20話 宮野家の怠惰な1日
2章始まったわね(`・ω・´)
冬休み前日の終業式。校長の長い挨拶や生徒会長長、琉璃からの簡潔な挨拶が終わると、生徒達は「ようやく帰れる」と講堂から退出して行った。
明日から冬休みということで、皆一様に予定を話したり早く帰って遊びたいとそそくさと教室に戻ったり、完全に気が抜けている。
「琉璃姉いるー?」
気が抜けて、既に冬休み気分の佑月は、今日から年明けまで共に過ごす予定の琉璃を呼びに、二年生の教室に足を運んだ。
「お、いとこちゃんじゃん。玖条なら今職員室だから、待ってたらすぐ戻ってくると思うよ。廊下寒いだろうしとりあえず教室入りなー」
度々二年生の教室に顔を出すので、今ではいとこちゃん、ゆーちゃんの愛称定着し、学年も違うこのクラスにまで馴染んでいる。
「いとこちゃん、玖条来るまで髪弄らせてー」
「いいですよ。可愛くしてくださいね」
「ふふん、まかせて」
琉璃の友人に髪で遊ばれながら、また別の先輩とも話す。
教室によく来る可愛い妹として認識されているので、クラスの全員から、そして担任からも受け入れられている。それに、変にアイドルの様に扱われたり、嫌悪が混じった様な視線を向けられることもないのでお気に入りの場所の一つでもある。
「ほい、三つ編みおさげでございます」
「おー」
三つ編みを手でふわふわしていると、瑠璃が戻ってきた。
「玖条、いとこちゃん来てるよ」
「あら、もしかして待たせたかしら?」
「ううん、そんなでもないよ」
作ってもらった三つ編みを軽く持ち上げ「みてみてー」と瑠璃にも見せる。
「可愛くしてもらったのね。いいじゃない」
髪型が崩れない様に軽く頭を撫で、佑月の相手をしていた友人に「相手してくれててありがとう」と礼を言って教室を後にした。
「ただいまー」
「こんにちは、心春ちゃん」
「お兄に琉莉姉、おかえり!」
家に帰ると、一日早く冬休みを迎えていた心春に出迎えられた。
特に予定もやることもない心春はパジャマに髪型はルーズサイドテールのままと、昼前だが未だに着替えていない。
「心春、まだ着替えてなかったんだね」
「今日は特に予定もないから」
「そっかー、じゃあ今日はごろごろする日だね~」
「そうね……っ、ふあぁ~……ようやく羽を伸ばせるわ」
佑月と琉莉も部屋着に着替え、リビングの炬燵に入る。
佑月は最近お気に入りのニットワンピースにタイツ、琉莉はタートルネックのニットにチェックのスカートと、今日はもう予定もないが一応外にも出られる、ゆったりしつつもしっかりとした格好だ。
心春のパジャマは部屋着として使っても可愛く、あまりだらしなくは見えないが、さすがにしっかり服装の二人を前に今の格好でいるのはなんとなく恥ずかしいし、自分だけ仲間外れっぽいからと、心春もニットとスカートに着替えてきた。
「心春ちゃん、どこか行くの?」
「ううん、みんなとお揃いにしたかっただけ」
「仲良し三姉妹じゃん。写真撮っとこー」
佑月は漫画を読むのに使っていたスマホでカメラアプリを開き、二人を集めて写真を撮る。
「隙ありー!」
写真を撮るために近寄って来た琉莉の膝の間に座り、ふぅとやり遂げたように一息ついてまたスマホで漫画を読み始めた。
「お兄そこほんと好きだよね」
「なんか落ち着くんだよね、ここ」
琉莉の足の間に座れば、本を読んでいても片方の手で頭をなでたりお腹を摩ってくれたり、テレビを見ているときだと後ろから抱きしめてくれる。
「お兄、ほんと女の子になって甘えるようになったよね」
「だってみんなが甘やかすんだもん」
主に綾音と由夏、そして生徒会役員たちに甘やかされた結果、兄としてしっかりしようと人に甘えることなどなかった佑月も次第に懐柔され、妹ポジションが似合うくらいには他人に甘えるようになった。
今では最初の頃は少し反抗していた琉莉に対しても、自分から甘えに行くくらいだ。
「犬系彼女って感じで可愛いからいいじゃない」
「確かに」
「そんなに犬っぽい?」
兄としてふるまうとき以外の言動が基本的に無意識な佑月は、心当たりもなくて首をかしげる。
「そういうとこだよ」
心春や琉莉からすれば、すぐ甘えて来て、撫でられたら喜んで、感情がわかりやすくて、そして小さい佑月はまさに子犬だ。
「ゆーちゃん、あーん」
「はむっ」
琉莉が口元に持ってきたお菓子を素直に食べる。
「そうやってすぐ餌付けされるとことか犬だよねー」
「ふふっ、そうね」
「むー、あんまし嬉しくないー」
琉莉に頭を撫でられるが、犬っぽいと言われるのはまだあまり気に食わないようで、不満げな表情を見せた。しかし、撫でられるのは嫌ではないので手を振り解くことはなく、素直に琉莉の手を堪能する。
