第四死 これってデート? いえいえただの卒業旅行への準備です
エルフ国やエルフの国なんて私達はそう呼んでいるけど、それはあんまり正しくない。
なにしろエルフ国には名前がない。エルフが管理する領域を便宜上エルフ国と呼んでいるだけらしい。
世界樹を中心としたその領土はとても広く、もちろんそれを統治する長もいる。
私の生まれる前までは、人間の国との関係もちゃんとしており、そんなに仲が悪い訳ではなかったみたいね。
ところがある日、人間の男とエルフ国の長の娘が駆け落ちしたそうで、(ワーオ! ロマンチックー)そこから人間は信頼出来ないと関係悪化。
3年前に今度は人間国の王子が誘拐されると、両国は国交を断絶し、いつ戦争になってもおかしくない状態となってしまった。
そんな危険な状況ですが、なんと私達4人はエルフ国へ卒業旅行に行ってきます!!!!
プラーエ村の研究所の読み終わった本達を返却しに行った時に、パパとママに卒業旅行の事を話したんだけど、やっぱりすごく心配したのか変な様子だった。
パパなんて冷汗かいて無口になっちゃうし、ママなんて「あらあら、みなさんによろしくと伝えてね」なんて訳のわからないことを言うし。
反対はされなかったから、行っていいってことだよね。
なんか二人とも何かを隠してて怪しいんだよね……まさか今更二人目が出来たとか……違うか。
プラーエ村から帰ってきたら、今度は旅行の準備の為にリゲルと町へ買い出しへ。
ちなみに資金は校長が懐に入れようとしてた『国の予算』。
めちゃめちゃ多い金額。私が見たこともない桁だ。
だめだこのジジイ。早くシリウス校長を治さないと。
二人で店屋がならぶ街道を歩く。
えへへへ。久しぶりに二人きりでデート。
……って感じじゃないね。
だって買いに行く予定の場所は怖い武器屋とか臭い防具屋とか怪しい魔道具屋なんだもの。
全然ロマンチックじゃないわ。
最初に行ったのは町一番と評判の武器屋。ところ狭しと並んだ武器達。リゲルはいつもこの店で剣を買ってるらしい。
リゲルは店の外に置いてあるセール品と書かれた箱に入った一番安い剣を手に取る。
「これこれ、いつも俺はこれを箱で買うんだよ。最初はまぁまぁ高いいい剣使ってたんだけどさ。剣てすぐ折れちゃうからな。もったいないからこの安いの使ってるんだよ」
「いやいや、あなたこのセールC級品でレグルスに傷付けたの?」
「そうだけど」
「刃のとことかよく見ると結構歪んでるんですけど?」
「逆にその歪みが、相手に読ませにくい斬撃を生む。一本一本違う歪みしてやがるから合わせるのが大変だけどな」
「ああ、もういい。私が選ぶわ……とりあえず店長呼びましょう。」
「お話は聞かせて頂きました。私が店長です」
はや!! いつの間に私の後ろに……
「えっと、一番切れ味が良くて、丈夫で、勇者っぽい剣を見せてくれる? 多少高くてもかまわないわ」
「少々お待ちください」
店長は一旦お店の奥に引っ込むと、倉庫から箱に入った3本の剣を持って来た。
「まずはこちら、ドワーフの鍛冶職人ヨーク・オーレルが作った銘品。『タンマーニオーレル』。ポッキリ山脈から掘り出したバキ鉱石で作られております」
「却下ね。絶対折れるじゃんそれ」
「ではこちら。ヘーヴェリウス国の鍛冶職人の名工ミターメ・ダーケッスが作った最高級品。『♰♰EXデラカッチョイン♰♰ver.999』どの高級品よりも素晴らしい出来映えとなっております」
「それも却下ね。見た目だけじゃん」
「えー! かっこいいじゃんこれ。これにしようぜスピカ」
「遊びに行くんじゃないんだからだめよ」
「そんなー卒業旅行だろー。カッコイイ剣とか買って帰りたいだろー」
「じゃあエルフ国に着いたら木刀を買ってあげるから我慢して」
「まじかーかっこいいのになー」
「最後の品をお見せしてもよろしいでしょうか?」
リゲルはおもちゃを買って貰えない子供みたいな不機嫌な顔をしていたが、店長が持ってきた剣を見てゴクリと唾を飲む。
「こいつはすげぇ」
「ほほう。見てわかりますか。流石勇者さまですな」
