20話 妹属性と姉属性を兼ね備えたお兄ちゃん
佑月が星女に転校して一ヶ月と二週間。
由夏たちのおかげで女子にも慣れてきた佑月は、女子高生活を満喫出来るようになってきた。
心春と家事を分担するようになってから時間が空いたおかげで、放課後遊びに誘われれば行くようになったし、昼休みに「一緒に食べない?」と誘われたときも躊躇わなくなったし、体育の授業で由夏や茜以外ともペアを組める。女子が苦手だった佑月にとっては大きな成長だ。
学園のアイドル的存在である琉莉を筆頭に生徒会役員に甘やかされていたり、クラスの中でも特に人気な都からなんやかんやでちやほやされていたりと嫉妬されて若干敵視されることもあるがだからと言って攻撃されることがないとわかったおかげで変に怯えることもない。
こうして無事比較的短期間で女子高にに馴染むことができた佑月の学園生活はとても充実している。
「宮野さん、今日は部活来ないの?」
最近は部活の助っ人を頼まれるので、その繋がりで話しかけられることも多い。
「ごめん。今日は家事しなきゃだからパスかな」
「そっかー。もし大変だったら私も協力するから言ってね!」
「うん、ありがと。じゃあまた明日」
今日の当番は佑月なので、部活には顔を出さずに早く帰って買い物をして、時間まで部屋でゴロゴロする。
最近心春に釣られて始めたインスタを更新したり、LINEで一穂と他愛のない話をしたりして時間をつぶし、心春は帰ったらすぐ風呂に入るのでその前に風呂を掃除して湯を張り、六時前から夕飯の支度を始めた。
「ただいまー。今日のごはんなに?」
六時過ぎ、友達と駄弁っていて遅くなった心春が帰ってくる。
「餡掛けそば。風呂出たころには出来るよ」
「やった。じゃあ入ってくる!」
心春が風呂に入っている間に手際よく作り、ついでにおにぎりも数個作る。
「お兄、風呂出たよー」
夕飯を作り終えて食卓に運んでいると、ちょうど心春が風呂から出てきた。
白とピンクのジェラピケに、風呂上りの少し湿った髪。前を開けたままなので下着がもろに見えているが、お兄以外いないからと油断しきっているのはいつもの事だ。
「ちょうど今できたよ」
「おー、ナイスタイミング! いただきます!」
「いただきます。心春、今日学校どうだった?」
「そうそう、今日あやちーが告られてたんだよね」
「へぇ、モテるんだ」
「まぁモテるっちゃモテるけど、なんかチョロいとか頼めばヤれるとか言われてるんだよね。全然そんなことないのに。あやちーもそれ知ってるから断ってたけど。お兄はどうなの?」
「私はほんといつも通り。勉強教えたり部活手伝ったり。あー、最近なんかすごい水瀬さんに甘やかされるくらいかな」
家事や部活でなかなか嚙み合わず、頻繁に遊びに行けているわけではないが、学校では妹的ポジションとしてちやほやされつつも頼られており、由夏や茜以外にも仲のいい友人ができたので十分に充実している。
「ようやく女子高に慣れた?」
「うん、慣れた。でもやっぱ体育の着替えがね……」
「お兄今や正真正銘の女の子って感じなのにそこは変わらないんだ」
「だって、なんか悪いから……」
慣れたとはいえやはりまだ着替えだけはどうも慣れず、未だに由夏以外には目を向けられない。が、自分が見られることには慣れたので、着替えへの躊躇いはなくなっている。
「大丈夫だよお兄普通に女の子だから。そもそも由夏さんと風呂入った時点で今更だからね?」
「それは、まあ、そうだけど……」
由夏と風呂に入った時の——あの大きな胸を想像してしまって、顔を真っ赤にして俯くいた。
「お兄ほんと……ご褒美とか思ってるよりはマシだけどね。まあ、とりあえず楽しそうなら何よりだよ」
お兄ならこれからも大丈夫だと心春は安心するが、佑月にはまだまだ不安なことはたくさんある。これから来る水泳や修学旅行での風呂。まあどれも着替えがどうのと言ったことだ。
そして翌日。登校中に急に雨が降り出し、傘を持っていなかった佑月はびしょぬれになってしまった。
「うわ、ゆーちゃんめっちゃ濡れてるじゃん」
