第三死 スニーキングミッション? 前編
たわわに実った二つの桃。それはとても芳醇で、普通の男がそれを見れば、食べずにはいられないだろう。
だが罠だ。
男の本能を呼び覚ますセクシーなボディーライン。彼女や妻を持つ男でも触らずにはいられないだろう。
だが罠だ!
その顔は美貌に満ち溢れており、泣きぼくろの色気の前には、いくら剣聖といえども口付けを交わさずにはいられないだろう。
だが、罠だ!!!!!
アケルナル剣聖は思い出した。
遠い昔。60年以上前の古い記憶。
剣聖はすぐにでもあの女の前から立ち去らなくてはならない。
奴と話を絶対してはならない。
あの氷血女帝エメラダ……いや、妖艶の美女エメラルダスとは……
「お待ちになって~ケンちゃ~ん」
「ひ、人違いじゃあああああああ」
魔王城の敷地の中を、全裸の美女が剣聖を追う。
逃げる剣聖の前を塞ぐように上級魔法氷の『氷山』が降ってくる。
剣聖は目にも止まらぬ素早さで落ちて来た氷山を一閃し、間を駆け抜ける。
二人の盛大な追いかけっこにより、あっと言う間に大騒ぎとなった。
隠密のスキルレベルMAXで粗認識阻害となった今の私は、もはや完全に透明人間だ。
更にこの外の騒ぎで私見つけることが出来る人ははいないだろう。
ふっふっふっふ。
こりゃリゲルとムムを救出するのは楽勝ですな。
不倫のケンちゃんもっと暴れまわってね。
私はケルベロスのフードを深くかぶり、魔王城の敷地内を散策する。
エメラダの独り言が本当なら、地下牢にリゲルが居るはず。
地下に居ると知っていても、どこに地下への階段があるか知っている訳もない。
私は『探査』使用しマーキング済みのリゲルを探す。
……
これ、リゲルいなくない?
全然反応しないんですけど。圏外?
いやいや、絶対魔王城のどこかにいるはずだよね。
もしかして、地下牢は魔法の結界みたいなもので守られているとかかな。
試しにムム女王も『探査』で探してみる。
うん。ムム女王は城の中にいるみたい。多分東側の塔の方かな。
と、なると、自力で地下牢への階段を探さないとダメか……
今私がいる場所は、巨大な壁のなか囲まれた魔王城の敷地の中。その敷地内北側にある屋外浴場の付近だ。
本丸の魔王城を中心に東西南北に塔が建っている。きっとあの塔毎に魔王軍四天岩がいるって事でしょうね。
この温泉はエメラダ所有ぽいし、たぶん北側の塔は氷血女帝エメラダ。ムムのいる東側の塔は爆龍奮迅のレグルス。
残りの南と西どちらかに性獣魔狂ヴェガと黒獅子将軍プロキオンて感じかしら。
うーん。地下牢が塔の中にあるなんて事はないよね?
やっぱり本丸の魔王城の中か……
入れるもんなのかな……一応敵の本拠地なんだけど。
………
入れるもんなんだなぁ……魔王城。
外の大騒ぎのせいか、魔王軍の兵士の数も少なく、正門も普通に開いていたのでスっと城に入ることが出来てしまった。
魔王城って言っても普通のお城ね。
血にまみれたドロドロの壁や、沢山の骨が転がっているイメージだったけど、ヘヴェリウス城やエルフィン城と変わらない綺麗なお城。
ゴスロリのメイド服を着た真っ黒いトカゲみたいな顔のガーゴイル達が、窓枠や床を丹念に掃除をしている。
一番窓際のガーゴイルメイドの横をスッーっと通り抜ける時に、小声でボソッと話しかける。
(地下牢ってどっち?)