え? ああそう? リゲルさっきまで『ミタラワカルコレヤッスイヤツヤンの剣』で満足してたよ? 武器を見る目はないと思うけど。
「この剣の名前は『ミュルグレス』。とある方から仕入れたばかりの中古品となりますが、よく手入れされているので問題ありません。ご覧の通り切れ味、丈夫さ共に最高ランクのモノとなっております。これ以上のモノとなりますと中々市場には流れてきませんな」
うーん。青く輝く刀身に白銀の装飾が美しい『ミュルグレス』。刃こぼれを防ぐ魔力も持っているようで、剣の事についてド素人の私が見ても素晴らしい剣だと思う。
「ちょっと借りていいかな」
「どうそどうぞ」
リゲルはミュルグレスを片手に持ち、もう片方の手で、ヤッスイ鉄の剣が入ったままのセール品の箱を上空へ放り投げる。
「ハッ!」
一瞬の内に箱の毎微塵切りになる鉄の剣達。思わず拍手する。
「すごい切れ味だ。それに軽い。スピカ!これにしよう」
「そうね。後は値段次第だけど……」
店長が私に耳打ちする。ごにょごにょごにょ。
「えぇーそんなにするの?」
黙って頷く店長。マジかー武器防具を買う予算のピッタリ半分なんですけど。
ああ。でもリゲルがあんなに笑顔で剣を見つめてるし。
買う? でも鎧とか盾もいるし、私の装備だって……うーん。
「お悩みのようですね。今なら一緒に、同じ方から仕入れたルーンシールドもお付けしますが」
「!?」
「お隣の防具店の1割引券もお付けしますよ」
「買うわ」
「毎度ありがとうございまーす」
商売上手の店長にまんまと乗せられた感もあるけど、品物としては決して悪いモノじゃないし、値段もきっと安かったんだと思う。
いや、結構お財布に厳しかったかな。残り半分の予算内で鎧。
買えるかな……最悪安い鎧で我慢。でも防御力低かったら死にやすいよねきっと。
だめかー。いい鎧が売ってるといいけど。
続いて割引券をもらった隣の防具屋に行ってビックリ。なんと武器屋の店長が出て来たのだ。
「いらっしゃいませ。先程はどうも。この防具屋も私の店でしてな」
「そ、そうだったんですね。いい鎧はありますか? 硬くて勇者っぽくて……できればちょっと安いの」
「実はとある方から仕入れたばかりの、『白金の鎧』がありまして、お、なぜか偶然にもリゲルさまにピッタリのサイズですな」
『白金の鎧』はライトアーマー系って奴かな。フルプレートアーマーとは違って、動きやすさを重点的に作られていて、白金に金の装飾が素晴らしい。
ルーンシールドと装飾の系統が同じなのもポイント高いわね。
白金の鎧もルーンシールドも、魔力で軽微な損傷を修復する加工がしてあるから、もしかしたらセット品なのかな?
孫にも衣装。リゲルに鎧。元々イケメンなのでホントカッコイイ。買ってあげてもいい気分。見ているだけでいい気分。
貢ぐ人の気持ちがなんだかよくわかるわ。
「ね、値段は?お高いんでしょう?」
ごにょごにょごにょ。
「~~~~~~~~!!」
『白金の鎧』の値段は、なんと装備を揃える予算の残り半分ぴったりだった。
買ったのかって? ええ買いましたよ。
見てみなさいよ。あの子犬の様にはしゃぐリゲルを……
これで装備をそろえる予算は割引券で1割帰ってきた分だけになってしまった。
つまり私はこの1割で揃えないといけないって事か……
他の予算は食料とか馬車代とか雑費に残しておきたいし。
「はぁ」
「どうしたんだ? 溜息なんてついて。スピカありがとな。ほらこの鎧を見てみろよ。前からいい装備だって思ってたんだ」
「ん? 前からって何?」
「ああ、ほら騎士学校の校長室に飾ってあっただろ? ミュルグレスとルーンシールドと白金の鎧」
「ええええええええええええええええええ!!やられた!!!!!奴とグルだったんだわ。返品よ返品!!!」
慌てて武器屋のあった場所に戻ると、店は閉店しており「閉店しました。探さないで下さい」と書いた張り紙が残っていた。
完全にやられたわね。
武器屋兼防具屋の店長はとある方と繋がっていて、まんまと私達は巻き上げられたわけね。
いや、取り返されたといった方がいいか。あのジジイ。性根が腐ってる。
