第十五話 魔力調査と……
魔力調査は大和にとっても、異人にとっても意義のあるものではなかった。
何故なら地球にはほとんどない。おそらく今まで一切なかったのが、異人たちが転移してきた時に入ってきただけと思われる魔力だ。
本来、魔力を使う場合は起動だけを自分の魔力で行い、他は自然の魔力を取り入れて行う。しかし自然の魔力がほとんどない地球では体内の魔力で全てを補わねばならず、体内の魔力分だけでは小規模なことしか出来ない。
しかし魔力を増やすことは出来る。魔力を使うことだ。
消費された魔力は自然に帰り、時間が経つと自然の魔力として蘇る。体内の魔力分が、自然の魔力として増える。
時間はかかるが、いずれは元の世界と同じように魔力が世界に満ち、大規模なことが出来る。だから今の結果はそれほど重視されるべきものではない。
そんな感じの話を大和はテレシアとヴァルに延々と聞かされた。
要は今回の魔力調査の結果は環境が悪いだけであり、時間さえあればもっと素晴らしい結果を見せてやるということ。
つまりそれだけ、吸血鬼やエルフの結果が悪かった。
エルフが魔力調査の際に見せたのは植物の成長促進。テレシアの話では元の世界であれば苗木を一晩で樹木にまで成長させられたそうだ。もちろん、こちらの世界ではそのような効果を出せるはずもなく。
促進速度はおおよそ三倍。ただし、それは魔力の多いテレシアだからであり、普通のエルフでは良くて二倍程度。
二倍だろうが、三倍だろうが人間には出来ないことであり、大和は感心して報告書を上げようとした。だがテレシアはこの出来に不満があり、この程度になった理由を大和に懇切丁寧に説明して下がっていない株を維持しようとした。
ヴァルも似たようなもので、今までにも何度も見せてもらった宙に浮くだけの結果に猛抗議、ならぬ猛解説し魔力不足を強調した。
「ええ、はい。分かりましたから。もう帰っていただけませんか?」
話が始まったのは日が暮れてすぐ。そして今は月がはっきりと見える程度に暗くなっている。
いくら話を聞いているだけとはいえ、疲れて頭が働かなくなってくる。
まだまだ話足りない様子の二人だが、大和の疲労を察して話を終わらせる。
その後、いつも通り夕食をご馳走になろうとする二人だが。
「いや、さすがにまともな食事は作れませんよ? もうすっかり夜ですし、今聞いた話も全部報告書に載せなければいけませんから。インスタント食品などは家で食べられますよね?」
ここで共に食事をしているのは苦手な食材などを探るため。インスタント食品はすでに安全だと確認されているため、ここで食べさせる理由にはならない。
食事を共にしないのであればここに居させる理由はない。あったとしても大和は認めない。
テレシアとヴァルを追い出した後は今回の結果をまとめる。
エルフは植物の成長促進。吸血鬼は自分の身体を宙に浮かす。
ちなみに獣人は身体能力の上昇であり、以前の身体能力調査の時に使っていたらしく、それを使っていない状態で再度身体能力を調査した。結果は魔力を使わなければプロのスポーツ選手並みであり、使えば人間が到達できない記録を出せると分かった。
ドワーフは金属に魔力を込められるらしいが、大和にはそれがどういう意味か理解できなかった。だから鍛冶場を作る前にこちらの世界の金属の一部として送られていた胴やアルミ、銀や金を渡してやってもらうことにした。
ただ本来は鍛冶場で槌を振るいながらやる行為らしく、何もない環境では出来るかどうか分からず、最善は尽くすと言って受け取ってくれたがあまり期待は出来ない。
エルフや吸血鬼、獣人の魔力の使い方は目に見え、記録が取れるものだったから良かったが、ドワーフのだけはどう報告すればいいのか分からない。
魔力を調査しているのに、金属に魔力を込めるなんて文面を送っても理解できるはずがない。物があれば送り、どのように違いが出るのか久杉の方で確認ができるのだろうが。
どう報告したものかと大和が頭を悩ませていると誰かが玄関を叩いた。
テレシアとヴァルは追い出したので帰ってきたとは考えにくい。となれば獣人かドワーフか。
「はい? 誰でしょうか?」
答えは後者。玄関を開ければ大変疲れた様子のバンダンがおり、その手には青白く光る金属があった。
「夜分遅くに済まぬ。何とかドワーフ全員で魔力を込めた。と言っても銀だけだが。受け取ってほしい」
差し出されたのは当然、バンダンがその手に持っていた銀とは異なる青白い光沢を放つ金属。
