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第一死 いざ、王立学校の入学試験へ 前編

 プラーエ村では小麦の栽培が盛んであり、殆どの村民は農家だ。


 逆に言うと名物は小麦しかないという事なんだけどね。

 

 村長といっても例外ではない、秋には小麦の収穫に大忙しだ。私もママも収穫を手伝っていた。


 収穫は順調に進み、やがてお昼の時間。パン屋の息子のマルコが、自慢げにパンを持ってやってきた。


 

 そう、今日がResultの日だ。


 いつもはマルコが持ってきた歪なハートのパンを食べると意識が一瞬途切れ……ブルブルブル。


 もう大丈夫。……大丈夫よね?


 だって私の隣にはリゲルが居るんだもの。


「どうしたスピカ。やっぱりそのパンには毒が……」


「んな訳ねーだろ!これでも一生懸命愛情込めて作ったパンなんだぞ」 


「へーそうなんだ。ちょっと一口っと」


「あっ……」


 怒り散らすマルコをまったく気にせず、私の手からパンを奪うリゲル。


「コラッ!お前に作ったパンじゃないんだぞ」


「うるへーなかなかふまいじゃないか」


 リゲルはパンを一口分ちぎって口に頬張りモグモグしている。

 

 何かあるんじゃないかと、リゲルの顔をじーっと見てしまう。


「なんか顔についてる?あっ……ごめんごめん返すよ」

 

「あ、ううん。何でもない何でも……」


 あまりに私がリゲの顔をガン見するもんだから、リゲがちょっと赤面しながらパンを返してきた。


 私も釣られてちょっと照れながら受け取る。


「ちょっとスピカちゃん!早く僕のパン食べてよ!」


 そんな状況に、何故かイライラし始めるマルコ。はいはいわかりましたよ。


 Resultになる原因リゲルは判明しているし、その原因リゲルは呑気にパンを食べている。


 ありえないんだ。


 もう2年前に戻ることは。


 でも怖い。この歪なハートのパンが……うう……トラウマよ。




 私は意を決してパンを口に……





 「おいしぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」



 初めて食べれた歪なハートのパン。


 Resultにならない事に安心し、昨日までの出来事を思い出す。


 そう、リゲルを助ける為に4日間も無断で外出し、大騒ぎを起こしてしまった事を。




 …………




 時を遡る事前日。


 プラーエ村は大騒ぎになっていた。


 隣のロワーエ村の村人達が、魔物に襲われると言って避難して来たのだ。


 ロワーエ村の村長がプラーエ村の村長へ避難の説明をする。


「ええ。ですから魔物の死体が窓から投げ込まれ、この様なものが……」


 ロワーエ村の村長からちいさなハートの書かれた紙を渡され、プラーエ村の村長が泣き崩れる。


「間違いない。私の娘の字だ!スピカは生きているぞ!!ママ!!」


「あらあら。だから大丈夫だといったじゃないですか。あの子は強い子ですから」


 オイオイと泣き続けるプラーエ村の村長に、更なる朗報が入る。


「村長!娘さんが!娘さんが帰ってきましたぞ!!!」


 集まっていた村人達の間を走り抜け、プラーエ村の村長の娘スピカは父に抱きついた。


「パパーママー!!」


 


………


…………


……………


 隣村の村人達はそれぞれ、宿屋や知り合いの家にお世話になり、数日後に帰る事となった。

 

 私とリゲルはパパとママの前で正座している。


 まるで婚約相手を父親に紹介しにきた娘みたいな感じ……いやただのお説教なんだけど。


 ふぅ……と大きな溜息をついた後、パパがゆっくりと話し出す。


「魔王軍の四天岩がロワーエ村を襲い、君の兄を攫った。君は勇ましく戦い、なんとか魔王軍を退けた。帰り道で道に迷うスピカを見つけた。こういう事かな?」


「……はい」


 事前に相談したまま説明するリゲル。私の魔法とか魔物を退治した事とかは内緒にしてもらった。


 嘘をつくのが苦手なのか、リゲがプルプル震えながら返事をする。


 パパが私をじーっと見つめてくるので、思わず目をそらす。へへへ……私も嘘が下手なもんで。


「……ふぅ。まぁそういう事ならしょうがないな。……君はスピカの隣の部屋。それでいいね?」


「は?」「えっ!」


 え? 何それ? そんな話してなかったよね?


目を真ん丸にするリゲルと私。


「聞けばリゲル君は兄と二人暮らしで、その兄は攫われてしまった。おまけに勇者を狙って来た魔物はロワーエ村の場所を知っている。勇者がロワーエ村にいたままだといつまた襲われるかわからない。答えは決まっているだろう?」


「それじゃ今度はプラーエ村が……あなた達にだってもしかしたら……」


「プラーエ村が襲われる事は絶対にない。絶対にだ」


「でも、ご迷惑をおかけする訳には……」


「あらあら、迷惑だなんて。スピカちゃんは喜んでいるみたいなのよ」


 ボッと顔面が炎上するのがわかる。


「ちょ、ちょっとママ何言ってるのdふぃhうぇ;ふjjwgwg……うー」


「ワシだってドコの馬の骨ともわからん男の子を家にgdfshfgjhwrgj@wびえぇええん」 


「パパ、スピカ。いい加減にしなさい」


「「取り乱しました」」


 いつの間にかパパまで正座させらてしまう。……流石、母は強し。


「ともかく、リゲル君。今日から家に住むってことでいいわよね?」


「……よろしくお願いします」




 こうしてリゲルと私は同じ家に住む様になりました。



 めでたしめでたし。







 ……って全然めでたくない!!


