第一章 エピローグ
魔王軍はすべて撤退し、隣村には私とリゲの二人きりとなった。
私は慌てて足を痛めて倒れているリゲの元へかけより、初級回復魔法をかける。
「くっ……すまない」
「いいの。動かないで」
……
………
…………
2年も待ったのに……二人きりなのに……なんだか全然しゃべれない。
リゲに聞きたい事が沢山あるし、私の名前だって伝えてない。
ん~何なのこの気持ち……これ……ホントムズ痒い……
「ありがとう。もう大丈夫」
リゲはそう言うと両足をポンポン叩き、ピョンと身軽に立ち上がった。そして力コブを作って元気をアピール。
いやー完全に折れてたはずなんだけどなぁ。私の初級回復魔法そんなに効く?やっぱ勇者パワーって奴なのかな。
「あ、えっと……お前ってさ、あんな凄い雷みたいな魔法使えてすげー強いんだな」
お、お前!? 初対面の女の子にお前だなんて酷くない?
ちょっとショック。前の時はもうすこし女の子に対して礼儀正しかった気がするのに。
「ううん。た、たいした事ないよ。はずれちゃったし」
「そんな事ねーよ。アイツにブンブン振り回されてケガ一つしてねぇし、本当!お前凄いよ!!」
なんだか男友達に話すような感じで……
「女みたいな恰好してる癖に本当に強いんだな」
「は?」
「おまけに俺よりでっけぇしっ……グハッ!!」
力を込めた会心のビンタがリゲの左頬に炸裂し、凄い勢いで森の中まで飛ばされる。
ズグワシャ!と轟音を響かせ木を貫通し、挟まるリゲ。
どうやら私の秘策は、リゲにもしっかり見られていた様です。
パンツの中の初級土魔法で作った、玉2個と棒一本を取り出し、金の砂へと戻す。
ギュッと握りしめ、再び手を開くと、サラサラと風に流されていく金色に輝く砂……だから使いたくなかったのよ。ぴえん。
『キルペナルティ』覚悟でやり直そうかな……はぁ。鬱だ。
私もため息をつきながら森に入り、なぜか全身骨折し、木にめり込んでしまっているリゲに、再び初級回復魔法を使う。
「痛てて、な、何が起きたんだ。いったい……」
「大丈夫? 魔物が残っていたのかな? もうどこかにいったみたいだけどアハハハ」
「そうなのか? 全然見えなかったよ。……ちょっと手を貸してもらえるかな? 木にめり込んじゃって出られないんだ」
リゲは気を付けのポーズのまま木を貫通し、腰のあたりで止まっている。
確かに自力では抜け出せそうもない。
いったい誰がこんな酷い事を……おのれモンスターめ。
私はウネウネと体を動かしているリゲの頭を掴み、そのまま引っ張りだした。
思ったより簡単にシュポンと抜けてしまったので、そのまま二人でゴロゴロと後ろに転がって……
どうしてこうなった。
リゲの頭が私のスカートの中に突っ込んでいるではないか。
リゲがガバッと起き上がり、鼻血を出しながら「……な、ない」なんて言うから、悲鳴をあげながらさっきの反対の頬をビンタしてしまった。(今度はちゃんと手加減して)
パシーン!
両頬に私の手形が付き、餌を頬にいれたリスの様な顔で、リゲが何度も土下座する。
「すいまへんでひた……」
「もう知らない!」
両手を組んで怒りのポーズ。
まったく、男の子ってホントいやらしいんだから。リゲはマルコとかジェミーとは違うかもなんて期待した私が馬鹿みたいじゃない。
初対面が重要って散々言ったのに、最悪な出会いになってしまったよ。
あーほんとやり直したい。
「ともかくみんなの所に行きましょう。私の村に向かっているはずよ」
「ああ、そうだね……と、ところで君はいったい……」
「私はスピカ。隣のプラーエ村からあなたを助けに来たの」
「スピカ……さん。あ、ごめんごめん。こちらが先に名乗るべきだったね。僕の名前はリゲ……」
ドグワッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
リゲが名乗ろうとすると、地面が揺れ、地中から巨大な白い幼虫が現れる。
デカアアアアアイ!!説明不要!!10m以上あるー!
