『メルク』ツァルナの香り⑦
楽観していた訳ではないが、予定とは思い通りにいかない物なのだと痛感する事になった。集会所等の施設を使い、旅に必要な知識を教える予定だったのだが――ルイースヒェンが殆どの時間を集会所で過ごすようになったのだ。
計画が露呈したのかとゲルハルトは慌てたが、イェルクが頻繁に来るようになったので、自宅よりも集会所に居た方が都合が良いと思っての事らしい。イェルクへの要望を伝えに、自宅まで集落の者達がやって来るからだろう。いちいち応対するのが面倒だから、初めから人が集まる場所に出てきたのだ。
(欲望って際限がないのね。って、私もか。面倒だけど、私の価値なんて伝言係くらいしか――)
集落の者達が自分をどう思っているか考え、ルイースヒェンは舌打ちをして窓の外に目を向けた。集会所の窓からは――ゲルハルト宅が良く見えるのだ。
(ゲルハルト達、何を企んでるのかしら。大人しすぎて不気味。本当にあの子を諦めたっていうの?)
「巫女様」
「はいはい。次は何?」
「いえ。そろそろお時間かと」
「……分かったわ」
怠そうに立ち上がり、ルイースヒェンは”森”へと歩を進めた。
(最近、寒いのよね。森ってもっと温かくなるはずだけど。やっぱりおかしいのね、ここって)
アルツィアとは違い、”神林”はルイースヒェンを嫌っているようだ。それは何も、アルレスィアを虐げているからではない。”神林”は幼くないので断言出来る。では、何故嫌っているのかだが――。
『ルイースヒェン』
「……? 呼び、ましたか?」
『”光”を灯してくれ』
(……気のせい、ね。葉っぱの音しか聞こえないわ)
ダメか。このままでは……”悪意”に蝕まれてしまう。自分に魔法を使う事は出来ない。”光”を使って自分を浄化する事は出来ないのだ。それでも、”光”を灯せば少しは祓えるかもしれない。そう考えてお願いしている。
”巫女”が”悪意”に掛かるとは考えていなかった。今はまだ、”神林”が嫌う程度で留まっているけれど……何れ、拒絶される。そうなったら、アルレスィアの準備を待たずに移譲するしかない。
『私は、きみに嘘を言った事はないよ。ルイースヒェン』
きみはアルレスィアの繋ぎじゃない。どうか――きみ自身が”巫女”としての人生を誇れるように、持ち直して欲しい。
「……これじゃ、集会所を使うのは無理ね」
”森”に入っていくルイースヒェンを見ながら、エルタナスィアとゲルハルトが肩を落としている。
「どうする……?」
集会所が使えないのなら、図書館や自宅で教えるしかない。物事を教えるだけならばそれで良いけれど――旅に必要な物は知識だけではないのだ。
「食堂は、どうかしら」
「人払いが難しい場所だ。集会所に巫女様が入り浸っている今……人も集まってしまう。高台周辺には近づかない方が良い」
「そうよね……」
料理に関しては、食堂で教えたいと思っている。実践が必要だからだ。しかし、食堂は集会所の隣にある。誰も居ない食堂から音がしていれば怪しまれるだろう。
ただでさえ人の出入りが激しいので、細心の注意を払ってやっとの事で人が居ない時間を作り出せたのだけど――ルイースヒェンが集会所に居る時間が不定期な為、人の流れが変わってしまったのだ。
守護者の動きもそうだが、食堂の利用時間も不安定になってしまった。イェルクが来た時は夜遅くまで宴会を開いている。中々厳しい状況だった。
「司祭様も、王都の復興に伴って来訪も減っていくだろう。それまで待ってくれ」
「分かったわ」
訓練は難航している。だが、アルツィアに焦りはない。料理の腕は中々上がらないが、それ以外は順調だからだ。エルタナスィアの教え方が上手い事もあるのだろう。ただ――アルレスィアの才能には目を見張った。
複雑な事も一度聞いただけで覚え、応用する。物覚えが良いだけではない。考える力が桁外れなのだ。
「進捗の方は、どうだ?」
「すぐにでも、私が教えられる事はなくなりそう」
少し寂しそうに、エルタナスィアははにかんでいる。あくまで教科書の内容が終わるという話だ。アルレスィアは一年で、十二年分の学習を終えようとしていた。文字の読み書きを小説や論文も使って学ばせ、歴史はアルツィアから聞いた真実ではなく世間の現実を教えている。基礎的な勉強に加え、兎にも角にも世間とのズレを矯正していった。
