第七死 エルフィン城での晩餐会 中編
「だから……姉のママ・エルフィンとパパ・プラーエがNTR駆け落ちしたせいで、脳が破壊された私が女王をやらされてるって事だ。ドユーアンダースタン?」
「あ、わたくしとは従妹って事になりますね。どうりで顔が似てると思いました」
ウィルギニスがニコニコと笑顔を見せる一方で、驚きのあまり口をあんぐりと開けて呆然とする私。
「ハッハッハ。そんな顔をするな。幸い私にも良い夫と可愛い娘が出来た。娘のウィルギニスが成人すれば、この退屈な女王という役目がいつでも引退出来るということだ。あー長く辛い毎日だったよ」
後継ぎの話になった途端、冷汗を流し始めるウィルギニスとアルタイル。
当然二人の関係は秘密な訳で……
「あー本当に良かったわ。ウィルギニスは私と違って器量も良いし、民を守る良い女王になるのは間違いない。姉の様に突然いなくなったりしなければだが。なぁアルタイル王子」
金ピカ王子がビクッと反応して答える。
「え、ええ、確かにウィルギニスは美しいし優しいし必ず良い女王になるでしょう」
「本当か? 私としてはいなくならないかという後者の回答が欲しかったのだが……まぁいいだろう」
ねぇねぇ。これ二人の関係ってバレてない? 絶対バレているよネ?
「無いとは思う。無いとは思うが、もしウィルギニスがいなくなったら、偶然現れた王位継承権第二位のスピカ・プラーエに後を継いでもらうとするか」
「は?」
「だってそうだろう。私にはウィルギニスしか娘がいない。その娘がいなくなったら王家の血が途切れてしまう。姉の娘のスピカが女王となるのも当然の事だろう」
手の平を拳でポンと叩くウィルギニスとアルタイル。「「その手があったか」」って口に出して言っちゃってるし……
突然降ってわいた王位継承権第二位。女王なんて柄じゃないし、絶対やりたくない。
「ウィルギニスもアルタイル王子も絶対にいなくなりませんよ。間違いありません!!」
「スピカ!そんな約束が違……」「そんなー酷いですー」
二人がギャーギャーワーワーと喚いて文句を言う。
なぜ女王の前で騒ぐのか……付き合っていることは隠してるんだよね?
そもそも私は駆け落ちを手伝う約束してなんてしていない。何か考えてみるって言っただけのはず。……多分。
「ところでスピカ・プラーエ。今日ここに呼んだ理由は、この二人の秘め事の解決の為ではない」
秘め事ってバレてますね。確実に。
「エルフ国の象徴でもある世界樹に、次期女王でもある娘のウィルギニスを連れて行ってもらいたいのだ」
「世界樹にですか」
「うむ。エルフ国の王家にだけ伝わる魔法が世界樹の聖域にある。女王になる為には必ずその魔法を覚えなくてはいけない。本当であれば私が娘を連れて行くべき所なのだが、この通り親善試合で大怪我をしてしまってな」
女王が袖をめくり、電撃玉で出来た小さなアザを見せてくる。
全然大怪我じゃないじゃん。行きたくないだけでしょ……
「ウィルギニスは優しい子でな。困った事に攻撃魔法がまったく使えないのだ。そこでだ。王族しか入れない世界樹の聖域に、私の代わりとして護衛をお願いしたいのだ」
「あの、私がその怪我を治すので女王が……」
「そういえば女王に怪我をさせると、どうなるか知っているか? 普通なら即死刑だそうだ。今なら誰がこの怪我をさせたのか忘れられそうなんだが」
「喜んで行かせて頂きます」
これは死刑という脅しに屈した訳じゃない。ど、どうせ世界樹に行く予定だった訳だしビビったからじゃないんだから……
「スピカ。俺からも護衛を頼む。本当は俺も同行して守ればいいんだろうが、この通り幽閉の身なのだ」
「ああ、アルタイル……愛しい人」
「……ウィルギニス」
お、おーい。隠せ隠せ。堂々と手を握り会うんじゃない。
女王がギューーーーっと目をつぶって、たまに薄目を開けて終わったどうか確認してるから。
隠くれてそういう事してあげて……
女王が目をつぶったまま小声で話しかけてくる。
(終わった?)
(えっ?)
(終わったか聞いてるんだが)
(ああ、もうちょっとです)
(チラッ)
(あ、今だめです。まだチューしてるから)
(えーうそーん。それまた長そうなやつ?いややわー)
(もうすぐです。今が咳払いのチャンスです)
「ごほん。ともかくだ!!」
咳払いに驚き、慌てて離れる二人。アルタイルは口を袖でゴシゴシ吹いて、ウィルニギスは乱れた髪をしきりに直している。
「世界樹についての詳しい話は、今夜の晩餐会に参加している妖精族の長に聞くとよい。世界樹への出発は……そうだな明後日でいいか。それまでは城に寝泊りするがいい」
「あ、ありがとうございます」
「お礼はいい。後でこっそり姉様達の話を聞かせてくれ。それでは晩餐会で会おう」
「わかりました」
ミミ女王は私の手をゆっくり握り、じっくりと私の顔を確認すると、「やっぱそっくりやわー」と言いながら部屋を出て行った。
「よしゃー晩餐会かー今夜は飲むぞー」
「うふふ。アルタイルさまったら飲みすぎないで下さいね」
仲良く腕を組みながら続けて部屋を出ていくイチャイチャコンビ。
いや、隠せよ!!!幽閉されろよ!!