「いやー、傘忘れちゃった」
「とりあえず髪拭いたら?」
「うんー」
由夏に渡されたタオルで髪を拭いて、女子しかいないからと教室でジャージに着替える。
「タオルありがと」
「気にしないで。それよりゆーちゃん、もしかして天気予報見なかった?」
「いやー、朝テレビ見ないんだよね。なんとなく雨降りそうな臭いはしたけど取りに帰るのめんどくさくて」
「ちゃんと天気予報くらい見とかなきゃ。帰り、たぶん止まないよ」
「えー、置き傘もないんだけど……」
「じゃあ今日は駅まで一緒に——って、あーちゃんも濡れてきたの?」
「いやー、傘忘れちゃって」
「橘さんも忘れたんだ」
「天気予報見てなくてねー。宮野さんも?」
「うん、この通り」
体育があるからとちょうど持って来ていたジャージ姿を茜に見せ、そして「ほら、あっちも」と濡れた制服が干してある方を指さす。
「うわ、すっごい濡れてるね。私もだけど。もうすっごい透けちゃってやばかったよ。はー、着替えよ」
佑月は徐に制服を脱ぎ、ジャージに着替える茜からすぐ目を逸らした。
濡れて気持ち悪いからと脱いだ下着からも目を逸らす。
「いやー、濡れてないっていいね。あ、ゆかちー絆創膏ない?」
「はい。宮野さんもいる?」
「……貰っとく」
直だと乳首が擦れて痛いからと、「pixivでよく見るえっちなやつじゃん……」と思いながらそれで耐える。
揺れるなーとか、変な感じとか、それ以上の羞恥心で、そして茜も同じ様にしているということで頭がいっぱいになり、もはや佑月の頭の中は真っピンクだ。
その後、雨のせいでなかなか乾かず、佑月は昼休みになっても体操服のままでいた。
今の格好で教室にいるのはどうも恥ずかしいので生徒会室に逃げ込み、琉璃の机に弁当を広げた。
「ふぅ……」
暖房を付けていてそれほど寒くないのでジャージを脱ぎ、体操服と絆創膏というなんとも無防備な姿になり、誰もいないと安心しきって弁当を食べる。
今は一人のほうが落ち着くとはいえ話す相手がいないのはさすがに寂しいので、一穂に「傘忘れて下着まで濡れたから乳首絆創膏やってる」とLINEで話を振った。
基本すぐに既読を付ける一穂から「見せて」と冗談めいた返信が来て、佑月はつい「見せるか!」と叫んでしまう。
(……バカじゃん一穂)
とは思いつつも、どうせ送らないしと体操服をたくし上げ、ピースを添えて絆創膏が貼られた胸の写真を撮る。そして、シャッターを押すのとほぼ同時に、琉莉が部屋に入ってきた。
「ゆーちゃん、一体生徒会室で何をやってるのかしら」
「あっ、あ、る、琉莉姉……違うの!」
学校で他人に見られたら不味いことをしている佑月に呆れながらも、琉莉はじりじりと詰め寄っていく。
「まって、琉莉姉、目が怖いよ……」
「大丈夫、何もしないわ」
「絶対する目じゃん!」
佑月は胸を見ながら近づいてくる琉莉から逃げるように、椅子から降りてさらに壁際へと後ずさる。
「なんて冗談よ。それより、もし私以外が入ってきたら大変なことになるから気を付けるのよ?」
「うん……」
「で、もしかして制服も下着も雨でぬれたの?」
「うん。電車降りたところで振り出しちゃって……」
「朝はちゃんと天気予報見なさいね」
「はーい。でさ琉莉姉、もし帰り止まなかったら一緒に傘入れてほしいんだけど」
「いいわよ。ついでに家に行ってご飯でも作ろうかしら」
「え、いいの?」
「もちろん。久々に心春ちゃんにも会いたいし」
「そっかー。心春も喜ぶと思うよ」
「ゆーちゃんはすでに嬉しそうね」
「ふふっ、うん、琉莉姉が来てくれるから」
同じ学校に通えるようになったとはいえ学年が違う上に琉莉も佑月も何かと忙しいせいでなかなか一緒に居られる時間が少ないので、家で一緒に居られるのは大歓迎だ。
「そういえば琉莉姉、ここに来たのって何か仕事?」
「いいえ。ただ視線が鬱陶しいから逃げてきたのよ」
「人気者って大変なんだねー」
生徒会長ということもあって学内での知名度は最高、さらに大手グループの令嬢で容姿端麗頭脳明晰スポーツ万能と非の打ちどころのない琉莉は常に注目の的だ。
