第一死 いざ、王立学校の入学試験へ 後編
王都ヘヴェリウスの王立アークトゥルス魔法学校と騎士学校の入学試験へと旅立った私達。
普通に歩けば7日間で余裕を持って着くらしい。道中町はおろか村ひとつないので、その間は当然すべて野宿になる。ぴえん。
まぁ私とリゲルが本気で走れば3日もかからないで着くっしょ。なんて甘い考えでいたら大間違い。
何が間違いかって? 勇者志望のリゲル・ロワーエ(12歳)さんがですよ。
「だってこんなチャンスないだろう? スピカと二人きりだなんて」
えっ? そんな……まだ心の準備が……
「稽古しようぜ! KEIKO!!」
……ユウシャナンテキライ。
もうコレ修行の旅じゃん。
朝起きたらとりあえず、歩いて1日分の距離を稼ぐ為に猛ダッシュ。
朝ごはんを私が作って、お昼まで剣の稽古。(的は私)
昼ごはんを私が作って、夕方まで剣の稽古。(的は私)
夕ごはんを私が作って、寝るまで受験勉強。(先生は私)
受験勉強の途中で疲れてぐっすり眠るリゲル。(片付けは私)
これが既に6日も続いている地獄の日課。
……いやもうコレ主婦じゃん。というか子育てママじゃん。
むしろ魔物が出てきて思う存分、彼の相手をしてくんない?
まぁリゲルにはしっかりした目標があって、それに向かって頑張ってる訳なんだから文句は言えないし……
こうして疲れて眠る顔も、何故だかなんかかわいいし……
……稽古の時もよくよく見たら、ちょっとカッコいいし。
……チュッ。
そーっと起こさない様に、ぐっすり寝ている彼の頬にキスをする。
……何やってんだろ私。
寝よ寝よ。明日には王都に着くはずだ。
GYAAAAAAAAAOOOOOOOOO!!
何処か遠くから響く魔物の声で目を覚ます。
危険察知に掛からないからかなり遠くにいるみたいだね。
そんな遠くから聞こえてくるなんてかなりの大物で、ものすんごく強いんだろうな。
絶~対避けて行かなくっちゃね。
って。何そのキラキラの目は。いやいやリゲル君? もう入試まであんまり時間ないからね?
「スピカ。聞こえたか? 誰か襲われているかもしれない。助けに行こう!」
「」
私が返事するまでもなく走り出す勇者。
言い出したら聞かない奴。頑固な奴。自ら危険を冒しに行くのは勇気ある者ではなくて、愚か者ですよ?
後さ、片付けしてから行かない?
ほらこのテント一式とかさ、取りに戻るの大変なんだけど……ってもう見えないし。デスヨネー。
しょうがないので愚者を追って私も走る。
寝起きなのに辛い……髪とかボサボサだし……顔も洗ってないし……
GYAAAAAAAAAOOOOOOOOO!
と、再び響く魔物の声。
大分近くなった、方向は間違いなく王都の方角ね。
猛ダッシュしてやっと追いつく愚者の背中と、その辺の木と同じ高さの、猪みたいな魔物の巨大なお尻。
「誰か! 誰か助けて!!!!」
どうやら女の子が猪みたいな魔物に追われているみたい。
ううん? ああ、この巨大な猪って……これ小さいけどベヒモスの赤ちゃんのウリモスだわ。
って事はまずいわね。愚者さんを止めないと。
「止まれ!!」
女の子を追っていたウリモスの前に立ちふさがり、剣を構えるリゲル。
BUMOOOOOOOOOOO!
猪突猛進と言う言葉があるように、リゲルが現れようとウリモスは止まらない。
リゲルがウリモスへ向けて、剣を振り下ろす。
「ストオオオオップ!!!」
ガキイイイイッィン! ズゴオオオオオオォ!
