第三死 スニーキングミッション? 中編
性獣魔狂ヴェガの股間から放たれた大量の熱線を回避しながらヴェガに突進し、その発射地点目掛けて杖を振り上げる。
魔力の消費を抑えたい?
なるほど、では鍛えた体の物理で殴れ作戦だ!!!!
カキーン! ズガン!
私のフルスィングは見事にHIT。いや、ホームラン!!!
無残にもヴェガは頭から天井に突き刺さり、風にゆられてブーラブーラ。
「ごめんね。急いでるんだわ」
あっさりと魔王軍四天岩の一人を片付けた私は、騒ぎを聞きつけた誰かが来る前にソソクサと移動を開始した。
長い廊下の先には地下への階段があった。
ガーゴイルのメイドが教えてくれた通りなのであればこの先にリゲルが捕らわれている地下牢があるはず。
私は地下へと続く階段をゆっくり降りていく……
時を戻す事2日前……
「なぁ。おい。おいってば黒獅子の人さぁ」
リゲルが牢の中から黒獅子将軍プロキオンに声をかける。
絶対に聞こえているが、プロキオンは無視をしたまま、牢屋の正面の椅子に座ってリゲルを見つめていた。
「なぁ。いい加減答えろよ」
プロキオンは微動だにしない。黒獅子仮面のせいで表情も読み取れる事はない。例え寝ていたとしても、リゲルにはわからないだろう。
……今も寝ているのだから。
「おい。いつまで黙っているつもりだ?」
………プロキオンに反応はない。
「あーあ。こんな狭い檻の中じゃ、体が鈍っちまうよ……修行してぇなぁ」
ピクッ。
先程までまったく動かなかったプロキオンが反応する。
「ん? 今こいつ動かなかったか?」
………
「気のせいか……ああ、棒の一本でもありゃ素振りでも出来るんだけどなぁ」
ガタッ……
プロキオンが露骨に反応する。
「……修行?」
ピクピクッ……
「休憩」
………
「ぶつかり稽古!」
ガタッ!!
ニヤリとした笑みを浮かべてリゲルが大声を上げた。
「素振り、1000本ダッシュ、腹筋腕立て5000回!!!!」
ガタタタタタッ!!!!
最早完全に目を覚まし、リゲルをじっと見つめるプロキオン。
リゲルはゆっくりと上着を脱ぎ、鍛えられた筋肉をパンプアップさせる。
「……やらないか?」
プロキオンは無言で檻を開けた。
長い長い地下への階段。魔力によって光る照明を頼りに下りていく。
本当にちゃんとしたお城でびっくり。こんな階段の照明までちゃんと整備されている。
魔王城……恐るべし。
コツコツと階段を下りていく私の耳に、剣同士がぶつかりあう音が聞こえてくる。
えっ!? 何? もしかしてリゲルが逃げ出して襲われているとか?
急がなきゃ!!!
ダッーっと階段を駆け下りる。
すると上半身裸で汗びっしょりのリゲルが走ってくる。
「リゲル!!!リゲルなの!?」
「スピカ!! 来てくれたのか!」
「え、ええってこれは……」
凄まじい戦いがあったのか、地下牢の鉄格子はぐにゃぐにゃに曲がり、折れ、牢屋だったはずの小部屋は、一つの大きな部屋になっていた。
そして地面には黒い人影……黒獅子将軍プロキオンが倒れている。
「あいつって……」
「ああ、プロキオンだ。勝敗は124勝135敗ってところだな。情けないが勝率5割切っちまってる。やっぱり魔王軍四天岩だけあって強いな」
「強いなってあんた……はぁ。もういいわ。ムム女王を助けに行くわよ」
まったくこの人は……大方朝から晩まで戦っていたんでしょう。いや、修行か……どっちにしてもドMすぎるわ。
「ムム女王も攫われたのか?」
「ええ、あなたと一緒にね。いる場所ももうわかっているわ。急ぎましょう。えっと、プロキオンは?」
「ああ、寝てるだけだ。3日間寝ないで修行していたからな」
「ひ、ひぇ……敵ながら同情するわ」
「ああ、待ってくれ、確か俺の装備がそこの箱に……鍵がねぇや」
「持って行ったら?」
「それしかなさそうだ」
リゲルは箱に繋がっていたぶっとい堅そうな金属の鎖を引きちぎって、重そうな鋼鉄の箱をひょいっと肩に担いだ。
そもそもこの人に牢屋とか鉄格子なんて意味なかったんじゃ……
「行くか」
「ええ」
私の手を取り、前を走り出すリゲル。あまりにも自然にいきなり手を繋いできてたので一瞬ドキッとしたけど、あまりにも汗臭いので一瞬にしてロマンスの花が散った。
前を進む彼の頭の上を見上げると、女神の神眼の効果でボウっとステータスが浮かび上がってくる。
名前 リゲル・ロワーエ
二つ名 光輝燦然のリゲル
JOB 勇者
力 1546
魔力 754
体力 1723
すばやさ 1115
必殺技
『光輝燦然』
素直に強い。繰り返し+半神でチート状態の私のステータスよりは低いけど、それに迫る勢いの数値だ。
流石勇者だね。
んで、必殺技の『光輝燦然』とはいったい……
のぞき見したことがバレちゃうから聞かないけど、リゲルの事だから必殺技の名前なんてどーでもよくて、二つ名から取っただけなんだろうな。
どんな技かはちょっと名前から想像できない。光り輝く何かなんだろうね。
なんて後ろ頭をじっと見つめていたら、振り返ったリゲルと目があう。
別に悪い事をしたわけじゃないけど、なんとなく恥ずかしくなる。
「あ、えっと……覗いてなんて……」
「何言ってんだ。この階段の先が大騒ぎになっているみたいだぞ」
「ああ、それね。私がヴェガをホームランしたからかな……」
「ヴェガってあのヴェガか……」
「うん」
「マジか……」
どうやらリゲルにとってもヴェガはちょっとトラウマなようで、露骨に嫌な顔をした。
私一人なら隠密で抜けていけるんだろうけど、リゲルが一緒となると……上半身裸で金属の箱を肩に担いだ男なんて隠せると思う? やっぱ無理だよね。
こそっと長い廊下を覗き込むと、まだ天井にヴェガが刺さったままで、ガーゴイルのメイド達が一生懸命箒で叩き落そうとしているところだった。
うーん。しまったなぁ。他に道はなさそうだし……
「おい。アレを見ろ」
「何? 今一生懸命脱出方法を考えって……あああああ」
長い廊下の向かい側から、青い鎧の老人が走ってくる。その後には、当然タオル一枚の裸の女。
アケルナル剣聖と氷血女帝エメラダだ。
「こっちに来るわね」
「ああ、後ろから奴もな」
「ええっ!?」
前面にはヴェガ(天井)、剣聖、エメラダ。
後方の階段の下からはコツコツと音を立てながら上がってくる音。プロキオンだ。
「スピカどうする?」
「ど、どうするって……どうしよう」