シリウス校長が復活したらタッグを組んで倒してやるんだから。
「はぁ……ともかく次は魔道具屋に行きましょ」
様々な杖や水晶。謎の薬などが並ぶ怪しい雰囲気の魔道具屋。魔法学校御用達のお店で私も何度か来たことはある。
気さくなお婆ちゃんがやってるお店で、可愛い防具も売ってたりして女生徒達からは人気がある。
「お婆ちゃん。杖と魔導士系の防具が見たいんだけど」
「ああ、スピカちゃんかえ。そこに並んでいるモノしか無いから、あんたの今着てる装備よりいいモノはないよ」
「へっ?」
「『世界樹の枝』と『ケルベロスのマント』それ以上の装備はうちの店にはないよ。もっともその『世界樹の枝』には魔力が殆ど残ってないようだけどね」
「えっこの杖そんなにいい杖だったの?」
「ああ、魔力が殆ど残って無くても、その辺の杖よりよっぽどいいさね」
「そうなんだ。知らなかったから魔物の口に放り投げたり、呪いの剣を破壊するのに投げたりしてたわ」
「フェフェフェ。そりゃ随分もったいない事をしてたねぇ。もしも世界樹へ行くことがあったら治してもらうといいさ」
「あ、そうなんだ。丁度世界樹に行くから治してもらうね」
「なんと、世界樹に……そこの彼氏とかい。そうかいそうかい。じゃあいつまでもマントの下が制服って訳にはいかないね。ちょっと待っときな」
魔道具屋のお婆ちゃんはそう言うと、お店の奥から一着のローブを持ってきた。
「持って行きな。スピカちゃんの為に用意したお婆ちゃん手作りの『稲妻のローブ』だよ」
『稲妻のローブ』。広げて見ればめちゃめちゃ可愛い。細かいとこにフリルもついているし、さすが女生徒に人気の店。雷をモチーフにしているのか薄いエメラルドグリーンなのも私にピッタリ。
おまけに少なくとも3個の魔法で加工されている。『耐雷』と『補修』と……後なんだろ。
「お代はいらないよ。シリウス校長から貰っているからね」
「え!シリウス校長が?」
「依頼されたのは3年も前だから遅くなっちゃって悪かったね。その分追加効果を付けておいたから、どうか簡便よ」
「『耐雷』と『補修』ともう一個はなんですか?」
「ほう。わかるんかえ。あと一つは……」
お婆ちゃんがちょいちょいと私を呼び、耳元でボソっと言う。
「『懐妊』だよ。ヒッヒッヒッヒ」
「ちょ、お婆ちゃん!!!」
耳まで真っ赤になった私は、リゲルに聞こえてない事を祈った。
なんでお年寄りの皆さんはそんなネタで攻めてくるのか……
「ほれ、赤いのと白いのも渡しておくよ。お友達に渡しておくれ。一応、赤いのはせくしーに、白いのはぷりちーに作ったからね」
「お婆ちゃんありがとう!!!」
シリウス校長はちゃんと3人の弟子の分だけ用意してくれていたんだね。
これは頑張ってシリウス校長のアイスプリズンを解除しないと!!
装備の新調も終わり、残りの食料やカンテラなど、旅に必要な物を買い終わり、女子寮の前についた頃にはすっかり夕方になっていた。
「今日はありがとね。じゃおやすみ!」
「スピカ。ちょっとこれを」
「ん? 何々?」
リゲルが渡して来た綺麗に包装された布袋を開く。
中にはエメラルドグリーンの宝石が付いた可愛い指輪が入っていた。
「は?」
思考が停止する。
DOUIUKOTO?
黙ってないでなんか言いなさいよリゲル。
「気に入らなかった?」
「可愛いけど……」
いや、どーせいっちゅーの。
指輪なんて渡すなら、なんか言う事あるじゃん。
付き合おうって事?
プ、プロポーズじゃないよね?
リゲルを見ればなんだか恥ずかしそうにモジモジしているし。
本気ってこと?
「良かった。俺とペアリングの魔道具なんだ。いやー魔道具屋のお婆ちゃんがくれてさ。どちらかがピンチになると光るらしい。ほら見て。こうやって赤く光るって、なんで光ってるんだ……」
「勘違いさせるなバカー!!!」
ドカバキドカバキドカバキ。
「ふん。お休み!!」
ぷんすか怒りながら寮に帰った私。
貰った指輪をどの指に着けるか一晩悩んだけど……
右手の薬指につけておいた。
リゲルはどの指に付けたかなんて、まったく気にしないんだろうけどね。




