『オルデク』身勝手⑤
それにしても、シーアさんにしか出来ない切り返しでした。
「強かですね」
「私も多分、騙されちゃうかな」
皇国の事と、王国にお姫様が来ているという事を知っていないと出来なかったでしょう。身に着いた所作というものは隠せないものです。王族に近しい者と露呈している以上、変に嘘をつくよりも余程効果があったと思います。
「虚実織り交ぜていますけれど、重要な部分が本当なので完璧に騙せているようです」
「偽名の時も思ったけど、シーアさんって結構そういう訓練してたり?」
「してそうですね。立場上身分を隠したりする事も多かったでしょうし、相手を騙す必要もあったでしょうから」
得意になりたかった訳ではないでしょうけど、シーアさんのお陰で乗り越えられそうです。
「役割は、これで正解だったね」
「はい。シーアさんは大丈夫みたいです。後は、対象がシーアさんに手を出さないかだけ注意しましょう」
「うん。ドリスさんへの注意喚起も終わったし、追跡を始めようか」
「はい。今は、どの辺りに居ますか?」
「んー、こっちかな」
『ヘトヴィヒ宅から南南東、約一五〇〇メートル』
南南東というと、私達が町に来た方向から進んでいるのでしょうか。
「蛇行しながらだけど、北を目指してる」
「一人で行っているわけではないでしょうし、誰か協力者が居るのでしょうか」
「悪意は一つで、気配は四つかな」
深い所に居るからか、完璧な感知とはいかなかったようです。私では感知出来ない深さですし、”悪意”の動向が分かるだけでも助かります。
「このままいけば、やはり」
「うん。終着点はあそこだね」
やはり、ヘトヴィヒ宅を目指しているようです。そう確信出来ますが……町が狙いかもしれません。このまま注意しながらついて行くしかないと思います。
「シーアさんを尋ねる振りをして、家に入ろうか」
「マリスタザリアが向かっているという事で、強制捜査を行いましょう」
「うん。マリスタザリアがそこに着いたら、もう言い逃れ出来ないだろうから」
まずはシーアさんが来ていないか尋ねます。その後マリスタザリアがこちらに向かっていると告げ、中に入りましょう。捕らえているのか、追い立てているのかは分かりませんが、生きたマリスタザリアを地下に連れ込んでいる時点で重罪です。
「ここだね。均等な速度じゃなくて、休み休み動いてる感じ。多分、曳いてるのかな」
町の下を縦断している事になります。本当に少しずつ進んでいるようですが、迷いなく北上している辺り……地下道の移動に慣れているのでしょう。
「成り損ないとはいえ、マリスタザリアです。かなりの重量となっていると思います」
「三人くらいで曳いてるはずだけど、ゆっくりだね。大型の動物だったのかな?」
「熊や猪でしょうか。ヤギやドルラームしか居ないという話でしたけど、食べ物を求めて人の気配があるところに向かったのかもしれません」
トゥリアの森や、岩山から獣が出てきたのかもしれません。世界の『死』が近づき、生態系もおかしくなっているでしょう。何が起きても不思議ではない世界に、なってしまったのです。
「この速度だと、ヘトヴぃヒの家に着くのは……一時間はかかるね」
「シーアさんには時間稼ぎをしてもらう必要がありますね。聞こえてくる話の内容から考えると、心配はなさそうですけど」
ヘトヴィヒの話は多岐に渡っています。生物の構造や生態系、人の脳についても詳しいようです。もしもこんな、悪事を働く人でなければ――私も話しを聞いてみたかったかもしれません。それくらい、ヘトヴィヒの話には気になる点が多くありました。
「シーアさん。大変そうだね……」
「興味の無い話を延々と聞かされるのは、苦痛です」
魔法談義や向こうの世界の話ならばいざ知らず、人体の構造について聞かされても右から左でしょう。
「魔法談義してる時とは比べ物にならないほどに、相槌が適当……」
「シーアさんは我慢強いので大丈夫でしょうけど……レイメイさんは寝そうですね」
「そっちの方が、心配かも」
護衛でもあり、手伝いでもあるのですから、寝ないで欲しいですけど……この話が続くと、難しいかもしれません。
