21話 身内大集合
キャラ数インフレ問題
クリスマスイブの昼前、この時間から心春は友達と遊びに、琉璃は生徒会メンバーたちと買い物に行っており、家には佑月と風香しかいない。
昔から風香とは定期的に遊んでいたので仲は良く、二人きりでいても暇になることはない。
今の姿になってからも数度会っているので気まずさもなく、炬燵に入ってホットココアを飲みながらゆっくり過ごしている。
「そうだそうだ。ゆーくん、今後どうするか決まった?」
そんな気楽な空気の中、思い出したように風香が話を振った。
「とりあえず大学行ってそのあとはまあ仕事しながら……かな」
「結婚は?」
女友達の顔を思い浮かべたが好きという感情があるわけでもなく、男子に至っては論外なので「ない」ときっぱり答える。
「そっか、まあそうだよね」
佑月の返答は特に不思議なものでもなく、納得してそれ以上は何も聞かなかった。
「風香ちゃん、話があるって言ってたけど……」
重要な話が何だったのか気になってそう聞いてみるが、いたってシンプルに「んー、聞きたいことは聞けたから大丈夫」と返された。
「ふぅ……」
もう話も終わりかとほっと一息ついて床に倒れてぼーっと天井を眺めていると、玄関が開く音がして、二人の足音が聞こえてきた。
心春は夕方に帰る予定で、琉莉も少し遅くなるかもと言っていたので誰だろうと炬燵から出て廊下を覗いてみると、もはや最後に会ったのがいつだったかすら思い出せない大人が二人。
(誰だっけ……)
なんとなく見覚えはあるのだが、最後に会ったのが小学校低学年の頃だったであろう人のかおなど覚えているはずもなく、首をかしげる。
「佑月君、久しぶりだね」
「こんにちは、ゆーくん」
(久しぶり……?)
少なくとも性転換後に一度もあっていないが、「佑月君」という呼び方で思い出した。
「あ、源祐おじさんと冬姫姉!」
会う機会が全くなかったので忘れていたが、二人こそが琉莉の親で、そして母の冬姫は佑月の父——祐也の姉でもある。
最後に会ったのは七歳の頃で、それから電話で話すことすらほぼなかったが、二人には存分に甘やかされた思い出があるので、少し警戒していた佑月の顔はぱっと明るくなった。
「あらあら、相変わらず嬉しい時の顔は可愛いんだね」
「何を言う。ウチの琉希と琉莉のほうが可愛いぞ」
「ははっ、おじさんも相変わらずだね」
昔から琉莉がいないところでは娘たちにデレデレな源祐は、佑月の前でも堂々と惚気る。
「しかしまあ、佑月君は本当に何というか、可愛くなったな。まあウチの子ほどじゃないが」
「源祐さん、そもそも可愛いのジャンルが違います」
「かわいいのじゃんる……冬姫は何を言っているんだ?」
「ふふっ、若干昔の世代の源祐さんにはわからないかもしれませんね」
「むっ、わ、私とて調べればわかるぞ!」
佑月の前だというのに娘のことで惚気たりいちゃつき始めたりとなんとも仲のいい家族だが、その姿を眺めるのもいたたまれないので、「ほら、いちゃついてないで入って入って」とリビングに招き入れる。
「おー、お姉ちゃんに源祐さんじゃん。久しぶりー」
「風香ちゃん、久しぶりだな。アメリカはどうだったかい?」
「いろんな意味でカロリーヤバすぎ。やっぱこっちが落ち着くよ」
源祐は風香にとって姉の旦那であり、二人が付き合い始める前から交流があったので彼とも家族のように仲がいい。
こんな光景は十年ぶりくらいになるのかなと微笑みながら、佑月は荷物を置いて早々に炬燵に入った二人にもお茶とお菓子を用意する。
「ありがとう。やっぱりゆーくんはしっかりしてるね」
「お兄ちゃんだから」
「考えは祐也に似てきたのだな」
祐也とはあまり仲が良くなかった源祐は少し不満そうだが、幼くして両親を亡くし、さらに突然の性転換という事件ともいえる不思議な事象に巻き込まれた佑月がしっかりしていることに越したことはないと、少し安心しているようにも見える。
「ところで、心春ちゃんと琉莉はどうした?」
「二人とも友達と遊びに行ってる。琉莉姉は遅くなるかもって言ってた」
「そうか」
いくら琉莉が大好きな源祐でも、琉莉には一定の信頼を置いているので、遅くなることに心配している様子はない。
「にしても、こうして集まるのは久々だな」
心春や一穂たちがいたとはいえ、当時よくしてくれていた風香や源祐たちに全く会えなかったのが寂しくなかったわけではないので、少し遠い目で「最後は小学生の頃だよね」と言う。