(性についても、教科書で教えられる範囲は教えたけど……それ以上は、もっと大人になってからね。心を読めるから、男という生き物を直で視すぎてる。もっと落ち着いてからじゃないと、理解出来ないでしょう)
「これから実践していったり、経験していく中で分からないところが出て来るだろうから、勉強はまだ終わらないけど」
「何か、あるのか?」
「少し、ね。急ぎすぎてる気がするの」
学ぶ姿勢は真剣そのもので、質問も多く飛び交った。今までの遅れを取り戻すどころか追い抜かす程の熱心さに、エルタナスィアは気圧されてしまった程だ。だけどそれは、知識欲から来るものではなく――早く学び終えたいという、焦燥感から来るものだと感じたらしい。
(早く、”巫女”になりたいのかしら……)
自分が”巫女”になれば、すぐにでも呼んでくれると考えているのかもしれない。来年には呼ぶのだが――待ちきれないのだろう。
エルタナスィアが考えていた通り、アルレスィアは物凄い速度で勉強を終えた。一年経たずに、十二年分の遅れを取り戻したのだ。未だに世間とのズレは解消しきれてないけど、自分に足りていない物、自分の中で歪んでしまっている物を自覚出来たらしい。首を傾げる回数は日に日に減っていった。
「――これからも実践と応用を続ける事。専門的な事は分からないけど、私も手伝える部分はあると思うから」
「はい。ありがとうございます、お母様」
教科書分を教え終わってしまったので、後は日常の中で生まれる疑問点の解決に注力していく事になる。アルレスィアに足りていないのは知識ではなく経験だ。学ぶ事は、これからの方が多いかもしれない。
思う所はあるけれど――エルタナスィアもそれが分かっているから、基礎学習を急ぐ事にしたのだろう。
「予定よりずっと早く終わったと思うけど、これからはどうするのかしら」
「アルツィアさまから、世界情勢や各国の文化と言葉を学ぶつもりです。その――出来れば、お母様にも教えて欲しいと思っています」
「ん。ええ、それは構わないけど――アルツィア様以上の事は、教えられないと思うわ」
「一人の考えよりも、大勢の考えを聞いた方が偏見がなくなると、思いまして」
「――ふふ、そうね。それが一番だわ」
(可愛らしい建前、ね)
尤もな事をアルレスィアは言っていたけれど、それが建前な事はエルタナスィアにはお見通しだった。本当にゆっくりではあるけど、アルレスィアは歩み寄れていると思う。
「それじゃあまずは――共和国について話しましょうか」
「はい」
焦らなくて良い。迷子になり、立ち止まり、傷つき、アルレスィアは耐えるしかなかったけれど――停滞の時は終わり、アルレスィアは再び歩み出した。親子の交流を続け、何れ外に視線を向ける事が出来るようになるだろう。アルレスィアは変わる事なく、真っすぐな心で居てくれている。
アルレスィア自身が、「自分は卑怯者」と思いかけている事だけが心配だけど――それも経験が、解消してくれるはずだ。
「お母様はどうして、私の考えが分かったのでしょう」
エルタナスィアとの勉強会を終え、アルレスィアは”神林”に入った。そこで、どうして自分の建前がバレてしまったのだろうと首を傾げている。
『ん? ああ。読心術だね。表情とか仕草、声音や視線の動き。その他色々な要素を観察して、人の心の動きを見るんだ。きみも出来るよ』
「そう、でしょうか」
心を読む力なんていらないと思っているアルレスィアだけど、それがどれだけ大きな戦力で、どれだけ大事なのか分かっている。能力以上には出来ずとも、それに近しい物を手に入れる必要があると考えてくれているようだ。
『きみの”拒絶”と能力は相性が良い。だけど、私は付いて行けない』
「……はい」
旅に出る事の不安はないようだけど、アルツィアが居ない事だけは不安らしい。一人旅じゃないから、安心して良いんだよ。アルレスィア。
『私が居なくても発動出来る条件が無いか探しはするけど、練習はしておいた方が良いかもね』