どわああああああ。すっかり忘れてたあああああああああ。こいつがいたんだったあああ。
『みんなの町の魔物ずかん』によると、こいつの名前は『大白蚯蚓イーワ・セネーヨ』。【危険度☆☆☆】。
産卵期になると地上に姿を現し、人間の体内に卵を産み付ける。卵は約三日程度で孵化し、腹を食い破って体内から出てくる。その後の事は……当然わかりますよね?
こいつが居るのは知っていた。倒せるだろう唯一の技、『雷撃槍』も、むしろこいつの為に用意した。
問題はどこで襲ってくるかだけど、まさか今とは……
正直きっつ~い。
昨日からの酷使で魔力はほとんど残っておらず、『雷撃槍』を使うには、ちょうど初級魔法一回分くらい足りない。
さっき余計に初級回復魔法を一回使ったから……あーもう裏目にでるなあ。
「スピカ!逃げて!僕がこいつの相手をする!」
「だめよ。そいつは……」
言い切る前に、リゲがイーワ・セネーヨに切りかかる。が、皮膚の弾力にバインと弾き返され、木にぶつかる。
そう、こいつの皮膚は異常に弾力があり、物理攻撃がほとんど効かないのだ。
「痛って。なんて体してんだ」
いやいや、君の体もなんて体してんの?
結構すごい衝撃でぶつかってるし、普通の人だったら死んでるよ?
「と、とにかく逃げよう?」
「ああ、僕がなんとかするからスピカは逃げてくれ!!」
あーもう!だ~から、そういう訳にはいかないんだって……もう、いっその事リゲを気絶させて、おぶって逃げようかな……
そうこうしている内にイーワ・セネーヨの狙いが私に変わる。
イーワ・セネーヨが尻尾を私目掛けてブンブン振り回す。
鞭の様にしなる尻尾を回避しながらリゲの元へ走り、尻尾がぶつかって折れて出来た丸太を渡す。
「これをアイツの口に!!口が閉まらない様にして!」
「おう!わかった!!」
リゲの後に陣取り、丸太で応戦する彼の姿を見ながら準備を開始する。
やっぱり強敵には丸太よね。
私は研究所から持ってきた、もの凄く硬い枝の杖を鞄から取り出す。
「はぁああああああああああああ」
全身の魔力を絞り出し、魔力の構成を練る。緑と黄色の光が私を包み、光は両手に集約され、やがて杖に雷と風の魔力が付与される。
土魔法まで使う魔力の余裕がなかったので、一番堅いこの杖を使う事にしたのだ。
「今だ!!スピカ!!」
イーワ・セネーヨの口には、丸太が縦に挟まり威嚇の声を出している。
雷と風の魔法が杖に付与されたとまったく同時のナイスタイミング! 流石が私の勇者さまだわ!
「雷霆万鈞!!穿て!!!雷撃槍!!!」
エメラルド色に輝く一閃の光が、イーワ・セネーヨの口に挟まった丸太を貫通し、体の中を激しく駆け巡ると、凄まじい雷撃の光の後、大白蚯蚓は四方八方に爆散した。
……と同時に私は意識を失った。
はぁ。またResultか……今度こそ助けられたはずなのにな……
……
………
…………
ゆらゆら……
あったか~い……
はっ!?
気が付くと私はリゲにおんぶされていた。
リゲの首元にはがっつり私のよだれが……思わず袖でゴシゴシとこする。
「お、気が付いたみたいだね」
「ご、ごめんなさいリゲ。今降りるね」
慌てて降りようとするが、体に力が入らない。
「ああ、気にしなくていいよ」
「ありがとう。リゲ」
すごく恥ずかしいけど、リゲの優しさに甘える事にした。
「あのさ……」
「なに?」
あたりをキョロキョロ見渡すリゲ。何を気にしているのか……
「リゲル」
「え?」
「僕の名前はリゲル。よろしくね」
「うん。よろしくねリゲル!」
満月の優しい光が、川沿いの道をプラーエ村に向かう勇者志望の少年と、その背中で幸せそうな笑顔を浮かべて眠る少女を包んでいた。
言えたじゃねぇか。




