第八死 世界樹 後編 ②
プロキオンの鋭い突きがリゲルの喉元を狙って繰り出される。
リゲルが盾でガツンと受け流し、姿勢を崩したプロキオン目掛けてミュルグレスを振り下ろす。
プロキオンは崩した姿勢のままリゲルの攻撃を躱すと同時に足払いを仕掛ける。
足払いを読んでいたリゲルは跳ねて回避し、再び斬りかかろうとするが、既にプロキオンは距離をとっていた。
「互角……か」
アルタイル王子がゴクッと唾をのみながら呟く。
騎士学校での成績からもわかるように、アルタイルは剣の使い手としてはそれなり以上の腕を持っている。
そんな彼だからこそ、リゲルとプロキオンの戦いの凄さがわかるのだ。
余計な手出しは出来ない。彼に今できる事といえば、二人の小さな女の子を守る事だけだと感じた。
……
「あ、クッキー食べますか?」
「はうー美味しい紅茶も入れたのですよ」
「ああ、すまん。せっかくだから頂くよ」
3人は地面へ座り、紅茶をすすりながらお菓子をつまみ、2時間も戦い続けているリゲルとプロキオンを見る。
「長いですね」
「ううー流石に長いです」
「拮抗した勝負というものは長くなるもんだが……長すぎるな」
剣士同士の戦いというものは、結局のところ隙の突き合いとなる。
相手に隙が無い時はどうするか。それは自分から攻撃を行い、相手の隙を作るしかない。
だが、自分から攻撃する事によって隙は生まれる。
隙が生まれれば当然相手は攻撃をしてくるし、それによって相手に隙が生まれる。
まったく互角の二人は、隙を狙い合うという無限の輪の中で踊り続けているのだ。
「スピカ~心配したよ~」
世界樹の聖域から排出された私に向かって、ピョルピョルピョルという可愛い羽音をたてながら、アップゥが飛び込んでくる。
アップゥの後を追って、ウィルギニスが走ってくる。
「スピカさん。大丈夫でしたか?」
「うーん。色々あったけど大丈夫」
排出された先は、アップゥが黄色い花をもいだ場所で、上を見上げると枝の間から太陽の光が差し込んで来ていた事から、一晩聖域にいたのだと悟った。
「ウィルギニス。あなたはちゃんと例の魔法は覚えられた?」
「ええ。任せて下さい。ちゃんと覚えました」
「で、エルフ国の王家にしか使えない魔法って何だったの?」
「それは……秘密です。スピカさんがわたくしの代わりに女王になってくれるなら教えますよ」
「遠慮しとくわ」
「うわっ即答ですね。『ああ、突然私がプリンセスに!?そして白馬に乗った王子様と出会って舞踏会でダンス!!』なんて女の子なら誰でも憧れる夢な気がしますけど」
……正直、確かにそんな夢を見た事もあるけど。そんなの子供の時の話だし。何より女王って現実が重すぎるよね。
政治やら、法律やら、諸外国との関係。あーもう考えるだけで、もう一度爆発しそう。
「夢見る少女じゃいられないってね。ともかく魔法の事はもういいわ。どうせ人間が全滅したりする様な、恐ろしい魔法じゃないんでしょ」
「しますよ」
「えっ?」
「人類は全滅します。わたくしが本気だせばね。ふっふっふっふ」
不敵な笑みを浮かべるウィルギニス。私は思わず驚きの声を上げる。アップゥも怖がって「大変だ~大変だ~と」飛び回る。
「ΩΩΩ<な、なんだってーーー!!! って、ちょっとウィルギニス。冗談は止めてよ。そんな魔法が存在する訳ないじゃない」
「あ、わたくし改名しましたので。これからはムム・エルフィンとお呼び下さい。ちなみに私がもし女王を辞めたら、スピカさん。あなたはメメ・エルフィンだそうです」
「メメ……よかった断っておいて。それよりもウィルギ……ムム・エルフィン。本当にそんな恐ろしい魔法を覚えちゃったの?」
「そうですね。試しにスピカさんに使ってみますか。ウフフフ」
「え、ちょ!!!やめてよ!」
ウィルギニス改めムムから放たれた虹色の光が、両手を出して防ごうとする私を包み込んだ。
やがて段々と虹色の光は弱くなっていき消えていった。
「???」
自分の手足を確認してみるけど、何も起きていない。
いたって正常だ。魔力に異常もないし……どう見ても何も起きない。
「ふふふ。王家の血を引くスピカさんには特別に教えて上げます。絶対に内緒ですよ。ごにょごにょごにょ」
ムムが私に耳打ちして王家専用魔法の詳細について教えてくれた。