「ゆーちゃんも大変なんじゃないの?」
「私はそういうの気にしないって言うか、気付かないからそんな気にならないかな」
佑月も少し幼く可愛い容姿にいちいち可愛い仕草、そして見ていて庇護欲がわく言動。それに加えて何でも人並み以上にできてしまう才能で注目されているが、いつも由夏や茜と話すことに夢中であまり視線に気づかないし、見られること自体は慣れているので気づいてもあまり気にしていない。
「さすが、慣れるのが早いわね」
「荒療治みたいな感じだったから」
「ふふっ、確かにそうね。でもまあ、上手くやっていけそうならいいわ」
「うん」
佑月がようやく今の生活に順応し、学校でも上手くやれていると知って琉莉は安堵した。
「よし、じゃあ上手くやってるゆーちゃんにご褒美」
「んにゃっ」
ご褒美と言いながら、琉莉は佑月の頭を撫で、そのまま流れで「補給は大事なのよ~」と正面から抱き着いく。
「琉莉姉がやりたいだけじゃん」
「でもゆーちゃんも嬉しいでしょ?」
「嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい……」
「お姉ちゃんなんだからいいじゃない」
「そういう問題じゃないのー」
「でもちゃんと抱き返してくれるのね」
「……うるさい」
恥ずかしくはあるものの、こうして琉莉に抱かれると昔を思い出して安心できるので、自分からは離れない。
「相変わらず素直じゃないわね」
琉莉は微笑みながら、自分の胸に顔をうずめる佑月の頭を優しく撫でた。
(やっぱり、まだまだ子供なのね)
放課後、無事制服と下着が乾いたので、絆創膏を剥がして体操服から制服に着替え、琉莉の傘に入って学校を出た。
「雨強いままだねー」
「ここまで雨が強いと相合傘にロマンもクソもないわね」
「ねー。普通に雨の音うるさいし靴濡れるし。早く帰りたいよー!」
「……そうだ、迎え——はダメね」
「迎えって従者みたいな人の?」
「そう。でもついてこないでって置いてきたからたぶん呼んだら一時間以上かかるのよね」
「そっかー。じゃあ歩くしかないねー」
佑月の歩幅に合わせながら、琉莉もゆっくり歩く。
濡れた靴下のせいで歩く感触は気持ち悪いが、二人きりで話しながら歩くこの時間はなかなかに心地が良く、いつもより少し長く感じる駅までの道も苦ではなかった。
「うわっ、座れない……」
駅について電車に乗ると、ちょうど学生たちが帰る時間帯で少し人が多く、席はすべて埋まっていた。背が低くつり革が掴めない佑月はいつも座るかドアにもたれかかっていたのだが、そこも空いていないので、革を掴む琉莉につかまっている。
いつも降りる駅に着くと、そのまま琉莉と腕を組んだまま電車から降り、改札を出た。
駅から徒歩五分ほどのところにあるスーパーで食材を買って家に帰る。
「ただいまー!」
「おじゃまします」
「お帰り。おー、琉莉姉来たんだ」
「ええ、心春ちゃんに会いにね」
「んー、私も会いたかった!」
会いに来てくれたのが嬉しかったようで、心春は食材を持った琉莉に抱き着いた。
「うわ、濡れてるじゃん」
「さすがに相合傘じゃ防げなかったわ」
「お兄ちっちゃいけどさすがにねー。風呂入ってきたら? 溜まってるし」
「そうさせてもらうわ。ゆーちゃんも一緒に入る?」
「入るー」
初めは琉莉の胸でたじろいでいた佑月も、由夏たちと関わり、そして由夏と風呂に入ったおかげか身内ということもあって琉莉となら何の問題もなく入浴を共にできる。
風呂に入ったら昔のように髪を洗ってもらったり背中を流し合ったり、一緒に湯船に浸かるときは二人で引っ付いて、琉莉が前に座る佑月を抱くように座る。もちろん首のあたりに当たる胸など「やっぱり琉莉姉大きいなー」程度にしか思わないので、羞恥心で顔が赤くなることもない。それどころか、自分の胸と比較して
「やっぱり私小さいかな」なんて思ったり。
着々と、今の状態に慣れて行っている。
「琉莉姉、そろそろ上がる?」
