第一死 いざ、王立学校の入学試験へ 中編
「ねぇねぇ……本当に……こんなとこで……するの?」
「ああ、どうしても我慢出来ないんだ」
「……わかった。私こういうの…初めてだから……痛く……しないでね」
熱い視線で見つめ合う少年と少女。
小麦の刈り取りも終わって、少しフカフカな状態の元小麦畑に二人きり、当然、何も起きない訳もなく……
「それじゃ、行くよ!!」
「おう!」
予め魔法の構成を練っていたマスターしたばかりの中級雷魔法の一つ、雷撃玉解き放ち、30cm位の電属性の緑色に光る玉を2個、体を守る様に周回させる。
ふふーん。そうね。サンちゃん(時計周り)、ボルちゃん(反時計周り)とでも名付けようかな。よろしくね!!
なんておバカな事を考えている間に、木刀を構えて突っ込んでくるリゲル。
もの凄い速さで木刀が振り下ろされたが、私はリゲルが回収して来てくれた研究所の堅い木の杖で弾く。
サンちゃんとボルちゃんを器用に避けながら、私が適当に振り回した杖も避け、しっかり攻撃してくるリゲル。
いやー流石勇者だね。
私ももうちょい本気でいきますっかっと!!!
ブン!
私の振り下ろした杖をアイアンシールドで受けるリゲル。
ズン!!という音と共にリゲルの体が少し沈み、アイアンシールドに私が杖で殴った跡がくっきりつく。
「クッ!」
すかさず襲い掛かってくるサンちゃんボルちゃんをギリギリ回避してバックステッポ。
悔しそうな声を出しながら盾を投げ捨て、木刀を両手持ちに持ち構え、なにやら気合を入れるリゲル。
いや、そんなまさかね? 女の子相手に使わないよね?
「音速剣!!」
うわあああ。マジで使って来た!!! 勇者って容赦ない!!! やっぱり昨日のから揚げを、私が一個多く食べたのを怒っていたのね!
音より速く8回の斬撃を繰り出す音速剣。リゲルがこの三ヶ月間ひたすら修行して身に付けた必殺技。
音を置き去りにするから付けたんだって言っていたんだけど、本当みたいね。
……ほら、リゲルが地面にすっ転んでいるのに、後から斬撃音が聞こえてくるわ。
「ほい。私の勝ち」
コツン。と地面にうつ伏したままのリゲルの頭を杖で叩く。
「いててて。あれはないんじゃないか?いくらなんでも卑怯だろう」
「そう? 女の子相手に必殺技使うあなたが卑怯だなんて言えるのかしら」
リゲルが指さす先には、ツルツルに凍った地面と、つまづきやすい様に絶妙な場所へ配置された、土魔法で作られた輪っか付きブロック。
両方ともリゲルが必殺技を悠長に気合を入れている間に設置したものだ。
ん~でもリゲルってばツルツルもブロックもちゃんと全部避けてたよね。あー恐ろしい子。
結局それら(+サンちゃんとボルちゃん)に気を取られて、私の高速足払いで転んだんだけど。
「スピカには参った。本当にこんな強いんだな」
「まぁ生きてる年数がっゲホッゲホッ……ううん。いまのは偶然よ。偶然」
「とりあえずさぁ。……腕治してくんない? さっき盾で受けた時に折れたみたいでさアハハハ」
片腕折れてる状態で、必殺技使ってたんかい……ホント末恐ろしい人。
「ご、ごめんごめん」
慌ててリゲルの手を握り、初級回復魔法をかけようとする。
「きゃあああああ」
が、自分で凍らせたツルツルの地面に足を滑らせ、リゲルの上に倒れて、顔と顔が急接近。
……またですか。とりあえずビンタね。ビンタ。
そしてついに、入学試験へ向かう前日の夜。
入学試験への旅支度をしていた所、パパに呼び出される。
「と、言う訳でお前たち二人は明日から入学試験の為にこの村をでる訳だが……リゲル君。手ぇだすなよ」
「えっ?」
「あらあら、まったくあなたと来たら、二人の新たな門出なんですからしっかりお祝いしないとだめよ」
「ママ! 門出って! 私達試験を受けに王都ヘヴェリウスまで行くだけだよ」
「オホン。ともかく、この村から出ればそこら中に魔物や獣、野盗に犯罪者に殺人犯!まぁリゲル君がいれば大丈夫だと思うが……手ぇだすなよ」
