第七死 エルフィン城での晩餐会 後編
エルフィン城……その内部は巨大な迷路の様になっており、道に迷った者が生きて帰れる確率はなんと5%。
なんて冗談を考えている場合じゃない。
今の私はガチで迷子なのだ。
えっと。こういう場合は、右手を壁に付いて歩けばいずれ出口に着く……左手だったっけ?
ともかくこうやって壁沿いをずーっと行けば必ず……ヘッ!?下り階段がある場合はどうしたらいいの?
さっきの女王の部屋の窓から見た景色は、かなり高い所だった気がする。
つまり出口は下か……目指しているのは晩餐会の会場なんだけど。
一旦、外に出た方がいいよね。
よーし。降りたろ。
近づいてきた女の子達のプリティホワイトとブラックの衣装を真似て作られたドレスを再度確認し、それがファーストシーズンの最終話でのみ使われたファイナルフォームだと気づいた細マッチョの頬に、一筋の涙が零れ落ちる。
「……ヴェルクリス・ガガールンさん?」
「どーした?泣いてんのかー?」
プリティホワイトの方は、ジト目でおとなしそうなタイプ。一方でブラックの方は、ツインテールのワカラセたくなるマセガキタイプ。
白にジト目で罵られ、黒にザーコ♡バーカ♡と煽られるのもいい。実にいい。
と、不埒な感情が湧いてくるヴェルクリス・ガガールン。
ヴェルクリス・ガガールンの心は乱れ、少女達と出会って30秒だというのに、ノータッチの誓いに限界が近づいていた。
「あぁ、もっともですね。こんな事ならもっとも晩餐会に来なければ良かった……」
「そんな事言うなよー。私達と楽しもうぜー」
アーニャがヴェルクリスに軽くソフトタッチする。
「グロロロロロ……」
「……この本にサインして欲しい」
デネブがヴェルクリスの手を握り、持参した『絶頂!プリティプリースト①』を渡そうとする。
「ウボォオオオオウ……レロ……レロレロ」
ヴェルクリスが限界に達したとほぼ同時に、突然会場内を洪水が襲う。
「きゃああああああああああああああああ洪水よ!!!」「おい!水芸の姉ちゃんが暴走してるぞ!!」「水だ!!早く窓を開けろ!!」
カペラが起こした水魔法の暴走に気を取られ、二人が一瞬目を離した隙に、ヴェルクリスの姿は消えていた。
「おーい!!!誰かいませんかー!!」
私の声がむなしく城内の通路に響く。
窓があればそっから抜けて飛んでいくのに……
どうやら結構下の階層まで降りてきてしまったようで、窓がまったく見当たらない。
「あーもう。こうなったら天井の壁をぶち壊して……って何の音?」
ゴゴゴゴゴゴという音が地響きと共に響き始める。
えっ?何?……水?
水だ!!!背後から洪水が押し寄せてくる!!!
