子全員と、纏めてたお姉さん役を買ってやりましたよ」
「ほー、そいつは幸運だな。奴隷が」
「そうっすね。まだ仕事はさせてませんが、喋れるけど文字の読み書きができず、計算もできない。話を聞いたら村が襲われて、村人全員が別な奴隷商人に売られ母親は消息不明。あまりの酷さに聞いてたら泣く人も出たくらいですよ」
まぁ、この事は会田さんにもう報告してあって、寒村の把握とか道の整備で、行商人や見回りの兵士が、なるべく行き来しやすくする事で対策はするらしい。
「まぁ、売れなきゃ飯代もかかるし、出るのは死なない程度の最低限なんだろうな。利益も出ねぇし売れただけでも満足。お前に買われた奴隷は幸せ。そう思っとけ。じゃなきゃもっと酷い目に合ってる奴なんかごまんといる。気にすんな。そいつでも飲んでさっさと忘れろ」
マスターは中途半端に減っていたグラスに酒をつぎ足し、一気に飲み干して代金を払おうと思ったら一杯分で良いと言われた。たまには吐き出してみるもんだな。
「少しは馴れてきたかい?」
第一村に戻り、昼食を買った奴隷達と一緒に食べるが、アドレアさんとパーラーさん、自分の時より酷い状態の奴隷を見る覚悟を決めたエレーナさんと、嫁二人の十一人で一緒に食べる事になった。
「はい、一日三食の食事にも、入浴にも慣れてきました」
「気にしないでどんどん……はまだ食べれないですよね。もう少し体が食事に慣れたら、お代わりとかして、歩き回って筋肉とかゆっくり戻しましょうね」
パーラーさんは、いつもの調子でお代わりを盛ろうとしたけど、多く食べ過ぎたら死ぬ事を思い出して言葉を変えたが、早くお腹いっぱい食べさせたくて仕方がないみたいだ。
「人間の医者も錬金術師の蜂も言ってた。まだ肉は早いって。早く元の体に戻ったら一緒に肉を食べましょう」
「そうそう、今のままでたくさん食べると死んじゃうからね。後で一緒にいっぱい食べようね。カーム君は料理が得意なんだから」
スズランは微笑みながら言い、ラッテは物凄く明るい笑顔で言った。
一応俺の所有物って事だから、奥様にも挨拶をしたいと言われ、あいさつ程度に顔合わせも済ませたら、二人は二人で物凄く気を遣っている。
「ありがとうございます、スズランさんラッテさん」
そして奥様とか言われて、二人は物凄く嫌な顔をしたので、奴隷達に妥協してもらって敬称はさん付けって事になった。もちろん俺もだけど。
「私と歳が近いから、私に何でも聞いてね。もう少し体がよくなったら村を案内してあげる」
「ありがとうエレーナ」
左腕の肘から先のない奴隷は、少しだけニコニコとしながら年下の奴隷とエレーナさんのやり取りを見ていた。
まぁ、雰囲気で平気だと思う。エレーナさんも元寒村出身の奴隷だったし。
「後は読み書きとか計算ですね。ジョンさんとかの方が教え方が上手ですので、こちらで話し合って少しずつ進めます」
「えぇ、お願いします。俺はこの後ちょっと出かけてきますので、砂浜を散歩させて落ちた筋肉をゆっくりと戻す訓練をお願いします。決して無茶はしないで下さいね、そうしたらパーラーさんとかエレーナさんが止めに入ってくれるとは思いますが、ゆっくりとやっていきましょう」
因みに奴隷達の食事だが、会田さんに相談した時に一緒に食事の事を聞いたら、リンが良いと聞いたので、煮干しのだし汁に卵を溶いたスープとかを出す様にした。取り過ぎも良くないらしいから、ある程度したら常食にするつもりだけど。
「昨日と同じですね。わかりました」
やっぱり男は俺一人の空間だが、なんかもう男という事さえ気にされてない気がしてきた。まぁ、もういいけどさ。神様に言われた事とか少しは気になるじゃん?
