第三死 剣聖と賢者と…… 中編
ズシーンという音と共に、校長室の入り口が閉ざされる。嘆きの洞窟で見た石扉だ。
さっきまで机と椅子が置いてあっただけの狭い校長室は、いつの間にか嘆きの洞窟の大広間のように広がっていた。
つまり、嘆きの洞窟を迷宮に変えたのは……
「な、なにかの誤解だと思うんですけど……」
シリウス校長は返事をする代わりに指をクイックイッと動かした。つべこべ言わずにかかってこいって事ね……
話を聞いて貰えそうもないので、意を決して私も身構える。
かかってこいと言っておきながら、先に攻撃してきたのはシリウス校長だった。
校長が地面を軽くツンとつつくと、私の足元からズゴゴゴっと火柱が吹き上がろうとする。火の中級魔法『火炎の柱』だ。
すかさず火炎の柱を水の中級魔法『水流の渦』で相殺し、溜めておいた『雷撃玉』を8個解き放ち、体を守るように周囲を旋回させる。
私の思った通り、フレイムの煙に隠れて飛び込んで来た校長に、電撃玉の一つがバチッっと直撃する。
いや、ギリギリ杖で防いでいるね。
わざわざ飛び込んでくるって事は、校長が狙っているのは間違いなく『魔法封印』。
絶対に体に触れさせる訳にはいかない。
お互いに次の魔法を構成し、相手の手を模索するために睨みあう。
私は土の中級魔法『砂煙』を使い、砂煙で視界を制限して隠密を発動させる。
と、同時に岩石魔法で私の形の岩を複数作成して陰に隠れた。
「中々やるじゃない。どこの刺客か知らないけどよく鍛えられているわね」
「し、刺客?」
しまった、喋っちゃった。
反省する間もなく氷の中級魔法『氷の弾丸』の連射が、私の隠れていたスピカちゃん人形(岩)を破壊する。
校長は風の中級魔法『竜巻』を使い砂煙を吹き飛ばす。
「……流石ね」
砂煙が消え視界の戻った校長が、私の仕掛けを見て呟く。
校長室には岩石魔法で作ったスピカちゃん人形が立ち並び、その間を沢山の電撃玉が、生き物の様に高速でウネウネと動き回っている。
「も、もうやめませんか?」
「フフフ。そうね。そろそろ止めを刺させていただきましょうか」
シリウス校長が両手で杖を持ち、頭上に掲げた。
杖に極大の魔力が集中され赤く輝き出す。
もしかしてだけど、必殺技? いや、古代魔法かっ!!
「はぁあああああ!千烈爆滅陣!!!」
シリウス校長が杖を地面へ振り下ろす。
バシャ!跳ねる水しぶき!
「えっ!バシャ?」
「今だ!!『雷神撃』!!!」
私の使った上級雷魔法『雷神撃』によって発生した超高圧の電撃が、水の中級魔法『範囲水属性化』によって水浸しにされた床を通して校長を感電させる。
凄まじい閃光と共に焼け焦げる匂い。
バシャッと水面に人が倒れる音がした。
高熱により発生した水蒸気と焼けた煙によって、感電したはずの校長の姿はあまりよく見えない。
やったか!?
ゾッ。
危険察知がビンビンに反応する。
「はい、隠れん坊はおしまい」
背後からの振り下ろされた校長の杖を防ぐ。
ガキンッ!
校長と私は杖同士を合わせた状態で硬直する。
どうする? 次の手は? 校長はどうでる?
睨みあう二人。次の一手で勝負が決まるのは間違いない。
と、突然。
コンコンコン。と、校長室のドアをノックする音がする。
「校長。シリウス校長おられますか?」
「はい。おりますとも」
ハッと気が付くと、校長室は元に戻っており、校長は自分の椅子に座っていた。
えっと、今のは夢? 幻術? 魔法?
