第二章 エピローグ
突如として合同演習に参加する魔王軍四天岩氷血女帝エメラダと、黒獅子の仮面の男プロキオン。
えっと、ちょっとまって。誰も呼んでないんですけど。
一応恋と青春のレクリエーションなんですけどぉぉぉぉ!!!!
魔王軍四天岩ってことはヴェガと同じ位の強さ?
私が一発も当てられなかったシリウス校長が、あんなにダメージを受けてるって事はかなり強いって事だ。
黒獅子の仮面の男もリゲルを倒すくらいだし。
常識的に考えてめっちゃヤバイ状況。
とりあえずこちらの戦力確認。
私はもちろん魔力ほとんどなし。もう一回魔法を使えば意識を失う可能性すらある。
カペラとデネブも同じく魔力は無いと思われる。そりゃそうだよね。あんな、巨大なバケツやら大量の水やら作ったんだから。
リゲルは重症で倒れてる。意識もないみたい。というか、正直早く回復魔法使わないとヤバイ感じ。
シリウス校長も重症。無理して立っているけど脇腹を押さえて息も荒い。
アルケナル剣聖は肝心の武器無し。目の前に敵がいるのにのほほんとしている。本当にボケちゃってるんじゃないの?
残りの金ぴか王子達は無傷だけど、戦力としては……
「あんたらの目的はなんだい?」
「そうねぇ。そこのイケメンの勇者見習い君と、金色の王子君って言ったら? わたし可愛い坊や達の精気が大好きなの。あ、もちろん凛々しいおじい様も大好きよ?」
そう言いながら剣聖に投げキッスするエメラダ。
「連れて行くのはじじいだけにしな。他は渡さないよ」
じじいこと剣聖が、一瞬エメラダの仲間になる為に準備をした様に見えたけど、シリウス校長の鋭い眼光に怯えて震え出す。
このエロジジイ……
「あら、今のあなたに止める事が出来るのかしら? 年を取るって嫌ねぇ。昔は逆立ちしてもあなたに触ることが出来なかったのに……老いぼれた今のあなたに守る事が出来るのかしら?」
「試してみなさい」
エメラダの氷の魔力により、周囲の温度が下がっていく。エメラダも話しながら仕掛けてくるタイプだ。
一方シリウス校長も回復魔法を発動させながら威嚇してて、大きな傷は治りかけている。
睨みあう二人の前へつかつかと歩き出る剣聖。
まさかこのエロじじい本当について行くつもりなの?
「ちょっと借りるぞ。……ふむ。中々いい剣じゃなぁこれ」
いつの間にか王子の黄金の剣を盗んでいた剣聖。
「あんた、まさか」
「え、もう斬っちゃった。テヘペロ」
は? 斬っちゃったって?
パラパラと砂が降ってくるので、天井を見上げると大きなハートの形の斬れ目がついていた。
ハートの形に切り取られた洞窟の天井だったモノは、重力に引かれて落下しだす。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ。
切り抜かれたハートが頭上からプロキオンを襲ったけど、慌てもせずに一瞬でハートを微塵切りにする。
「あーあ、せっかくの傑作が……エメラダちゃんの為に作ったというのに」
「………」
お茶らけている剣聖とは対照的に、無言のままのプロキオン。
一触即発。いつ頂上決戦が始まってもおかしくないというか、下手したら巻き込まれて死にそう。
ともかく、ちょっとでも魔力を回復させてリゲルに回復魔法を……まじでエロジジイに回復魔法使わなきゃよかった。
「スピカさんスピカさん」
小声で話しかけてくるカペラ。
「な、なによ。今、魔力を回復させるのに忙しいんだから……」
「あの方って、氷の魔法使いって事ですわよね」
「そうよ、氷血女帝って言ってたじゃない」
「やっぱりそうですのね!」
にっこりスマイルするカペラ。まさか絶対ヤメテよね。ややこしい事はしないでね
カペラは膠着状態の4人の真ん中までツカツカと歩き、仁王立ちすると、エメラダを指さして叫んだ。
「おーっほっほっほっほ。ワタクシは炎神宿りしサンダルフォン家の第一長女、業火のカペラ・サンダルフォン。氷血女帝エメラダよ! 我が身に宿る炎にて、永久に消え去るがいい。ですわ」
「」
一同が口をポカーンとする中、エメラダが細かく震え出す。
「そこの赤いお下劣なドレスの女。今なんと……今なんと言いましたか」
「聞こえませんでしたの? 仕方ないですわね。炎神宿りしサンダルフォン家の第一長女……」
「ヒッ……サ、サンダルフォン家が何故ここに……」
サンダルフォン家と聞いた途端、頭を両手で抱えて怯えだすエメラダ。
もしかしてトラウマでも踏んだ?
