表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/194

第189話「ユウキとマーサ、グレイル商会を訪ねる(前編)」

 数日後、コウモリのニールを通して、アイリスから連絡があった。

 王宮で行われた会議についての情報だった。

 リースティア王国は正式に、ガイウル帝国に外交使節を送ることが決まったそうだ。


 使節の責任者は王国の大臣。

 それに数名の貴族と魔術師が同行する。

 護衛部隊は、バーンズ将軍の息子のロッゾ=バーンズさんが指揮(しき)を取るそうだ。


 ロッゾさんが同行してくれるなら安心だ。

 あの人は『聖王(ロード=オブ)(=パラディン)』との戦いでも活躍(かつやく)してくれた。

 ロッゾさんなら、外交使節を守ってくれると思う。


 俺たちは外交使節(がいこうしせつ)とは別ルートで、帝国に潜入(せんにゅう)することになる。

 もちろん、外交使節とはこまめに連絡を取ることになるだろう。

 使節の護衛(ごえい)がロッゾさんなら、俺も動きやすい。

 あの人なら、俺からの情報を素直に受け入れてくれるだろう。


 そんなことを考えていたら……『魔術ギルド』からも連絡が来た。

 ギルドの方でも、帝国への潜入部隊を編成することが決まったそうだ。

 具体的なことは、これから打ち合わせることになる。

 書状には『ユウキ=グロッサリアは指定の日に、ギルドに来るように』と書かれていた。


 ただ、それは10日以上先の話になる。

 時間がかかるのはしょうがない。

 外交使節とも連携(れんけい)を取らなきゃいけないからな。

 潜入部隊(せんにゅうぶたい)が帝国に入ってから1年後に外交使節が来訪……ってことになったら、連携の取りようもないわけだし。


 国が正式に外交使節を送り込む場合は、時間がかかる。

 資金もいるだろうし、ルート上の安全も確保する必要があるからな。

 国同士の付き合いって大変だ。


「それに比べると、個人の付き合いって楽でいいよな」


 ここは、俺の宿舎の厨房(ちゅうぼう)だ。

 俺はマーサと一緒に料理をしてる。

 その途中でふと、俺は外交使節のことを思い出していた。


「親しい友人なら、すぐに会えるからな。そういう関係って大事だよな」

「そうですねぇ」

「グレイル商会のローデリアなんか『遊びに行ってもいいか』って連絡したら、即座に『準備します! いつですか? 明日ですね!?』って返事してくれたもんな」

「えっと……ユウキさま。なんのお話でしょうか?」


 パンケーキを焼きながら、マーサは首をかしげた。


「マーサも一緒に、ローデリアのところに行かないかって話だよ」


 外交の話は、まだ正式発表されていない。

 だからマーサにも秘密にする必要がある。面倒だけど。


「それと……先の話になるけど、俺はちょっと遠出をしなきゃいけなくなると思う」


 鍋のスープをかき混ぜながら、俺は言った。

 スープには、褐色(かっしょく)の木の実が溶け込んでる。いいにおいがする。


 散歩で朝市に立ち寄ったら、栄養のある木の実が売ってたからな。

 フィーラ村がある山の中でも、なかなか採れなかったやつだ。

 それを使って、普段のスープをアレンジしてみた。

 スープの名前は『不死(イモータル)スープ』だ。


 もちろん、魔術がかかっているわけじゃない。

『栄養のあるスープを飲んで長生きしろ』という願いが込められている。

 胃腸が弱っていて、ぞうすいも食べられない人間でも摂取(せっしゅ)できるすぐれものだ。


 俺はスープをかきまぜながら、マーサの方を見た。


「ごめんな。留守にしてばっかりで」

「構いません。ユウキさまがお戻りになる場所を守るのが、マーサの役目ですから」

「ありがとう。マーサ」

「はい」

「あと、味見も頼む」

「いただきましょう……あら、すごくコクがありますね」

「リロララの木の実をすりつぶして入れてあるんだ。あれは熱を加えると、すごく(やわ)らかくなるからな、すりつぶしたものを入れると溶けちゃうんだよ」

「貴重なものではないのですか?」

「家族の命より貴重なものはないだろ」