「……分かりました」
出来るだけ精度を高めて欲しいとは思っている。”人”には必要ない能力だけど、きみの生存率を上げるには必要だ。その能力の所為で、きみは”人”を嫌いになってしまったけれど――その能力はきっと、”人”を理解する為にあるのだと思う。
嫌うのではなく、使いこなして欲しいと願っている。
エルタナスィアとアルツィアから世界を学びながら過ごし、限りある時間の中で料理や常識を学んでいった。今日で九歳になるアルレスィアは、家族で誕生日を祝うつもりだけど――自分の誕生日というよりも歓迎会になるだろうと、心が弾んでいる。
自宅から出る時は今にもスキップしそうな足取りだった。だけど――”神林”に入る前に視たルイースヒェンに、鋭い視線を向けていたところをアルツィアは見ている。
「アルツィアさま」
『ん?』
”神林”の湖に行く途中、アルレスィアは立ち止まってアルツィアを見据えていた。研磨され、研ぎ澄まされていく刀のように――アルレスィアは凛とした雰囲気を纏っている。何も知らなかった頃の、丸くおどおどしていた姿はない。心から、「”巫女”たらん」と決意しているのだろう。その想いはこの一年で強くなっていったようだ。
「巫女様の事ですが」
『……そうだね。最近は、目に余る』
目に余る行動に、アルレスィアはルイースヒェンに怒っている――のではない。アルレスィアは……アルツィアの為に、怒っているのだ。ルイースヒェンの変貌に心を痛めているアルツィアを、心配している。
ハッキリ言って、アルツィアがそんな表情をアルレスィアに見せなければ……アルレスィアはここまで、ルイースヒェンに怒ったりしなかっただろう。
「でしたら――」
『だけど、あの子がああなったのは私の所為だ』
あの子は優れた魔力と、上級魔法を広く持っている。人を観察する目と、人を導く力もある。答えを出す力にも優れているが……心が弱かった。心の弱さが、ルイースヒェンの長所を負の面に落としてしまったのだ。
人を観察する目を使って、人の弱みを見抜く。導く力で直接手を下さずとも操る。答えを出しているはずなのに、受け入れない。エルタナスィアが支えていた頃は、良い兆しも見えていたというのに……イェルクが、ルイースヒェンを悪い方向で甘やかしてしまった。
人との出会いは、人生を大きく変える。ルイースヒェンにとってイェルクは……劇薬だったのだ。
『それに……最近は、一言すら聞こえていないようだ』
勘違いする余地すらないくらい、声が届かない。こんな事、今まで無かった。少しであっても声を掛けてくれていたアルツィアからの声が聞こえなくなって、ルイースヒェンは……アルツィアに見放されたと、思い込んでいる。
人に囲まれ、信奉され、望めば何でも手に入るようになった。だけどルイースヒェンも、孤独を感じている。イェルクの甘い言葉から耳を塞ぐ事が出来ないのだ。そんなルイースヒェンを、アルツィアは今になっても責める事が出来ない。
だけどそれを、ルイースヒェンの所為で孤独になり続けていたアルレスィアに言う事も出来ないのだ。だから、アルツィアが言えることは――。
『きみが”巫女”になれるまで、待ってあげて欲しい』
「……分かりました」
変わってくれると信じ、今よりは声が届いている時に声を掛けなかった私の怠慢だ。もはやルイースヒェンは、変わる事が出来ないのだろう。ならばせめて、致命的な出来事が起こらないように……アルレスィアを守るしかない。
アルレスィア。アルツィアは確かに、ルイースヒェンに心を痛めている。自分の所為とも考えている。だけど――きみが傷つく姿も、見たくないのだ。二人はこれ以上、関わるべきではない。関わり合いにならなければ、今を続ければきっと――何も起こらないはずだから。
『しかしアルレスィア。今から”神林”に居ても、何時になるか分からないよ?』
「そう、なのですか?」
『あの子が”森”に入るかどうか、だからね』
あの子は”神の森”好きだから、入るとは思う。しかし――今日はあの子の誕生日でもある。入って来るかどうかは――運命次第、か。
「……今日、なのですよね?」
『そのつもりだ』