「手を出すなって事は、戦うなって事ですか? 僕もロワーエ村の近くの森しか行ったことありませんが、そんなに危険なんですね」
「もうパパったら。リゲルは強いんだから7日間の旅くらい全然大丈夫よ」
「……二人きりの7日間の旅だから言っとるんだ」
血の涙を流すパパ。そんなに心配してくれているんだね……うっすら何か違う意図も感じるけど。
「か、必ず守りますから……」
「手ぇだすなよ……」
リゲルの手を本気で潰してやろうってくらいの力を込めて握手するパパ。あの……さっき治したばっかりなんですけど……
「あらあらそんな話をするために呼んだんじゃないでしょう?」
「おう、そうだったそうだった。既に学校の知り合いに入学試験の受験を申し込んだんだがな。その知り合いが言うにゃ、なんでもファーストネームが有った方が良いそうだ」
「ファーストネーム?」
「ああ、王立の学校ともなれば、貴族やら騎士やらお偉方も沢山居るようでな。ファーストネームが無い子は舐められたり、イジメられたりする様だ。まぁ所詮飾りみたいなもんだとパパは思ってるけどね」
「やっぱり都会の学校って結構大変なのね」
「そうだぞ。パパも結構いじめられたさガッハッハッハ」
「あらあら、あなたの場合はイジメていた子の方が大変そうだったわよ」
「そうだったかな? まぁいい。とりあえずスピカのファーストネームは『プラーエ』でいいかな? パパも昔プラーエを使っていたし」
「スピカ・プラーエ……わかったわ。でもパパが勝手に決めてもいいの?」
「大丈夫だよ。国の奴らにはちゃ〜んと申請しておくから。なんてったって村長ですから。実はパパすごいんだぞぉ。エッヘン」
「あらあら、じゃあリゲルちゃんも『リゲル・プラーエ』になるのね。まぁ夫婦みたいだわ! お祝いしないと!!」
ふ、夫婦!? 言われてリゲルと見合わせ二人とも赤面し、顔から湯気があがる。
「マァマァ? そ・れ・だ・けは絶対に許さんぞ馬骨~~~~~~!!」
「そ、そうよ夫婦だなんて!! ねぇリゲル!」
照れた私がちょっと力加減を間違えてポコポコ叩いたから、リゲルの頭には何個かたんこぶが出来た。
「イテテ。でも俺は良いかなって思った『リゲル・プラーエ』」
「ちょっとリゲルゥくううううん? 君は『リゲル・ロワーエ』だからそこんとこ忘れない様にね」
パパが漆黒の血の涙を流しながら、リゲルの首を絞めつつ名前を告げた。
「あらあら、プラーエ家の復活なのね。今でも思い出すわぁ。月の無いあの日の夜に、城から強引に私を連れ出したパパ・プラーエ男爵の事を」
え?なにそれ色々突っ込みたいんですど……つかなんて言った? 城? 強引? パパ・プラーエ? パパが名前って事?
「こらこらママ。その話は内緒だろう」
「あらあらそうでしたわねウフフ」
もうだめ。突っ込みスキルが追い付かない。
リゲルの方を向くとファーストネームが余程うれしかったのか、小声で「リゲル・ロワーエ」と繰り返し、自分の世界に入り込んでいた。
後で聞いた話じゃファーストネームって王家や元々の貴族とか、そうとう武勲を上げた騎士位しか持ってないみたい。
んじゃパパ・プラーエ男爵て?……だめだ頭痛くなってきた。
「ともかく、村を出れば本当に魔物も沢山でるから気を付けて行ってきなさい。スピカも本当に注意しなさい特に野生の勇者志望の奴とかにね」
「はいはい。わかりました。もう寝ようリゲル・ロワーエ。明日は早いし」
「リゲル・ロワーエ……」
だめだこの野生の勇者志望。
確かに男性的幸運持ちと二人きりで7日間か……これは正直頭痛が痛い。注意しないと。
部屋に帰ろうとした私に「ちょっとちょっと。スピカちゃんにはこれね。後でこっそり開けて」なんて言いながらママが渡してきた小袋が、さらに私の頭を破裂させる。
だって、小袋の中の薬瓶に「超秘宝避妊霊薬」て書いてあったからね……
いったい何歳だと思ってるんだ……まだ12歳なんですけど。
こんなのいる訳……いる訳ない……じゃない?
……一応……飲んだ方がいいのかしら。