「す、すまない。突然琉莉を連れていなくなって全く連絡も取れていなくて……」
「ううん、忙しかったんでしょ? 仕方ないよ」
源祐は若くして大手グループの会長を務めており、妻の冬姫もその補佐や外交で忙しく、なかなか宮野家に顔を出せていなかった。
佑月とて玖条家の事情を知らないわけではないので、文句は絶対に言わない。
「ああ、それと来れなかった理由がもう一つあってな……その、男の子が生まれてな」
「ま、マジ……?」
琉莉からも聞いていない衝撃の報告に、佑月は目を丸くする。
「マジだよ。宗佑って言うの。来年から中学生」
「え、置いてきちゃっていいの? 年末までいるんでしょ?」
「いいの。というかついてきてって言ったら琉希姉ちゃんと一緒がいいって聞かなくて……」
「あー、なるほど」
自分も昔琉莉と一緒に居たいからと、常に後ろをついて行っていた記憶があるので、お姉ちゃんと一緒に居たい弟の気持ちが理解できてしまった。
「それに、私はどうも嫌われているようでな……」
「だろうねー。源祐さん愛情表現くっそ下手だもん」
「風香ちゃん、事実とは言えもう少しオブラートにだな……」
「源祐さん、ゆーくんのことも『あいつの子なら大丈夫だ』ってずっと言ってたものね」
「冬姫もやめてくれ……」
玖条家の現当主が妻とその妹に揶揄われて恥ずかしがっている姿を見ながら、佑月は嬉しそうに笑う。
(そういえば昔も源祐おじさんは二人に勝てなかったっけ)
親がいないことを悲しいとは思っていないが、やはり寂しくはあったので、こうして親族で集まって盛り上がるのは楽しいし、年上に構われるのが好きな佑月は盛り上がっている姿を見るだけでも楽しそうだ。
「そうだ。佑月君、私たちからのクリスマスプレゼントだ」
嬉しそうな佑月を見てふと思い出した源祐は、佑月に高級ブランドのロゴがあしらわれた紙袋を渡した。
「これ、めっちゃ高い奴じゃ……」
「何をプレゼントすればいいかわからなくて友人に聞いたらぜひうちの物をと勧められてな」
恐る恐る袋を覗くと、中には見るからに高級なベージュのコートが入っていた。
「おー、コート! ちょうど新しいの欲しかったんだよねー」
心春のおさがりを使っていたが、さすがに自分のが欲しいしクリスマスにでも買おうかと迷っていたところでのこのプレゼントだし、何より久々に会えてこんなサプライズまで受けたことが嬉しくて、佑月は満面の笑みで「ありがとう!」と礼を言う。
「ああ、よかった……今どきの女の子は何が欲しいのかよくわからなくてな」
「別に今どきの女の子って程女の子でもないけどね?」
もはや男であることへの未練はないが、男的な思考はしっかり残っているので一応主張しておく。
「じゃあ私からも。ゆーくん最近ゲームしてるって聞いたからゲーミングキーボード」
風香も一時的に使っていた和室から、佑月に渡そうと持ってきたプレゼントを取ってきて手渡した。
「キーボードじゃん! ありがとう!」
これまた数万の高いキーボードだが、なぜか佑月の部屋の雰囲気にぴったりなホワイトベースでテンキーがない少しコンパクトなもので、こちらも「可愛いゲーミングデバイス欲しい」と一穂と話していたところなので、喜んで受け取る。
しかし、いくら姪の立場とは言えもらってばかりいるのは気が引けるので、佑月は今晩は少し豪華な食事を作ることにした。
「いただきまーす!」
琉莉と心春も帰ってきて、宮野家にしては珍しく六人と大人数で食卓を囲む。
クリスマスらしい料理は明日に取っておきたいので、今日は海鮮ケーキにした。
「さすがお兄。よく作ったね」
「ゆーくんもなかなか料理上手いわね」
「こういう単品の奴は割と得意だからね。ちなみに明日はピザ焼くよ」
「佑月君、なかなか器用なんだな」
「ふふっ、まあね」
学校に行かずニート生活を満喫していた期間と心春の受験が重なったので、その時期に色々料理を作っていたし、小学生の頃は平日の朝と夜、そして休日は三食すべて佑月が作っていたので、料理は得意な方だ。
自分でもおいしいと思える出来栄えだった海鮮ケーキを堪能して食卓を片付けると、今度は心春と琉莉が佑月へのプレゼントを持ってきた。
「お兄、クリスマスプレゼント」
「私からも、どうぞ」
「心春……琉莉姉……ありがとう!」
もらったプレゼントを机に置き、二人を同時に抱きしめる。
心春からは色付きのリップ、琉莉からはイヤリングを貰った。