「なんなのよー!? 罠でも踏んじゃったって事ー?」
洪水から逃げようと必死に通路を走る私。
やばい。
正面の扉を『爆裂魔法』で破壊して、横の通路に入り込む。
壊した扉の先は下り階段になっていたようで、押し迫っていた水が一気に流れ込む。
「ふぅ。危なかった……一体なんなのよこの水は」
しばらくすると水の流れが段々と弱くなり、下り階段の中は水がたっぷり溜まっていた。
「ひぇー。この下にはもういけそうもないわね。ん?この部屋のプレート?」
扉の上に貼ってあるプレートを見て、私は理解した。すぐ逃げなくてはいけない。なぜなら……
『この先、エルフィン城飛行動力室!!立入禁止!!』
ガコン。ズズズズズズズーーーーン。
盛大な晩餐会が開かれたその日。空に浮かぶエルフィン城が湖の上に落ちた。
一瞬落下するような感覚の後、もの凄い衝撃があり、斜めになったまま動きが止まった。
外から見た訳じゃないけど。あ、落ちたなコレってすぐに理解した。
わ、私は悪くないはず、こんな卑劣な罠を仕掛けた人が悪いよね。
ともかく、この卑劣な罠をしかけた犯人を捕まえる為に、水の痕跡を追って戻ってみよう。
捕まえないと私の命が危険で死刑が危ない。
斜めになった通路を戻り、やがて、ザワザワと大騒ぎになっている部屋へたどり着く。
良かった。私にも帰る場所があったんだ。
「怪我人はいないか?」「何があったんだ?」「どうやら城が落ちたらしい」
晩餐会会場に入ると、集められた来賓客に対して、兵士たちが安否確認が行っていた。
「皆の者静まれい。ちょっと城が落ちただけではないか。慌てるでない。怪我人がいればすぐに治療し、兵士達は状況を報告せよ」
ミミ女王は大騒ぎの会場の中心で陣頭指揮をとっていた。
「な、なんの騒ぎですか?(棒)」
「おお。スピカも無事だったか。なーにちょっとこの城を浮かしていた『飛行石』と増幅用の魔法陣が壊れて、城が落ちて斜めになっただけだ」
「へーへー。さっきの衝撃がそうなんですね(棒)」
「しばらく斜めで過ごし難いが我慢してくれ。心配はもう無い。ほら、犯人は逮捕済みだ」
犯人? あの水って罠じゃなかったんだ。女王の指さす方を見て納得する。
カペラが猿轡をされて捕まっていたのだ。
「ンググググググッグ」
「あーいつかこういう事をすると思ってたんだ。カペラさようならシクシク」
「ンぐーんぐー」
「……今までありがとう? 直球イノシシガールもやっと最後にもお礼が言えるようになったんだね」
「ングーーーーーー#」
「女王様!!!飛行動力室に壊された形跡が!!確かにこの女の水が原因かもしれませんが。防水の魔法がかかった扉を壊した者がいるようです。水魔法の暴走もその者のせいかもしれません」
兵士の一人が余計な報告をする。
「やはりそうか。この程度の水で壊れる様な城だとは思っていない。真犯人を捜せ!!」
「そうするとこの女は?」
「釈放しろ。悪意があった訳ではあるまい」
兵士の一人がカペラの拘束を解く。
「プハッァ。し、城の扉を壊せるような魔力の持ち主はただ一人しか……」
「カペラ!!!心配したのよ!!釈放されて良かった!!!」
余計な事を言いそうなカペラを無理やり抱きしめ黙らせる。
「ムグググググ!!ムグーーーーー!」
カペラが黙りそうもないので、結局感電させて気絶させた。
「はて、城の扉を壊せるような魔力の持ち主か……」
女王がカペラのダイイングメッセージを聞き取ったのか、あごに手を当てて考え始める。
「あ、えっと。斜めに傾いた城。ちょっと直して来ます。揺れるから何かに掴まってね」
「はっ!?城の傾きを直すだと?」
「その飛行動力室を直す間の応急処置みたいな感じで……」
「スピカ。やって見せよ」
「はーい。どこかに掴まってて下さいね」
私は晩餐会会場の部屋の窓から飛び出し、『浮遊』で城全体の様子を確認する。
おー。結構みごとに傾いているわー。いったい誰の仕業なんだろうー。
応急処置っていったけど、一応簡単には倒れたりしない様にしようかな。
魔法の規模が大きいので全力で集中する。しっかり構成を練り、魔力を持って具現化させて、魔力造形で形を整える。
「大地の力を我が魔力に込めて、具現せよ!!『水晶魔法』!!!!!」
