第八死 世界樹 中編 ①
「あ、あ、あ、あ、アルタイル様は無事なんでしょうか? 瞬間移動の魔法が失敗してて岩の中なんてことには……」
震えながら両頬に手を当て、膝から崩れ落ち、涙を流すウィルギニス。
「だ、大丈夫よ。アルタイルなら岩より金の鉱山の中を選ぶでしょ…あ、うそうそ」
「ええっ!? 金の鉱山の中に!? そんな……もうお終いだわ」
「大丈夫だから。そうよねアップゥ」
「うん~多分ね~鉱山かな~」
「は?」
「やっぱり鉱山の岩の中なんですね!? \(^o^)/オワタ」
バタンとうつ伏せに倒れてまったく動かなくなるウィルギニス。
アップゥは動かなくなったウィルギニスを心配して、蝿の様に飛び回る。
「ねぇねぇアップゥ。鉱山て本当に岩の中に飛ばしちゃったって事?」
「ううん~『次元跳躍』する時に~金色の鎧が綺麗だな~って思って、そしたら金の鉱山をホリホリしているドワーフさんを思い出しちゃったの~。だから~金色の鎧の人は鉱山に飛んじゃったのかもかも~」
「金の鉱山……岩の中に瞬間移動して死んじゃったりはしないんだよね?」
「それは~大丈夫~命の危険は~ないのだ~ブイブイ~」
アルタイルが無事でいる事を聞いた瞬間。
ウィルギニスがガバッと起き上がり、鼻息をフンフンいわせながら拳を握る。
「スピカさん。アップゥさん!! 今すぐアルタイル王子を助けに行きましょう!今すぐにです!!!」
「いや、そんな事言っても……『次元跳躍』は一日2人までだから、今日はもう無理でしょ? 金の鉱山てこの近くにあるの?」
「えっとね~すっごく遠いんだよ~」
「そうすると今からはすぐにって訳にはいかなそうね。明日アップゥの魔力が回復したら行きましょう」
「うう……そんな。一人で鉱山の中にいるなんてあんまりですわ」
「アルタイル王子を助けに行きたいなら、さっさと世界樹の聖域に行ってエルフ国の王家にだけ伝わってるっていう魔法を覚えちゃいましょ」
「そうですね! 今から世界樹の聖域に行きましょう!!そして明日すぐに愛しのアルタイル様の所へ飛んで行くのです」
「世界樹の聖域は~すぐそこだよ~近くに妖精の村もあるの~」
本当は明日の朝出発すればいいかなって思ってたけど、ウィルギニスが意気込んでいるのですぐに出発する事にした。
女王になんてなりたくないから王家に伝わる魔法なんて覚えませんなんて、ウィルギニスが言い出すんじゃないかと不安だったけど、今の彼女は儀式を早く終わらせてアルタイルを助けに行くっていう使命感に燃えているようだしね。
大体、あの王子は一日くらい放っておいても死なないでしょ。金の鉱山の岩の中に入っちゃったほうが幸せだったりして。
一方その頃、ドワーフの村に到着したリゲル達は大歓迎を受けていた。
先に勇者が来るぞと連絡がいっていたのか、村の入り口には『勇者様!ようこそドワーフの村へ!!』と垂れ幕がかかっている。
村中のドワーフ達が獲物を狙う目付きでリゲルの事をみている。
なにしろドワーフの村の8割は鍛冶士なのだ。
勇者や剣聖の武器を作ったとなれば、鍛冶士としての名誉はもちろん、絶大な宣伝効果にもなる。
「今度の勇者はどうだ?」「ああ、見た目もいいし腕もいいらしい」「アケルナル剣聖の弟子らしいぞ」「ミスリルのハンマーを果物の様に切っちまうらしい」「彼女の名前はヒラタムネさんだってよ」
ドワーフ達がリゲルの個人情報をコソコソと交換している。スピカがこの場にいたら激怒するような情報も流れているようだ。
「はわわ。す、すごい歓迎です。目を回しちゃいそうです」
