第八死 世界樹 前編
どーも。出会ったばかりの妖精に、変な魔法で多分世界樹の近くに移動させられた。
とても不幸なスピカちゃんです。
なんなのあの妖精の長のアップゥとかいう子。
旅の準備もしてないのに、いきなり瞬間移動をさせるなんて酷すぎじゃない?
大体いったいここは何処なのよ。
おそらく世界樹の枝の下のどこかに飛ばされたと思うんだけど……
あまりにも暗いので『初級火魔法』で明かりを灯し、周りを確認する。
頭の上に世界樹の枝達が茂っているせいで、『浮遊』を使って上空から確認するのは出来なそう。
そもそも世界樹のどこにいけばいいのか聞いてない。
世界樹の麓に妖精の村があるんだっけ?
とりあえず。迷子にならないようにこの場から動かない方がよさそう。
アップゥが戻ってくるかもしれないし……戻ってくるよね?
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
突如響き渡る女性の悲鳴。多分あの子ね。
悲鳴のした方へ走り、震えながら膝を抱えてうずくまるウィルギニスを発見する。
「ウィルギニス。ウィルギニス。私よ。スピカよ。あなたもあの妖精に飛ばされて来たんでしょ」
「な…なんなんですか? ここ、どこですか? なんでわたくし連れてこられたんですか?」
「多分、世界樹の近くだと思うんだけど、私じゃわかんないわ」
「そんな。スピカさんでも知らない事があるなんて。もうわたくし終わりですのね。ここで野垂れ死んでしまうのですね」
「いやいや。私エルフ国の事とか全然知らないし、ちょっと飛ばされただけなんだから何とかなるでしょ」
「スピカさん……メンタル強いですね。わたくしはすぐ心配してしまって……」
「アハハ。私は色々酷い目にあって来たからね……」
メンタル強いなんて言われて思い出す不幸の日々。しかもResultで何度も繰り返してるなんて、城で幸せに暮らしている姫ちゃんには言えないよね。
「ともかく、私達を無理矢理移動させたアップゥとかいう妖精の長が現れてくれないと困るわ」
「アップゥさんなら、わたくしを飛ばすと魔力が無くなるから、ちょっと待っててと言ってましたが……」
「は? 待つってどれくらい?」
「確か『次元跳躍』は一日二人までと聞いたことがありますね」
「じゃあ。早くて明日になるのね」
「……明日ですか。やはりこのままここで死ぬのですね。わたくし達」
「なんでそーなるのよ。明日まで待てばいいだけじゃない」
「だってこんな森の中でどうやってお食事したり、眠ったりするんですか?」
「どこってその辺? ご飯はその辺の動物を狩って……?」
私の事を野蛮人を見る様な目付きになるウィルギニス。遠くまで旅するなら常識だから。
確かに保存食はいつも用意してるけど、なにしろ晩餐会の途中で突然ここまで移動させられたから、今は薄緑のドレスと隠し持ってた杖しかないのよ。
「あの……と、トイレは……」
「……その辺」
バタリとその場に倒れるウィルギニス。
「もうダメです。命は無事かもしれませんが、人として死亡です。ああ。アルタイル様。汚れてしまうわたくしをお許し下さい」
「しっかりしなさいよ。いずれは女王になるんでしょ」
「うう……いいです。わたくし女王なんてなりたくないです。母の様に強くないし、アルタイル様と一緒に……」
「ああもう勝手にしなさい。私その辺の草集めてくるから好きなだけ泣いてて」
「……草?」
「そうよ。ベットにするのよ」
「やだー! 草の上なんかで寝たくないー!!」
「じゃあ固い地面の上で寝てなさい!!!!」
グズグズ言うウィルギニスを放って、キャンプの準備を開始する。
草を集めてベットを作り、枝を拾って焚火をする。幸いお腹は晩餐会で食べたばかりだから減ってない。
夜動き回ってウィルギニスとはぐれたりしたら危険なので今日は就寝する。辺りにモンスターの気配が無くて本当に良かった。
枝集めの途中で、プーポを見つけた。プーポは豚と猪の中間と行った感じの生き物なのだが、見た目がすごく悪い。味はまぁまぁウマイんだけどね。
一応、『探知』でマーキングしておいたから、朝になったら狩りに行こう。
『探知』と言えば距離が離れてしまったせいか、リゲルの反応が消えてしまっている。
危険を知らせるリングが赤く光ってないから大丈夫だと思うけど……私が城にいない事を、誰かリゲルに教えてくれないかな。
私と同じで変な事に巻き込まれていないといいんだけど……
サンダルフォン家の深紅の馬車が、ドワーフの長ドワンゴの案内の元、街道を猛烈な勢いで疾走する。
「勇者の旦那! ここを右でさ」
「だから、まだ勇者の見習いだって。まだ認められてないんだ」
「旦那すまねっぇぺ」
「いいさ。それよりもそろそろ理由を教えてくれ。俺をドワーフの村に連れて行ってどうするんだ?」
「旦那の持ってるミュルグレスはいい剣だぁ。けんど、旦那の剣じゃねぇ。わがるか?」
「すまん。全然わからん。このミュルグレスは俺が買った剣だから俺の剣だろ」
「旦那~。ミュルグレスは別の誰かの為に作られた剣だっぺ。勇者さなるなら自分にあった剣を作らねぇと」
「自分の剣……か、ひん曲がったアイアンソードとかで戦ってたし、そんなことは考えた事も無かったな」
「曲がったアイアンソードで戦う勇者なんていねぇっぺよ……頼むからオラに作らせてくれ」