ガーゴイルのメイドは辺りをキョロキョロ見渡し、プルプル震えながら私が進もうとしている方向を指さした。
(ありがとう)
誰に話しかけられたかも理解できないままポカンとするガーゴイルメイド。以外に可愛いのかもしれない。
地下牢はこのまま先に進めばいいのね。
私って結構道に迷うタイプだから道があってて良かったわ。
長い廊下をひたすら歩く。
廊下の反対側から一人の男が歩いてくる。
身長は高く、細いがかなりの筋肉質。人間とは違うその虫のような見覚えのある顔。
性 獣 魔 狂 ヴ ェ ガ。
私のトラウマの一つでもある魔王軍四天岩の一人だ。
残念ながらこの廊下に身を隠す場所はない。慌てて走って戻れば見つかる可能性も高い。
廊下の壁ギリギリにくっつき息を殺す。
隠密MAX+ケルベロマントの身を隠す効果を信じてヴェガが通り過ぎるのを待つ。
段々私の方へ近づいて来るヴェガ。
見つかるな……見つかるなよ……お願いっ……
……
すまし顔で私の横を通り過ぎるヴェガ。
ホッ。
無事に通り過ぎたヴェガの後ろ頭をじっと見る。
んお?
頭の中に何か浮かんで……これが女神の神眼の効果?
名前 ヴェルクリス・ガガールン
二つ名 性獣魔狂ヴェガ
JOB 魔王軍四天岩 絵本作家
力 962
魔力 782
体力 764
すばやさ 856
必殺技
『極まった変態は美しい』
おおっ……ヴェガのステータスが見えた。
あ、危ない思わず「おおっ」って口に出ちゃうとこだった。
なるほど。魔王軍四天岩だけあって強い。
私が初めてヴェガと戦った時のステータスって、50もいってなかった気がするんですけど……
そりゃおもちゃみたいに片手で振り回されるよね。
それでその後、持ち上げられて……スカートを捲られて……あああああああ!!!もう!!!
でも今の私の強さなら、あの嫌なトラウマを乗り越えれば勝てそう……かも?
なんて、息を荒くして興奮した途端。
ピタリと足を止め、クンクンと匂いを嗅ぎだすヴェガ。
しまった……ばれちゃった?
後ろを向いたままなので、表情まではわからないけど、必死に匂いをクンクン嗅いでいる。
……そのまま先に行け!!
ゆっくりこちらへ振り向くヴェガ。目からは血の涙を流し、舌をレロレロと高速で回転させている。
「……隠れていても匂っているんですよねぇ。もっとも嗅ぎたくもない匂いですがね」
ヴェガに見つかった事により、隠密の効果が切れ、私の姿が現れる。
「ひ、久しぶりね。でも私ちょっと急いでいるの」
「貴様。未だに女の恰好で私を惑わすのか……もっとも許せませんねぇ」
「女が女の恰好して何が悪いのよ」
「女だと? 笑わせるんじゃありませんよ……あの様なモノをもっともぶら下げておいて何を言うんですかねぇ」
「モノ? ああ、アレ? やーね。魔法よ魔法。ホラ」
私は初級土魔法で棒一個と玉二つを作り出し、ヴェガに見せると、ギュウッと握りつぶして金色の砂を掃う。
「なん……だと……」
頭を抱え苦しみだすヴェガ。
「グロロロロロロ……俺が何年も悩んで来た事は無駄だったと? 芳醇な素晴らしい香りが男からする訳が無いと否定し、だが現実に男からも……いや、男の娘の存在もありえるのだと、何年もかけて肯定した俺の脳を破壊するつもりなのか……」
「な、なんだか知らないけど、私もう行くね!!じゃ!」
「はぁあああああ。もっとも。じゃあで行かせるほどもっとも甘くはありませんよぉ」
ブチ切れたというか、吹っ切れたというか。明らかにヴェガの魔力が増大する。
女神の神眼で確認するとヴェガのステータスが増えていた。
力 1120
魔力 864
体力 962
すばやさ 988
げぇ。ステータスってその時その瞬間で上下する感じ?
余裕綽綽で挑んで負ける可能性もあるじゃない……
ともかく、逃げた方がいいよね?
戦って魔力を大量に消費すると、『空間移動』で帰れなくなる可能性もあるんだし。
私の逃げる気配を感じて、ヴェガが回り込む。
「もっとも。もっともですよ。行かせないといったでしょう!!!!!」
「はああああああああああああああああああ『極まった変態は美しい』」
ヴェガの股間から眩い光の熱線が無数に放たれた。