「…………もう。ユウキさまったら」

「食べ終わったら、マーサも一緒にグレイル商会に行こう」

「わかりました。ではレミーちゃん、配膳をお願いできますか?」

「はいですー」


 俺とマーサが取り分けたスープとパンケーキを、レミーがトレーに()せていく。


 レミーはお茶やスープ皿を運ぶのが上手くなった。

 3回に1回はこぼさずに運べるようになったし、こぼすのも1(てき)か2滴くらいだ。

 きっと、マーサが根気よく指導したんだろうな。


「それじゃあ、食べながら話をしようか」

「はい。ユウキさま」

「はーい」


 俺とマーサとレミーは、食卓についた。

 木の実が入った『不死(イモータル)スープ』は……うん。うまいな。

 あとでローデリアにレシピを教えてあげよう。


「話というのは、俺が遠出する件なんだ」


 食事が進んだところで、俺は話を切り出した。


「今回の旅は、少し時間がかかるかもしれない。だから──」

「『マーサは一旦(いったん)、グロッサリア伯爵家に戻った方が』というお話なら、お断りいたします」

「まだ全部話してないけど?」

「マーサの予想は外れていますか?」

「……いないな」

「では、そういうことです」


 マーサは有無(うむ)を言わせない口調で、そう言った。


「ユウキさまも、マーサがどう答えるわかっていらしたのではないですか?」

「そうだね」

「それなら、わざわざ聞くこともないでしょう」

「マーサに選ぶ権利をあげたかったからだよ。家族なんだから、当然だろ」


 今回の旅は、どれくらい時間がかかるかわからない。

 その間、マーサとレミーはこの宿舎の留守番をすることになる。

 なにかあったときはローデリアにお願いするつもりだけれど、それでも心配だ。

 ふたりをグロッサリア伯爵家(はくしゃくけ)に預ければ、安心できるんだが。


「だけど……わかったよ。マーサはこの宿舎を守っていてくれ」

承知(しょうち)いたしました」


 マーサは立ち上がり、俺に一礼した。

 レミーも席を立ち「しょうちー」と、手を()げてる。


「よかったです。もしも『伯爵家に戻っているように』と命令されたら、どうやって反論(はんろん)しようかと思っていました」

「俺が命令すると思うか?」

「思いません。ただ、念のためです」

「命令はしないよ。家族に……やりたくないことを無理にやらせると、あとが怖いって知ってるからな」

「経験がおありですか?」

「ああ」

「家族に(うら)まれたりしたのですか?」

「それはないよ。ただ、文句は言われた。しかも、長い間残るかたちで」

「マーサはそこまで執念深(しゅうねんぶかく)くないですよ?」

「だよな」

「そうですよ。マーサのすることといったら、ユウキさまがお戻りになったとき、朝昼晩と髪を洗ってさしあげることくらいです」

「それはやめてくれ」

「だめですー」

「よくわからないけど、だめなのですー」


 声をそろえて笑う、マーサとレミー。


 マーサには(かな)わないな。

 彼女は腰に手を当てて、「絶対にお留守番しますからね?」って顔で俺を見てるし。

 (となり)でレミーも同じポーズを取ってるし。


「それじゃ、俺が戻るまで、マーサはこの宿舎を守っていてくれ」

(おお)せの通りに」

「おおせのとおりー!」

「長期間、特別な仕事を頼むことになるからな。マーサにはプレゼントをあげようと思う。だから明日、一緒にグレイル商会に行こう」


 マーサとローデリアを引き合わせて、連絡や連携(れんけい)が取れるようにしておこう。

 そうすれば俺も安心して、旅に出ることができるからな。


「そういうわけだから、明日は1日、俺に付き合ってくれ」

「はい。わかりました!」

「レミーはどうする? 欲しいものがあれば買ってあげるけど」

「レミーは留守番ですー!」


 迷いのない表情で、レミーは手を挙げた。


「ごしゅじんがいない間、マーサさまがおでかけすることもあるです。そんなときのために、レミーはひとりでお留守番をする練習をしたいのですー!」

「わかった。じゃあ、おみやげを買ってくるよ」

「レミーちゃんの欲しいものを教えてくださいな」

