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第十一話 種族訪問 ドワーフ編

 ドワーフの代表、バンダンは心底疲れ切って、やる気をなくしていた。

 先日の代表会議では強気な態度を見せていたが、今は病人のように顔を青白くさせ机に突っ伏していた。

 というのも、ドワーフの政治は議会制だ。エルフのようにハイエルフを王とした王政でも、獣人のように強者が群れを率いるわけでも、吸血鬼のように始祖を頂点とした血統主義でもない。

 複数の者が集まり、頭を突き合わせて話し合い、方針を決めるのだ。たった一人に様々な権限を負わせて重責を担わせるような真似はしていなかった。

 つまり、バンダンは代表というプレッシャーに圧し潰されてしまっていた。


「誰か、変わってくれんかぁ」


 議会では議長を務めていたがためにこの役割を押し付けられたバンダン。他の代表と比べればやる気はどうしても低い。

 だから情報収集などを怠り。


「こんにちは、観察官の津田大和です。本日は各種族の代表の方々と顔合わせの挨拶をしております。今、よろしいでしょうか?」


 事前に知っていたはずなのに、大慌てで対応することになる。




 ドワーフは異人の中でも特に人に近い。エルフのように耳が細く長いなど人と異なる身体的特徴を持っていない。ただ、見分けるのは簡単だ。

 まず身長が低い。平均身長は百四十センチ。次に筋肉が発達している。特別な運動をせずとも筋肉が育つ。最後に毛が濃く育ちやすい。またそれまでの文化からか、誰もが髪の毛か髭、または両方を伸ばしている。

 人であればこれら一つか二つに当てはまる者はいるだろう。しかしこの三つに当てはまる人はかなり少ないだろう。ドワーフよりも貴重な存在と言える。

 

 そして今、大和の前にそのドワーフがいる。

 その身長は特徴通り低く大和の肩にも届かず、その肉体は半袖の服の上からでも分かるほどに筋肉が発達し、髭は羊毛のような密度であり、まっすぐ伸ばせば身長を超えると思うほどに長い。


「ドワーフの代表のバンダンと申します。……部屋が散らかっておりまして申し訳ありません」


「いえ、突然来たこちらが悪いのですから。事前にお伺いを立てるべきでした。申し訳ありません。では、改めまして、観察官の津田大和と申します」


 バンダンはドワーフの中でも老齢で、顔の半分が髭で隠され、上半分も堀が深く誰もが堅物だと思ってしまうほど目つきが鋭い。

 要は顔が怖い。その怖い顔に申し訳なさそうに頭を下げられては、大和も頭を下げるしかない。

 そうした謝罪合戦の後に大和はこっそりと部屋を見回す。

 散らかっている、とバンダンは言ったが決してそのようなことはない。綺麗に整頓されている部屋だ。部屋の片隅に集められている酒の空き缶、空き瓶を除けば。

 

「それでですね、各代表の方々にここで暮らしていて不備、不満がないか聞いて回っております。物の位置が高い、扱っている物が脆いなど小さなことでも構いませんので。何かありましたら、相談してください」


 あまり長居をするのも悪い、というより早々に帰って各種族の代表との挨拶したことで得られた情報を報告書にして、久杉に提出せねばならない。そのため大和は早々に話を終わらせようとしたが。


「質問だが、代表が交代するのは駄目か?」


 バンダンからの予想外の質問に大和は一瞬固まった。

 何かを言われるとは思ってもいなかったし、異人の代表交代は想定されておらず、答えようがなかった。

 しかしそこで無理とは言えない。バンダンがあまりにも思いつめた顔をしていた。

 出来るとは言えない。しかし出来ないとも言えず、悩んだ末に大和は代表することへの不満点を探る。


「やっぱり代表は大変ですよね。皆さんの意見を調整などで」


「それは、慣れているので大丈夫だ。むしろ意見を聞けないのが辛い。その場で判断しなければならない場面があれば、一人で決断しなければならない。それが最善か、最悪かも分からず、一人で出した決断に全員を巻き込むことになる。代表としての責任が、重すぎる」


 代表の重責。その重さは測り切れず、苦悶の表情で心中を語られれば代表を続けるように説得することは出来ない。


「そうですね。代表と言っても、特別な権限が得られるわけでもなく、責任を負うだけですからね。確かに、辛いですね。代表だからと言って出来ることなんてほぼないですし、精々そろそろ行われるカタログの意見調整の中で自分の意見を捻じ込めるくらいですか」


 同意しつつ何か良い案がないかと悩み、そんな大和の態度からバンダンも察して、諦めるように肩を落としながら会話を続ける。


「ほう、カタログですか? よく分かりませんが。それはどんなものですか?」


「あ、はい。今は皆さんの身の回りの物は全て支給されたものですよね。衣服や食料、嗜好品なども。それらの支給を少し変えようという話です」


 カタログの話はまだするつもりはなかったため、大和の鞄には何の資料もない。なので仕方なく、不必要な紙の裏に簡単な絵を描く。


「えっとですね。今までは決められた品が、決められた数だけ支給されていましたよね。それがですね、カタログをお渡ししますので、一月毎に使える金額を設定させてもらい、その金額内で好きに買い物をして頂き、生活してもらうようになります。食料も、衣服も全て自分で買えるようになります。ただ最初のうちは種族ごとに金額を設定して、種族ごとに話し合っていただき何を買うのか選んでもらいます。最初から個人の自己責任で、とやらせると計画を立てずに好きに使って餓死寸前、なんてことになりかねませんので。金を使い、計画的に生活できるかというテストですね」


 実際は、種族、個人の嗜好から金の使い方。経済への理解。どのような物を求め、何に使うのかなど観察して少しでも情報を得るためでもあるが、それを伝える必要はない。

 現にバンダンは今までの支給からカタログを使った購入に切り替わる、と聞いても特に疑う様子を見せず、大和が描いた下手な絵を見ながら頷いているだけ。


「なるほど。一月で、金額分だけ、好きな物を。質問なのだが、そのカタログの中に酒は?」


「ええ、ありますよ。様々な種類に、高いのから安いのまで」


 大和の言葉を受けた瞬間に、今まで生気のなかったバンダンの目に力が宿った。


「その、カタログというのは頼めばすぐに届けてくれるので?」


「いえ、さすがにすぐは難しいですね。それなりにお時間は頂きます」


 鬼気迫る表情でバンダンは考えるように手で顔の半分を隠し、ぶつぶつと何かを喋る。


「……配達に時間がかかる。欲しいなら早い注文。最初のうちは種族で。意見の調整は代表の役割。代表の意思を多少強く反映させることも……」


 考えをまとめたバンダンは机を強く叩き、大和に頭を下げる。


「すみませぬ。先程の代表交代の話は聞かなかったことにしてくれませんか。もう少し、頑張りますので。……それで、このカタログの方法にはいつ頃に変わるので?」


「ええっと、皆さん次第ですが。早くても一か月後ですね」


「一か月後……。分かりました。これからもこのバンダン、ドワーフの代表として頑張りますので、よろしくお願いいたします」


「は、はい。よろしくお願いします」


 最初の元気のない姿はどこへやら。これまでの支給から購入にいずれ変わる、と伝えただけで覇気を取り戻したバンダンに首を傾げながら、大和は部屋を後にした。


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