『メルク』ツァルナの香り⑥
翌朝、アルレスィアが自室から一階に降りてきた。すでにゲルハルトは任務に出ているようで、居間にはエルタナスィアしか居ない。いつものように、会話すらない一日が始まるのかと、エルタナスィアはきゅっと下唇を噛んだが――。
「お母様」
「! アリス?」
アルレスィアを正面から見たのも、ましてやアルレスィアの方から話しかけられた事も久しぶりだった。徹底している事を察して、エルタナスィア達も一歩下がっていたけれど――ずっと話したいと思っていたのだ。だからエルタナスィアは一瞬、幻聴と思ってしまったらしい。
そう思わせてしまった事に、アルレスィアは目を伏せた。自分の行動が間違っている事は、薄々分かっている。一度のすれ違いで、全ての関係が変わってしまう事を体験したアルレスィアは――もう親子には戻れないかもしれないと、考えているのかもしれない。
親子の繋がりが如何に強いのか。普通の親子は当たり前のように知っている。だけどアルレスィアは――それを知る前に、孤立という道を選んでしまったのだ。
「はい。少し、お時間よろしいでしょうか。出来れば、お父様も」
「すぐに呼ぶわ!」
慌てた様子で、エルタナスィアがゲルハルトを呼び戻している。アルレスィアは親子に戻れないと思っているけれど、両親二人はそんな事を思ってもいない。だけどアルレスィアは――エルタナスィアがどれだけ喜んでいるのか、アルツィアが傍に居ないから視る事が出来ない。
ここで視る事が出来ていれば、もっと早くに親子の関係は修復出来ていただろう。ついて行った方が良かったかもしれないと、アルツィアは考えたけれど――首を横に振った。
アルツィアは旅に付いて行く事が出来ない。能力が無くとも、人と心を通わせる事は出来るのだと――しっかりとエルタナスィア達と顔を合わせ、言葉を尽くして語り合う事で、学んで欲しい。
「アリス!」
「お久、ぶりです。お父様」
「う、うむ。元気そうで……いや、話があるそうだが」
元気かどうかの確認など、一緒の家に住んでいる家族の会話ではないと――ゲルハルトはアルレスィアに話を促した。自分の混乱っぷりをアルレスィアに見られる事を恥じたようにも見えるが。
「……まず、私について話さなければいけません」
アルレスィアが話し始めると、エルタナスィアとゲルハルトはピリッとした雰囲気を纏い、真剣に聴く体勢を整えている。アルツィアは「親子だなぁ」と想い、アルレスィアは――「やっぱりお父様とお母様はすごい」と、敬意を高めていった。
「私、は…………」
「……」
尊敬し、信頼している両親であっても、話しづらいのだろう。二の句を継げず、アルレスィアは俯いている。話したくなければ話さなくて良い――なんて、二人は確認しない。それはアルレスィアの決意を蔑ろにする行為だ。愛する娘の言葉を、二人は黙して待った。
「……私は、アルツィアさまを認識出来ます」
「――っ」
「やはり、か」
漸く本人の口から告げられた、真実。驚きは無かった。ただただ――娘が背負った”何か”を感じて、その身を案じている。
「それと、人の心を視る事が出来ます」
「――え?」
かなり察しが良いとは思っていたけれど――視る事が出来る程とは、思っていなかったようだ。エルタナスィアが目を見開いている。そして――今までの事全てに納得した二人は、集落の者にも、ルイースヒェンにも、烈火の如く激怒した。
アルレスィアが驚いたのは、人の心が読めると知って尚――二人が何も気にしなかった事だろう。二人は、エレノラのような表情を見せなかった。アルレスィアを恐れていないのだ。
動揺し、困惑し、どうして二人はそうなれるのだろうとアルレスィアは疑問に感じたが――それを表に出さず、会話を続けた。
「アルツィアさまが傍に居る時。視線が合うと、頭に思い浮かぶのです」
「……それで、今までの事を?」
「はい。巫女様は、私だけを嫌っているので、孤立を選びました」
アルレスィアは、二人が自分を恐れないのは「家族だから」と思ったようだ。それは正しい。二人は家族だから、アルレスィアの能力を知って驚きはしたけれど――その所為で苦しんでいた事を哀しんだのだ。
