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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
41.成長と変化
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『メルク』因縁⑤



 続きを話しましょう。私は口下手でしたから、言葉が足りなかったのだと自覚しています。今日は、言葉を尽くすつもりです。


「アルツィアさまはあなたの事を心配してました」

「そう言ってたわね」

「今でも心配している事でしょう」

「何を言ってるの。心配なんてする訳ないじゃない」


 私がお世辞を言うはずがないと、分かってくれているようですが――認められないようです。私とアルツィアさまはそう思っていなくとも……ルイースヒェンさんには「証拠」ともいうべき実体験があるからでしょう。


「”光”の剥奪ですか」

「そうよ。移譲式を行う事なく、剥奪という形で終わってしまったのよ?」

「あの時に関してはあなたの自業自得です。私を守る為に、”神林”から出る事が出来なかったのです」


 それに……声が聞こえなくなってしまったあなたに、式の開始を告げる事は出来ません。私経由で言っても、あなたは応じなかったでしょう。結果は、変わらなかったはずです。あの時のあなたは、”巫女”に執着していたのですから。


「本来であれば対面して行う移譲式は、お互いの同意を以って完遂されます。大抵の場合、すぐに同意がなされると聞いています」

「そうなの? ……あっ」


 思わず、と口を手で押さえたリッカさまに――表情が硬くなっていた私の頬が自然と柔らかくなりました。


「はい、リッカさま」


 一緒に、話をしましょう。リッカさま。ここには”巫女”しか居ません。私達は分かり合えるのだと、ルイースヒェンさんにも感じて貰いましょう。


「候補の方は、アルツィアさまの声が聞ける事に喜ぶ場合と、強制と言われ諦めてしまう場合があります」

「どっちの方が、多いのかな」

「今の所、半々です」


 いくつか理由があると思いますが――まず、信徒かどうかの差があるのだと思います。喜ぶ方達は、誰も聞けないはずのアルツィアさまの声を聞けるというのは名誉であると考えてくれるのでしょう。


 そして、諦める側ですが……まず、”巫女”が連れて来られる手順を説明する必要があります。


 集落に居る”巫女”が、次の”巫女”の名前と居る場所を告げるのです。()()()()……”巫女”が逃げ出した事で、集落の者に代わりをお願いしたそうですけど、基本的には”巫女”を経由して候補が告げられます。


 それを聞いた集落の者が教会に連絡して、教会の者が”巫女”を連れてくるのですが……その時どんな教会の者が行くのか、それが問題です。苛烈な方、それこそ――司祭イェルクのような方が”巫女”に選ばれた事を告げに行こうものなら、諦める側になってしまうでしょう。


 強制ではないのに、強制かのように話すのですから。


「ちなみに、私は諦めた側よ」

「さっきまでの話を聞いてたので、そんな気はしてました」


 リッカさまの言葉に、ルイースヒェンさんが肩を竦めました。ルイースヒェンさんを連れてきたのは司祭イェルクではなかったそうですが――同じくらい、苛烈な方だったようです。


「あなたはどうなの? 向こうの世界とやらでの選別がどういう物かは知らないけれど」

「向こうでは、六花の家から選ばれます。一応断る事は出来ますけど、断った人は居ません。私は――”神の森”……こちらでいう”神林”が好きだったので、喜んでなりました」

「おかしな人ね」

(アルレスィアと一緒か。物好きって結構居るのかしら)


 喜んでは、いたのでしょう。”神の森”に入られる事に関しては……ですが。ルイースヒェンさんとは違う理由ではありますが、リッカさまも……苦しんでいたのですよ。何しろ、()()()()()、似ていたのですから。


 向こうの世界の方は魔力を閉ざされているので、アルツィアさまの声を聞く事が出来ませんでした。それは、リッカさまであっても同じです。つまり――どうして”巫女”になる必要があるのか。どうして自由を奪われるのか。正しい説明をしてくれる人が居ないのです。


 リッカさまに説明を施した人は――司祭イェルクにそっくりな方だったと、視て、聞いています。ルイースヒェンさんは「おかしい」と言いますが……リッカさまとルイースヒェンさんは、境遇が……似ているのです。