………
ぽつーんと一人取り残された私。
なぜお客の私を置いて行くのか。
こんな大きな城に一人で置いて行かれたら絶対迷子になるでしょ。
慌てて部屋を出て行った二人を追うけどもういない。
早い!!
一方その頃。晩餐会会場では盛大な拍手喝采が起こっていた。
「オーッホッホッホ。続けていきますわよー! 白糸の滝~~~~からの大瀑布!」
「おー!!!」
カペラは大勢の晩餐会の来客に水芸を披露していた。
「はぁああああ。ここで必殺のハマグリ大開潮!!」
プシャァアアアアアアアアアアアアアアア。
カペラから噴き出した水が美しい虹を作る。
「よ、姉ちゃん最高!!!」「綺麗だわー」「アンコール!アンコール!!」
乗せられて調子にのるタイプのカペラが調子を上げていく。
「あ、アンコールですって!?よろしくってよ!!!花びら~大~回~転でございますわ」
歓声があがる同じ会場内をプリティプリースト白黒コンビが、トテトテとプリティプリーストの作者を探して回る。
「……だめ」
「あーやっぱ来てないんじゃん? そもそも作者の名前しか知らないんじゃなー」
「……でもプリティプリーストは?」
「最後まで!!」
「「あきらめない!!」」
「……あの一番背の高い人に聞いてみよう」
「あーあの窓際の細マッチョね。なんか微妙にマスクで顔を隠してるし怪しいと思ってたんだ」
二人は別に怪しい人を探していた訳ではない。
二人の根性が、プリティプリーストへの愛が、窓際の細マッチョへと導いたのだ。
そう。この窓際の細マッチョこそがプリティプリーストの作者。
ヴェルクリス・ガガールンである。
彼は5年前に新星の如く現れ、幼児向け絵本作家として爆発的なブームを生む。
その作品とは今や、幼児だけでなく大きなお友達も熱中する『絶頂!快楽天使プリティプリースト』。
彼は既に気づいていた。
自分を探す二人の小さな天使……いや小さな女の子達の事を。
自分の考えた『絶頂!快楽天使プリティプリースト』に似たドレス、それもファーストシーズンのプリティホワイトandブラックという一番人気のキャラを着こなしている事を。
自分から声をかけてはいけない。
どんなに可愛くて我慢出来なくなっても、触ってはいけない。
それはかつての部下達の死を無駄にすることになる。
じっと天使達の方から声をかけてくれるのを待つ。
蜘蛛が獲物を探さず待ち続ける様に……そして時は来たれり。
「あのさーお兄さんプリティプリーストの作者知らない?」
「……ヴェルクリス・ガガールンさんて言うの」
細マッチョの男は歓喜の声を押し殺し、ゆっくりと答える。
「もっとも。もっともですねぇ。私がその作者かもしれませんねぇ。レロレロ」
馬車で晩餐会が終わるのを待っているリゲルとペテルも、トラブルに巻き込まれていた。
酔っぱらったドワーフに絡まれているのだ。
「あーん。誰だっぺ。こんだだ場所に馬車さ止めちー。邪魔だっぺよぉ」
ドワーフが手に持ったハンマーで、サンダルフォン家の馬車をガンガン殴る。
「はわわー。いったい何事ですかー?」
「なんだべ。こんなちっこさオナゴがこの馬車の持ち主だべか」
怒って出て来たペテルをむんず掴み上げ、じーっと見つめるドワーフ。
「悪いなおっさん。この馬車はすぐどかすからその子を離してくれ」
「おっさんとはなんだべ。おっさんとは!!おらはドワーフの長ドワンゴだっぺよ」
「じゃあドワンゴさん。その子をすぐに降ろせ。降ろさないならこっちにも考えがある」
「おー?兄ちゃんいい装備しちゃってさ。おらとヤルッていうんだべけ?」
「そっちがその気ならって言うかアレだ。アルケナル校長風に言うともう斬ったから帰れ」
ドワンゴのハンマーが一瞬の内に切断されてバラバラと地面に落ちる。
そしてドワンゴのズボンもストンと落ちる。
「なっ!?その太刀筋は……剣聖」
「剣聖じゃなくて勇者見習いだけどな。まだやるかい?」
「やるもやらねぇもないっぺ。頼む。黙っておらについてきてけれ」
その頃、私は……
「おーい! だれかいませんかー? 」
巨大な城の中で、案の定迷子になっているのであった。