家族は特別なのだと、家族でもないと受け入れて貰えないのだとアルレスィアが勘違いしてしまうのは、仕方のない事だった。やはり、”人”という物を理解しきれていないアルレスィアだけど――大事な一歩は踏み出せたのだと、アルツィアは感じている。
”人”を遠ざけてしまう異質な能力だけど、理解を示してくれる”人”は居るのだと知って欲しい。
「それでは、本題に入ります。アルツィアさまから聞いた世界の真実と――聖伐と大虐殺の真相。そして、これからについて」
両親との会話は、すらすらと進んだ。理解度もそうだが、アルレスィアへの信頼が成せる事だろう。疑う事なくアルレスィアの言葉を一つ一つ受け止め、様々な感情を滲ませながら聞き入っていた。
世界の真実を聞き、慌てた。今までの過去を聞き、眉を顰めている。イェルクの「聖伐論」は過ちであり、先代司祭は正しかったのだと、エルタナスィアはここで初めて涙を流した。
「エリス……」
「ごめんなさい……」
正しかったという事は、現在のアルツィア教が掲げる誇りは血に塗れているという事だ。先代は間違っていなかったという喜びはあるが、手放しで喜べるものではなかった。涙を拭い、二人は被害者達に黙祷を捧げている。アルレスィアもそれに倣い、目を閉じた。
「これなら……」
「うむ」
アルレスィアの話を聞き、二人は何かを決意したようだ。しかしそれを考えるよりも、今は――アルレスィアが受けた”お役目”を、止めようとした。
「……アリス」
「お父様。私は、受けます」
「だが……!」
「アナタ……。アリスはもう、決めています」
エルタナスィアも、全てを納得している訳ではない。当然だろう。アルレスィアが外を出歩けばどんな目に合うか、考えるまでもない。自分ですら危険を感じる事があったのだから、アルレスィアならば尚更だろう。女の子の二人旅なんて以ての外だ。だけど、アルレスィアの決意と能力が、制止を許さない。
(それに……)
もう一つの世界を話す時、そしてもう一人の”巫女”の話をしていた時、アルレスィアの表情は昔のように明るいものだった。”お役目”の旅はアルレスィアしか無理だと思った事もそうだが、アルレスィアは――やって来るもう一人の”巫女”に会いたがっていると、エルタナスィアは母として感じ取ってしまったのだ。
「アリスの為に、私達がしてやれる事は――止める事では、ありません」
「う、む……」
「準備の為に、私はアリスに教えなければいけない事が沢山あります。アナタも、協力してください」
(ちゃんと教えておかないと……この子の知識は、偏りすぎています)
アルレスィアがお願いするまでもなく、エルタナスィアはやるべき事を理解している。幼い頃から突出した能力と知識を持っていたけれど、アルレスィアには一般教養と常識が欠如していた。あの子と同じく、アルレスィアも自分に無頓着なのだ。
出来るなら、アルレスィアからお願いするという経験をさせたかったけれど――エルタナスィアから言ってくれなかったら、アルレスィアは言えなかったかもしれない。一般教養を身に着けるのは急務だ。エルタナスィアに全て任せよう。
これはエルタナスィアにしか出来ない。アルツィアも、常識がズレている方だから。
「……施設に入る時は、連絡しなさい。それとなく人払いをして、私が見張りに入ろう」
「……ありがとうございます。お父様、お母様」
ゲルハルトは心から納得している訳ではない。エルタナスィアに諭されても、頷くのに時間が掛かっている。「何故、アリスだけが」と思い、生まれて初めてアルツィアに文句を言いたい気持ちになっていたが――娘の為に、今まで出来なかった事をして上げたいという気持ちだけは、エルタナスィアと同じだった。
「アリス……」
「はい」
「誕生日、おめでとう」
「やっと、祝えたわ。二年分、祝わせて頂戴?」
「……はい。ありがとう、ございます。お父様、お母様」
不思議と、涙は流れなかった。”お役目”の話を聞いてすぐにやる事ではないと、三人は思っていたけれど――自然と笑みだけが、零れている。