『おかしな人とは、失礼な。まぁ……自分でもおかしいとは、思うけど』

「続けます」

「邪魔したわね」

(ああ、この子――そう。あの、アルレスィアねぇ。ほんと、普通の子だったのね)

「……」


 本当に、人の弱みを……触れられたくない部分を見つけるのが上手な方ですね。


「諦めてしまう方も居ますけど、基本的には前向きに役目を受けます。しかし”巫女”の殆どが、”神林”での役目に疲れ果て……移譲式の頃には辞めたいと思ってしまうのです」


 ルイースヒェンさんも、初めの頃はそうだったはずです。遠くに連れて来られたのは嫌だったけど、アルツィアさまの声を聞いて前向きに取り組もうとしていたと――アルツィアさまが言っていました。


(ルイースヒェンさんには、当て嵌まりませんでしたが)

「二者の間で、想いは一致しています」

「だから移譲式の同意で、止まった事がないんだ」

「はい。本当であれば……私の時も移譲式を行う予定だったのですけど……」


 何度も言うことでは、ありませんね。今でも過っていますし、ルイースヒェンさんから距離を取ろうと体は動いていますが……今のルイースヒェンさんを見てしまうと、溜飲が下がっていくような感覚が、あります。それはルイースヒェンさんも、同じみたいです。


「……そっか。今にして思えば、なんであそこまで……”巫女”に拘ってたのかしら」


 私も、ルイースヒェンさんも――飲み込めて、いるのでしょうか。やっぱり私達には、会話が足りなかっただけなのですね。”巫女”への執着が消えた今のルイースヒェンさんには、あの頃の自分が他人のように見えている事でしょう。


「失いたくなかったからでしょう。”巫女”だからこそ得られた贅沢を。しかしそれは、”神林”に居たから欲した物です。ここには自由があります。”巫女”である必要がありません」


 この人の言葉には、裏表が殆どありません。思った事を言っているだけのように見えます。それが私との軋轢に繋がったとはいえ、理解してしまえば……さっぱりした方なのでしょう。そんなルイースヒェンさんが、どうして……この町をこんな、変な外観にしてしまったのか、分かりません。


「”巫女”としての役目を終えたあなたを、この町は優しく迎え入れたはずです」

「えぇそうね。両親も最初こそ驚いてたけど、すぐに分かってくれたわ」

「ならばなぜ、私達を陥れるような真似を」


 本題に、入りましょう。今までの話と様子からして……町に帰って落ち着いてからは、私の事を忘れて元の生活に戻ったはずです。


「”巫女”を辞められた事は嬉しかったわ。少し寂しさはあったけど」

「それならば、静かに過ごす事も出来たはずです」

「貴女が素直になったから、私も素直になってあげるわ」


 ルイースヒェンさんの雰囲気が、変わりました。ドルラームが離れていきます。今のルイースヒェンさんは――集落の頃に、そっくりです。


「私も貴女が……大ッッッ嫌いなのよ!!」


 地面を踏み鳴らし、声を荒げて周知の事実を告げました。嫌いじゃないと、あんな事、出来ないと思います。余りの変容に、二重人格を疑ってしまいますが……どちらも、ルイースヒェンさんのようです。


「”巫女”として過ごすのも悪くなかった。イェルクが持ってくる、権力者達からの賞賛も悪くはなかった。集落の人が見せる敬意も、何もかもが悪くなかった」


 集落の人達に呆れたような、嫌っているような態度を見せていたと記憶していますが――内心、喜んでいた事も知っています。そういった所が、昔の私には「気持ち悪く」視えていたのです。


「アンタと……森だけは嫌いだった……ッ!!」


 言われなくても、それこそ心が視えずとも――あなたが私を嫌っていた事なんて、全部知っています。


「……」

「その目よッ!! 何でも知ってるって目……ッ!! こっちの事を何でも知ってるって態度も……!」


 こればっかりは、仕方ありません。今は意識的に集中して、あなたの中を視ようとしていますが――あの頃は、アルツィアさまが傍に居ると……勝手に、視えてしまったのです。私だって、視たくて視た訳ではありません。こんな能力、なければ良かったと何度も思いました。