心春は中学生らしさがあるが、琉莉はさすが一大グループの令嬢と言った感じで、学生が買うにはなかなかの値段の物だ。しかし、アクセサリーに関してはなんとなくで買っている佑月は値段などよくわからないので、素直に喜んでいる。
「これ、ちょうど明日使えるね」
「なっ、ゆ、佑月君、まさか男——」
「違うよ! 普通に学校の友達と遊びに行くの」
源祐と佑月は頻繁に会っているというわけではないものの、姪に恋人ができるのはどうも寂しいと思ってしまうので、男じゃないと聞いて「ならいいんだ……」と安堵する。
「ねえゆーちゃん、学校に好きな子はいるの?」
「ううん、いない。なんか皆お姉ちゃんって感じだし」
「ゆーちゃん、一年生からも私のクラスからも妹みたいに扱われてるもんね」
「やっぱりゆーくん、春香ちゃんの血継いでるんだね」
「お母さんもそうだったんだ?」
「そうそう。私も実の妹みたいにかわいがってたな~。小柄で愛嬌よくて、いじったら可愛い反応するし嬉しい時は素直に喜んでくれるし、いい子だったよ。ほんと、ゆーくん見てたら思い出しちゃう」
佑月が生まれる前の話なので聞いていてもピンとこないが、ここにいる大人たちは春香と仲が良かったようで、冬姫の話を聞いて少し涙ぐんでいる。
「前もだけど、最近お兄に抱っこされて落ち着くのってそういうこと?」
「そうだろうね。ほんと、姉妹って言っても違和感ないくらい似てるから。ちなみにゆーくんのほうが胸は大きいよ。私とお姉ちゃんも大きいほうだし」
「胸だけは似なかったね」
「なんだ、私への当てつけか?」
貧乳だったらしい春香への揶揄いを混ぜつつ胸の話をしていると、心春が露骨に不機嫌になった。
「いいもんお兄に揉んでもらって大きくするもん!」
「心春、揉めるほどないじゃん」
「あっはははは!」
「ふふっ、ふっ、あはっ、ゆ、ゆーくん、そういうのは禁句だよ……ふははっ」
「あーおもしろ。心春ちゃんの怒り方も春香ちゃんそっくりだし」
冬姫と風香は昔を思い出しながら笑う。
しかし、そんな話題に入ることはできず、かといって止めることもできないまま黙っているしかない源祐は、そんな状況にいたたまれなくなって「先に風呂に入ってくる」とその場から逃げて行った。
「もー、お兄ほんと最低。ちょっと胸が大きいからって。背低いくせに」
「いいんだよ小柄な女の子は可愛いから」
「そうだけどさー。納得いかない! お兄のくせに女の子らしくなりやがって!」
「心春がしたんだけどね?」
二人が仲良く言い合っているのを聞きながら、風香は「仲良くなったんだねぇ」と呟いた。
風香が定期的に会いに来ていた時から仲は良かったが、さすがにここまで距離が近くはなかったし、佑月もどこか一歩引いていたように見えていたので、二人が楽しそうにしているのは風香としても嬉しいことだ。
「ねえ琉莉ちゃん。ゆーくん、女の子になってからどう? その、今までいろいろ我慢してたみたいだけど」
「最近じゃいろんな人に甘えまくりでストレスもそこまでなさそうよ。まあ、お兄ちゃんだからって気負い過ぎないでよくなったからじゃないかしらね」
「そっか。なら、こうなってよかったのかもね」
「ウチの愚弟、ほんと変な遺言残しちゃうんだから。おかげでゆーくんも心春ちゃんも強く育ったみたいだけど。でも、せめて辛い時によしよししてあげたかった」
佑月が辛い時に一緒に居てあげたかったのは琉莉も風香も同じで、静かに同意した。
「そうだ、明後日から温泉にでも行かない?」
今まで一緒に居られなかった分、少しでもこの冬休みに長く一緒に居ようと、冬姫がそう提案した。
「おー、いいね。半年ぶりに日本をたっぷり味わいたいし。ゆーくん、行く?」
心春と話していると突然話を降られ、全く聞いていなかったのできょとんとしながら「どこに?」と聞き返す。
「温泉」
「行きたい! 心春も行くよね?」
「行く!」
一穂たちとの旅行はたまにあったが、血縁者との家族旅行の経験が少ない二人は予定を確認する前に行くと即答した。
「決まりだね。じゃあ源祐さんに伝えるついでに私も風呂入ってくる」
こうしてクリスマスパーティーに続き温泉旅行も決まり、連続でなかなかないイベントを経験できると、佑月はすでに胸を躍らせていた。
そして、この日の夜はワクワクしすぎて眠れず、まさかと思って様子を見に来た琉莉に寝かしつけられたのだった。
知らないキャラが出て?????ってなったらごめんなさい
1話から改訂版ちまちま投稿してて、そっちで出してます
春香→佑月母です