「はっはっは。そりゃそうでしょう。村中の鍛冶士が旦那の剣や防具を作りだがっているんだがらよ。まぁ旦那の剣はおらにまがせとけっぺ」
リゲルを連れて来たドワーフの長ドワンゴに対して、村中のドワーフが抗議を上げる。
「ずるいぞ!!ドワンゴ!!!」「先代の息子だからって勝手に決めるな」「そうだそうだー俺の方がすごい剣を作れるぞ!」
「お前らうるさいっぺ。旦那はおらを選んだんだ。なぁ旦那?」
ドワンゴの問いに対して、リゲルはミュルグレスを鞘から抜いて答える。
「ちょっと待ってくれ。俺は村に行くと約束しただけだ。ドワンゴは本当にこのミュルグレスよりいい剣が作れるのか、何か証拠を見せて貰えないか?」
「えっ? それは……」
先ほどまで俺に作らせろと騒いでいたドワーフ達も、急に無言になって下を向く。
「自分にあった最高の剣に出会えるのならば是非お願いしたい。この通りだ。誰か俺の剣を作ってくれないだろうか? 俺は本当に世界を平和にしたいと思っている。恐ろしい強敵と戦う事もあるかもしれない。その時命を預けられる大事な剣が欲しいんだ」
リゲルが深々と頭を下げ、ドワーフ達にお願いをする。
ドワンゴや鍛冶士としては相当腕のあるドワーフも、リゲルの問いかけに対して無言になる。
良い剣を作ることよりも、ただ勇者の武器を作れるという理由の方が上になっていた事に、鍛冶士のドワーフ達は気が付いたのだ。
「残念ながら、誰もいないようだな。ペテル。エルフィン城に帰ろう」
「はうーいいんですか?せっかく来たのに」
「いいんだ。アケルナル校長がこう言っていた。必ず自分にあう最高の剣にいつか出会えると……」
「でもそれじゃ、勇者として認めて貰えないのでは?」
「そもそも、国に勇者と認められようがどうだろうが関係ない。俺は俺だ」
「はうー。かっこいいですー」
エルフィン城へ帰ろうとしたリゲル達を引き留めたのは、ペテルと同じ位の年頃の、可愛いドワーフの女の子だった。
「ちょっと待って下さい。私の父なら……必ずあなたにあう剣を作れるはずです」
「あれれ~こっちだったかな~それともこっちかな~」
これ迷ってるんじゃない?
「あ、こっちだ~あれ~?」
絶対迷ってるよね? 妖精の長なのに迷ってるよね?
私とウィルギニスはアップゥの案内で、世界樹の聖域へ向かっているはずなのだが、どう見ても先ほどから同じ場所をウロウロしている感じだ。
ウィルギニスと顔を見合わせれば同じ困った顔をしていた。
「アップゥ。もしかして迷ってる?」
「ううん。探してるの~」
「探してるって……何を?」
「黄色いお花だよ~」
「黄色い花って……花を目印にしてたの? そんなのいつ無くなるかわかんないじゃない」
「あ、あった~」
アップゥが私の手の小指程の大きさの黄色い小さな花を指さす。
「ちっこ!」
思わず声が出るほど小さい。こんな小さな花を目印にするって……まぁアップゥの目の大きさと変わらないから、彼女にしてみたら普通の大きさなのかもしれない。
それにしたって、いつ散ってしまうかわからない花を目印にはしないよね。
「じゃあ~聖域に行くよ~」
アップゥは黄色い小さな花を摘むと片手に持ち、私とウィルギニスの周りを高速で回りだす。
「二人とも~目をとじて~」
言われた通り目を閉じて、『次元跳躍』の時に、バラバラの場所へ移動させられた経験があるので、はぐれない様にウィルギニスと手を握る。
ウィルギニスは私が手を握るとギューッと握り返して来た。そうとう怖いだろうね。私でも怖いんだから。
「アップップゥウウウウウウウウウ」
長くなったので分割します。