《――レツァルアという名は共和国の言葉と思うのですが、差し支えなければ本名を教えていただきたく》
レイメイさんと合流しているはずですが、シーアさんの正体についての話を再開させるようです。
《お連れの方はお疲れだったご様子。少しくらいならば、起きないでしょう》
「……」
「……寝てる?」
「そのようです」
いくら話がつまらないとしても、敵地で眠るはずがないと言えるくらいには信じています。レイメイさんの意思ではないでしょう。
「薬を盛られたのかもしれません」
「それの注意、忘れてたかも」
敵地で出された飲食物くらいは警戒して欲しいです。注意せずとも、味の違いくらい分かるはず――レイメイさんは、濃い味が好みでしたね。薬の差くらいだと、気付かなかったかもしれません。
《レリーアと言いまス》
諦めているのか、最初からこうなる気がしていたのか、シーアさんは会話を続けることにしたようです。変に反応を見せると怪しまれるからでしょう。ただ眠っただけなのに薬を疑ってしまうと、初めから警戒していたと示す事になってしまいますから。
《良き名前ですね。レリーアさんは――っと、皇姫様ならば……》
《そのままで良いですヨ。ここではただのレツァルアですかラ》
《ありがとうございます。レリーアさんは、マリスタザリアはどう思っているのですか?》
漸くマリスタザリアの話になりました。ここから更に白熱していくのでしょう。ボロが出るとしたら、ここからです。
《こちらでは多いようですネ。船でも言いましたけド、良い印象がありませン。向こうでは月に一体、戦闘地域に出るかどうかってくらいですけド……色々と亡くした物がありますかラ》
《やはり、この国での出現が多いようですな》
《そうみたいですネ》
《”巫女”が居るからと思っているのですが、どう思いますか?》
話を合わせるかどうか、シーアさんが迷っています。実際私の所為で増えているのでしょうから、合わせて頂いて構いませんよ。
《”巫女”が進化を促しているとすれバ、ここを目指すのも納得ですネ》
《そうでしょうとも》
《そういえバ……この町の、マリスタザリアの特徴を聞いて思ったんですけド》
《はい》
《皇国や共和国、旅の中で見た物と少し違う気がするんですよネ。獣らしさを多く残しているといいますカ》
少し踏み込んでみるようです。聞き手のままでは相手から引き出せません。シーアさんから興味を示すつもりなのでしょう。
《お気付きになりましたか》
不気味にクツクツと、ヘトヴィヒが笑っています。
《あれは進化の過程なのだと思います》
《過程ですカ》
《はい。試行錯誤の最中ではないかと思うのです》
”悪意”を全く信じていない人による、マリスタザリア論。それを知る事で、私達はまた一つ”人”を理解出来ます。”巫女”を信じていない人達の真実を、ここでしっかりと認識しましょう。
《ふム。獣の部分を強く出すカ、人としての機能を強く出すかって所ですカ。どちらがより強く人を恐怖に陥れることが出来るかを模索しているト》
《そうです! やはり貴女と出会えた事は奇跡だ!》
マリスタザリアに対し、そこまで考える人自体稀です。その中でもシーアさんは、しっかりとヘトヴィヒの言い分を理解しています。だからこそシーアさんだけが、ヘトヴィヒのお目がねにかかったのでしょう。
《人の姿では”巫女”をとる事が出来なかったマリスタザリアは、獣に戻ってみる事にしたと思っております!》
《それヲ、どうやって証明するんでス?》
《それはやはり、捕らえてみなければ》
嗤いが絶えません。シーアさんの溜息が小さく聞こえましたが、ヘトヴィヒの耳には届いていないようで熱が更に込められていきました。
《神の威光たるマリスタザリアを捕らえるなどおこがましいとは思います。しかし、人の進化もまた神の意向なれば、私は悪に身を落とすことも》
司祭イェルクに似ていると感じた部分が、出てきたようです。はっきりとした言葉で表すのなら――マリスタザリアの強さに、その強さを暴く自分に、それを手に入れられる確信に、酔っていると表現するのが正しいと思います。
