第八死 世界樹 後編 ③
リゲルが黒い剣をミュルグレスで弾き飛ばし、プロキオンが片膝を着く。
「クッ……」
「終わりだな。これで一勝一敗だ」
長期戦の末、本当に僅かな実力差でリゲルが勝利したのだ。
「……殺せ」
「……お前は」
膝を着いたままの黒い獅子の仮面の男プロキオンを見つめ、沈黙するリゲル。
決して人が殺せない訳ではない。
何かがリゲルに違和感を感じさせ、首を斬る事を止めた。
リゲルは黒い獅子の仮面へゆっくり手を伸ばす。
確認しなければならない。
その仮面の下。その聞いた事がある様な声。心に沸き上がる違和感の正体を……
仮面へ手が触れたその瞬間。降り注いでいた太陽の光が巨大な何かによって遮られる。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANN
影を作った正体が爆音で威嚇の咆哮をし、全員が両手で耳を塞いだ。
「太陽鳥です!!!」
ドワミが巨大な生物を指を刺すと同時に、地響きを建てて白く光り輝く羽毛の生えた巨大な竜が着地した。
「どこが鳥だ!ありゃ竜だぞ!!!」
「あうー本当です。どうみても竜です。しかもめちゃめちゃ怒ってますー」
太陽鳥が再び威嚇の咆哮をあげる。縄張りへの侵入どころか巣を荒らされた事への怒りが治まることはない。
「逃げた方がよさそうだな。卵の殻なら奴が再び巣から消えた時にチャンスが来るだろう」
アルタイル王子が一旦退却をする事を提案し、リゲルもそれに頷く。
「ああ、でも黒い仮面の人が……」
「何っ!?」
プロキオンはリゲルが弾き飛ばした剣を拾って、太陽鳥に向かって構えていた。
「あいつ……」
プロキオンが光り輝きながら威嚇の咆哮をあげる太陽鳥に斬りかかり、その剣をリゲルが防ぐ。
「やめろ!!!巣を守ってるだけだ!!」
「邪魔……するな」
太陽鳥の突進を回避しながら斬りあう二人。
だが、太陽鳥も伊達に危険度『★★★★★★★』のS級ではない。
突進を回避した二人へ向けて、口から人の大きさの光の玉を連射する。
「な!?魔物が『神聖魔法光弾』だと?」
「あうー知っているのですか? 王子さま」
「ああ。デネブが使っていた神聖魔法と同じはずだ。だが見ての通り威力も玉の大きさも段違いだな。魔物が魔法を使うとは…流石S級といったところか」
『神聖魔法光剣』をミュルグレスの刃の周りに纏わせて、飛んで来る光の玉を斬るリゲル。
プロキオンも同じように闇の魔力を纏わせて、飛んできた『神聖魔法光弾』を切り裂き、そのまま太陽鳥へ攻撃する。
太陽鳥は左の翼の表面へ『神聖魔法光盾』を展開させ、プロキオンの攻撃をはじき返す。
「まずいな」
「アルタイル様、何がまずいんですか?」
「太陽鳥のあのトサカっぽい角を見てみろ。段々と光を増してきている。黒眼鏡を付けていないリゲルには相当眩しいんじゃないか?」
アルタイル王子の感の通り、太陽を直に見ているかの様な状態で、ギリギリ薄目で戦っているリゲルの動きが段々鈍くなってきていた。
プロキオンはその黒い獅子の仮面に光を遮る効果があるようで、動きの遅くなってきたリゲルを無視して、太陽鳥への攻撃を強めていく。
「くそっ!眩しすぎる!」
太陽鳥の角は増々輝きを増し、リゲルは盾で顔を隠し、太陽鳥の角が自分の方に向くたびに目を瞑らざるをえなくなった。
「リゲル!!これを使え!!」
アルタイル王子がなんとか太陽鳥の攻撃の隙を見つけて、普通の黒眼鏡をリゲルに向かって投げるが、飛んできた黒眼鏡をプロキオンが容赦なく斬り捨てた。
「貴様!実は結構高いんだぞ!」
文句を言うアルタイル王子だが、プロキオンが気にする訳もなく、太陽鳥への容赦ない攻撃を続けた。
プロキオンの容赦ない攻撃によって、威勢の良かった太陽鳥も弱っていき、やがて巣の方へヨタヨタと歩いて行く。
「プロキオン。やめろ!」
止めを刺そうとするプロキオンの腕を、リゲルがギリギリのところで掴む。
二人の意識が太陽鳥から離れたその瞬間、太陽鳥は最後の力を振り絞って角に溜めていたエネルギーを一気に解放した。
閃光が炸裂し、辺りが一瞬の内に光に飲み込まれる。
サンアタックである。
「え、何? 何があったの?」
アップゥの『次元跳躍』で、アルタイル王子がいそうな鉱山へ飛ばして貰った私なんだけど……
目の前には大きな白い鳥に抱き着いて、ペテルと知らない女の子が泣いているし、リゲルが目を押さえてアルタイル王子に肩を借りている。
「リゲル!? あなた目をどうしたの?」
「ああ、太陽鳥にちょっとな」
「ちょっとって……結構酷い事になってるよ。それ見えるの?」
「まったく見えん」
慌てて駆け寄り、リゲルの両目に手を当てて『上級回復魔法』を使うが効果が無い。
「嘘でしょ。なんで回復しないの?」
「うむ。太陽鳥の卵の殻で治すらしいんだが……全部プロキオンに持ってかれちまったようだ」
「」
「アルタイル様!!!」
あまりの出来事で白目をむいて声を失っていた私の横に、元ウィルギニスことムム・エルフィンが転移してくる。