「ありがとうですー。ごしゅじん。マーサさま!」


 というわけで、俺はマーサと一緒にグレイル商会に行くことになったのだった。





「いらっしゃいませ! ユウキさま。マーサさま!!」


 翌日。

 グレイル商会を訪ねた俺とマーサは、支配人室に招き入れられた。


 支配人室に来るのは久しぶりだ。

 部屋には高級そうなテーブルがあり、客用にはふかふかのソファもある。

 まわりに設置されている彫像(ちょうぞう)貴金属類(ききんぞくるい)は、支配人としての権威(けんい)を示すためのものだろう。


 ──うちの商会はこんなに豊かです。

 ──だから安心して取り引きしてくださいね。


 というメッセージなんだろうな。

 まあ、そんな権威も必要ないほど、グレイル商会は繁盛(はんじょう)しているんだけど。


 この大商会が辺境の小さな村からスタートしたなんて、普通は信じないよな。

 どんだけ優秀だったんだよ。『フィーラ村』の連中は……。


「久しぶりだな。ローデリア」

「ごぶさたしております。マイロ……いえ、ユウキさま」

「マイロードでいい。マーサは俺の事情を知ってる」

「は、はい。存じ上げています」


 マーサは緊張した表情で、頭を下げた。


「マーサにとってユウキさまは大切な主人です。ユウキさまがどのようなお名前で呼ばれていても、それは変わりません。ですから、ローデリアさまのお好きなように呼んでください」

「ふふっ。素敵な方ですね。マーサさまは」

「俺の自慢の相棒(あいぼう)だからな」


 俺とローデリアは笑みを交わした。

 俺の(となり)でマーサは、真っ赤になってるけど。


「手紙で伝えた通り、俺はしばらく王都を離れることになりそうなんだ。留守の間、ローデリアにはマーサを助けてあげて欲しい。頼めるか?」

「聞かれるまでもございません」


 ローデリアは立ち上がり、胸に手を当てて、頭を下げた。


「グレイル商会はマイロードのために存在するのです。マイロードの大切な方であれば、全力でお助けするのは当然のことです。マーサさまの生活と身の安全は、グレイル商会が保証いたします」

「ありがとう。助かるよ」

「……あの、ユウキさまにローデリアさま。そこまで気を(つか)っていただかなくても」

「マーサは俺の大切な家族だ」

「マイロードの家族は、我が商会にとっても重要人物です」


 マーサを見ながら、俺とローデリアはうなずく。


「もちろん、ローデリアだって俺の身内みたいなものだからな。なにかあったら、マーサが相談に乗ってあげて欲しい。それでおあいこだろ?」

「い、いえ、マーサは家事しか取り柄がありません。なんの能力もない、普通の人間です。そんなマーサにできることなんて……」

「そんなことはございませんよ?」


 ローデリアは羊皮紙(ようひし)とペンを取り出した。

 それをテーブルに置いて、メモを取る体勢(たいせい)になる。


「商品開発には、普通の人の意見こそが重要なのです。『グレイル商会』は普通の人々の、地に足のついた発想を活かして、商品開発を続けてきました。それこそが我が商会の発展のルーツとも言えましょう」

「そうなのか?」

「そうなんですか?」

「そうなのです。たとえばですね……マーサさま」

「は、はい」

「私たちの村に、とても長生きで物知りな守り神がいたとしましょう」


 ……おい。

 それ、たとえ話じゃないよな?


「その方はいつも村人のことを考えてくださっていました。生活を楽にするために『こんなやり方はどうだろう』『あんな方法もいいかもしれない』と、皆の意見を聞きながら、生活環境を良くしていってくださいました」

「……はい」

「けれど、その方は亡くなってしまいました」


 静かな口調で、ローデリアは続ける。


「守り神を失った村人は商売を始めることにしました。そして商品開発をするときに『守り神のあの方ならどう思うだろう?』『守り神のあの方なら、どうやって問題を解決するだろう?』と考えるようになったのです」

「そうやって、お仕事をされてきたのですか?」

「そうです。それこそが『グレイル商会』の発展の秘密なのです」


 初耳なんだが!?

