第五死 エルフの国のポラリス大魔法学校で私と握手 後編
修行を除けば実にいい旅だった。
世界樹が近いとあって自然に満ち溢れた森や渓谷、美味しい魚の泳ぐ綺麗な小川。星空を見上げながら入る露天風呂。
ああ、お風呂は本当に最高だったなぁ。
デネブが『神聖魔法光盾』で半透明で光り輝く風呂桶を作り、カペラが『初級水魔法』放水して、私が初級火魔法で加熱する。
別に『岩石魔法』で岩風呂にしてもよかったけど、岩の後片付けと過熱が大変だったんだよね。
問題は一個だけ、男性的幸運野郎が一人混ざってるってこと……リゲルは結局全員の裸を見たよね。
多分私は4回は見られてる。リゲルが入浴中に、私が間違って入るパターンが多いから怒りにくい。
カペラが意外に恥ずかしがり屋なのがちょっと可愛かった。普段あんな露出度高い服着ているくせにギャップ萌え狙いですか?
逆にデネブは見られても微動だにせず平然としていた。というか、本当は気絶していたらしい。
ペテルの時には流石にそれは犯罪ですよって、女性陣に問い詰められていた。
7日に渡る私達の馬車の旅もやっと終点にたどり着く。
深い森を抜けると景色は一転し、湖にまるで浮かんでいるかのように建てられた、白く輝く美しい城。
「……あれがエルフィン城。プリティープリーストで見たことある。ほら本当に浮かんでいるんだよ」
「本当に浮いてる!ってエルフィン城?」
たしか爆龍奮迅のレグルスが、私のママにお世話になったとか言ってた城かな。きっとママはあの城で働いていたんだね。
もしかしてママの昔の知り合いもいるのかな?
「お嬢様方。着きました。ここがポラリス大魔法学校です」
湖の周りを囲む様に作られた街の中で、一番大きな建物がポラリス大魔法学校だった。
アークトゥルス騎士魔法学校と同じくらい立派な建物。
私達が正門の前に到着し、馬車から降りると盛大なお迎えが……
来ない。
予定通りの時間に着いたはずだし、誰か迎えに来てもいいはずなんだけど。
おーい勝手に入っていいのかなー?
校舎の方から杖を構えた生徒達の怪しい気配がするんだけど。
「とりあえず舐められる前に、私の燃え滾る炎を見せつけてさしあげます?」
「一応喧嘩しに来た訳じゃないんだから……」
「でも、向こうさんはやる気みたいだぜ」
そうリゲルが言い終わると同時に、ポラリス大魔法学校の校舎の方から、色とりどりの攻撃魔法が飛んで来る。
「デネブ!」
「……うん。『神聖魔法光盾』!」
私達の前に、本来の使い方通りの光の盾が現れ、ポラリス魔法学校側からの魔法を防ぐ。
私達に当たっても対した威力じゃない攻撃魔法だけど、馬車が壊れるのを防ぎたかったんだ。
「スピカさんどうしますの?」
「どうするって……売られた喧嘩は買うのがアク校魂って奴じゃない?」
「……うん。やってやるデス」
「じゃあ、程々に親善大使の力を見せましょ。大ケガはさせないように、それと、なるべく校舎は壊さない!」
校舎からの攻撃魔法が止んだタイミングで、カペラが堂々と前に出る。
「私がアク校の親善大使のリーダー。業火のカペラ・サンダルフォン。突然攻撃するとは無礼極まりない。我が炎にて魂までも燃え尽きるがいい」
ジャジャーン!!とポーズを決めて背後に巨大な火柱が立ち上がる。ちなみにこの炎は私が中級魔法で出したモノで、カペラが出したわけではない。
「さぁ行きますわよ。地獄の門より現れし獄炎よ、我が糧となりて焼き尽くせ。獄炎の『初級水魔法』!!」
カペラの両腕から圧縮された水がレーザービームのようにポラリス大魔法学校の生徒達を薙ぎ払い、校舎にズガガガと傷を付ける。
『初級水魔法』によって校舎にはデカデカと『カペラ・サンダルフォン参上』と落書された。
初級魔法でも使い込む事でこんなに威力が上がるんだという良い例。
というか、カペラは未だに『初級水魔法』と『水流の渦』しか使えないらしい。
なんでも高等部の三年間は、必至で火の魔法を勉強したそうだ。じゃあ使ってみなさいよほれほれ。
「……サーイエッサー3kill……7kill……oh…miss…headshoot!9kill!」
一方、私の横では杖を構え、『神聖魔法光弾』を使ってバシュンバシュンと逃げ惑う生徒達をヘッドショットするデネブがいた。
ちゃんと狙わずにバリバリ撃っても、簡単には当たらないよって言ったのは、確かに私だけど……キャラまで変えろなんて言ったっけ。
ねぇねぇ。普通にヘッドショットしてるけど、殺してないよね?
