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第178話「元魔王、『煙の王騎』の分析結果を語る」

 ──ユウキ視点──




「アイリスの言い分はわかった。『獣王(ロード=オブ)(=ビースト)』起動実験は俺がサポートする。オデットも協力してくれるから、なにかあっても大丈夫だろう。あとは魔力量と、理性を失わないかの問題だけど、オデットが『霊王(ロード=オブ)(=ファントム)』を使ったときのことを考えれば、問題ないと思う。いざというときは俺がこっそり『侵食(ハッキング)』する。『獣王(ロード=オブ)(=ビースト)』の暴走は防げるだろう。アイリスはリラックスして実験に(のぞ)めばいい」

「…………は、はいぃ……」

「わかったら、お説教は以上だ。あんまり俺を心配させないでくれ」

「……ごめんなさい」

「反省したならいいよ」

「……あの、マイロード」

「ん?」

「そろそろ、私もおやつを食べてもいいでしょうか?」

「あと30分は我慢(がまん)だな」

「そんなぁ」


 アイリスの背中が(ふる)えた。


 ここはオデットの宿舎にある応接間だ。

 今、アイリスは椅子(いす)に座った状態で、壁の方を向いている。

 その後ろで俺はお説教。

 オデットはそのまた後ろでお茶を飲みながら、おやつを食べている。


「なるほど。よくわかりましたわ」


 オデットは満足そうにうなずいた。


「これが『フィーラ村』で行われていた、伝統的なお説教なのですわね……」

「……うぅ。私も、200年ぶりに受けました」

「そんな大層(たいそう)なものじゃないだろ」


 まあ、200年前もこんな感じだったんだが。

 危ないことをしたり、()()えたいたずらをした子どもたちは俺が(しか)ってたからな。

 悪いことをした子どもは座らせて、壁の方を向かせてた。


 その間、別室ではおやつの時間だ。

 他の子どもたちは蜂蜜(はちみつ)たっぷりのパンケーキを食べる。

 悪さをした子どもはその間、俺のお説教を受ける。

 それが終わった後で、俺が温め直したおやつを食べる。そういう(ばつ)だ。


「アイリス……いや、アリスがこの(ばつ)を受けるのは何度目だっけ?」

「……7度目です」

「何度もお説教を受けるなんて……前世のアイリスって、いたずらっ子だったんですのね」

「いえ、お説教されている間、私がマイロードをひとりじめできますから」

「そういう理由だったのか!?」

「……あ」

「よし。お説教を1時間追加する」

「わーい」

「……(ばつ)になっていませんわよ。ユウキ」


 ……うん。わかってる。

 まったく……しょうがないな。転生してもこうなんだから。

 アイリスのことは、俺がまるごと受け止めるしかないんだろうな。


(ばつ)はここまでだ。お茶を飲みながら、これからの話をしよう」

「はい。マイロード」

「ユウキってば、アイリスには甘いんですから」


 そんなことを話しながら、俺たちはテーブルについたのだった。






「『(けむり)王騎(ロード)』のことで、わかったことがある」

「『ヴィクティム・ロード』ですね?」

「もう調査したんですの?」

「ここに来る前にな。少しだけ『侵食(ハッキング)』してみたんだ」


『煙の王騎』は他の『王騎(ロード)』に比べると、『侵食』を防ぐための障壁(しょうへき)が弱かった。

 それはたぶん、あれが特別なものだからだろう。


「あれは『王騎(ロード)』の本体じゃない」


 俺は言った。


「『煙の王騎』は『ロード・オブ・アローン』という『王騎』の付属品(ふぞくひん)だ。まわりから魔力を奪うための道具……と言った方がいいな。そうすることで『王騎』本体を強化するようになっている。回収したものには番号がついていた『No9-9』と。たぶん『煙の王騎』は9個あるんだろうな」

「あんなものが9個もあるんですの……」

「ああ。しかも『煙の王騎』は消耗品(しょうもうひん)だ」


 俺は説明を続ける。


「敵に奪われたり、使い手との接続(せつぞく)が切れたら自動的に(こわ)れるようになっている。その後は本体の方で、失われた分が再生するんだろうな」

「再生を!?」

「『霊王(ロード=オブ)(=ファントム)』も()られた腕がくっついてただろ。あれと同じ感じだ」

「……腕がくっつくのと付属品が再生するのとは違いますわよ」


 オデットは目を見開いた。


「とんでもない性能ですわね。そんなものが王都で使われていましたの……?」

「ああ」

「それじゃ、ザメルさまに渡した『煙の王騎(ロード)』は?」

「自動的に壊れるだろうな」

「あなたのところにあるものも?」

「そっちは『侵食(ハッキング)』して自己崩壊(じこほうかい)を止めておいた。だから、本体の『王騎(ロード)』の方では再生しない。最大個数が8個になってるだろうな」

