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第十話 種族訪問 獣人編


 獣人の代表、ゼブル・ヒューンは焦っていた。

 観察官としてやってきた津田大和がエルフの代表、テレシアを助けた人であった。

 更に吸血鬼の代表、ヴァルが抜け駆けし、昨夜のうちに挨拶をしてしまった。

 四種族の中で個人的に大和に挨拶していないのは獣人とドワーフだけ。

 ゼブルは最後に挨拶するのだけは避けたかった。

獣人社会は明確な上下関係で成り立ってきた。最後に挨拶をするということは先の三人が上位であることを示し、上下関係は一度確定してしまうと覆すのが難しい。

 もちろんゼブルは日本が明確な上下関係で決まる社会ではないと知っている。しかし、一度自分の中で根付いた価値観は簡単には引き剥がせない。


「ゼブル様」


 大和を監視させていた部下が戻ってきた。


「どうした?」


「観察官、津田大和様はエルフとの話が終わったようで部屋から出ました。そして、こちらに向かってきております!」


「本当か!? 良し! 良し!」


 今にも吼えたくなる気持ちを抑え、ゼブルは拳を強く握る。

 二分の一に勝った。エルフとの話し合いが終わり、残るは三種族。しかし日は未だに高く、話し合いが出来るのは獣人かドワーフのみ。そして、獣人が選ばれた。

 出来ることならゼブルは自らの足で大和のもとに赴き、挨拶をしたかった。

 しかし大和が四種族に対して挨拶回りをしているということは、挨拶以外にも目的があるのではないかと考えてしまい動けなかった。

 もしかしたら住んでいる部屋を、どのようなもてなしをするのかを、何かを見ようと、確認をしようとしているのではないか。

 考え出したらきりがなく、動けない理由だけがどんどんと増えて行った。

 

 ただ最大の理由は、動き出すのが怖いため。

 津田大和についてゼブルは、困っていたテレシアに食料と衣服を与えるような義の人としか知らない。

 心優しい人なのかもしれない。誰にでも手を差し伸べるような人なのかもしれない。しかし、そうではないのかもしれない。

 未知の恐怖。しかしゼブルはそれを認められない。獣人の代表なのだから。誰にも未知に恐れ、判断に迷う姿は見せられない。

 だから、考えられる中で最善の方法を試す。

 

「ナリナを呼べ。大和殿と顔合わせる」


 それは婚姻。たとえ世界が変われど結婚すれば親族であり、親族相手に厚遇することはあれど冷遇されることはない。

 欠点はゼブルが自慢の一人娘を手放さなければならないということ。

 ゼブルは愛娘が結婚して出ていく姿を想像し、心臓がもぎ取られるような痛みを感じたが、今は獣人の代表。獣人の未来のために動かなければならなかった。




 獣人。『特区』にいる異人の中で最も人から離れた姿をしている。

 四肢はあるし、二足歩行もしている。大雑把に言えば人と同じだが、一目で分かる程度の違いがある。

 毛が深い、指が人ほど器用ではない、耳が頭部の上にあるなど。分かりやすく言ってしまえば人間と獣の中間のような存在。

 知能はある。言葉も通じる。しかし見た目が今までの異人の中でも特に人からかけ離れているため、大和は訪問するのが怖かった。

 それでもやらねばならないのが仕事であり。


「突然の訪問、申し訳ありません。改めましてご挨拶に参りました。観察官の津田大和と申します」


「ええ、ご丁寧にありがとうございます。獣人代表、ゼブル・ヒューンです」


 逃げ場など一切ないのが『特区』なのだ。

 故にそれ相応の覚悟を持ってきた大和だったが、出迎えたのは巨大な狼と人を合わせたような獣人、ゼブルと。


「は、初めまして! ナ、ナリナと申します!」


 小型犬のような可愛らしさを持ったゼブルの子。ナリナだった。

 

「はい、初めまして。ゼブルさんの娘さんですか? 可愛らしいですね」


 本題に入る前に軽く他愛のない話でも、と娘のナリナを褒めた大和だったが。


「ええ、そうでしょう。どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘です。そう、この前など」


 それこそ本題であったゼブルは一気にナリナを売り込みにかかる。

 しかしこれには最大の問題があった。


『ゼブルさんは、親馬鹿なのか』


 大和が娘自慢と勘違いし、結婚相手にと紹介されているとは気づけない。

 何せナリナは十歳の少女。可愛らしくはあったが、恋や愛などの対象にはなりえなかった。

 しかしそれに気付かずゼブルは一生懸命に愛娘を褒めちぎる。隣で聞いているナリナが顔を真っ赤にして止める程度に。

 そんな光景を見ていたためか、大和の中に獣人に対する恐怖心など消えていた。ただの、理想的な親子にしか見えなかった。


「素晴らしい娘さんですね」


 そしてそれはゼブルも同じだった。


「そうでしょう! 他にもですね……」


 愛娘の自慢を真剣に聞いてくれている。鬱陶しがらず、ゼブルへ理解の色を見せてくれる。

 もはやゼブルにとって大和は未知でもなんでもなかった。娘を預けてやってもいい程度には信用できる人物になっていた。

 それからもゼブルの娘自慢は続き、結局大和の挨拶はナリナの話だけで終わった。

 

 今回の挨拶で大和の印象に残ったのはナリナの話、ではなく見事な親馬鹿っぷりを見せたゼブルだった。


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