上級土魔法『水晶魔法』を使用し、湖の底から水晶の3本の大きな柱で城を囲むように呼び出すと、柱の間に城を乗せる土台の水晶を作り、そのままエルフィン城をゆっくりと持ち上げる。
斜めに傾いていた城は元に戻ったが、ちょっと持ち上げすぎてしまい、浮かんでいた時の高さより高い位置に固定してしまったので、『水晶魔法』で正門から入り口までの階段も作った。
城に戻ると、女王が私も空から見せろとせがむので、『飛行』を使って一緒に窓から外にでる。
「これは……素晴らしいではないか、浮かんでいたエルフィン城も美しかったが、水晶に支えられた城もまた美しい」
「ええ。お詫び……じゃなくて、一応普通の岩でも出来たと思うんですが、美しいこの城には水晶の方が似合うかと」
「ああ。ありがとう。ところであの3本の柱の上の彫像はなんだ?」
「お気付きになられましたか。正面左の柱にはウィルギニス。右の柱にはアルタイル王子の彫像を作りました。二人の愛に国境がないように。エルフ国とヘヴェリウス国の友好をという私の願いです」
「友好か……別にエルフ国は戦争したい訳じゃないんだが……王子だって帰れって言うのに帰らないし。なんならウィルギニスを連れて駆け落ちする気満々だし……ああ。すまん。こっちの話だった」
「い、色々複雑なんですね」
「ああ、いい解決策があったら教えてくれ。やはりお前が女王になってもいいんだぞ」
「女王は無理なんで……何か考えてみます」
「そうだな。ところで後ろの柱の上の彫像はなんだ?」
「あれは……す、スピカちゃん人形ダブルピース(水晶ver)です」
大笑いする女王を連れて窓から晩餐会会場に戻る。そんなに笑わなくてもいいじゃん。
製作者の名前的な感じで、つい作っちゃっただけだし……
ミミ女王は会場に戻ると、私を連れて晩餐会会場の真ん中へ移動する。
「皆の者。城の異変も無事解決した。我がエルフィン城は永遠に不滅である!!」
おー!!!という来賓客や兵士達から歓声が上がる。
「この大災害を解決した者を紹介しよう! 我が姉ママ・エルフィンのご息女スピカ・プラーエである!」
女王に紹介されて前に出ると、来賓客や兵士達からの歓声が更に高まる。
と、同時に「プラーエ?(怒)」「プラーエって言った?あの男爵様?(激怒)」「私のパパ様のこと?(大炎上)」と来賓客の女性達がザワザワしだす。
ちょっとパパ。何してたん? 女性陣からの視線がめちゃめちゃ熱いんですが……
「今宵はめでたい晩餐会。幸い怪我人もいないようだ。もう一度晩餐会を再開しようではないか!」
女王の晩餐会再開の合図と共に、オーケストラによる楽曲が流れだし、次々に品の良い料理が運ばれてくる。
はぁ。やっと何か食べられそう。色々ありすぎて、お腹すいちゃったよ。
テーブルに並んだ料理を適当に取って食べる。良かった。食事マナーは厳しそうな感じじゃなくて。
カペラもデネブもアーニャーも美味しい料理に満足し、楽しんでいるようだ。
プリティプリーストの作者には会えたのかな? 後で聞いてみよう。
空腹感もなくなり、晩餐会の様子をなんとなく見ているとちょんちょんと肩を叩かれる。
振り向くが誰もいない。
しばらくするとまたチョンチョンと肩を叩かれる。
振り向くとやはり誰もいない。
「誰?」
「いないよ~」
可愛い子供のような声がするけど姿が見えない。
「あなたがスピカ~」
「そうですけど。あなたはだぁれ?」
「わたしは~」
私の目の前の空間がキラキラと光り出し、ポンと小さくはじけると、煙の中からコップと同じ大きさで、翅の生えた赤いフワモコ髪の女の子が現れる。
「よ、妖精?」
「ぶぶ~正解は妖精の長なのでした~」
「あなたが妖精の長なの?」
「そうだよ~アップゥっていいます~世界樹まで案内するからよろしくね~」
「うん。よろしくね」
「じゃあ早速~」
「へっ!?ちょっと待って……」
「えい!『次元跳躍』~」
アップゥが私の目の前でポンと両手を打つ。
思わず目を閉じ、再び目を開けると……そこは鬱蒼と茂る夜の森の中だった。
「待ってって!行くの明後日だし!!!主役のウィルギニスがいないじゃん!!!」
抗議の声を上げるが誰もいない。置いて行かれた?
「おおおおおおおおおい!!!誰かいませんかーーーーー!!!」
もうやだ!!私ずっとオーイって言ってるじゃん!!!




