第六死 金の王子とエルフの姫 前編
トリマン校長に呼び出されて、ポラリス大魔法学校の校長室へ。
案内してくれた女生徒も当然のことながらエルフで、おしとやかな感じのスラっとした美人だ。ただし、入れてくれた紅茶はくっそマズイ。
カペラとデネブがベーって舌を出して抗議してる横で、リゲルが普通に飲んでいるので、こちらの女性陣にのみマズイ紅茶が出されたっぽい。
「あらためまして、ポラリス大魔法学校の校長。トリマンです。皆さんよろしくお願いしますね」
「アークトゥルス騎士魔法学校より親善大使として参りました。スピカ・プラーエです。よろしくお願いします」
「業火のカペラ・サンダルフォンですわ」
「……デネブ・フォーマルハウト」
「護衛のリゲル・ロワーエです」
トリマン校長は私達をゆっくりと見渡し、自分の席に座わって紅茶を一飲みすると、ベッーっとマズそうに舌を出した。
どうやら普通にまずい紅茶だったみたい。
「ふーん。まさかプラーエねぇ。ふむふむ」
「何か?」
「いいのいいの。こっちの話ですから。それより親善大使の皆さんは、あのシリウスがわざわざ送り込んで来ただけあって、すごくお強いのね。シリウスは元気かしら?」
「シリウス校長なら氷漬けですわ」
「ちょっとカペラ、それは言わない約束でしょ。あ、氷のように冷たく厳しいって意味です。元気です」
「あらそう。『氷の監獄』で凍ってるからアケルナルが代筆したってここに書いてあるけど」
ニヤニヤしながら親善大使についての手紙をピラピラさせるトリマン校長。ぐぬぬ。
「……はい。確かに凍ってます」
「嘘よ。代筆したなんて書いてないわ」
「……」
このババア……
「へぇーやっぱり凍ってるんだ。あのシリウスがねぇ。ふーん……ふふ。ふふふ。あーっはっはっはっは。いい気味よ」
突然扇子で口を隠しながら大笑いしだすトリマン校長。
「あの、そんなに笑わなくても……」
「だっておかしいじゃない? あのシリウスが凍ってるだなんて。ぷぷぷぷぷ。あーだめお腹痛い。『氷の監獄』って事は弟子のエメラダにやられたんでしょ?」
「確かにやったのはエメラダですけど。私達を守って凍ったので、あんまり笑うなら私も怒りますけど」
というかもう怒ってるし、なんならここで電撃をお見舞いしてもいいんだけど。
「あーごめんなさい怒らないでね。私とシリウスとアケルナルは、遠い昔の事だけど一緒に旅をしていたの。多分スピカさんとカペラさんみたいな関係だったんじゃないかしら」
「えっ三人で一緒に旅に?」
「正確に言うと4人ね。もう一人は……その話はまぁいいわ。あの時は私と激しくアケルナルを捕り合ってね。結局女狐シリウスがアケルナルと結婚したのよ」
「剣聖と校長が結婚ですって?」
「まぁ、すぐ離婚したらしいですけどね。だから私と付き合えばよかったのに……でもあの人女癖が悪いからなぁ。私でも結局だめだったかもね」
あの二人にそんな過去が……女癖ね。うーん。なんか自分の事を言われてるみたいでお腹が痛い。
「確かお子さんも産まれたとか……あれ?妊娠したって知らせだけだったかしら。あーむしゃくしゃして手紙を全部破って捨てちゃったからわからないわ」
かなり恨んでるみたいだけど、昔の仲間だったらもしかして、シリウス校長について助けてくれたりしないかな。
「あ、あの~『氷の監獄』についてもしかしてご協力とかしてもらえますか?」
「お断りよ」
あ、だめだ速攻で断られた。
「そこをなんとかお願い出来ませんか? 俺達に出来る事なら何でもしますから」
「いいわよ。リゲルちゃんがそこまで言うなら協力するわ。ハァハァ」
リゲルが丁寧に頭を下げてお願いしたら速攻でOKが出た。
あのさぁ。後半に釣られただけじゃないの? 逆に変な頼みされないといいけど。
「『氷の監獄』の事は準備があるから後にして、とりあえず親善大使の皆さんには親善してもらわないとね」
「……親善する?」
「ええ。魔法学校での親善と言ったらやっぱり親善試合です。我が校でも今年は優秀な生徒が3人おりますから実戦形式で行きましょう」
「親善試合ならわたくしの望むところですわ。いいですわよね。スピカさんデネブさん」
黙って頷く私とデネブ。
相談も無しに勝手に返事して欲しくなかったけど、まぁいいわ。私もシリウス校長を笑った事でまだちょっと怒ってるし。
なんならトリマン校長と親睦してもいいくらいね。
「では、親善試合は明日という事で今日は学生寮にお泊りなさい。長旅で疲れているでしょう」
「わかりました」
私達は校長室を出ると、再びマズイ紅茶を出すエルフの女生徒に寮まで案内してもらう。
寮まで行く途中で気が付いたんだけど、女の子しかいない。
「もしかしてポラリス大魔法学校って、女子校?」
「ええ、そうですよ女子しかおりません」
「えっ……じゃあリゲルどうしよう」
「男子一人くらい問題ありませんよ。ジュルリ」
は? 今この人イヤラシイ舌なめずりしなかった?