受け取った金属は冷たく重い。ただそれだけであり、大和にはただの金属との違いが判らなかった。
「こんな夜遅くまで、ありがとうございます。確かに受け取りました」
ただ大和はこの金属がただの銀とどう違うのかなど興味がなかった。魔力が込められた結果どう変わったのか、それを調べるのは久杉の役目。大和の役目は報告書を送り、これも送るだけ。
バンダンが帰るのを見送り、大和は報告書に今受け取った金属のことを付け加える。
すぐにこの金属を久杉に送りつけたいが、『特区』から外に物資を送る設備はない。外から食料などの補充が来た際に届けてもらうように頼むしかない。
それまで紛失しないように大切に保管し、床に就いた大和だが。
すぐに起こされることになる。
異界省局長室。そこで久杉は二つの報告書に目を通していた。
一つは施設からの報告書。ここ最近なんの変化のない報告書ばかり寄こすので、久杉なりに努力するように伝えたところ面白い報告が来た。
それは世界崩壊の様子とその原因。
事が事なだけに聞きたくても聞けず、今まで誰も触れてこなかった。しかしこちらの世界に来てからそれなりに時間が経ち、一部で実験的とはいえ施設から出て生活している。
つまり異人たちはそれなりにこちらの世界に馴染みつつある、とこっちが思える状況になったことと久杉の一押しが聞く理由に至ったのだろう。
それによりもたらされた情報は久杉の理解を遥かに超えていた。
世界が突然軋み、ひび割れて壊れた。ひび割れて壊れた空間はすぐに閉じたが、そこには無理矢理繋げたことで壊れた風景が残った。そしてある程度時間が経てばまたそれは起こり、世界は次第に小さくなっていった。
久杉は氷河期や隕石の衝突、火山の一斉噴火など世界規模の天変地異の類に襲われたのだと思っていた。世界が滅ぶと聞き、常識で、こちらの世界の知識で想像していた。
しかし報告書には想像をはるかに超える、こちらの常識では計り知れない何かが起こったと記されている。
物理法則などはこちらの世界と変わりないと聞いていた。もちろん異世界にあって、こちらの世界にない物質などもあるだろう。しかし世界をそんな風に壊せる物質があるのか?
それに、恐ろしいことに報告書には世界崩壊の原因は不明と書かれている。
その現象が起こった時に、各国が総力を挙げて原因究明に努めている。当然だ、異世界に亡命するなど最後の最後に辿り着く答え。どうにか出来る余地があるならまず探すだろう。
その結果が原因不明。各国、つまり世界が総力を挙げても世界崩壊を止めるどころか原因も分からなかったという。
あちらの世界とこちらの世界の差は挙げれば色々とあるだろうが、そこまでないと久杉は考えている。大きな差があるとすればただ一つ。
魔力。
そこで久杉は『特区』の大和から送られてきた報告書に再度目を通す。
書かれているのは各種族が魔力で何ができるのか、などという些細な事。最後以外に目を通すべき価値があるところと言えば。
こちらの世界にはほとんど魔力がない。そして、魔力は使えば次第に増えていく。
久杉はこれを読みながら一つ疑問を抱いた。
魔力を減らす方法は?
魔力を使えば自然にある魔力は増える。
あちらの世界は魔力が豊富であった。
そして、あちらの世界は崩壊している。
まさかとは思う。あくまで想定の一つ。しかし久杉は想定しておかねばならない。
そしてこの可能性を更に探るには魔力について知らなければならない。
だから久杉は報告書の最後、大和が付け加えたと思える文に目を向ける。
魔力が込められた銀。それを送ると。
これがあれば魔力について分かるのではないか。もし魔力を込められたことで銀が銀とは異なる反応を見せれば、それはどれほどの影響があるのか。
久杉は僅かに考え、すぐに電話を手に取る。
すでに時間は夜。寝ている者もいるだろうが、久杉に躊躇いはない。
「お久しぶりです、久杉です。夜分遅くに失礼します。少し異界省に来てくれませんか? 明後日迎えを出しますので、明日は異人の方々に説明を。ホテルはこちらで用意しますので、ちょっとした休暇だと思ってください。休み、なかったでしょう? ……その件も一緒に、はい。後で詳細をメールで送りますので。それではよろしくお願いします」
異人が亡命してから半年が経過した。各省庁のみならず、各国も少しずつ動き始めている。
だから、久杉も動き出す。
何が釣れるのか、と。