 歪なハートのパンの残りを、ぷんぷんイライラしながら食べる。


 何をイライラしてるのかって?


 さっきまで喧嘩していたのに、今じゃ無邪気にマルコと遊んでるあのリゲルによ!!!



 昨日の夜から一緒に住み始めた訳なんだけど……なんかのスキルでも持っているのかってくらい……その……男性的幸運ラッキースケベなの。


 いや、私から見たら不幸アンラッキーか……先が思いやられちゃう。


 すでに私の少女の様に美しい清らかな肌を、3回は見られているわ(少女なんだけど)。


 それもたった一晩で3回よ?


 着替えていれば部屋を間違えて入ってくるし、お風呂に入れば順番を間違って入ってくる。寝巻に着替えていたら、謝るためにノックも無しないで入ってくるし。


 おまけに、私だけならともかく、ママのお風呂にも突入して「あらあら、寂しかったのかな一緒に入る?」なんて言われて!!!!


 ああああもう腹立つ。



 ママと違ってまな板で悪かったわね。




 将来有望なんですから……ぐすん。



 なんて言ってるそばから、お茶を持ってきた村の女の子にぶつかって押し倒してるよね。


 はぁ……


 必死にあやまってるアイツに無言で初級雷魔法プチボルトを付与した小石をぶつけておいた。


 ビリビリ痺れてやんの……べーだっ。






 そんなこんなで、プラーエ村の一員となったリゲル。


 年齢も一緒の12歳って事で同じ学校の初等部に通う事になった。


 もっとも3月で卒業だから、たった半年しか無いんだけどね。


 兄との二人暮らしでは、森で獣を取って売る狩人みたいな生活をしていたそうで、当然、学校なんて通ったことがないリゲルは、学校生活をエンジョイ。


 ……もちろん男性的幸運ラッキースケベ全開でね。はぁイライラ。


 ま、まぁ見た目も悪く無いしさ、金髪だし、男性的幸運(ラッキースケベ)に騙された女の子達から、ムカつく程モテるね。


 わ、私だってまぁまぁ人気あるんですから。フン。

 



 リゲルは初め、字も書けなかったんだけど、たった3ヶ月で成績が2位まで上がった。


 流石勇者? ううん、家庭教師の先生が良かったからだよね。


 成績一位さんに感謝しなさい。ドヤァ。



 

 私が目指していた王立アークトゥルス魔法学校の入学試験が近付き、少し寒くなったある日の事。


 私がトイレに起きると、深夜だというのにリゲルの部屋には灯りが灯っていた。


 ノックして部屋に入ると熱心に勉強してるリゲルがいた。


「ねぇねぇリゲル。なんでそんなに勉強がんばるの?」


「僕は初等部を卒業したら、王立アークトゥルス騎士学校に入りたいんだ。腕を磨いていつか兄さんを救い出すためにね」


 ヴェガ達魔王軍にさらわれたお兄さん。無事なんだろうか?


 リゲルは兄さんは『死んでも死なない人』だから生きてるはずだっていつも言うけど。


「それにさ」


「それに?」


 リゲルが赤面しながら真剣な顔でこちらを向いて言った。


「スピカは王立アークトゥルス魔法学校に入るんだろう。そしたらいつでもスピカに会えるじゃないか」


「…………」


 突然の告白に頭が真っ白になる。


 何と返したらいいんだろう。素直に「嬉しい」だろうか?


 もしくは「ありがとう」?


 いつも通りおちゃらけてビンタの一発でもかます?


 パニックになって、頭をフル回転させるけど回答がでない。


 深夜に二人きり……完全に見つめ合っているし……お互いの心臓の音が爆音に聞こえる。




 長い沈黙の後。




 次第にお互いの顔と顔、唇と唇がスーッと近づいて行き……




 ……




 ガチャ!っと入ってくる夜食の差し入れママ。慌てて離れる私とリゲル。



「あらあらお邪魔だったわねぇオホホホホ」



 お茶とお菓子をすっとおいて、慌てて部屋から出ていくママ。


 これがママの必殺技フェイバリットスキルですか。




 それにしても……あっぶなかった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。


 触れた?触れてないよね?


 なんとなく横目を向いて唇を指で吹いて確認する。



 セ、セーフ?



 もう……わっかんないわよ。



 ……ともかく撤退よ。撤退!



 「にゅ……入学試験頑張ろうね!おやすみ!」




 それだけ言い残すとリゲルの顔も見ずに部屋に走った。


 いや乙女か……乙女なんだろうけど。

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