「そうね。あ、服借りてもいいかしら?」
「全然いいよー」
風呂から出て下着だけ身につけた佑月は急いで部屋に駆け上がり、昔部屋着にしていた服を持って降りた。
「これでいい? サイズは割といい感じだと思う」
「そうね、ありがとう。ゆーちゃんもちゃんと着るのよ?」
「大丈夫、ちゃんと着るよー」
琉莉は佑月が昔部屋着兼パジャマとして来ていた、少し丈が長いTシャツとジャージのズボンを、佑月は「お前だから仕方ないのかもしれんが無防備すぎる」とパーカー一枚で過ごす姿に理性を抑えきれなくなりそうだった一穂にプレゼントされた心春とお揃いのジェラピケを着る。
「あら、新しいパジャマ? 可愛いの着るのね」
「一穂がちゃんと着ろってうるさいからねー。でも可愛いし暖かいし気に入ってる」
「いいじゃない。似合ってるわよ。けど、何というか、案外違和感はないわね」
佑月が元男とはいえ、普段からセーラー服姿で可愛らしい仕草をしたり、私服ではそれなりに「可愛さ」を意識しているような服を着ている姿を見ていた琉莉は、全く違和感は覚えなかった。
「ごちそうさま!」
風呂から出た琉莉は早々に夕飯の支度にとりかかったため、いつもより少し早い時間に珍しく三人で食卓を囲んだ。
琉莉の作る料理は栄養バランスも見栄えも味もよく、二人の時は基本好きなものか簡単なものしか作らないのでこういった料理は味もバランスもとてもいいものだった。
週に一回様子を見に来る琉莉が作る夕飯はプロにも引けを取らないおいしさなので、今や二人にとって週に一度来る特別な日のような扱いにまでなっている。
「琉莉姉この後どうする?」
「そうね、まあそれほど家も遠くないし、今日は泊まっていくわ」
「ほんと⁉ じゃあ今日一緒に寝よ」
「あっ、お兄ずるい!」
「ふふっ、じゃあ今日は三人で寝ましょうか。寝室はきれいにしてあるかしら?」
「心春が定期的に掃除してるから、結構きれいだよ」
「そう、じゃあ昔みたいに寝られるわね」
昔一時期琉莉が宮野家で過ごしていた時期、寝室のダブルベッドで琉莉を挟むように佑月と心春が寝ていた。
今ではさすがに少し狭くなってしまうが、ちょうど冬で暖房をつけても夜は少し寒いので、三人でくっついて寝ればさほど広さは問題にならない。
夜になるまでゲームをしたり駄弁ったりして時間をつぶしているうちに時刻は十一時。
勉強や一穂とゲームでもしていなければ基本この時間にはねている佑月はすでに目が閉じかかっており、起きているのも限界だ。
「……そろそろ寝ようか」
「うん……」
左に座る心春の肩に頭を乗せ、コントローラーを握ったままゲーム内の敵ではなく眠気と戦う佑月を見た琉莉が提案して、ちょうど区切りのいいところだったのでゲームを終えて寝室に向かった。
自力では立ち上がれないほどに眠いので、琉莉がおぶってベッドに運ぶ。
佑月を真ん中に置き、その右側に琉莉、左側に心春と、一番下の妹を寝かしつける姉二人のような構図で横になると、抱き癖のある佑月は琉莉のほうを向いて抱き枕にするようにぎゅっと抱きしめた。
「あ、お兄取られた……私も……」
琉莉に抱き着く佑月に後ろから抱き着く。
体格差の関係で心春にとって佑月はちょうどいいサイズの抱き枕でもあり、昔からよく抱いて寝ていたいわば寝床的な存在でもあるので心地よく、一気に眠気のスイッチが入る。
「んぅ……お兄のおっぱい柔らか……」
抱き着いて、どさくさに紛れて胸を揉む。
「心春ちゃん、起きてるときは怒られるからって……」
「だってもめるときに揉んどきたいじゃん」
「それは揉むときに乳首を弄るからよ」
「だって反応可愛いんだもん」
「変な道開いちゃってるじゃない……」
「いやー、だってお兄がこんな可愛くてあんな声出すんだよ? ならない?」
「ならないわよ普通。せめてそういう関係の友達で我慢しなさい」
「もう見飽きた」
「……心春ちゃん、なかなか進んでるのね」
問題発言を繰り返す心春に、もはやどんな感情を抱けばいいのかも分からず頭を抱える。
「まあとにかく、ほどほどにするのよ?」