確約出来ない事を許して欲しい。こればっかりは――アルツィアの意思でもどうにも出来ないのだ。全ては運命のみぞ知る……世界はもう、アルツィアの手から離れているのだから。
『連れて来れそうなら呼ぶよ。ちゃんとお出迎えしたいだろう?』
「は、はい」
いよいよとなって、緊張してきたようだ。自分の姿が、出迎えられる状態なのか気になっているのだろう。
「アルツィアさま。私は暫く、家に居ます」
『ああ。私は向こうの様子を間近で見てくるよ』
「お願いします」
ぺこりと頭を下げたアルレスィアが集落に戻っていった。
(さて、どうなっているかな――)
今日は”森”に行かず、そのままパーティーを始めてしまったらしい。”森の歓迎”が起きなかった事で、アルレスィアは落ち込むかと思ったけれど――今日に関しては、あの子が来る事を楽しみにしてくれているようだ。
(失敗したくないな。これ以上アルレスィアを哀しませたくない)
しかし……あの子は、耐えられるのだろうか。それだけが心配だ。
(ふむ。武人はお酒に強かったはずだけど、今日は酔いが早いな。十花はいつも通りだけど――まだまだパーティーは序盤も序盤だ。もう暫く様子見かな)
そうやって、集落に目を戻したアルツィアは――アルレスィアがどこに居るか、一瞬分からなかった。
『どこに……』
自宅に居ない。”神林”に残っている訳でもない。高台や厨房――厨房が慌ただしい。どうやらイェルクが来ているようだ。
『……』
まさかと思い、食堂に向かうと――アルレスィアとルイースヒェンが睨み合っていた。
「どうしたの。アルレスィア」
「……」
『アルレスィア』
アルツィアの呼びかけに応えない。当然だ。イェルクが居る場所で、アルツィアと話している姿など見せたりしない。だけどそれは――今までの話だ。
(昼間から、お酒を……。アルツィアさまがあれだけ心配しているのに、この方は何をしているのでしょうか。相変わらず司祭イェルクと交流して――っ)
どうやら、昼間から酒盛りを始めたルイースヒェンに怒っているらしい。今までもしていた事だが、アルツィアに気持ちを確認してすぐだったからだろう。お酒に酔い、だらしなく机に肘をついている姿に――アルレスィアは視線を鋭くさせていった。
何故ルイースヒェンがそんなにも無気力なのか、心が視えているアルレスィアには分かっているはずだが――アルレスィアはまだ、怠惰を、人本来の悪意を赦すまでには至っていない。
「貴女がこんな場に来るなんて、ね。すぐに帰りなさい」
(この子が私の前に、自主的に出て来るなんて……何なのよ、一体)
アルレスィアはもう、”巫女”になる決意をしている。すぐにでもなれるだけの勉強をして、これからも覚悟を持って務めると誓っているのだ。だから――アルレスィアは、遂に話してしまった。そこまでやる気がないのなら自分に譲って欲しいという意味も、込めていたのかもしれない。
「アルツィアさまが悲しんでいました。巫女様に声が届かないと」
「……それで?」
「司祭イェルクの言は間違っているので、付き合うのを控えるべきとの事です」
これだけで、ルイースヒェンには分かった。やっぱり見えているじゃない、と。ルイースヒェンは怠惰だけど愚かではない。イェルクが間違っているなど――昔から分かっている。
ばつが悪そうにアルレスィアから視線を逸らしたルイースヒェンは、周囲を確認した。反応は様々だった。また嘘を吐いていると思っている者も多いが、ここ数年の出来事が頭を過ったのだろう。中には、アルレスィアに畏敬を向ける者も居る。
(あーあ。随分と変わったわね。顔が良いと、信じる人も出て来ちゃうのかしら。違うか。どんな馬鹿でも、いい加減分かるわよね)
周囲の反応を見た後、ルイースヒェンはイェルクにも視線を向けた。イェルクの反応が重要なのだろう。ここでアルレスィアの言葉を信じるなら、自分の役目も終わりだろうと。しかしイェルクだけは、アルレスィアの物言いに思考する事無く激怒していた。
声が聞こえると振舞っているもそうだが、何よりも――友達のように振舞う姿が気に入らないのだろう。
『アルレスィア。別に、良いんだ。役目はこなしてくれている。元々無理やり”巫女”になってもらったんだ。それ以上は望まないよ』