「おお!ウィルギニス!!無事だったか!」
「もう。それはこっちの台詞ですよ!」
アルタイルがリゲルを私に預け、ウィルギニスの元へと駆け寄り抱き合う。
「うーん。それで太陽鳥の卵の殻を取りに来たらこうなっちゃった訳ね」
詳しい事情を教えて貰った私とムム。
「ああ、でもどうしましょう。リゲルさんの目が……」
「痛みはないから、次の太陽鳥が卵を産むまで待つしかないな」
「たいした事ないって感じで言ってるけど、それ大事だよ……目が見えないんだよ?」
「修行だと思うしかないな。わっはっは」
何の修行よ。まったく……どうせ私を心配させない様に言ってるだけじゃない。
「リゲルさん残念ですね。スピカさんは世界樹で生まれ変わって、それはそれはお綺麗になったのに見れないなんて……」
え? あ、そう? そんなに変わった? 自分じゃ全然わからないけど。
「マジカ!!!それは見たいな」
「大マジだぞ。爆乳に生まれ変わている」
「殻だ! いますぐ殻を持ってきてくれ!!うおおおおおおおお」
「そこはまったく変わってません!!!!」
なんかリゲルがそんなに興奮するとこ初めて見た気がする。
本当にごめん。まったく変わってません。やっぱでかい方がイイカー(;^ω^)
もう一回世界樹に足して貰うとか……
ううん。リゲルはきっと冗談で言ってるだけよね。
「あうー!!スピカさん来てください!!」
太陽鳥に抱き着いて泣いていたペテルが私を呼ぶ。
「これを見て下さい」
ドワミちゃんが指さした先を見ると、太陽鳥の翼の下には、大切に守られるような形で卵が黄色く光っていた。
人の拳よりちょっと大きい位で、優しく持ち上げると私の魔力に反応しているのか、緑の光が卵へ浸透していく。
じっと見つめていると、卵は私の手の中でブルブルと動き出した。
「えっ何?」
「はうーどう見ても産まれるみたいです」
「産まれるって?え、えー?」
一瞬、ピカッと眩しい光が卵から放たれ、卵をもう一度見ると中身は空っぽだった。
「あれ、いない……」
辺りを見渡すけど、やはりどこにもいない。もしかしてこの卵、空っぽだった?
「スピカさん。頭の上です」
「頭の上?」
恐る恐る片手を頭の上に伸ばすと、ツンツンと私の手を啄む何者かが……
「ちょっとあんた降りなさいよ」
見えない何かを振り落とそうとブンブン首を振ったり手でゴシゴシするけど、不思議な力でくっ付いているのか微動だにしない。
「あうー。めちゃめちゃ可愛い小鳥ですー」
「うん。薄緑の赤ちゃん鳥ですね」
「そうなの? 全然見えないんだけど、誰か取ってくれない?」
首を振りながらムム・エルフィンが答える。
「太陽鳥の雛は親にくっ付いて、親の魔力を吸収して成長すると聞いた事があります。ある程度成長するまで頭に乗せておいて下さいね。スピカお母さん。ププププ」
「ちょっと!お母さんて!!ほら将来女王の頭の方が生活安定するよ。ムムの方へ飛んで行きなさいよ」
「もースピカママったら困ったさんですね~一番魔力があるんだからあきらめるんでちゅよね~プププ」
私の頭の上の何かに赤ちゃん語で話かけるアルタイル王子。
鏡、鏡はないの? あとある程度大きくなるまでって? めちゃめちゃ大きくなったら首折れちゃうんだけど。
「あのさ。俺も見たいんだけど、産まれたらあるんじゃないか? 卵の殻」
リゲルが我慢できなくなって声をあげた。
「あ、そうだった。でもこの卵の殻どうしたら?ドワミちゃん知ってる?」
「ええ、そのまま目に当ててみてください」
私は、卵の殻を壊さない様にやさしくリゲルの手に握らせる。
リゲルはゆっくり卵の殻を両目に当てた。
ちょっと時間を置いて、卵の殻を両目から外すリゲル。
「ど、どう? 見える?」
リゲルの目を覗き込む。腫れもすっかり引いているし特段異常はないように見える。
「ああ、すごく綺麗だよ」
リゲルが私と見つめ合って突然変な事を言うので、赤面して動揺する。
「えっ? 何が?この鳥?」
「……何でもない。よく見えるさ。その赤ちゃんの竜もな」
「え? 鳥じゃなくて竜なの?」
「らしいぞ。今は豚みたいに太ってるようだが」
「豚なの? 竜じゃないの? 鏡誰か持ってない?」
みんなが首を横に振る。
ムムは絶対持ってるぽいんだけどな……アルタイルも怪しい。なんかニヤニヤしてるし。
あの二人は絶対面白がって隠してるのは間違いない。
「とりあえずドワーフの村に帰るか。一応目標は達したはずだ」
「あ、でも太陽石は……」
「それならもう取ったさ。さっき巣の中を探したときに一番デカい奴をな」
キラリと光る太陽石を胸元から出すリゲル。
これがリゲル専用の剣の材料になる太陽石なのね。石の中からあふれ出る魔力が凄まじい。
鍛冶の事なんてまったく知らないけど、絶対凄い剣になる予感がする。
「じゃあ帰る前にこの子のお母さんを埋葬してもいい?」
私の提案が却下される訳もなく、太陽鳥の丁寧な埋葬の後、5人は帰路へと着いたのだった。