「何故ここにって、合同演習……ではなくて、炎神が貴女を消す為に導いたのでございますわ」
「わ、私を消す……私を消すだと!!!! や、やってみるがいい!!」
エメラダの目の瞳がスッと消えて白く輝く。周囲の温度は急激に下がり、洞窟内に雪が舞い散り、あっと言う間に吹雪になる。
「あら、どうやら怯えてらっしゃるようね。オー寒い寒い。わたくし寒いところが嫌いですの。今すぐ貴女を私の炎で溶かして消えて頂きますわ」
いやいや……カペラさんさ。あなた『初級火魔法』しか使えないじゃん。
しかもすっごいしょぼい奴。
でも、せっかくエメラダさんがめっちゃびびってるから、実力は隠したまま上手いこと帰ってもらおうよ。
シリウス校長も同じ考えていた様で、私をみてコクリと頷いた。
「御覧なさい。サンダルフォン家に宿りし炎神の炎を!!!」
カペラが右手の人差し指の先に、小さな火魔法を発動させて自信満々の笑顔でエメラダに見せた。
隠しておきましょうよ……なんで見せちゃうかなぁ……ほら、吹雪で消えそうになってるじゃん。
「炎? ホホホホホホホ。どこが炎だと言うの? そんな蝋燭よりも小さな火で私が……ハッ!? まさか……」
「あら? どうしたんですの? お気づきになられまして氷の魔法使いさん」
「私程度はその小さな火で十分だと……」
震えて頭をボリボリ掻きむしり、血の涙を流し始めるエメラダ。
どっかで見た光景ね……
「氷血女帝。貴女には見えるようでございますわね。この小さな炎に宿る炎神の姿が」
「ヤメロ!!チガヅケルナ!!!うぼあああああ」
エメラダは手で目を覆い、口から血の泡を吹きながら悶え苦しみ始める。
性獣魔狂ヴェガと全く同じ状況……もしかして精神的なダメージが四天岩の弱点なの?
「サンダルフォン。ギザマダケハゼッタイニ……『氷の監獄』」
「カペラ!!!」
エメラダが倒れる寸前何かの魔法を使ったの見えた。
辺り一面の大気中の水蒸気が細氷として昇華し、ダイヤモンドダストが私達の視界を奪った。
………
視界が戻ると氷血女帝エメラダと黒獅子の仮面の男プロキオンの姿はなく、一体の氷の彫像がだけが残されていた。
「シリウス校長!!」
カペラを庇ったシリウス校長は『氷の監獄』によって氷の彫像になってしまったのだ。
「校長、わたくしをかばって……」
「カペラ。あなただけを庇った訳じゃないわ。あの瞬間、シリウス校長に『氷の監獄』魔法が集約されるのがわかった。全員が氷の彫像になるところを防いでくれたの」
「……校長」
シリウス校長の氷の彫像に泣きつく私とデネブとカペラ。
厳しい修行の毎日だったけど、ちゃんと3人の事をいつも考えてくれていた。
時にはババアと罵った事や悪口を言った事もある。
この3年間家族の様に付き合ってくれたシリウス校長。
最後まで私達を守ってくれたんだ。
「おいおい、何も死んだわけじゃなかろう」
「えっ!?」
「魔法で凍ったのだから魔法で治せばええじゃろ。そんな魔法があるか知らんけど」
確かにアルケナル剣聖の言う通りだ。絶対に治す方法があるはず。
「やりましょうスピカさん、デネブさん」
「そうね。見つけましょう。『氷の監獄』を解除する方法を」
「……うん」
手を取り合って、必ずシリウス校長を助けると誓い合うスリーアークス。
「あのさ、盛り上がってるところ悪いんだけど……」
ボロボロのリゲルが、ポルックスに肩を貸しながら歩いてくる。ポルックスも全身傷だらけで、長い槍もぽっきり折られていた。
「アルタイルがカノープスって奴に誘拐されたみたいなんだ」
「そんな!」
「カノープスはエルフ国の刺客でした。私は王子の護衛役を任されていたのですが、この通りで……力が足りず誠に申し訳ありません」
アルタイル王子が誘拐!? って言うかポルックスそんな流暢に喋れたの!?
「ほっほっほ。こりゃまた大変な事になったのう。じゃが、国と国の争いともなれば、お前達のような子供達が出る幕ではあるまい。無論、『氷の監獄』の事についてもな」
「でも……」
「後は大人に任せてお前達はやることをやりなさい」
たしかに、剣聖の言う通り事態は既に子供の出る幕じゃないと思う。
でも、シリウス校長は私達を守って氷の彫像になった訳だし、アルタイル王子だって目の前でさらわれちゃったんだから関わらない訳には……
ってやることをやりなさい?
「ほれほれ。お前たち。大事な事を忘れておるぞ」
剣聖が腰に貼ってある湿布のようなものを指さす。
「あああああああああああああああああああ!!!!」
全員が驚きの声をあげる。忘れてた!!!
「ワシはこれしか魔法が使えんのじゃが、ここはひとつ奮発してと。さぁ!回復してやろう!」
剣聖の『中級回復魔法』によって、みるみる内に回復していく私達。
代わりに高まる嫌な予感。
「『合同演習終了証』を持って帰るまでが、合同演習じゃろ。ほれ、とってみい」
第二章終了です。
次章より、高等部編となります。