「そういえば、アルツィアさまが――生まれてすぐに、私を抱えた事を気にしていました」
「あら……そうなの?」
私が気にしていたからだろう。直接本人に確認を取ってくれている。
「それに、お母様よりも先に抱えてしまって申し訳ないと」
「ふふ……なんだか、アルツィア様が身近に感じるわ」
「アルツィア様に祝福されて生まれてきたのだと、私達は感じていた。だから、お気になさらずとも良いと伝えて欲しい」
「ええ。私も同じよ。アルツィア様も、私達と同じ気持ちだったのでしょうね」
「うむ」
「……はい。そう、伝えます」
少し頬を染めたアルレスィアは、両親二人に促されて席に着いた。
大切な記念日を家族と過ごし、アルレスィア達は――何事もなかったかのように振舞い、日常に戻っていく。アルレスィアは再び気配を消し、表では家族とすら会話せずに過ごしている。ゲルハルトは警備の経路を少しずつ変更していき、エルタナスィアは専業主婦業をしながら食堂での地位を上げていく事にした。
計画が上手くいけば、一月後には三時間くらい誰も居ない時間が作れる事になっている。再び両親に負担を掛けてしまうと、アルレスィアは余所余所しく頭を下げたけれど――両親二人は遣り甲斐を感じているようだ。
「おはようございます、アルツィアさま」
『おはよう。しっかりと話せたみたいだね』
「はい」
いつものように表情はなく、どこか思い詰めた表情だけど――口角が少し上がっている。まだまだぎこちないようだけど、家族の時間は無駄ではなかったようだ。
『まだ移譲は先だけど、”光”について話しておこう』
「”巫女”に渡される、アルツィアさまの”光”ですよね」
『そうだね。私から直接受け取った者にしか扱えない魔法だ』
そういう意味では――アルレスィアの”拒絶”も、アルツィアの魔法なのかもしれない。しかし、アルツィアには”拒絶”なる魔法に覚えがないのだ。
(あの子も、特異な魔法を持っているのだろうか――ん?)
そんな事を考えていたら、漸くあの子が”森”を見つけたらしい。今、入るか入らないかを、現”巫女”である七花に尋ねられている。驚くべき事に、あの子は既に”森”の特異性に気付いているようだ。向こうの世界にある核樹は一度枯れかけたというのに、流石の感受性と言える。
(入る事に決めた、か。向こうの”私”に任せても良いけど――)
『アルレスィア。もう少し待って――』
「――っ!?」
『アルレスィア?』
「アルツィアさま、”神林”が――」
あの子が”神の森”に入った瞬間だった。”神林”が大きく震え、一気に騒ぎだしたのだ。いや――そう感じたのは、アルツィアだけらしい。”神林”も吃驚しただけなのだろう。
しかしアルレスィアは――初めて入った時よりも、湖の傍で”神林”の核樹から慰められている時よりも、我を忘れるくらい喜んでいた。
「これが、アルツィアさまが言っていた事ですか? ”森”が喜んでいます」
『ん? いや――』
確かに”森”は、いつものようにきみが居る事に喜んでいる。だけど、アルレスィアが強い反応を示すような変化は見せていない。しかしアルレスィアには、違いがはっきりと感じられているらしい。見開かれた瞳は、きらきらとした――赤色を映していた。
(アルレスィアが、反応する……赤色の何か……)
アルツィアは再び、”神の森”に注視した。向こうの”森”は、こちらよりもずっと酷い仕打ちを受けていたからだろう。あの子の入場に喜びすぎている。しかし――あの子が感じている物は、”森”の喜びだけではなかった。
(あの子は感受性が鋭すぎる。感覚が研ぎ澄まされ、第六感を物にしつつあるが――こんな事が、ありえるのだろうか。あの子は……感じている)
それはアルレスィアも同じだった。”神林”の喜びはそこそこ感じていたようだけど、この子もまた――感じ取っている。
『っ』
アルツィアがよろめくくらい、”神林”と”神の森”が震えている。二つの”森”の湖が、赤と白に煌めき――溶け合っているのだ。
(”森”同士が共鳴している、のだろうか。違う、これは……二人が、繋がっている……?)