「メス堕ち計画しちゃダメ?」
「いったい何に影響されたのよ……。もうゆーちゃん普通に女の子してるんだから許してあげて」
「えー、じゃあ代わりに琉莉姉のおっぱい揉ませて」
「……心春ちゃん、早く寝なさい。ほら、ね?」
「ん~」
どんどん小さくなっていく声で言われるのでこれは寝かしつけて回避したほうが早いと、佑月に抱き着いてリラックスしながらセクハラし放題な心春の頭を撫でてその場を切り抜ける。
「ふふっ、なかなか疲れる子たちね」
すらりと長い腕で二人を抱きしめながら、琉莉も一緒に眠りについた。
翌朝、いち早く起きた琉莉は制服に着替え「学校に行く準備をするので帰ります。ゆーちゃんはまた学校で」と書置きして家に帰った。
それから一時間後に心春が目を覚まして洗濯物を干して朝食を作り佑月を起こす。
「お兄、起きて」
「んあ……おはよう、心春……いつもありがと……」
朝はやけに素直で、今日見た「姉になった心春に世話を焼かれる」という夢のせいもあって珍しくそんなことを言う。
「どうしたのお兄」
「んぇ?」
眠い中、無意識に言っていることなのでそんなことを聞かれても答えられない。
「心春、起こして……」
「はいはい」
引っ張ってと伸ばされた手を引き、佑月を起こす。
そのまま勢い余って心春にもたれ掛かり、寒い朝にはちょうどいい体温でまた眠くなって二度寝しようとするも「お兄二度寝しないの!」と朝から怒られ、渋々目を覚ました。
朝食を取って歯磨きしながら「はみはっへー」といつものように髪をセットしてもらう。
さらに、まだ時間があるからといつも以上に心春にベタベタ引っ付く。
「お兄寒いー」
「んー」
ソファーでテレビを見ている心春が来てほしそうに手を伸ばすと、素直に膝の上に、心春の方を向いて座った。
「ふわぁ〜、お兄あったかい……けど、なんか違くない?」
「あ、違った? 昔これ好きだったよなーって思ったけど」
「それ昔の話じゃん。まあお兄可愛いからいいけど!」
結局可愛いからいいと、そのまま佑月を抱きしめ続ける。
「そういえばさ、なんで呼び方お兄に戻ったの?」
可愛いという割にはお兄ちゃんと思ってくれているのか癖で抜けないのか気になって聞いてみる。
「お兄はやっぱりお兄ちゃんだから。それだけ」
「そっか、ちゃんとお兄ちゃんできてたならよかった」
「お兄、言動は完全に女の子なのにお兄ちゃんな部分だけは変わらないよね」
「そりゃそうだよ。お兄ちゃんだから」
「まあ今はどう見ても妹だけどね」
「えー。じゃあ今はノーカン」
心春と抱き合っていると暖かいので、離れて兄らしくするのではなく諦めて妹っぽいままでいることにした。
(ほんと、普通に女の子じゃん)
(こんなこと、前じゃ絶対できなかったな……)
前から心春は佑月に懐いていたし、中学生になっても裸のまま風呂から出てきたりたまにゲームしたいからと佑月に髪を乾かしてもらったりすることはあったが、こんな恋人の様な距離感で接することは佑月の方が躊躇っていた。
昔みたいに抱きしめてあげたいなんて思ってはいたが、流石に嫌がられるかもしれないと控えていたので、今の姿でこうして心春を抱きしめられるだけでも兄としては?幸せだ。
もっとも、今はどちらかというと佑月が抱きしめられていると言った方が正しいが。
「わっ、な、なにお兄?」
後ろに回していた手を頭に回し、心春の頭をそっと撫でる。
「心春、大きくなったなってね。お兄ちゃん嬉しいよ」
「どうしたの急に」
「んー、ほら、こうしてみると心春もちゃんと成長してるんだなって。まあ私からすれば心春はずっと可愛い妹だけどね」
「えー、お兄のほうが可愛いよー」
「兄に対して可愛いとはこれ如何に」
「いいのいいの、女の子なんだから!」
「それもそっかー」
朝から心春とイチャイチャしながらほのぼのして、家を出るまでのんびり過ごす。
こうして「兄だから」なんて気負わず気楽に過ごすのも悪くないのかな、なんて思い始めた佑月だった。
どうしても心春は変態ってことを伝えたかったんです