「どうもー、アポなし訪問でーす」
俺はクリノクロアの裏庭に転移し、キッチンのドアを開けると遅めの昼食を食べ終わらせたセレッソさんが洗い物をしていた。丁度いいわ。
「あら、ついに直で来るようになったのね。町に入るお金さえ払えないのかしら?」
「歩くのが少し面倒でして。どうせ用事はここだけですし、それにこの時間ならセレッソさんの仕事も終わって寝る頃でしょうし」
俺は軽い皮肉を受け流し、勝手にイスを引いてトートバッグから木箱を十個取り出して並べる。
「どうぞ。お納めください」
「随分と箱が小洒落た感じになってるわね。けど中身はシンプルで私好みよ」
「生産の目途も立ってますので、そのうち娼館に卸しに行きますよ。問題は需要が高過ぎて、俺の知らない所での値段の高騰とか、商人に売った後の個人的な防衛問題が発生しそうですが」
「へー。あー、そうね。確かにあの壺で貰ったのは、その辺の娼館の女の子達に奪われるように売れていったわ。次の入荷は不明って答えておいたから静かになったけど」
セレッソさんが一言で暴動を治めるって……。どんだけこの辺りで顔が利いて、権力が強いんだ?
「もう、壺でも納めた方が良いっすかね? 会計の横に並べておいて、男性客用にって感じを想像してたんですが、会計の横に行く前に売れそうです……」
「非売品の見本として空になった物を置いておく。これしかないわね。従業員はこれを使っていますって売り文句で。けど裏では壺売り」
「その方が良さそうですね。じゃ、ここの女性陣に配って、トレーネさんにも渡してください。後日壺で持ってきて、最初のは回収して帰る感じで」
「で、なんで需要が上がってるってわかったの?」
そんな事を聞かれたので、俺はカルツァの件を説明した。
「まぁ、貴族も貴族で大変なのね。しばらくは貴族社会と、この辺一帯にしか出回らないわね」
「はぁ……。もう少し色々整ってから、噂を広げてもらえばよかったですよ」
俺は頭を掻きながら眉をひそめて天井を見る。まぁ、もう動いちゃったし、なるようにしかならねぇなぁ。
「さっさと生産量を増やすしかないわよ? 最悪模倣品の出現と通貨扱いされる事を覚悟しておきなさい」
「ははは……。投げ出したい……。まぁ、模倣品が出回るなら売らなきゃいいんですよ。しばらくはその貴族を通して流通させておきますか」
セレッソさんにそう言われ、カップにお茶を注がれるのを、乾いた笑いを出しながら見ていた。
とりあえずは産業スパイへの警戒だな。北川の育ててる部隊はまだ使えないし、しばらくは二人で動くしかないのかな? まぁ、なるようにしかならないし、常識のある貴族が多い事を祈ろう。うん。コレ駄目な思考だ。まともな貴族なんかクラヴァッテくらいしか……。そういやあいつも広い意味でまともじゃねぇや。
「はぁ……。これ飲んだら、その女貴族との対策の為の話し合いでもしてきます」
「とりあえずこっちはこっちで、アクアマリンで作ってる事は秘匿しておくわ。会計横の空箱もなし。そして私の知り合いが気分で作って届けてるからって事にして、なるべく公平に行き渡る様にしておくわ。そして配って残ったこの商品は私の部屋に保管ね。世に出すにはまだ危険過ぎるわ」
「それでお願いします」
俺はお茶を飲み干し、軽く頭を下げてから立ち上がって裏庭で転移をしたが、転移する直前で、セレッソさんが少しだけなんか出来の悪い弟でも見る様な目になっていた。
あの目は見た事がある。俺の前世の姉さんがたまにしてた目だ。そんなにできの悪い弟風ですかね?
章管理で四年目を入れ忘れてたので入れました。
確か面倒だから年越祭過ぎたら一年って事にしてた気がしますが、章管理を初めて使った後書きに書いてた気もしますが、その話を失念しました。
おちんぎんは、お賃金ではありません。わざと開いて(書いて)います。
ご感想でご指摘がありましたが、猫にラベンダーは毒だという事がわかりました。
ですが大家さんは猫系の獣人族って事で猫ではないので平気という事で……