殺意のこもったリゲルの本気の一撃を、右手で持った堅い杖で防ぎ、左手でウリモスの猪突猛進を止める。
目を白黒させるウリモスとリゲル。
「ねぇ。その花、一個この子に上げてくれる?」
「えっ?」
「あなたの持ってるその花よ。この子、その花が欲しいみたい」
「こ……これでございますか?」
「そうそう。ウリモスはね。このメケメケの花の匂いが大好きなの」
と、言いながら少女から受け取ったメケメケの赤い花をウリモスの鼻の上に乗せてあげる。
BUMOOOOOOOOOOOOOOOOO♪
するとウリモスは喜んだ様子で、ズシンズシンと森へ帰って行った。
「ふぅ。危なかったわね。あの子を傷付けて親が出てきたら私達は死んでたわ」
「……そうだったのか。ありがとうスピカ」
「その残ったメケメケの花も森に置いて帰った方がいいわ。魔物達の大好物らしいの」
このメケメケの花。『みんなの町の魔物ずかん』によると魔物界の好物ナンバーワンらしい。
魔物をおびき寄せる香水みたいなものにも使われる見たいで、持って帰るとかなり危険なのだ。
「そうだったんですわね。この花はここに置いて行きますわ。……本当にありがとうございました。あ、あの……私カペラっていいます。あのあの……お名前は……?」
年の頃は同じくらいかな? もの凄く~上品なドレスを着た金髪の長いストレートの少女。美しい装飾品がちりばめられたドレスからすると、どっかの貴族なんでしょうね。
そのお貴族お嬢様がリゲルに向かって何度も頭を下げ、今まさにリゲルの名前を問いただしている。
お、おーい。私。
私が今あなたを助けたんですけど。
こりゃ始まっちまいやしたか?
「ああ、名前、名前か。僕の名前はリゲル・ロワーエ……その子はスピ……」
「リゲル……ロワーエ様!!!本当にありがとうございました」
「」
「あっ!」
興奮して足元の石に躓き、リゲルにもたれ掛かってそのまま抱き付くカペラさん。おまけにその辺の木の枝に引っかかって、上品なドレスがビリビリッと結構破けましたね。
……
おやおや、どうやら突進する猪は2匹いたようね。この発情したメスイノシシめ。
「ゴホン」
私のわざとらしい咳払いで、二人を夢のハレンチ王国から現実に戻す。
「し、失礼いたしました。えーっとあなたもありがと」
皆さん今のこのお嬢様のお礼聞こえましたか? 今の完全に「チッウッセーナ。反省してーます」的なお礼でしたよね。
私に適当なお礼をしたカペラ。今度はリゲルの個人情報を必死に聞き出そうとしている。
「あのさ、カペラさん。スカート」
「ヘッ?」
「スカート破けて見えちゃってますよ」
「きゃああああああああああああああああ」
慌てて破けたスカートを押さえながら走り出すカペラ。いやいや隠れてないから。丸見えですから。
「リゲルさま~本当にありがとうございました~あとゴリラみたいな方もありがとう~」
「は?」
いまなんつったあの子。言っておきますけどゴリラより強いわい! お望みならこのウリモスの鼻水だらけの手で握手したろかウホウホ。
ともかくあっと言う間に走り去っていったカペラ。後にはいい匂いのするハンカチが落ちていた。(わざと落としていったんでしょコレ)
落とされたハンカチにはカペラ・サンダルフォンと刺繍してあったけど、後でこっそり燃やしといたろ。
何て事を考えていると、私が握っているハンカチをじーっと見るリゲル。これハンカチ見てるっていうか私の胸元……
「な、なによ。ハンカチが欲しいの?」
「おんなじ位の年に見えたけど、全然大きさが違うんだな」
胸をさすりながらロクデモナイ事を言い出すリゲル。いいだろうお仕置きの時間だ。
ドカバキドカバキドカバキ!