「いいのか? 金はないぞ。なんせ勇者見習いなもんでな」
「勇者の剣は代々オラの家系で作ってるんだぁ。金なんていらねぇ、むしろこっちが払ってでも作りたい程だっぺ」
「そういうもんなのか」
「ああ、鍛冶士にとっちゃ何よりも名誉なことだべ。まずはドーワフ村さ行くべ」
「わかった。よろしく頼むよ」
頭の上に覆い茂った世界樹の枝の間から、わずかに光が入り込んで来たことで朝になったと悟った。
横を見れば、ウィルギニスがスースーと寝息を立てている。
始めはいじけて地面の上で寝ていたけど、夜の間に入り込んできたのだ。
寝顔を見れば見るほど私にそっくりだなって思う。
ウィルギニスを起こさない様に静かに草のベットから出ると、マーキングしておいたプーポを追ってサクっと仕留めた。
これで今日の食料はなんとかなりそう。
後はその辺に生えてる食べられそうな草やハーブを食べたらいいよね。
こういう時に水魔法、火魔法はほんと役に立つ。そのせいで私が調理係ばっかりやらされるけどね。
石の包丁で切った猪の肉をよーく火を通す。調味料はないけど、柑橘系の果物があったからそれを絞ってかけた。
焼けた肉の良い匂いに目を覚ましたのか、ウィルギニスが起きてくる。
「スピカさん。おはようございます。良い匂いですね。何のお料理でしょうか?」
「おはよう。ウィルギニス。プーポの肉を焼いただけなんだけど食べる? 」
「ぷ、プーポとはなんですか?」
「ああ、見たことない? そこに私が狩ったプーポが転がってるでしょ」
ぶっちゃけとても食えるような見た目ではないプーポをチラリと見て、オエッと声をあげるウィルギニス。
「……その様な野蛮な……いえ、食べた事ない物は……わたくしはちょっと……」
露骨に嫌そうな顔をするウィルギニスだが、お腹はその美味しそうな匂いに釣られて、正直にグーグーとなっていた。
「あの……少しだけ頂きます。う、意外にこれは……美味しい。もっとあります? ああ…すいません。もうちょっと。あの昨日の夜何も食べていなかったもので……あ、また焼けましたね」
焼けた途端に手を出し、ガツガツムシャムシャと食べるウィルギニス。私の育てた肉まで食べないでくれる?
「ふぅ~。プ、プーポの肉も結構美味しいのですね。あとこの雑草も美味しかったです……」
「ざ、雑草じゃないわよ! 一応食べられる葉っぱと見分けてるんだからね」
「そうなんですね。流石ですスピカさん……ところでおトイレってやっぱりその辺で?」
「そう言うと思ってそこの川沿いに『岩石魔法』で個室を作っておいたか……」
私が言い終わる前にストーンの個室に向かって走り出すウィルギニス。
「はぁ~本当にありがとうございます。スピカさん」
「いいのよ。私も実は恥ずかしかったし、こうすればリゲルに覗かれないですむもんね」
「リゲル?」
「ああ、親善試合で解説してた人よ」
「あのカッコイイ人ですね。よく憶えてます。すごく素敵な方でした」
「やだ、そんな事ないのよ。雑だし返事も不愛想だし、優しいけどよくやらかすし。本当にいつも困ってるのよ。アハハハ」
「……すごくお好きなんですね。リゲルさんのこと」
ブブブッーーー。
飲んでいた雑草……じゃなくてハーブのお茶を吹き出す。
「ゲホッゲホッ。な、なんでそうなるのよ」
「似ているからですかね。わたくしがアルタイル様の事を考えている時の顔と、まったく同じでした」
「ゲホッ……本当に?」
「ええ。幸せそうな顔でしたよ。せっかくだから聞かせて下さい。リゲルさんとのこと」
結局、夕方まで、お互いの思い人についての熱い女子トーク交わすことになったのは言うまでもない。
アップゥの迎えが来ないまま、遂には日が落ち、辺りが暗くなってきた。
流石に遅すぎたので『岩石魔法』でコテージでも作ろうかなんて考えていると、呑気な明るい声が聞こえてくる。
「お~い。スピカ~。ウィル~。かくれんぼはもう終わりだよ~いい加減でてきてよ~」
いやいや、隠れてませんし。あなたが勝手にここに飛ばしたんでしょ。
「アップゥ。ここよ!!」
「スピカ~会いたかったよ~」
ピョルピョルピョルと不思議な音を出しながら、赤いフワモコ髪の猫耳妖精が私の胸に飛び込んでくる。
「も~勝手にいなくならないで~」
「それはこっちの台詞でしょ。世界樹の行くのは明日でしょ」
「そうだったんだ~ごめんね~スピカ~」
ウルウルと涙目で見つめてくるアップゥ。うう……怒れない。この妖精可愛すぎる。
「スピカさん。ちゃんと怒らないとだめです!!」
「そんな~ごめんねウィル~」
「うっ……あなたを許します。アップゥ。髪の毛撫でてもいい?」
まるでお人形のような可愛さのアップゥを二人で撫でまわす。ああ。本当に可愛い。連れて帰りたい。
「あれ~あれれれ~」
撫でまわされたアップゥが辺りをキョロキョロと探し始める。
「アップゥどうしたの?」
「一人いないね~」
「え? もう一人飛ばしたの?」
「うん~」
「うそっ!誰?」
「えっとね~金の鎧の人~俺様も行きたいって言うから~さっき飛ばしたの~」
「アルタイル様!?」
「飛ばす場所間違えちゃったかな~」
「ええええええええええええええええ?」
間違えたで済む問題じゃないんだけど……アルタイル王子いったいどこいっちゃったの?




