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第十六話 外へ

「それではすみませんが、しばらく留守にします。問題が起きてもすぐに対処できませんので、しばらく派手な行動は自粛してください」


 そう大和は各種族の代表に伝えて、迎えに来た車に乗り『特区』を出て行った。

 各種族の代表は大和が乗る車が見えなくなるまで見送り。


「集まるぞ、あの場所に。とりあえず全員に大和が帰ってくるまでおとなしくするようには伝えておけ」


 いち早くバンダンが動き出す。それにつられて他の代表たちも動き出す。

 一か月ぶりの代表会議。

 今回の一件は異人にとって大和が『特区』に来た時と同程度の重大な出来事だった。




 自種族の者に外出禁止を言い渡し、代表たちは公民館に集まる。

 話し合うのは当然、大和の外出の一件。

 

「どう思う? やはり試されている?」


「待て、その前に情報を整理すべきだ」


 観察官、大和の不在。それだけで種族の代表が慌てふためき話し合う。

 何故そんなことになるのか。それは、初めて自分たちの周りから日本人がいなくなったため。

 『特区』に来る前の施設では必ず職員がおり、『特区』に来た時も荷運びや住居の割り当てなどの説明に職員がおり、次の日には大和が来た。

 そして大和が数日間留守にするといい、代理は置かれない。


 異人たちは日本に来て初めて、異人しかいない場所に生まれた。

 その意味を異人たちは決して軽くは見ない。


「ああ、うむ。そうだな、少し焦りすぎたか」


「ここからは私が。大和殿の外出理由について考えましょう」


 焦るバンダンに代わり、テレシアが進行役を買って出る。

 ゼブルやヴァルも異論はない様子で黙って頷く。


「私たちエルフには久杉、大和が所属する組織のかなり偉い男ですね。それに会ってくると」


「「同じく」」


 一月前と異なり、罵り合いなどは起きずに話し合いはスムーズに続く。

 異人たちは気が付いたのだ。『特区』で一月生活して、大和が、日本政府が種族ごとに格付けをしているわけではないと。

 見ているのは日本で暮らせるか。そして、日本人と暮らせるか。

 そしてその日本人の中には異人も含まれている。異人も日本人であると、ヴァルを通じて皆に伝わっていた。

 だから、異人同士いがみ合うようなことはなくそうと、全員に伝わったのだが。


「ドワーフは違う。魔力検査で提出した金属を見せてくると言われたぞ」


「「「は?」」」


 所詮は付け焼刃の上辺だけ。何百年、何千年もの因縁がたった一月で綺麗になくなるわけもなく、ちょっとしたことで簡単に表に出てくる。


「ね、念のために詳しく聞きましょうか? 何をしたのか」


 進行役のテレシアは表情をひくつかせながらバンダンに詳細な話を求める。

 バンダンは優位に立ったことを確信し、笑顔を隠すそぶりも見せずに話を始める。


「何を、と言われてもな。魔力を使うことでのドワーフの売りなんて金属に魔力を込めることくらいだろう。ただここには鍛冶場がないから難しくてな。片手で持てる程度の銀に全員で魔力を込めるのが精一杯だった」


「銀? では魔銀(ミスリル)にして渡したのじゃな?」


「いや、分からん。元の世界の銀とこちらの世界の銀が同じではないかもしれん。一切魔力がない銀など触れたことがない。それに現物を渡されただけでは判断も難しい。鍛冶場で炉に入れ槌で叩けば確信をもって答えられるが」


 金属においてはドワーフの右に出る者はおらず、そのドワーフが確信をもって答えられないと言えば他が口を出せるわけもない。

 

魔銀(ミスリル)だろうとなかろうと、重要なのは大和殿がバンダンにだけそれを教えたということ。おそらく、それを持っていくのが外出の大きな理由だったのでしょうか?」


 自分たちの作ったものがメインと言われ、バンダンは腕を組んで鼻を膨らませる。

 ゼブルやヴァルは何も言わずに静かに拳を握りしめる。


「それに一月分の報告書などもあります。時期が良かったのかもしれません。大和殿はこれからも定期的に報告のために外出なされるかもしれません」


 たまたま時期が良かっただけ、と進行役のテレシアが暗にそう言い話を締めようとする。

 しかしバンダンはそれを認めない。他の種族と違い記録ではなく物を、種族全員で作った物を渡したのだ。時期が良かったのを認めないわけではないが、大和を動かしたのは自分たちの努力の結果だと思っている。


「そうなると大変だ。今回は鍛冶場がなかったから簡単に持ち運べるが、鍛冶場が出来れば両腕でも抱えきれないほど作れる。そうなると、大和殿には戻っては外出してと繰り返させることになってしまう」