これ私がなんかする必要ある?
一応上級範囲魔法をいつでも撃てるように用意したけど。まぁ私は威嚇だけにでもしときますか。
「おやめなさい。あなた達!!なんの騒ぎですか!」
校舎の方から一人のエルフのお婆さんが走ってくる。
え、嘘。ごめん。
そこ……私が威嚇の為に使った上級氷魔法の『氷山』が降ってくる場所なんだ。
直径50mクラスの特大の氷の塊が走ってきたお婆さんに降ってくる。
あわや直撃かと思った瞬間。鋭い斬撃音がなり、氷山が真っ二つになる。
舞い上がる激しい雪煙が治まると、そこには走ってきたお婆さんをお姫様抱っこしているリゲルの姿があった。
校舎の方から沸き上がる女生徒達からの熱くて黄色い歓声。
抱きかかえられたお婆さんは満更でもないのか、恍惚の表情でリゲルを見つめている。
リゲルに優しく地面に降ろされたお婆さんは、しきりに髪の毛の乱れを直しながらポラリス大魔法学校の生徒達に言う。
「あ、あなた達この方達は親善大使なのですよ」
「トリマン校長が盛大に歓迎しろ、半殺しでもいいって言ったんじゃないですか……」
「うっ……あ、あれは冗談です」
「半殺しどころか全殺しでもいいって……」
「お、お黙りなさい」
トリマン校長はバツの悪そうにカペラの前に歩いて行くと、カペラと握手をする。
「私がポラリス大魔法学校の校長のトリマンです。貴女が業火のカペラ・サンダルフォンさんね。お話は伺っているわ。ヘヴェリウス国一番の炎の使い手とか……よろしくね」
「そうよ。業火のカペラ・サンダルフォンとは私の事よ。ご丁寧なご歓迎ありがとうございますですわ」
トリマン校長が握手を外すと、カペラは手をニギニギと不自然に繰り返し首を傾げた。
校長はそのままデネブの元へとツカツカ歩き握手する。
「貴女がプリティプリーストのデネブさん。私が校長のトリマンよ。いきなりご迷惑おかけしてごめんなさいね。」
「……今後ともよろしく」
デネブとの握手をすますと私の方へ歩いてくる。デネブも何かの違和感からか両手をニギニギしている。
どうやら私とも握手するつもりのようね。面白い。受けて立とうじゃないの。
「スピカさん!?」
「……だめ」
二人が止めたけどもう遅い。私はガッツリとトリマン校長と握手をした。もう親密な程にね。
「………」
私と握手した途端、無言になるトリマン校長。
「トリマン校長どうしたんですか?」
「……あなた」
「トリマン校長。お体の具合でも悪いのですか? なんだか魔法が上手く使えないみたいですけど」
トリマン校長が握手に仕掛けて来たのは『魔法封印』。
賢者の魔法で、相手の魔法を個数指定で封印出来る。
相手より魔力が高い事が発動条件なので、いわゆる力比べならぬ魔力比べとなるのだ。
ふふふ。
見事に打ち勝った私は逆に『魔法封印』でトリマン校長の魔法を全部封印。
えっ天下のポラリス大魔法学校の校長なのに魔法使えないんですか?
魔法が使えなくて許されるのは小等部までですよ。
うぷぷぷぷ。
握手を離す前に『解魔法封印』で校長の封印された魔法を解除。
トリマン校長はまるで汚い物でも触ったかの如く、舌打ちしながら手をブンブン振っている。
「あなたがスピカさんね。噂通り汚い人だこと。まぁせいぜいよろしくお願いしますよ。ふん」
「いえいえ、先に汚い事を仕掛けてきたのはそちらですよね。こちらこそよろしくお願いします。ふん」
バチバチと火花を散らす私達を見かねて、リゲルが割って入る。
「リゲルです。今回は護衛で参りました。トリマン校長こいつらをよろしくお願いします」
「まぁ~~~あなたが噂の勇者リゲル。素敵ねぇ。シュッとしてはりますわぁ。はぁ……。あ、いけない私ったらこんな汚い服で……着替えて来ますからあなた方は後で校長室に来るように。いいですね」
何いきなり色気づいてる訳……
まったく……着いた途端に戦争みたいになってるけど大丈夫かな。
一応親善大使でここまで来たはずなんですけど、どうなっちゃうのこれ。