『アリスさんの感覚は、鋭い。見透かしたように、相手の考えを読めるときがある。集中してる時と他にもある条件が揃った時だけみたいだけど、正確』


 流石は、リッカさまです。殆ど正解に近づいています。アルツィアさまの傍から、貴女さまの傍に、条件が変わっただけです。そして……貴女さま以外の心は、全力で集中しないと、視えなくなりました。


 この能力を忌避しています。だから視えなくなっても良いと思っているのです。ですが……これが必要な事も、痛感しています。そんな中途半端な心が、歪みに繋がっているのでしょう。視てはいけないものを視て、視なくてはいけない物が視えなくなってしまったのです。


(貴女さまの心を覗き視ては、いけないと思っているのに……)

『先代は、それが嫌だったのかな。私はアリスさんが自分よりも大切だから、アリスさんが私を見たいというのであれば全て見せる、けど……いつか、全て!』


 本当はリッカさまも……私の心が視えているのではないかと、思う時があります。私が欲している答えを、くれるから。


「森は寂しい所だった。誰も居ない、何もない……ッ!」

「寂しい……ですか?」

「アンタは違うっていうの!?」


 ”森”が寂しいというのは、私には――いえ、私達には分からない感覚です。


「リッカさまも私も、”神林”でそんな気持ちになった事はありません」

「向こうの世界に居た時……森に居る間だけは、幸福でしたけど……」


 私も、”神林”の中だけが安全な場所でした。


「やっぱり、変わり者ね。アンタ達」


 距離を取る為でしょうか。ルイースヒェンさんが離れていきます。変わり者なのは当然です。実際、私達は……普通とは違うようですから。


「イェルクが私を歪めたって言ったわね」


 背を向けたまま、話し始めました。会話は終わり、という事でしょうか。


「私は”巫女”に歪められたのよ」

「それが、あなたが出した結論ですか」

「そう。私は、ずっとアンタに復讐したかったッ!!」

「復讐って、アリスさんは何も」

「生まれてきたでしょ」

「は?」

「この子が居なかったら……もっと穏やかな集落生活を送れたのよッ!! 生まれてさえ来なければ良かったのよ!」


 唖然とした後――リッカさまの赤い魔力が、牧場を包み込みました。ルイースヒェンさんにしてみれば、私という存在そのものが赦せないのでしょう。ですが……ルイースヒェンさんから仕掛けてきたと記憶しています。私は出来るだけ、衝突を避けていました。


『生まれただけで、復讐の対象に? 何を、言っているの。アリスさんが生まれてきてくれて、私は神さまに感謝するばかりだというのに』

「リッカさま……」

「あ……ごめん。聞き捨てならなさすぎる言葉だったから……」

「い、いえ。ありがとうございます。リッカさま」


 このままいくと、話し合いでは終わりません。確実に、戦闘に発展します。ですが……リッカさまが怒ってくれた事に、喜んでしまいました。私が、生まれた事を喜んでくれて……ありがとうございます。


(私も、貴女さまの誕生を――)

「睦み合ってんじゃないわよ……ッ!」

「睦……?」


 首を傾げたリッカさまの前に立ち、真っすぐにルイースヒェンさんを見据えます。睦み合って等、いません。私はちゃんと、あなたと向き合っています。


(過去は過去、です)


 あの頃を変える事は出来ませんし、変えようとも思ってもいません。ですが――過ちと傷に正面から向き合い続けていました。リッカさまと出逢い……私は、ここまで進んで来たのです。私は、生きています。人形ではありません。


「私は生まれて来ました。それは私にはどうしようもありません。謝る事も出来ません」

「うっさいッ! だったら黙ってれば良かったのよ……!! アンタを見てすぐに分かった……明らかに、アルツィア様の姿が見えてるって……ッ」


 黙っていたのに、あなたが私を……いえ、それでも黙っていれば良かったという事なのでしょう。


『身勝手な事を……っ……私の怒りは、マリスタザリアが出た時まで取っておく……』

「いつか”巫女”になるのは分かったわ……。それに、自分の無力も……ッ! 嫉妬した……どうでも良いはずの”巫女”が……惜しくなった……!」

「ならば何故、私の言葉に耳を……。それが出来ないから、恨んだのでしたね」

「分かるっていうのも考え物ね? 私がどれだけ……自分の矛盾に苦しんだか分かるんでしょッ!?」


 どうでも良いと思っていた”巫女”という役目。アルツィアさまと話せない事も仕方ないと割り切ろうとしていた中で、私が現れました。巫女”でもないのに自分より優れていると、”巫女”として劣等感を感じたのでしょう。