『アルレスィア』
「凄い……包み、込まれているみたい……」
私の呼びかけにすら答えられず、アルレスィアは――蕩けていた。胸の前で祈るように手を組み、目を潤ませて浸っている。あの子も……湖に到達して、似たような事になっていた。
「は、ぁ……急に、どうしたのでしょう! こんな、急に喜んで――」
『アルレスィア』
「は、はい! どうしました?」
まだ、確証というには弱い。今ならば、連れて来れるかもしれないと思ったけど――止めておこう。あの子は”森”を知ったばかりだ。アルツィアはそう考えて、もう一つの可能性について話しをした。
『まるで、きみを応援しているみたいだね』
「そう、なのでしょうか」
『きみが何れ”巫女”になると、”神林”も感じているのだろう』
「歓迎、してくれているのですか?」
『あはは。そう言えるかもしれないね』
的外れではないと思う。アルレスィアの感じ方は、アルツィアから見ても驚くものだったけれど――”森”が見せた反応に関しては、そう思った方がしっくりくるものだった。
『”光”について話しても良いかな』
「はい!」
色々と考えないといけない事がある。だけど――とにかく、話を進めよう。アルレスィアの興奮は冷めやらないが、時間はいくらあっても足りない。
(あの子は――七花が止めてくれたか)
あの子の方は、なるようにしかならないけど……アルレスィアには、私も手を貸す事が出来る。アルレスィアに全てを教え、学ばせ、そして――アルレスィアがあの子に教えるのが一番だろう。
『ただの証と思われている”光”だけど、今はそうじゃない。あの”光”には”悪意”を祓う力を持たせている』
「元々は違った、という事ですか?」
『そう。証だったけれど、”神林”を作った時に”光”も変えた』
マリスタザリアに対抗する力を持たせようとしたのだ。動物型は無理でも、『感染者』を救う力にはなるだろうと思って付与した。それを伝えるのに……何千年、掛かってしまったのだろう。改めて、アルレスィアの誕生に感謝すると共に――この子が抱えた運命に、アルツィアは知らず知らずのうちに嘆息していた。
『浄化、と呼ぶ事にしているが――”悪意”を祓うという想いで発動しなければいけない』
「それは……無理、ですよね」
『そうだね。”巫女”であっても”悪意”を感じる事は出来ない。だから今まで、”光”の効果を見つけて貰えなかった』
気分が悪くなったり、機嫌を損ねたり、理性が溶けたり。前兆はあるのだ。だけどそれは――”悪意”が無くとも起こりうる。そんな人に証でしかない”光”を当ててみようとは、想わないだろう。
(”悪意”を感じられるとしたら――やはり、この子とあの子だけだ)
「私が”光”を継いだら、それも?」
『出来るなら、して欲しい』
”悪意”を受けた者を見つけたら、出来るだけ浄化して欲しい。これは――アルツィアから全てを聴く事が出来たきみにしか頼めない事なのだ。
「分かり、ました」
『頼む』
”人”の悪意を知っているアルレスィアには、旅に出る事以上に苦痛を伴うものかもしれない。だけど――アルツィアは、浄化を強く望んでいる。”悪意”の所為で悲しむ者が一人でも減るように……アルツィアは願う事しか、出来ないのだ。
今はまだ、大丈夫とは思うけど――もしかしたら、掛かっているかもしれない。恐らく歴史上初めての事だろう。”巫女”が……”悪意”に掛かった事など。
”森の歓迎”。あの震えと歓喜を、アルレスィアはそう呼ぶ事にした。あれから一年。どうやら”森の歓迎”は毎日起きている訳ではない。七日に一度か二度。それも昼から夕方前にかけて起きるようだ。
(やはり、あの子が”森”に入る時と一致している……)
アルレスィアは根気よくそれを確かめ、”森の歓迎”がある日を狙って”神林”に長く滞在するようになった。