”悪意”が減ったという私達の論と、ヘトヴィヒの試行錯誤論、どちらを人々は信じるのでしょうか。マリスタザリアが神の存在証明という論を信じるかどうか、それが前提となるのかもしれません。
「ん、気配が分かれたっぽい」
「”悪意”の方は、どうでしょう」
「そっちは、残ってる。分かれた方は家に戻ってるのかな」
「マリスタザリアを運んでいた方が居るのなら、今突入した方が良いですね」
マリスタザリアを運べる方ですから、殺す事も出来るでしょう。いくらでも言い訳出来ます。まずは運んでいた方を捕らえ、家の下に居るマリスタザリアを確認すべきです。言い逃れ出来ない状況へと追い詰めましょう。
「ここまでくれば、町を襲う為だったとしても対応出来ますね」
「うん。家の方に急ごう」
少し駆け足でヘトヴィヒ宅に向かいます。相手に考える隙を渡してはいけません。
「ごめんください」
ノックをして暫く待つと、鍵が開きました。そこから出てきたのは――レイメイさんです。
「どうした」
起きていたのですか。薬を盛られたと思っていたのですけど……こうやって自由に動けているという事は、分断に成功したのでしょう。
「こちらにマリスタザリアが運ばれました。強制捜査をします」
「どうしてレイメイさんが応対を?」
「まぁ、説明すっと長ぇが」
まずはお互いの状況を確認します。レイメイさんは、眠らされそうになったから一芝居うったそうです。私達の方からは、地下の状況とクラウさんの容姿を伝えておきましょう。見つけたら最優先で保護をお願いします。治療が必要ならば、私を呼んでください。
「まぁ、上がれよ。黒ならさっさと捕まえた方が良いだろ」
「ヘトヴぃヒはどちらへ?」
「研究室だな。こっちだったと思うが」
研究室に入ると、培養槽や試験官が並んでいました。中には……何かの肉片や、色がおかしい液が入っています。生物学者の中でも……手段を選ばない方なのでしょう。生きた動物も居ますが、殆どが――ばらばらです。
「風が流れてる。あそこに地下があるね」
「どうしましょう。シーアさんならば大丈夫と思いますけど」
「先にシーアさんを――っ」
どちらに向かうか考えてると――爆発音と揺れ、そして何かが崩れる音が聞こえました。場所は……研究室の奥です。
「何だ……?」
「レイメイさんは地下へ突入してください。私達は爆心地へ」
「あぁ」
シーアさんが使った魔法と思いますが、抵抗しなければいけない状況なのでしょう。そちらに私達が向かい、地下での戦闘はレイメイさんに任せます。行動を開始し、研究室の奥に向かいますが――部屋を四つも挟みました。それなのにあの爆音と揺れ……かなりの規模です。
「とりあえず私から入るね」
「……分かりました。盾と”光の槌”を用意しておきます」
室内ですし、何が起きるか分からない状況下での判断力と瞬発力は……リッカさまが上です。私が支援に回るべきでしょう。扉を開けて真っ先に感じたのは、熱気と煙たさ、そして次に漂ってきたのは……生き物が焦げた、脂の臭いでした。
「シーアさん?」
リッカさまの呼びかけに、反応が一つもありません。部屋も真っ暗で、灯りの一つもないようです。爆発はシーアさんによるものですが、当のシーアさんからの反応が無い事に、私達は焦りを覚えています。
「――――っゲホっ」
「シーアさん!?」
「リツ、カお姉さん……巫女さんも……」
目が慣れてきました。それでも辺りは暗いのに――起き上がったシーアさんの顔色は、今の私達でも分かるくらい青白いです。酸欠になっているのでしょう。チアノーゼが出ています。爆発によって周囲の酸素がなくなったから、というのもありますが……何よりも、体が変調をきたしているようです。
「アリスさんはシーアさんを」
「お任せ下さい」
症状が分かりません。病気や怪我という訳ではないのに、体が震えています。呼吸が荒く、目の焦点が合っていません。軽い吐き気と眩暈は、胃や肝臓といった部分に異変が起きているのでしょうか。そして、体の痺れが起きている事が気になりました。