 私は、ルイースヒェンさんの考えが読めていても……気持ちまでは、読めていなかったのです。


「どんなに自分を騙しても、苦しかった”巫女”の仕事……。アンタはアルツィア様から慰められてたんでしょうけど、私にはそんなのはないわッ!!」


 外の世界を知らない私は、”巫女”のお役目が辛いと思った事はありません。慰めて貰う必要がないくらいに、自主的に”森”に通っていましたし、”お役目”の為に頑張っていました。


 だから――昔から私は、ルイースヒェンさんの気持ちを理解する事が出来なかったのでしょう。すれ違いはそこからも、起きていました。


「皆崇めるけど、助けてはくれないッ! 一言目には役目……二言目には森……森、森……森ッ森ッッ!! 私の顔は全ッッ然見ない……ッ! こんな仕事……辞めたいって思ってたのに……いざ無くなるとわかると……アンタに奪われると思ったら……ッ」


 感情が、ぐちゃぐちゃです。集落でもそうでしたが――そのまま、この町でも過ごしていたのでしょう。私を貶める事で溜飲を下げていたのに、私が現れてしまったのですね。


「”巫女”の苦しみは”巫女”にしか分からない……。唯一の理解者……アルツィア様と話せない私には、どうしようもないのよ……ッ! 矛盾を抱えたまま、何をすればいいのか分からない毎日を生きて……ッ!!」


 ”巫女”が辛かった。それを言う事は、許されませんでした。他でもなく、司祭イェルクの存在故に。お母様になら、言えたでしょう。お母様がお世話係のままだったら、いつかお母様の方から声を掛けていたはずです。ですが――ルイースヒェンさんは私と一緒に、お母様まで遠ざけてしまいました。


『ここまで”巫女”を嫌ってるのに……何で……』


 リッカさまは、あの町の形状が気になっているようです。私も、ずっと気になっていました。


(この様子では……ルイースヒェンさん主導では、ないようですが)

「何故、”神林”と似ているのですか」


 私の質問に、ルイースヒェンさんが肩を竦めました。これくらい、あんたなら分かるでしょ? と言いたげです。ですが、ルイースヒェンさんは――これも、ずっと言いたかったのでしょう。


「簡単な話よ。町民がうるさかったから。せっかくなら見た目を一緒にしましょうってね」


 やはり、あの見た目にしたのは……町民の意思でしたか。あそこまで精巧に出来ているのですから、ルイースヒェンさんに根掘り葉掘り聞いたのでしょう。


「笑えるでしょ? 更にこんな事も言ったわ。そっちの方が落ち着くでしょう? だって、長いこと住んでた場所なんですもの。ってね」


 くつくつと笑っていたルイースヒェンさんの歯が、ギリッと鳴りました。


「こんな景色……見たい訳ないでしょッ!? わざわざ景色を聞いてきて、無駄に精巧に作って……。なんで私が……ッ自分でッ!」


 町民には――人生の半分を過ごした場所に近づけて、少しでも労おうという気持ちがあったはずです。ルイースヒェンさんならば、その意図に気付いたでしょうけど……労いだったからこそ、断り切れなかったのでしょう。


「いつかぶっ壊してやろうって思ってた……。なのに神隠しぃ……? お陰で”巫女”を演じないといけなくなった……。町民のアホ達、私にまで憎悪を向けてきたのよ!? 信じられるッ!?」


 一度流されてしまうと、止まらないものです。ルイースヒェンさんが”巫女”を憎む背景には、集落の事だけでなく……この町での事も、含まれています。もしかしたら、町でこのような事になっていなければ……時間が解決したのかもしれません。


(少なくとも、さっきまでの会話では……そう、感じましたから)

