第三死 スニーキングミッション? 後編
稽古と言う名前の真剣を使った本気の勝負。プロキオンは勇者に喉元に剣を突きつけられ敗北した。
だが、勇者は「頼む。もう一回だけ試合しよう」と言う。
この勇者リゲルはしつこい。本当にしつこすぎる。
何度「もう一回試合しよう」と聞いただろうか。幾度もぶち倒し、剣を寸止めし、蹴りで転がした。
その度にリゲルはもう一度と言い、プロキオンは受けた。
圧倒的に勝利し続けていたプロキオンだが、遂にリゲルの一撃を受けて倒れてしまう。
倒れたプロキオンにリゲルが掛けた言葉はもちろん、「もう一回試合をしよう」だった。
「今のは角度が浅かった。もう一回だ」「すげー絶対今のよけらんねぇわ。もう一回頼む」「今の動き良かっただろう?もう一回いいか?」
三日間。そう……二人は三日間もの間、ひたすえら試合し続ける事となった。
試合を続ける度にリゲルに不覚を取る回数が多くなっていくプロキオン。
なんの為にわざわざ勇者と試合をしているのか……いっそ本当に斬ってしまえばいいではないか。
なぜ断らないのか……試合をし続けながら自問自答するプロキオンだったが、やがて気が付く。
失くしてしまった過去の記憶。その微かな断片が断ってはいけないと言っているのだ。
プロキオンには幼少期の記憶がない。
気付いた時にはすでに氷血女帝エメラダが横におり、彼女はプロキオンの育ての親でもありながら、時に学業の先生、時には武術や魔法の先生。
そして時に……恋人であった。
彼女に認められたい。そして彼女を守りたい。その為だったら何でもする。
その感情がプロキオンを強くし、彼にとってはそれがすべてだった。
リゲルに「もう一回」と言われてプロキオンに浮かび上がる感情は何なのだろうか。
失くした記憶の中に同じ様な経験が……プロキオンは首を2度3度と振り、浮かび上がった記憶を打ち消した。
思い出す必要などないと必死に打ち消した。その隙を狙われてしまい、リゲルに斬撃を寸止めされて敗北する。
「もう一回勝負しよう」
疲れからの眠気か、記憶混乱からによる頭痛か……
……き……兄貴……もう一回……もう一回勝負しよ……
……不思議な懐かしい声を聞きながらプロキオンは意識を失った。
前の廊下からアケルナル剣聖が、私とリゲルがいる階段の方へ走って来ていた。その後ろをタオル1枚の氷血女帝エメラダが追ってきている。
「こっちに来るわね」
「ああ、後ろから奴もな」
「ええっ!?」
後ろからはコツコツと階段を上がってくる音。プロキオンに間違いない。
「スピカどうする?」
「ど、どうするって……どうしよう」
ああ、もういっそ一回『空間移動』で帰る?
ムム女王はひとまず命に危険花井だろうし……
なんてことを考えていると、ガーゴイルメイドの箒で叩き落されたヴェガが、廊下を走って来た剣聖とまさかのタイミングで衝突した。
「もう逃がさないわよ。氷の監獄!!!」
エメラダがシリウス校長を氷漬けにしたあの氷魔法『氷の監獄』を、もみくちゃになった剣聖とヴェガに向けて使う。
「な、なんじゃあああああああああああ」
どうしてこうなったのか……剣聖とヴェガは絡み合うようなポーズのまま、あっと言う間に氷の彫像となってしまった。
「な、なんで変態野郎のヴェガがこんなとこにいるのよ!私のケンちゃんにくっつかないでくれる!?」
氷漬けのヴェガに向かって文句を言うエメラダ。
「あーもう。ケンちゃんだけなら部屋に連れて行ってにゃんにゃんするのに……もう。この変態!!!ロリコン!!」
エメラダは氷漬けのヴェガの足を思いっきり蹴ったあと、剣聖にべとべとくっつきチューチューとキスをする。
うわぁ……大変な事になっちゃったなぁ。なんてリゲルと一緒に見とれていると、いつの間にか私達の横にプロキオンが立っていた。
(ヒッ)
(しっ……こいつさっきからガタガタ震えて動かねぇんだ)
(え、どういう事なの?)
(知らないが、相当ショックな事があったらしい)
確かにプロキオンは片手を口にあて、ガタガタと震えて一点を睨みつけている。
一点というのはもちろんエメラダの方だ。
(ルクス、ルクス起きてる?)
ルクスとは私の頭の上に住んでいる太陽鳥の雛の事で、私の魔力を吸って栄養にしている。
散々魔力を吸っているにも相変わらず、大きさは依然として代わらず普通の小鳥だ。
普段は全く動かないのでモフモフの髪飾りみたいな感じになっている。
太陽鳥の涙(おしっこでも可)にはなんと、『氷の監獄』を解除する効果があるのだ。
(ルクス、あの氷溶かせる?)
ルクスは小さくキューンと鳴くと、氷の彫像目掛けて飛んで行った。
中々出来る子じゃない。
うんうん。さすが私の子なだけはあるわね。
ってそっちじゃない。そっちはヴェガだから横のジジイのとこよ!
手や体を使ってジェスチャーでルクスに伝えようとする。
(キューン?)
なんやねんわからへんわ。と言った顔で首を傾げるルクス。
(と・な・り・の・じ・じ・い)
(ルクス!となりのじじいにおしっこしろ!)
(違う違う大きい方じゃない。踏ん張らなくていいから!)
リゲルも一緒になって手を振ったりしてジェスチャーゲーム。
「なんなのこの鳥は……」
やっとのことで剣聖の頭の上にとまったルクス。だが目の前には剣聖の氷像にイチャイチャと絡みつくエメラダがいた。
「しっしっ! あっちに行きなさい!!」
キューン?と首を傾げるルクス。
「私の一番大切な人の頭に乗るんじゃありません!!しっし!」
エメラダがルクスに向けて手をパタパタと振る。
私の横ではプロキオンがガタガタと震えながら「……一番……大切……」と小声でブツブツ喋っている。
(ルクス。もういいから一回戻って……ってヤバ)
(ゲッ)
慌てて床に伏せる私とリゲル。直後にルクスの『サンアタック』が炸裂した。
「ギャッ眩し!!!」「うぉっ眩しっ!!」
大人の太陽鳥とは比較にならないんだろうけど、それでも二人の両目をくらませるのには十分な威力。
エメラダとプロキオンが目を押さええて転がりまわる中、ルクスがやり遂げた顔をしながら私の頭の上に帰ってくる。
流石我が子! ルクスグッジョブ!!!
(今のうちに!!)
(おう)
目を押さえたままうずくまるタオル一枚の女の横を走り抜ける。
「おい!待て!!」
突如として若い男の声に引き留められる。待てと言われても……ってまさか。
後ろから私とリゲルを追いかけて走ってくる謎の男。
青いライトアーマー。腰には4本の剣。
どええええ?もしかしてもしかして……
「待て!!俺も一緒に行く!!」
私達に軽々と追いついたのは、なななんと、若返ったアケルナル剣聖だった。