「ごにょごにょ。あのですね。女の子が産まれます」
「女の子?」
「そうです。スピカさんの子供は必ず女の子が産まれます」
「え? それだけ?」
「そうです。それだけです。エルフ国では代々女性が王として継いでおりますので、秘伝の魔法として隠されているのです。ちなみにこの魔法は超広範囲で使えますし、世界中の女性に使えば男は産まれず滅びます」
「ああ、確かにそりゃ滅びるね。って何勝手に私に使ってるのよ」
「わたくしに子供が産まれなかった場合は、スピカさんの子供が女王になりますので念の為に……」
「……そんなのもう呪いと一緒じゃない? 取り合えず解除してよ」
「……解除は出来ません。何故ならそのやり方を知らないからです」
まったく……解除方法も知らない魔法を、他人にかけないでよね。
とりあえず私にかけられた女の子が産まれる呪い。じゃなくて魔法の構成を読み解いてみますか。
あー、これはめちゃめちゃ複雑な魔力構成で、相当魔力が高くないと理解も出来そうにない。
魔力の少ない人ならかけられた事も気づかないかもね。
うーん。今の私ならちょっと時間はかかるかもしれないけど、いつでも解除出来そうな感じかな。
まだ子供を作る予定もないし、男の子が欲しかったら解除しよ。
解除したところでどっちが産まれるかなんてわからないけどね。
「良いわよ。この呪いはこっちで解除出来そうだから」
「ええ!? 世界樹さんは一回かけたら解除出来ないって言ってましたが……」
「そうなの? よくそんな恐ろしい呪いをパパっと私にかけたわね」
「あ、えっと……せ、世界樹さんがスピカさんにかけて試せって言ってました」
キッと世界樹の幹の方角を睨むと、世界樹がビクッとした感触を感じ取ったのか、鳥達が一斉に羽ばたいて逃げていく。
(ワ、ワイやない)と言っている気がした。
まったく余計な事して来るんだから。次やったらお仕置きとして枝の二、三本折ってやろ。
「ふぅ。私はちょっと妖精の村に用事があるんだけど、ムムはどうする? 秘伝の魔法は覚えたし、あなたはアップゥに城まで飛ばして貰ってもいいのよ」
「そうですね。本当でしたら今すぐにでも城に帰ってアルタイル様を探しに行きたい所なんですが、わたくし一人でアルタイル様の飛ばされたと思われる鉱山を探すのは難しそうなので、スピカさんの用事が終わったら一緒に鉱山に飛ばして貰います」
「それって、私も鉱山行き決定な訳ね……」
「はい。よろしくお願いします」
私は右手の薬指の指輪が光っていないことをチラリと確認する。
リゲルは今のところ無事みたいね。
まぁこの指輪もあまり信用出来ないんだけどね。
リゲルがピンチになってから光ったんじゃ私が向かって間に合わない可能性もあるし、やはりリゲルとは長い間離れたくない。
ん〜。アルタイル救出が任務な訳だし、鉱山に行くしかないか。
「じゃあさっさと妖精の村に行きましょう」
「妖精の村に行こう~どこ~?」
「アップゥが案内するんでしょうが。」
「てへ~そうでした~」
可愛く舌を出すアップゥ。あー持って帰りたい。
私とムムはアップゥの案内の元、一時間程世界樹の枝の下を歩き、やがて小川の近くの妖精の村へとたどり着く。
妖精の村といっても人間の村の様に家屋があるわけではなく、拳の大きさ程の葉っぱで出来た家が世界樹の枝にぶら下がっていた。
「じゃじゃ~んここが妖精の村です~」
「村ですって……アップゥしかいないじゃん」
「いるよ~ほら~」
アップゥの指さす方を見ると、赤や緑や青のカラフルな小さい光が飛び回っていた。
「む、虫? 光ってるから蛍?」
右手の指の上に赤い光を乗せたムムが答える。
「スピカさん蛍ではありませんよ。これが妖精です」
「え? アップゥと全然違うよ?」
私が右手を差し出すと、手の上に緑色に光る妖精が乗って来る。
ジーっとよく見てみるが、アップゥの様に人型ではなく、どう見ても光る球だ。
小さい電撃玉にそっくり。
「アップゥは妖精だけど~よその妖精で~おさになって~? って言われたからいいよ~って事なの~」
「頼まれ村長って事かな? アップゥ。妖精達に話しても大丈夫?」
「大丈夫だよ~」
「えっーと。妖精さんの中で、氷の監獄の解除方法を知っている子はいますか?」
……