「ほら、嫌がる女の子とかもいるかもしれないし……」
「まったく問題ありません。部屋の鍵もこの通り私が管理してますから」
なんだろう。全然大丈夫な気がしないんだけど……
「スピカ。俺は剣聖と違って変な事したりしないから大丈夫だって。この子も問題ないっていってるしさ」
「だけどさ…」
「ちなみにこの方の隣は私の部屋なので、他の女子達の保安上もまったく問題ありません。ペロッチロチロチロ」
いや絶対だめでしょ。見て見て……この子鍵をいやらしく舐めてるんだけど。
「それではこの方とスピカさんが二人部屋にしますか?」
「えっ!? それは……ちょっと」
「では決まりですね。ふふふふ」
後ろでワタクシが私がリゲルと二人部屋って、めっちゃアピールしてくる子達は無視して、結局リゲルは一人部屋になった。
……すんごい不安。
夕飯をみんなで食べ。お風呂に入り。部屋に戻るとみんなが寝静まるの待つ。
深夜になると私はコソコソと起き出し、ケルベロスのマントを羽織ると、世界樹の枝を腰に差して窓際に立った。
隠密を最高レベルで発動させて準備は整った。
魔導『飛行』を発動し、星空へ向かって飛ぶ。
目指すは湖に浮かぶエルフィン城。
リゲルの部屋をチラ見して、何も起こってない事を確認すると空高くへ上昇した。
ふよふよふよふよ。
いやー……めっちゃ遅くて草。
いけるかなーなんて思った私が馬鹿だった。
下手したらカタツムリより遅いんじゃないこれ。
もっとバビューンて飛べるかと想像してたのに甘かった。
魔導だから使い込めば速度はあがるんだろうけど遅すぎる。
降りて走った方が早いけど、湖の上に浮かんじゃってるから空からしか行けないんだよね。
そうだ。『爆裂魔法』で加速したらいけるんじゃない。
一応『岩石魔法』で盾を作って、こうやって『爆裂魔法』を私に向けて放てば……
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
は、速すぎるうううううううううううううううううううううう。
ダメだ!!!城の塔にぶつかるううううううううううう。
ドゴォッ!!
激しい衝突音と共に、城の一番高い塔が破壊された。
「なんだ!!! なんの騒ぎだ!!」
「い、隕石が降ってきたようです!」
「隕石だと!被害状況早く報告しろ!!」
エルフィン城の衛兵達が騒ぎ始める。
あー危なかった。
ギリギリの所で『浮遊』に切り替え、無事着陸する事が出来て良かった。
城の一番高い塔が隕石で破壊されたみたいだけど、偶然にも私と同じタイミングで降ってくるなんて隕石は怖いね。
……
わ、私悪くないですしって人影!?
慌てて木の裏に隠れる私。
年の頃は私と同じ位だろうか。綺麗な布で顔を隠すように羽織った女の子がこちらに向かって歩いてきた。
羽織っている布にエルフィン城と同じ紋章が入っているので、きっと身分の高い子なんだと思う。
「だ、誰? アルタイル様?」
「にゃ……ニャーオ」
「猫……なの?」
猫の真似うまいでしょ。ってそうじゃなくて、今アルタイルとか言わなかった?
「えっと夜分遅くすいません。今、もしかしてアルタイル様って言いました?」
隠密の効果を消し、隠れていた木の裏から女の子の前に出る。
「どなたですか……えっ鏡?」
「えっ……」
サラサラと顔に羽織っていた布を外す女の子。
そこには私とそっくりな女の子がいたのだった。
「誰なの?」
「と、通りすがりの魔法使いです」
流石に不法侵入してるので名前を言う訳には行かない。
「通りすがりの魔法使いが何で私に似ているの?」
「さぁ? あなたさっきアルタイルとか言ってなかった?」
「確かに言いましたけど」
「実は私、アルタイルに用事があって来たんだけど、どこにいるかわかる?」
「あなたがどなたか知りませんが、アルタイル様ならあの一番高い塔にってあああああああああああああああ?」
破壊された塔を見つめ、呆然と膝から崩れ落ち泣きだす女の子。
「あの塔には……あの塔には私の愛しのアルタイル様が……」
「そ、そうなんだ。い、隕石が落ちたって噂よ」
「隕石が……はぁ。なんて事なんでしょう。守護男神プトレ様。私達の仲をどうしても引き裂くというのですか?」
「アルタイルはあの輝く星になったのよ。金ピカなだけにね……きっとあなたをずっと見守ってくれるわ」
「ああ、アルタイル様」
二人で手を握り、夜空の一番輝いている星を見つめる。
「おーい。俺様を勝手に殺さないでくれるか?」
「アルタイル様!!!」
「ウィルギニス!!」
熱い抱擁を交わす二人。
ははーん。わかったぞぉ。アルタイル王子が国に帰らない理由が。
二人はそのまま長い口付けを交わし……王子の手が……
「ストーップ!!!!ストップストップ!!いるから。私ここにいるから!!」
「お前は……スピカ? スピカ・プラーエなのか!」
「と、とりあえず抱き合うのやめて貰える? なんだか自分が抱かれてるみたいで嫌なの」
「これは失礼した」
私が注意したので二人は恥ずかしそうに離れた。
「確かに似ているが、よく見ると違うぞ。ウィルギニスは耳が長くて可愛いし、髪の毛の色と目の色も綺麗だし、胸だってでかい。そしてなによりも美しく上品で、スピカの様に汚くない」
「一応助けに来た相手に汚いとか言う?」
「助けに……か」
押し黙ってウィルギニスを見つめるアルタイル王子。事情は大体察したけど。
「アルタイル様。そのお方は……」
「アークトゥルス魔法学校。いや、今はアークトゥルス騎士魔法学校に変わったのか。その時一緒だった……」
「スピカよ。よろしくね」
「は、はい。わたくしはウィルギニス・エルフィンと申します」
上品にスカートの端を持ち、頭を下げて挨拶するウィルギニスを見て、ああ私今片手でヨって感じで挨拶して下品だったなと反省した。
「ウィルギニスは第一王女だ」
「は?」
「だ・い・い・ち王女だ」
はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい?