ノックして校長室に入ってきた女の子は、書類を机に置いて、唖然としている私を横目でチラ見すると、驚いた様子で出ていった。
入学早々こんなズタボロのビシャビシャの制服でごめんなさい。
「あ、あの今のは?」
「大丈夫。現実ですよ」
シリウス校長がパチンと指を鳴らすと、ビシャビシャの床にスピカちゃん人形の瓦礫が散らばる部屋に戻った。
「スピカ・プラーエさんが物足りないならまだやりますか?」
「け、結構です」
再び校長がパチンと指を鳴らすと、元の校長室に戻った。
「これが私の必殺技『迷宮』よ」
………
「と言う訳なんです」
私はResultの事からリゲルや剣聖の事まで洗いざらい話した。
信じて貰えるかはわからないけど、嘘をつくとバレる気もしたから。
今まで親にも相談しなかったResultの事も、現実離れしているシリウス校長なら信じて貰えそうだったし。
「なるほど、私はてっきりあなたは魔王軍かエルフ族の刺客だと勘違いしましたよ。今年はヘヴェリウス王のご子息と、魔王軍の四天軍を撃退した勇者志望が入学すると聞いていましたからね」
確かに、アルタイル・ヘヴェリウスとリゲル・ロワーエなんて問題児が一緒の時期に入学するなんて、警戒もするよね。
「それにあなた。入学式の時に私を睨みつけたり、賢者なんて余裕だなんてアピールしたり、私の背後で電撃をバチバチ鳴らしたり……どう見ても私に喧嘩を売っていたのでてっきり」
「そ、それは色々勘違いさせてしまってすいません……」
8割くらいハダル神父が悪い。もーあのコントみたいのやりたくないんだけど……
「Resultの事も信じて頂けるんですか?」
「いささか信じられませんが。ま、信じるしかないでしょうね。13歳であれだけの魔法を使うなんてあり得ませんから。私だって中級属性魔法をすべてマスターするまで20年はかかりましたよ」
ほっ。良かった。流石校長、話が分かる。
「それにしても、あなたの戦い方は汚い」
「えっ!?」
「本当に汚い。まったく持って卑怯極まりない。いっつもあんな戦い方なの? 魔族だってあんな汚い手は使わないわ。確実に13歳じゃないって信じられたのもそこよ」
「そ、それを言うなら校長だって、中等部の可愛い女の子相手に古代魔法の『千烈爆滅陣』とか、雷神撃を避けた『影分身』とか卑怯じゃないですか?」
「その古代魔法を水たまりで防ぐのが卑怯だって言ってるの」
「そ、それはその……校長が魔法使う時に必ず杖で地面を叩いていたので。ぶっ潰しておいた方が……じゃなくて、使えなくした方がいいかなって…」
「ほら汚い。だいたいあなた、ちょっとは杖を使いなさい。私には杖すら不要ですって舐めている訳?」
「だって、杖を振り回したらどこに魔法を使うかばれちゃうかなって……」
「本当に汚い。このままだとあなたの二つ名は『汚いスピカ』もしくは『卑怯なスピカ』で確定ね」
………(´;ω;`)ウゥゥ
「まぁ事情はわかりました。ですが、合同演習を中止にする訳には行きません。もちろん迷宮化もね」
「えええ、でもアルケナル校長が……」
「確かにあの人は現在行方不明です。あなたの話だと、今年と来年の合同演習は無事何事もなく完了した。つまり2年後までずっとあの人は行方不明なんでしょ」
「はい。確かにずっと行方不明でした」
「大方どっかの誰かに操られているか、スキルの狂戦士が暴走しているか、ボケちゃったかのどれかね。まったくあの人は……」
……どれも大変そうなんですけど。
「倒しなさい」
「えっ?」
「2年後に合同演習に参加して、あの人を倒して止めなさい。殺しても構わないわ。どうせ死なないから」
「いや無理ですって。だって剣聖ですよ」
「大丈夫。私が鍛えますから、これから毎日放課後校長室に来なさい」
「ヒッ……」
「お返事は?」
「は、はい。でしたら一緒に鍛えて貰いたい子が……」
そんな事情を知らないカペラとデネブが、まったく同時にクシャミをした。
二人はこれから訪れる恐怖の毎日を知る由もなかったのだ。
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「なんなんですのおおおお。あのババアはぁぁぁぁぁっぁ」
スカートを両手でまくり上げながら逃げるカペラが、『爆裂魔法』で地面ごと吹き飛ばされて脱衣KOされる。(ノルマ達成)
やっほー!ドカーン。スピカだよ!ボカーン!私は今。ドーン!戦場となった校長室にいます!
ともかく、見ての通り、ドカーン! 辛い3年間でした。チュドーン!
私達3人はこうして辛い修行? 軍隊の地獄のような訓練を無事やり遂げることが……あっ!
『爆裂魔法』で吹き飛ばされるデネブ。
衛生兵! 衛生へーーーーーい!!