こうして佑月は本を読む琉莉の足の間に座って撫でられながらスマホで漫画を、心春は受験勉強に問題集を開きながらも雰囲気のせいでやる気が出せず友達とグループでチャットをしながらダラダラと過ごす。
「そういえば昼食べてないね」
家に帰ってすぐ炬燵に入ったせいで全員忘れていたが、十三時を過ぎたころ、ようやく佑月が昼食をとっていないことを思い出しが、今から作るのは面倒なので、カップ麺で済ませることにした。
読みたい漫画もなくなって、適当にイラストを見たりSNSを見たり、それにも飽きたら体の向きを変えて琉莉に抱き着いて「暇だしもう宿題でもしようかな」と思うくらいには暇を持て余していた佑月が備蓄していたカップ麺三つにお湯を注いで炬燵に運んだ。
さすがに食べるときにまで琉莉の足の間に座るのは邪魔だろうと、心春の正面に座る。
「お兄ありがとー」
「ありがとう、ゆーちゃん」
「気にしないで。それより心春、受験勉強捗ってる?」
漫画に集中していてあまり気にかけていなかったが、丁度広げられた問題集やノートが目に入ったので聞いてみる。
「ぜんぜん。この空気じゃやる気出ない」
素直にやっていないと認めるが、佑月も琉璃も、心春が普段から必ずどこかの時間に勉強時間を設けて毎日頑張っていることを知っているので、「そっか〜」と軽く流す。
「心春、いつも頑張ってるんだし今日くらいゆっくりしようよ」
「……うん、ゆっくりする」
今日は勉強せずにゆっくりするということになり、心春はこたつに広げていた勉強道具一式を片付けたとこほで三分でセットしていたタイマーが鳴った。
三人でカップ麺を啜りつつ「もうすぐクリスマスだねー」と、ついに明後日に迫ったクリスマスの話題で盛り上がる。
「琉莉姉はクリスマスに予定とかあるの?」
「ないわよ。そういう心春ちゃんは?」
「私は明日友達と遊びに行くけどクリスマスの日はないよ。家にいる。お兄は?」
「明日は出かけるけどクリスマスは何もないよ」
「じゃあクリスマスは家でパーティーしようよ。かず兄も呼んでさ」
「いいわね。ならせっかくだしケーキでも作ろうかしら」
「じゃあ私はピザでも作ろうかな」
今までも家でクリスマスパーティーはしていたが、今年は一層豪華になりそうで、「楽しみにしてるね」と心春はいつになく楽しそうだ。そして、今年は琉莉がいるので佑月も張り切っている。
しかし、動く気力がわいたというわけでもなく、食べ終わったカップ麺を炬燵に放置したままで、琉莉はまた本の続きを、心春はグループチャット、そして佑月はやることもなく、とうとう琉莉の足の間に座って琉莉の胸を枕に眠ってしまった。
そもそも幼く見える佑月がこうして大人っぽい琉莉に抱かれるように眠っていると、尚更子供っぽく見える。
「お兄の寝顔可愛いよねー」
「ほんとにね」
琉莉は自分の胸を枕に寝る佑月の頬を撫で、寝顔の写真を撮る。
「琉璃姉、それ後で送っといてよ」
「いいわよ。けど、ゆーくんには内緒よ?」
「バレたら消されちゃうもんね」
佑月の油断し切った寝顔はレアなので、消されるわけにはいかない。
寝ている間にこっそり撮って、二人の秘密にしてひっそりと楽しもうと、佑月が起きるまで何事もなかったかの様にまた好きなことを始めるのだった。
「ふぁ〜、よく寝た……」
午後三時をすぎた頃、インターホンの音で佑月はようやく目を覚ました。
佑月はまだ動けないし、その佑月にもたれかかられている琉璃も動けないので、心春が応対しに炬燵から出る。
玄関からは心春と、なんとなく懐かしい声が聞こえてくる。その声で佑月は焦って起き上がり、隣に移動した。
「こんにちは、ゆーくんたち」
「風香ちゃんいらっしゃーい」
訪ねてきたのは、予定より少し早く日本に帰ってきた佑月の父の妹の風香だった。
「ふー、さっむ。こたつこたつ〜」
荷物を置くと、風香も炬燵に入って暖をとる。
「みんなお揃いの服だー。いいねぇ」
「でしょー。えへへ、仲良し三姉妹だからねー」
「話には聞いてたけど、ゆーくん本当に心も体も女の子だ……」
前に風香が会った時は一人称が俺で、口調も普通もまさにら男子高校生と言うような感じだったが、今では佑月が「仲良し三姉妹」と言うようになっていて驚いている。
「お兄、もう立派なメスだもんね?」
「め、メスじゃない!」
「えー、ほんとー? メス堕ちしてない?」
「してないよ!」
なんとなくしている気もするが、流石に認めるのはプライドが許さないので強く否定する。
「ほんとかな〜?」
話があると言うことだったが一向に始まる気配はなく、結局この日は風香を混ぜて四人で駄弁っただけで、重要な話は何も出てこなかった。
ニット最強!ニット最強!うおおおおおおお!