改めて周囲を診ると――何か、漂っています。考えるより先に”拒絶”を、リッカさまとシーアさん周辺にかけました。
『この爆発はシーアさんによるもの。ヘトヴぃヒはどこに……気配は、壁際――』
「ケヒッ……ケハハッヒャハハハハッ!!」
「……っ」
嗤い声の方に顔を向けると――人影が二つあります。
「まさか、気付かれるとばッ! 影の中がらの、急襲をッ!! ケヒヒッゥイ!」
「ヘトヴぃヒ」
「その声、赤の巫女でずかァ? ヒヒヒッ隠れるのは止めたのでずがな?」
ここに来た事と、名前を聞いて確信したのでしょう。”巫女”とバレましたが、今露呈したところで意味はありません。私達が気にすべきは――「影の中からの急襲」です。ですがそれよりも……シーアさんが先と、診察を再開させます。体内に異物が入っていると感じました。まずはそれを取り除くべきでしょう。
「……」
「あぁありがどう。君は皆の所に行ってなざい」
「……」
「言う事が聞けないのがね?」
「っ……」
人影が一つ、減ったようです。間違いなく……”影潜”でしょう。魔王はすでに、この者達に手を貸していたようです。
『気配は影の中にある。でも――どう、したら。あの影の大きさからして、あの子は……っこっちに悪意は向いてなかった。今は、ヘトヴぃヒを』
影を見送り、リッカさまはヘトヴィヒに集中しています。魔王の手の者であれば、警戒心の上限などありません。リッカさまは今……全力でヘトヴィヒと対峙しています。
「そちらは大丈夫でずがな」
シーアさんの”爆発”は、”影潜”の者ではなくヘトヴィヒを狙ったようです。そして先程の嗤いと歓喜の絶叫が止めとなったのかもしれません。声が掠れています。心配も同情もありません。話せるのなら問題ないでしょう。
「何をしたの」
「何。ちょっどじた実験――」
「――っ!!」
返答次第では命を断つ。その殺気を受けて尚、ヘトヴィヒは嘯きました。だから――リッカさまはヘトヴィヒの鳩尾に、震脚を用いた掌底を抉り込んでいます。激情に任せての一撃、油断と言えない刹那ではありましたが、魔王幹部であれば強襲出来ました。それでも来ないという事は……ここには居ないと、思って良いのかもしれません。
「グ、うぇ……ッ」
「しっかり応えて」
「実験――」
「シッ!!」
「――ッ!!」
今度は膝で、鳩尾を打ち抜きました。シーアさんの事だけでは、ありません。あの影に潜った者……いいえ、あの子の事を考えているのでしょう。このヘトヴィヒは――狂人は、やってはいけない事をしました。
「リツカお姉さん……それだと、喋れないです」
「大丈夫。喋りやすいように呼吸を整えてあげてるだけだから」
興奮気味の狂人は呼吸が荒く、声を荒げていました。だから落ち着かせるために鳩尾を打ち抜いていたのだと、リッカさまは冷めた目で見ています。更に回し蹴りを鳩尾に打ち込みました。横滑りするように吹き飛んだ狂人は、壁に激突して漸く止まったようです。
「シーアさん。何を打たれたんですか」
「分かりません……。チクっとして、何かを入れられたのは……」
「これ、かな?」
注射器、ですね。アルツィアさまから聞いた形状そのままです。こちらの世界にはなかったはずの、向こうの世界の道具。狂人は独力で造り上げたのでしょう。
「中には血が入ってる」
「リッカさま。見せていただけますか?」
「うん」
シーアさんに入れられた異物は、それだと思います。問題は誰の血液か、です。レイメイさんの戯言の時もそうですが、他者の血は劇薬になりえます。治療を続けながら、血液の詳細を診ました。これは――やはり、です。
「……」
『鼻につく臭いがする。何かのガス……?』
「リッカさまにはしっかりと”拒絶”をかけています。ご安心を」
「うん。何かの毒……?」
「神経毒です。体を瞬間的に麻痺させます」
シーアさんもそれにやられたのでしょう。”拒絶”を掛けているので、私達には届きません。しかし……強力な神経毒ですが、これは世紀の大発明です。私の”拒絶”か、上級の”痛み止め”でも無い限り、激痛を緩和する事など出来ませんでした。ですが、この毒を薄めれば……麻酔になりえたはずです。