「さっさとテントとか片づけて来なさい」
「……ズビバゼンデシタ」
リゲルがテントの場所へ走っていくのを見届け、自分の胸をポンポンし溜息をつく。
「女神に胸についての祈りをしようかしら……」
テントをしまった大きな鞄を背負ったボコボコの顔のリゲルと合流し、思ったより近かったのか、走る事約2時間で王都ヘヴェリウスへ到着。
更に迷う事約2時間でアークゥトルス学校の前へ到着した。
魔法学校と騎士学校は併設されているので校門は一緒、というか学舎が違うだけで、校庭とかも一緒みたいね。
遠方の受験者はこの学校内の寮で一泊する事となっている。
リゲルは男子寮で私は女子寮。試験場所も魔法学校と騎士学校では違う為、私達は受付を済ますと、ここで一旦お別れして試験後に落ちあう約束をした。
「じゃあほどほどに頑張ってね」
「ああ、スピカも頑張ってな」
大丈夫かなぁ。不安だなぁ。
え、受験に不安があるのかって? ううん。違う違う。私は大丈夫。
問題はリゲルよ。
ほら、リゲルってさ、……真面目じゃない?
実技試験とかでやらかしたりしないよね……私はほどほどにってちゃんと言ったんだけど……
ま、まぁリゲルを信じよう。信じていいんだよね?
不安に思いながらも疲れを癒すために早めに就寝した。
翌日。
さてさて魔法学校への入学試験なんだけど、基本的な初等部程度の学習能力+中等部初期程度の応用を織り交ぜた学科のみだったよ。
魔法についての問題とか全然なくてびっくりした。本当にこんな試験問題でいいのかな?
魔法の構成方法についてとか、魔力合成の方式とかがでるのかなって勉強してきたのに。
制限時間2時間の試験だったけど、たった15分位で終わったから、見直しして、何問か答えを消しておいた。
100点満点取ると、後でめんどくさい事になりそうだったからね。やはりホドホドが重要よ。
何気なく裏面を見ると。
・全問終わりましたか? □ 名前_____________
あぶなかった~見直しておいてよかった。裏面にそんなチェック欄があるなんて油断した。
チェックしてスピカ・プラーエっと。よしこれでオッケー。後は時間まで休憩よ
そうそう、なんか私の前の席で、頭を抱えてうんうん唸りながら問題を解いてるどっかで見た金髪ロングストレートがいたんだけど。
カポエラだっけ? カプーナだっけ? ゴリラには覚えられませんのでウホウホ。
ともかく、その子に見つかるとめんどくさそうだったので隠密を発動。
まぁ隠密なんてしなくても、試験に夢中で気が付かなそうだけどね。
試験時間の2時間が終わり、テスト用紙が回収されると、私はすぐに試験官に呼び出された。
しまった。休憩がバレちゃったか。
「スピカ・ロワーエさん。あなたは合格ですからこのままご帰宅していただいて結構です。春の入学をお待ちしております」
「へっ?」
「あなたは合格です」
「え、だって採点してないですよね」
「この裏の名前を書く欄。これが見えたのはあなただけでした。この説明であなたには十分でしょう」
あ、そういう試験だったんだね。研究所の本と一緒で魔力が無いと読めないタイプで、後半に連れて必要魔力があがって行く感じだったのか。
どうりで前の席のカポエラが「ハヌケ…これもハヌケ…難しすぎますわ」とかブツブツ言ってると思ったよ。
「そうですか、ありがとうございます。入学したらよろしくお願いします」
試験官にお礼を言って試験室を出ると、後ろからカツカツと響き渡るハイヒールの音。
「お待ちになって。あなた確か昨日の方でしょう?」
あっちゃあ。見つかっちゃったか……
「え?何のこと?」
「ほら、私ですよ。カペラ。昨日助けて頂きました……えっと貴女のお名前は……スピ…なんでしたっけ?」
「スピカ」
「そうそう。スピカさん。昨日はありがとうございました。素敵なあの殿方とは一緒じゃないんですね」
「ああ、リゲルは騎士学校の方だから別々なの」
「あの方は騎士学校!? ああぁ……よかったですわ。てっきり貴女のお兄さんか何かで護衛で来ただけかと……あまりゴリラに似ていませんでしたものね。ともかく春からあのお方と同じ学校という訳ですね。ああ。神様。この運命の出会いに感謝いたします」
あん?どんだけ喋るのよ。このメスイノシシは。
「感動しているところ悪いけど、コレ落としてたわよ」
昨日拾ったハンカチをカペラに返す。ごめんね洗ってる暇はなかったんだ。
「まぁ。あのお方がわざわざ拾っておいて下さったのですね? あああああ。やはり運命だわ。スーハースーハー」
ハンカチの匂いをクンクンするカペラ。ごめんねさっきも言ったけどそれ洗ってないし、なんなら私がウリモスの鼻水を吹いたからカピカピなの。
「ああ。なんと男勝りの中に漂う優しき香り。これがあの殿方の香りなのね」
それ多分ウリモスの鼻水の匂いだから……うーん。なんか変態蝿を思い出すからやめない?