……
結局、シリウス校長を一回もぎゃふんと言わす事が出来無かった。
しかも3対1で……
ぎゃふんと言わす事が目標だった訳じゃないけど悔しい。
もうちょっとで一撃を当てられるって時が一回だけあったんだけど、「それじゃ、上級属性魔法も混ぜていきますね」とか言い出してからはもう無理。
明日が騎士学校と魔法学校の合同演習の日って事もあって、今日は特別に厳しかった。
「はい、それじゃ明日は合同演習頑張ってね。私も頑張って『迷宮』しますから、しっかり殿方達と楽しんで来てね。青春しましょ恋しましょ」
あーそうね。校長の目的って結局そこだもんね。
シリウス校長が何の為に『迷宮』を使っているのか、それは男女のイベントを盛り上げたい。ただそれだけの理由なのだ。
合同演習でカップルになった優秀な生徒達が、いずれ結婚し、子供が産まれ、再びこの学校に入学する。
それが楽しみで続けているんだって。
私が嘆きの洞窟で崖に落ちそうになった時に、危険察知が効かなかったのも、崖なんて本当は無くて、手を繋がせるのが作戦だったみたい。
はー。本当にレクリエーションだったんだね。
最後の剣聖以外は……
「わたくし絶対にがんばりますわ!!!」
鼻息をフンフンさせているカペラ・サンダルフォン。
カペラはこの三年間で、水属性に関して完全に覚醒。
『初級水魔法』『水流の渦』『範囲水属性化』の3個をマスター出来た。
『火』属性を覚えたがっていたけど、校長がセンスが無いから無駄って、はっきり言って諦めたみたい。
一方、やはり何が起きても無表情なデネブ・フォーマルハウト。
彼女は【神官】ではなくて、プリティープリースト。
プリティプリーストなんて職業が存在するかって言うと、答えはノー。
デネブのなりたい夢なんですって言えば、答えはイエス。
王都で人気の幼児向け絵本『絶頂!快楽天使プリティプリースト』これが彼女のなりたい夢なのだ。
ハダル神父も私に勧めて来たけどね。なんで私が黄色なんだよ。ピンクがいいよピンク。
ともかく大人のお友達や男子達にも人気があるので、デネブが人気あるのも納得する。
プリティプリーストのデネブは光属性魔法なんてレアな魔法を4個マスターしたよ。
ちなみに私が光魔法を覚えようとすると全然ダメ。才能ないみたい……汚いからやろって言うのヤメテ!
私は入学初日から校長に喧嘩売って、生きて帰ってきた不良『アク中の稲妻』なんて噂された事もあったけど、ほら、根は真面目じゃない?
すぐ皆様の誤解もとけまして、魔法を沢山使える優秀な生徒ってことになりました。
私の作ったスピカちゃん人形(岩)を、校長が正門前に飾ったせいで結構な有名人です。
え? こんなに胸ないじゃんて? あぁんメンチ切ってんじゃねぇぞ? おめぇ何中だ?
目標だった『魔法封印』を解除する魔法は『解魔法封印』。
両方『賢者の心得』の本に書いてある魔法だった。
『魔法封印』は対象相手の魔法を、ランダムで指定の数まで封印する魔法だそうで。
そのランダム封印で『解魔法封印』自体がが封印されたら当然使えない。
他人に使う魔法って感じなのかな? 一応両方覚えたけどね。
『魔法封印』は対象が自分より魔力が低くい事が条件だから、今のとこ校長以外は平気かな……
いつか校長の魔法を封印してやるんだ。
その他にも魔導の勉強を続けて、魔導士の結構便利な魔法を何個かマスター。
『魔導士入門』も普通に読める様になった。
肝心の合同演習には選ばれたのかって? 優秀なんで当たり前ですね。眼鏡クイッ!
『騎士学校と魔法学校の合同演習参加者へのお知らせ』
この度、騎士学校と魔法学校の友好的な関係を深めるため、両校の代表者による合同演習を行います。
行先については当日連絡いたします。
2泊程度を見越した準備をお願いします。
参加者は下記の通り。☆印は代表者。
騎士学校 3名
☆アルタイル・ヘヴェリウス 3年 男子
カノープス・アラビアータ 3年 男子
ポルックス・ジンバブエ 3年 男子
魔法学校 3名
☆スピカ・プラーエ 3年 女子
デネブ・フォーマルハウト 3年 女子
カペラ・サンダルフォン 3年 女子
ほらね。ちゃんと三人参加出来てるでしょ。
あの地獄の様な毎日を超えた私達に怖い物はない。
待ってなさいよアルケナル校長!!!
学校から配れたプリントはちゃんと見ましょう。