「これ程の研究成果。人の為に使うことも出来たはず。この世界の医療技術が大きく飛躍したでしょう……。それを、こんなことに」
人体の知識もそうでしたが、この人が狂人でなければ……救える命が沢山あります。それを、このような……非人道的行為にのみ使うなど、人の心が、ないのですか。何より、この注射器に入っている血……動物の物ですらありません。
「シーアさんに入れられたのは、マリスタザリアの血です。拒絶反応が起きているので、すぐに取り除きます。時間を下さい」
詳細は分かりました。”拒絶”でシーアさんの中から完全に取り除きます。
「うん。その間、私が守ってるから」
「すみません……私が、また足を……」
マクゼルト戦の時を、思い出しているのでしょう。シーアさんが俯いてしまいました。
「シーアさんが悪いなんて、ちっとも思ってないよ。無事で良かった……昨日も、それだけが心配だったんだから」
「……ありがとう、ございます。リツカお姉さん……巫女さん……」
足を引っ張ったと、シーアさんは思っているようですが……そのような事は一切ありません。シーアさんが一番、動いています。だから狙われる機会が多くなってしまうのです。今回も、シーアさんに危険な役目を押し付けてしまいました。
私達が不甲斐ないからと、断言出来るでしょう。私達はシーアさんを、足手纏いと思った事などありません。
「ゆっくり深呼吸を。腕に傷をつけますので、少し痛いかもしれません」
「やってください……」
取り除いた毒素を体外に出す為、傷をつける必要があります。
「ヒヒッ! 無駄無駄……もうマリスタザリア化が始まっで……ゲホッるのではないかね?」
『気を失ってもおかしくないくらいの勢いで蹴ったんだけど、力を抜きすぎた? それとも、ぶつかった場所が悪かったのかな。何かがクッションに――』
「それ、マリスタザリアですか」
「あぁ? あぁ、そうですよ。美しいでしょう?」
「あなたと私では美的感覚に大きな齟齬がある」
「まぁ、敵を美しいとは言えませんよねぇ」
リッカさまの蹴りが思ったよりも効力を発揮しなかったのは、壁に狂人が激突するのを――マリスタザリアの遺体が、衝撃を吸収したから、みたいです。壁に、マリスタザリアの亡骸が飾ってあります。保管しているのではありません。芸術作品のつもりなのか、飾ってあるのです。
「マリスタザリア化が進んでるって、何の事」
「そちらの皇姫様ですよ」
「そんな事なりませんよ」
血液を入れられて起こる事はマリスタザリア化ではありません。ただの、殺人です。この注射が、この狂人の研究成果とでもいうのでしょうか。この人が言う事は、私達以外の真実たりえます。それを証明するための研究であり成果なのでしょう。ですが――それが証明される事はありません。私達の言葉に信憑性はなくとも、これが結果です。
「直に分か――」
「治療完了しました」
”拒絶”は完了しました。流石はシーアさんです。このような状況でも”悪意”に『感染』する事なく自我を保てていました。
「何……」
「貴方はマリスタザリアの事を、何も分かっていない」
「ッ……!?」
過剰な挑発をリッカさまが行った理由は、簡単です。シーアさんと私から狂人の意識を逸らす為でしょう。研究に自信がある狂人は、邪魔をした私に何をするか分かりません。その自信がどこから来るのか……あの、小さい”影潜”の子が関係しているはずです。
「血を入れたからって、マリスタザリアになったりしない」
「貴女方に分かるはずがない。試した事など無いでしょう。既に成果は出ている……!」
「……他にもやったんですね。クラウちゃんは何処ですか」
「ハハハァッ……。さて、どこでしょうな」
地下の気配が、そうなのでしょうか。じわじわと、リッカさまの第六感が警鐘を上げています。私もまた……嫌な想像をしてしまっているようです。血液は関係ないと断言出来ます。ですが……執念とは、負の感情です。その執念を一身に受ければ、或るいは――。
ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!