”お役目”を成す為の訓練を開始し、エルタナスィア達とも――親子というよりは教師と生徒のような関係ではあるけど……前よりも話せている。ただ漠然と、毎日を送っていた時とは違う。楽しみと、やりがいを持って毎日を送っているアルレスィアは、生き生きとしていた。
概ね想定通りとなっている事に、アルツィアも満足気だ。ただ――イェルクが再び、集落に通い出せるようになった事以外は、だけど。
「巫女様」
「どうしたのかしら。連絡も入れずに来るなんて、珍しいわね」
「急ぎ、連絡したい事が――む……あの者達は」
急ぎと言いながらもイェルクは、エルタナスィアとゲルハルトを見て反応した。再び集落を歩くようになった事に、顔を顰めている。
「ああ。あの子を見捨てての事だから、気にしないで頂戴」
「……巫女様が言うのであれば」
二人に聞こえるよう、大声を出したルイースヒェンに――ゲルハルトとエルタナスィアは反応しそうになった。だけど、我慢出来ただようだ。もしもアルレスィアと話をする前だったなら、二人であっても我慢する事は出来なかっただろう。
(無反応、ね。それはそれでおかしいのよね。でも、あの子は相変わらずだし――)
「それで、どうしたのかしら」
「……実は」
イェルクの報せは、集落に衝撃を齎した。どうやら遂に、王都が堕ちたらしい。
ここ数年、王位についたヴルクハスの身勝手は目に余るものだった。王政の全てを貴族に任せ、本人は――”神林”に夢中だったのだ。頻りに”神林”への遠征を画策していたと、イェルクは知っている。他でもなくイェルクがヴルクハスを抑えていたからだ。
しかし、それも終わった。先日、王都が革命軍によって制圧された。
「革命軍って、結構やるのね」
「予想以上に出来る者達だったようです。北部に逃げたと聞いていましたが――どうやら共和国の協力を取り付けたようで」
「へぇ」
集落の真ん中で何を話しているのかと、エルタナスィアとゲルハルトは呆れていたが――何を置いても、自分たちの計画が上手く行ったのかどうかを確かめなければいけなかった。
(信じて、くれたのだろうか……。オルテに確認しなければ)
王都へと学びに出ている、ゲルハルトが信頼している青年に連絡を取る為、ゲルハルトはエルタナスィアに合図を送って家に戻っていく。アルレスィアのあずかり知らぬところで――”神林”を巡って争いが起きていた。そしてゲルハルト達も、戦っていたのだ。
これは異常事態だった。”神林”の『結界』が作用していれば、このような事態に陥る事などまず無い。それが起きたという事は――アルレスィアのお陰で”神林”が喜んでいても、機能は戻っていないという事になる。
問題を抱えているけれど、ルイースヒェンが掟を破っている訳ではない。つまり――状況は切迫していた。”悪意”の澱みは致命的なまでに高まっている。いつ、世界が「死」んでもおかしくない。
「じゃあ、また暫くは通えるのかしら」
「ええ、はい。昨日、新国王とも話す機会がありまして、巫女様への支援も取り付けておきました」
「そう。ありがとう。挨拶とかは?」
「いえ。王国の状態がこの在り様ですから、挨拶はそれらが落ち着いてから、と」
「そ」
(まぁ、その方が気楽で良いわ)
信心深いという新国王の行動に、イェルクは首を傾げたが――新国王という重責に目が回っているのだろうと特に気にする事はなかった。そこにゲルハルトやエルタナスィアの影が在る事など、考えもなかっただろう。
それに、二人はいつだって――アルレスィアの動向を気にしている。王国の不安が無くなった今、イェルクを使ってどう追い詰めようかと、ルイースヒェンは考えを巡らせていた。
ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!