「”巫女”を辞めたのに、何で”巫女”に振り回されなきゃいけないのよ……ッ」


 自分達の町から出た”巫女”という事で、こんなにも喜んでくれる方達なのですから……信心深い方達なのでしょう。神隠しを信じ、それを起こしてしまったのは”巫女”の所為と勘違いするのも……仕方のないことかもしれません。


「ま……。アンタ達の所為にすれば良いって思って、開き直ったけど。ついでにアルレスィアが苦しめれば儲けってね。アッハハッハハッ!!」


 巻き込んでしまって申し訳ないと、思わなくはありませんが――結局あなたは、昔と変わらず……私の所為にするのですね。此度は、リッカさままでも巻き込んで。


(あなたの本質は間違いなく、善です)


 アルツィアさまの言った通り、根は良い人なのでしょう。ですが――違います。


「これでも故郷には愛着があるのよ? だからここで快適に過ごしたいって思ってるの。なのに、私の邪魔ばっかり……」


 邪魔はしていませんが、今言うべきはそれではありません。


「先程”巫女”の気持ちは”巫女”にしか分からないと言いました」

「言ったわね」

「あなたの先代、そのまた先代ならば、分かって上げられるかもしれません。ですけど、私……いえ、私達はあなたと分かり合えません」

「私が出て行った後に歌劇場でも出来たのかしらね」


 歌劇場でもないと、あの集落は楽しくないと言いたげですね。実際……集落の方達も、王都を知ったら戻って来ませんから、普通はそうなのでしょう。


「歌劇場ですか。それに近いものではあります」

「はぁ……?」


 こちらの説明は、私よりも――リッカさまの出番です。微笑み、頷いた私に――リッカさまは、頷き返しました。


「森は歌うんですよ」

「急に何言ってるの? 狂った?」


 リッカさまは狂ってなどいません。私はリッカさまほど鋭敏な感覚を持っている訳ではありませんが……”神林”が普通の”森”と違うのは分かっています。私達が言いたいのは、森と”森”の違いです!


「朝陽が降り注ぐと、木々は大きく背伸びをします。昼の光は木々に安らかな眠りを与え、夕日で目覚め、演奏を始めるのです」


 私達がどう感じているのか。まずは知ってください。


「葉が葉と触れると、森は笑うんです。種子の落下は、森に喜びを。風が湖を撫ぜ水音を奏で、葉と共に歌うんです」


 ルイースヒェンさんが居る時に入った事もありますが、その時も”森”は明るかったです。私を励ましてくれたのは、慰めてくれたのは――間違いなく、”神林”でした。


「木々が揺れる様は踊っているようにも見えます。神林という舞台。葉と湖、種子が奏でる演奏で、木々が踊るんです。寂しい事なんてありません。森は生きてる。寄り添ってくれていたじゃないですか」

「森が……? アルレスィア。この子おかしいんじゃないの?」

「私にも同じ感覚はありました。だから私達は分かり合えないと言ったのです」


 どちらが正しいとか、おかしいとか、そういう話ではないのです。リッカさまの言っている事は間違いなく私も感じていたものですし、ルイースヒェンさんどう感じていたのかもアルツィアさまから聞いています。


「アンタ達……人間じゃないわ」


 私達からどんどん離れていくルイースヒェンさんには、驚愕と嫌悪感が滲んでいました。このまま何も話さなければ、昔と一緒です。他者との違いを理解する事無く、自分の言いたい事を言っていた、あの頃と。


 リッカさまとの出逢いは、私を大きく成長させました。今までとは違うと、今度こそ見せましょう。アルツィアさまのお願いを、叶える時です。


「”巫女”は人間として認識されていませんから」

「……散々人に突っかかる割には、簡単に身を引いてたアンタがね……。成長を感じるわ」

「良き出逢いは人を成長させます」

「皮肉まで上手になったわね」


 私が一歩を踏み出すと、ルイースヒェンさんは下がってしまいます。この距離がそのまま、私達の心の距離なのでしょう。私の落ち着いた心とは裏腹に、ルイースヒェンさんだけは緊張を高めていっています。


 最悪の場合も、想定しないといけませんが……そうさせないように、今の私なら――出来るかもしれません。



ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!

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