 あくまで自分たちが作った物が理由で大和が動いた、と譲らないバンダンに、テレシアのみならず、ゼブルやヴァルの顔にも僅かに剣呑としたものが浮かび上がる。

 が、それもすぐに四散した。


「そうなれば、カタログの件もすぐに」


「待ってください。カタログ、とは何の話です?」


 特別で、種族的に秘密にしなければならないもの以外の情報は極力共有すべし。これも無意味にいがみ合わないために作られたものだ。しかしこちらは暗黙の了解ではなく秘密裏の協定として代表間で定められた。

 だから大和がヴァルに話した異人は日本人の件は他の種族にも伝わっている。

 しかし、共有されている情報の中にカタログなどというものはなかった。


「……まだ未確定の情報だ。下手に共有して混乱を招く可能性があった」


「そういうのは良いですから、カタログとは何なのかの説明を求めます」


 当時は酒のことだけを考えて情報の共有を忘れていたバンダンは何とか逃げようとするも、テレシアが問答無用に追い詰める。

 ここで嘘を言えば争いは避けられないので、正直に話すが。


「支給から購入へ変わる? 時期が未定なだけでいずれはそうなるでしょう!? そんな重要なことを黙って……。どうせお酒のことでも考えていたのでしょう!」


 争いは必然だった。回避は不可能。そしてテレシアに当時の考えをあっさりと読まれて苦境に立たされる。

 この不利覆すためにバンダンが取った行動は。


「やかましい! 知っているぞ。お前だって昼と夜に大和殿の所で食事をしているだろう! それも支給されていない特別な食事を!」


 逆切れである。更に全く関係ないことでテレシアを批判する。

 この程度の悪あがきはテレシアが早々に切り捨てて、話題を元に戻せば何の問題もなくバンダンを追い詰められたのだが。


「何だと!? どういうことだ。ナリナは昼だけと言っていたぞ。ヴァルは、吸血鬼の性質上夜だけか。テレシア、お前は他より二倍も得をしているのではないか?」


 切り捨てるよりも早くゼブルが話題を引き上げる。

 ゼブルは他の代表と異なり大和の家に上がったことがない。娘のナリナを送り込んだため、行く理由を失っていた。

 故に大和の家に上がれる他の族長を羨んでおり、その中でも更に恩恵を受けているのであれば足を引っ張ることに躊躇はしない。

 そして一度足を引っ張ってしまえば。


「うるさいですねぇ、小さいことを。獣人もドワーフも女々しい! ゼブルは獣人がちょっと体力検査や魔力検査で良い成績を残せたからと調子に乗っているのでは? バンダンも魔銀(ミスリル)を渡せた程度ではしゃいで恥ずかしい。それとバンダン、貴方は大和殿をあんちゃんなどと呼んでいますが馴れ馴れしすぎるんです!」


「少しでも親しくなるために呼び方を工夫して何が悪い。距離感を無視して家に居続ける方が馴れ馴れしいだろうが!」


 足の引っ張り合いが起き、形だけの会議が形すらなくなってしまう。

 ただ相手に対する不満をぶつけても、以前のように罵詈雑言をぶつけ合うことはなく、むき出しの本音が飛び交うだけ。

 

 その中で吸血鬼のヴァルだけは本音のぶつけ合いに参加していない。

 理由は単純に吸血鬼だから。大和が出かけたのは早朝。そして今は朝。吸血鬼からすれば活動時間外である。

 それでも種族の代表同士の会議は重要と判断し、眠い中で参加していたがついに睡魔に抗えなくなってきた。

 だから公民館に常備されている寝袋を探し出し、ヴァルは絶対に日が当たらない片隅でぐっすりと眠りについた。




 ナリナは朝起きると父から今日はおとなしくしていろと伝えられ、父はどこかに行ってしまった。

 おとなしくしていろ、と言われてもナリナは常におとなしいつもりだった。他の獣人の子供のように外ではしゃぐことは少ない。

 何故なら父の命で大和の家に遊びに行っていたから。

 獣人の子供のグループに入っていないが、大和の家でゲームをして遊ぶ方が好きなナリナは困らなかった。むしろ大和の家の方が自分の家より好きだった。


 だからおとなしくしていろと言われたナリナは、いつものように大和の家に遊びに行った。


「大和兄ちゃん?」


 呼び鈴を鳴らしても誰も出てこず、家に誰かがいる気配もない。

 大和が『特区』を出たことなど知らないナリナは大和を探し、大和の匂いを見つけた。それを辿っていけば当然、特区を囲む壁に当たる。

 特区を囲む決して高くも低くもない壁。

 大人たちはその壁を見れば向こうに行ってはいけないと理解する。

 しかし子供は、その壁を見て向こうに行けないと諦める。

 だが子供がその壁を飛び越える身体能力を有していれば?


「フッ!」


 ナリナは獣人の優れた身体能力で壁を上る。

 普段であれば誰かの目があるだろうが、今は誰もいない。

 壁を上った先に見えるのは山と森。

 集合住宅から見えても行けなかった場所。


ナリナは『特区』の外へ出て行った。


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