シャリシャリと氷を削るような小さな音をさせながら、青い光の妖精が私の前に出てきてクルクルと回る。
しばらく回転すると、静かに帰っていった。
「???」
「スピカさん。妖精語がわからないんですか?」
「ごめん。全然わからない。特別な言葉で話さないとダメだったの? 氷っぽい青い子が出て来たから私の言葉は伝わっていたみたいなんだけど」
「この子達は基本喋れませんからね。動きと光で文字を表しているんです」
ムムがさっき私の前で回ってくれた青い子に話しかける。
「ごめんね。さっきの話、もう一度してくれるかな?」
シャリシャリと氷を削るような小さな音をさせながら、青い光の妖精がムムの前に出てきてクルクルと回る。
妖精の動きに合わせて、ムムが言葉を読み上げていく。
「し・っ・て」
「しって」
「い・る・が」
「いるが?」
「お・ま・え・の」
「お前の」
「た・い・ど・が・き・に・い・ら・な・い」
「は?」
プチっと切れそうな私にムムが自信満々で翻訳結果を伝えてくる。
「知っているがお前の態度が気に入らない、だそうです!!」
「いや、聞き取れたし、何が気に入らないって言うのよ!」
「あ、ほらこの子達、スピカさんを怖がっているみたいですよ」
ムムのたわわな胸の中にスポッと隠れる青い妖精。
「スピカ~やさしくだよ~」
「むぅ~。優しく声をかけたはずなんだけど。私、子供って苦手なのよね。妖精が子供なのかは知らないけど。ムム。もう一度翻訳してくれる?」
「はい、任せて下さい」
私は出来る限りの優しい笑顔スマイル100点で、妖精に向かってやさーーーーーーしく声をかける。
「妖精さん。妖精さん。もしよかったらお姉さんに氷の監獄の事教えてくれるかな?」
青い光の妖精がムムの胸から出て来てクルクル回転しだす。
「お、答えてくれそう。なんて言ってるの?」
「ば」
「ば?」
「ば」
「ば?」
「あ」
「あん? どうやら死にてぇ妖精がいるようだな。いいよわかった。私のお友達の電撃玉のサンちゃんと相談してもらいましょう」
スポポンと私の体から電撃玉を放出し、妖精の様にクルクル回す。
「お前ら全員整列!!!!」
ビッと私の前に横一列で整列する色とりどりの妖精達。
「ああん? 一匹足りねぇようだなぁ」
私の声に反応して、ムムの胸の中から慌てて青い光の妖精が飛び出て来て列に混ざる。
鬼の様に優しい笑顔で、妖精に向かってもう一度声をかける。
「氷の監獄の事を知っている妖精さんはいますか?(キョルン)」
ピタリと動きが止まり、ガタガタ震えだす妖精達。
「氷の監獄の事を知っている妖精さんはいますか?(にっこり)」
ぷるぷる震えながら青い光の妖精がゆっくり回転を始める。
その動きに合わせてムムが翻訳する。
「た・い・よ・う」
「太陽? 日に当てるって事?」
「と・り」
「鳥?」
「な・み・だ」
「涙」
続けて言うと太陽、鳥、涙……太陽鳥の涙?
太陽鳥って確かS級の魔物で太陽鳥の事かな。それの涙が必要って事かしら。
「太陽鳥の涙をかければいいの?」
ピョンピョンと跳ね回る妖精達。
「かければいいそうです」
「ありがとうね~妖精達~」
私への回答が上手くいった事で、許されたと思った妖精達が家に帰りだすので、とてもとても優しい笑顔で引き留める。
「お前達もう一回整ー列!!!」
慌ててビッと私の前にもう一度で整列する色とりどりの妖精達。
「あのね。スピカちゃんね。この枝をあなた達妖精の力で魔法の杖にして貰いたいなって。そう思っているの。どうかな?お姉ちゃんのお願い聞いてくれる?」
優しくのはずがいつの間にかぶりっ子になっていた様な気がしたけど、私が差し出した世界樹の枝に妖精達が集まりだして相談している。
「この子達なんて言ってるの?」
「ええ、みんなで協力しあおう。殺される前に、だそうです。スピカさんいくらなんでも殺すのはヒドイですよ」
「こ、殺さないわよ!」
「とりあえず~やってみる~だって~。わたしも~杖作るのは協力するね~」
「アップゥありがとう。殺したりしないってちゃんと説明しといてね」
「うん~大丈夫~世界樹さんが〜もう説得してくれたから~とりあえずこの枝は預かるね~」
これで私の硬い枝から魔法の杖になるっぽい。
後は太陽鳥の涙か……ところで太陽鳥ってどこにいるの?