「あ、私もう行かないと。じゃまたね」
「お待ちなさい!あの方。今からリゲル様に会うんでしょ? 連れて行き……」
カペラがなんか騒いでいたけど、とりあえず思いっきり走って逃げた。
さてさてリゲル君の方はどうだったかな~?
ちょうどお昼だし一緒にご飯食べながら話きこっと。
待ち合わせの場所で、ランチの用意をしながら待っていると、落ち込んだ様子でリゲルがやってきた。
「え、どうしたの?」
リゲルが頭をポリポリかきながら口を開く。
「それがさ。学科の方は問題なかったけど、実技の方がね」
「まさか負けたの? そんな馬鹿な」
ふぇ~世の中広いんだなぁ、リゲルはヴェガとの戦いの後のこの3ヶ月間で、めちゃめちゃ強くなったはず。それを打ち負かす同じ年の子って……
「いやいや実技は勝ったよ。「俺の事は気にせず本気で来い!」なんて訳のわからない事を言うからさ。ちょっと本気出したんだよね。後から聞いたらそいつは偉い奴だったらしいんだ」
「偉い奴? やーねぇ親の七光で、負けてくれるとでも思ったのかしら」
「アルタイル・ヘヴェリウスとか言ってたな」
ブブブブブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ。飲んでいたアップルジュースを盛大に吹き出す。
「ゲホゲホッ。へ、ヘヴェリウス?」
「なんだスピカでも知ってる奴なのか?」
「あ、あんたねぇ。ここの場所がなんて言うか知ってるでしょ?」
「え?噴水前?」
「リゲルのおバカ!!この国の名前はヘヴェリウスでしょ!」
「あ、そっか。あいつここの王子ってことだったのか、道理でまぁまぁ強かったはずだ。ま、両腕折ってやったけどな」
なーにがまぁまぁよ。
あーあ、やっぱりやらかして来たよこの人はさ。まったく愚者なんだから。
「はぁ、ちょっと二、三日泊るつもりだったけど、やっぱり急いで村に帰りましょ」
「いや、でもまだ結果聞いて……」
「いたぞ!!!あいつだ!!!」
リゲルの結果は聞くまでも無く不合格だろう。何しろ王子の両腕折っちゃってるんだから。
そのせいでかわからないけど、大勢の追手が来てるのが証拠じゃん? 追手というか刺客?
あーもう。
私は氷の中級魔法の一つ『凍結』を使い、追手が来る方の地面をツルツルに氷らせる。
「さ、行きましょリゲル」
「お、おう」
バタバタツルツルと転ぶ追手達を背に、一直線で校門へ向かって走る。
と、校門には門柱を憧れのあの人に見立て、撫でたり抱き着いたりしながら乙女チックに話しかけている金髪ロングストレートがいた。
「ああ、あの方。絶対にいつかここを通るはず。そして私はお食事に誘うのです。あの方は優しく私をリードしてOH!AHAaaan」
校門で遊んではいけません!(´∀`(⊃*⊂)
とりあえず!!!
「ちょっとカペラごめん!とおりまあああああす」
リゲルの手を引っ張り突っ切る。最早リゲルは宙に浮いており、好きにしてくれといった表情だ。
「あれ! 今リゲル様が!? 私とお食事でもっ」
「ああ、また今度なぁああ」
バビュウウウウウウウウウウン。
私達が高速で通った風圧のせいで、ビリビリに切り裂かれズタボロになった上品なドレスのカペラが、涙を流し声を上げる。
「お、お食事誘えました。私、お食事誘えました。誘えましたわ~~~~~~!!!!!」