「ですけど……」
アルレスィアがここまでアルツィアを心配していたとは、思わなかった。アルツィアも結局は、”人”の感情を軽んじていたのだろう。
「……」
(やっぱり、完全に聞こえてる。アルレスィアは何れ巫女になるんでしょうね。だけど……気に食わないわ。その目が)
一度は諦めかけたルイースヒェンだけど、アルレスィアがアルツィアと完全に話せているのを見て――そしてアルレスィアが、自分を心配して忠告しに来た訳ではないと分かって、沸騰した。
「その目を止めて。嫌いなのよ。私を見てないその目が」
(アルツィア様の伝言係って訳ね。結局あんたも、人形か)
もしもアルレスィアが、ルイースヒェンの心配をして忠告をしていたら――いや、意味の無い仮定だ。アルレスィアがルイースヒェンを心配するはずがない。この子をそうしたのは、きみ自身だ。
「巫女様もそうだと思います」
「そうやって、何でも知ってるって目も嫌い」
(ああ、本当に――嫌いだわ。どこを見てるのか分からない目も、私を見ないその目も、自分の意思がないかのような、その態度も)
二人はどこまでも、水と油だった。決して混ざり合う事はない。少し違えば、手を取り合う未来もあったのだろうか。そう考えてしまうが――運命とは常に、残酷なのだろう。
「控えよ小娘。ルイースヒェン様に、不敬であるぞ」
「……っ」
今まで睨んでいたイェルクだったが、アルレスィアが止まらないと漸く理解したようだ。立ち上がり、ルイースヒェンとアルレスィアの間に入った。それだけで、アルレスィアはたじろいでしまう。この時のアルレスィアは――ルイースヒェンよりもイェルクの方が苦手だった。
「神の名を騙る不届き者めが」
「騙ってなど」
『アルレスィア。帰ろう。君が傷つく必要はない』
苦手でも、立ち向かおうとしたアルレスィアを見て……成長を感じてしまう。歩み寄るとは違うけれど、苦手であっても会話しようとする姿勢を見られただけで、アルツィアは頷きそうになってしまった。
だけどこれ以上は、軋轢を深くするだけだ。集落の反応を見られたのは不幸中の幸いだったけど、これ以上はいけない。
『そうそう。今日はあの日だから、森に迎えに行くとしようか』
(巫女さまが、”森”に入ってくれたのでしょうか。それなら、仕方、ありません)
「……分かりました。やっと――」
『まずは家に戻ろう。せっかくだからお風呂も入ると良い。お酒の匂いが付いているかもしれないからね』
嘘は吐いていないけれど、騙すような形になってしまった。あの子はまだ、”森”に行く素振すら見せていない。だけど――夜の”森”がどうなのか、気にしてはいる。きっと来てくれるだろう。そう願い、アルレスィアを守る為にこの場を離れる事にした。
(……アルレスィアには、姿も見えてるのよね。やっぱり、あの子に付いて行ってるのかしら……)
アルツィアは思わず、立ち止まりそうになってしまう。だけどアルツィアは――アルレスィアと一緒に行く事を、選んだ。
「罰を与えずともよろしいのですかな」
「必要ないわ。誰にも信じてもらえないって、それだけで罰でしょ」
「それもそうですな」
イェルクは誰も信じていないと思っている。だけどルイースヒェンはしっかりと、この場に居る者達の反応を見ていた。半々、いや七:三だろう。アルレスィアを信じている者が居たのだ。
(久しぶりに見たけど、あんな風になってたら、信じるしかないでしょうね)
子供の頃は幼さを残していたから、「人より凄い」程度だった。だけど、久しぶりに見たアルレスィアは――天使のように輝いて見えたのだ。”巫女”でもないのに後光が見えたような気がした。
「明日も滞在するのかしら」
「いえ。また暫くは通えなくなります。王都の復興を進める為に、私も手伝わなければいけませんので」
「そう」
イェルクがいつまで来られないのかは分からないけれど――会うのは今日が最後のような気がして、ルイースヒェンは自嘲するように笑った。
ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!