 え? じゃあ、代々の『グレイル商会』は、商品開発をするたびに脳内にいる前世の俺──ディーン=ノスフェラトゥに話しかけてたのか? 

 記憶の中にいる俺と会話して、俺だったらなんと答えるかを考え抜いて、商品開発のヒントにしてきたの?


 それで商会を発展させてきたって……すごすぎるだろ。

 200年間それを続けてきたのなら、前世の俺より、商品開発用の脳内ディーンの方が優秀になっているんじゃないのか……?


「『グレイル商会』を作り上げたのは、普通の人間でした」


 ローデリアは説明を続ける。


「けれど、大切な人を思いながら商品開発をすることで、商会を発展させることができたのです」

「そうだったのですか……」

「ですから、普通の人間には、大きな力があるのですよ。これも『グレイル商会』の守り神がおっしゃっていたことですけど」


 俺を横目で見ながら答えるローデリア。

 うん。言ったけどな。200年前に。


 マイロードのおかげで『フィーラ村』が発展しました、と言われたのに対して『村が発展したのはお前たちが一緒にがんばったからだ。普通の人間にだって、大きな力があるんだ』って。

 今になって話題にされるとは思わなかったけどな!


「そこで、マーサさまにおうかがいします」

「え? あ、はい。なんでしょうか?」

「ユウキさまと一緒に生活される上で、気になったことはございますか? こんなものがあればもっと快適に暮らせるのに、と思ったことはございませんか?」

「もっと髪を洗いやすい桶があれば助かります」


 マーサは迷いなく答えた。


「マーサの側には、顔が濡れるのが嫌いな方がいらっしゃるのです。なので、顔に水がかからないような桶が欲しいです。そうすればマーサは、毎日その方の髪を洗うことができると思います」

「マーサさまは、その方の髪を洗ってさしあげたいのですね?」

「はい。マーサにとっての楽しみですから。ぜひ、最高の桶を」

「なるほど。桶ですね?」

「はい。髪を洗いやすいように、底が浅い桶があるといいですね。あとは……首を支えられるように、桶の側面の一部がへこんでいるとうれしいです。そうすると桶に頭全体を入れることができますし、洗われている方も(つか)れないと思います」

「なるほどなるほど! これは……商機(しょうき)を感じますよ!」


 ローデリアは一生懸命(いっしょうけんめい)にメモを取っている。

 マーサもいつの間にか、身を乗り出して話をしている。


「そのような商品は、私も見たことがありません。だとすれば、(かく)れた需要(じゅよう)があるのだと思います。まずは試作品を作ることにしましょう」

「作っていただけるのですか?」

「マイロードには、マーサさまへのプレゼントを用意するように頼まれております。これもそのひとつです。まずは……使う方の頭のサイズを測る必要がありますね」

「はい。そうして頂けると助かります」

「承知いたしました」


 ローデリアはポケットからメジャーを取り出した。

 それを伸ばして、目盛りを確認してから、俺の方を見る。


「それでは、マイロード」

「お願いします。ユウキさま」

「「頭と首のサイズを、測らせてください」」


 意気投合(いきとうごう)したマーサとローデリアによって、俺は頭まわりと、首まわりの寸法(すんぽう)を計測されることになったのだった。




 後編は明日か明後日くらいに更新する予定です。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しいお話を書きはじめました。
「追放された俺がハズレスキル『王位継承権』でチートな王様になるまで 〜俺の臣下になりたくて、異世界の姫君たちがグイグイ来る〜」

あらゆる王位を継承する権利を得られるチートスキル『王位継承権』を持つ主人公が、
異世界の王位を手に入れて、たくさんの姫君と国作りをするお話です。
こちらもあわせて、よろしくお願いします!



コミック版「辺境ぐらしの魔王、転生して最強の魔術師になる」の7巻は10月20日発売です!

(コミックス情報はこちらから)

ユウキと、サルビア王女の護衛騎士アレク=キールスとの戦いが描かれます。
村市先生のコミック版「辺境魔王」を、よろしくお願いします!

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