「あなたの能力の方がとんでもないですわ!」

「できれば『魔術ギルド』の方も自己崩壊を止めたかったんだけどな……」


 さすがに、そこまで手を出すわけにはいかないからな。

 回収された『煙の王騎』はギルドの保管庫に入ってるだろうし。

 カイン王子と老ザメルがなんとかしてくれることを祈ろう。


「ひとつ気になることがあるんですけど。マイロード」


 アイリスが手を挙げた。


「『煙の王騎』の使い手が、帝国の皇女さまに似ていた理由ってわかりますか?」

「それがありましたわね」

「ケイト=ダーダラさまの護衛もそうですよね? どうして、似ている人が何人もいるんでしょうか?」

「あー、それか」


 そのことは……あまり口にしたくないんだよな。

 かなりえげつない話だからな。子どもたちに聞かせるようなものじゃない。


 しかも、まだ推測(すいそく)だ。

『煙の王騎』を『侵食(ハッキング)』してわかったことと、『エリュシオン』第5階層で知った情報を組み合わせた、俺の想像でしかない。

 それをアイリスとオデットに伝えるのは気が進まないんだが……。


「どうしても聞きたいのか?」

「危険な人たちのことは知っておきたいです」

「わたくしも貴族として、知るべきだと思っています」

「わかった」


 ……仕方ないな。

 ふたりには話しておくことにしよう。


「ただし、ここだけの話だ。あと、これはまだ推測(すいそく)でしかない。そう思ってくれ」

「わかりました」

「わかりましたわ」


 俺の言葉に、アイリスとオデットはうなずく。


「結論から言うと、帝国の皇女ナイラーラと『煙の王騎』使いは、『聖域教会』によって調整された人間なのだと思っている」

「……え」

「ど、どういうことですの?」

「『聖域教会』はガイウル帝国の上層部(じょうそうぶ)に入り込んでいる。奴らは実験を繰り返し、帝国の皇族を『王騎(ロード)』の適格者になるように調整している。それが、俺の推測(すいそく)だ」


 俺は説明をはじめた。


『エリュシオン』には、今も『聖域教会』の司祭のゴーストが存在していた。

 地下第5階層には『完璧な人間』になるための実験施設があった。

 あの地で『聖域教会』が人間を対象にした実験を行っていたのは間違いない。


 ミーアも第一司祭のことを教えてくれたからな。


『奴は古代器物を使った実験により、完璧な人間になろうとしていました』


 ──と。


『古代器物』はライルによって封印されたけれど、奴がそれで実験を(あきら)めたとは限らない。

 この地から立ち去ったあとも、実験を続けていた可能性は十分にあり得るんだ。


「『エリュシオン』の第5階層には、変な実験施設が残されていたからな。『聖域教会』の連中は、その実験結果を持って逃げたはずだ」


 俺は説明を続ける。


「そして奴らは北の地にたどりついた。今のガイウル帝国がある場所だ」

「『聖域教会』は北の地でも実験を続けた……ということですの?」

「ああ。その結果、普通よりも魔力が強い人間を作り出した。それがガイウル帝国の皇族になったんじゃないか?」

「……そんなことがあり得るんですの?」

「あくまでも推測だ。だけど、200年前はガイウル帝国なんてものは存在しなかったんだ」


『聖域教会』の第一司祭は、帝国にいる。

 そのことは、皇女ナイラーラも証言している。

 だから──


「第一司祭が不死身だとすれば、奴が帝国の建国に関わっている可能性は十分にあるんだ」

「『聖域教会』の生き残りが魔力の強い人間を作り出した。それが帝国の皇族になった。だから帝国はまわりの国を併合(へいごう)して、帝国を作ることができた……ということですの?」

「推測だ。確信があるわけじゃない」

「それなら『煙の王騎』使いと、ダーダラ男爵家(だんしゃくけ)護衛(ごえい)はなんなんですの?」


 オデットは興奮(こうふん)した口調で、


「どうしてあの者たちには、皇女ナイラーラの面影(おもかげ)があるんですの? ガイウル帝国の皇族が『聖域教会』によって強化された人間なら、彼女たちはなにものなのでしょう?」

「魔力が弱いせいで皇族になれなかった者たちだろうな」

「皇族になれなかった?」

「『煙の王騎』は通常の『王騎』よりも弱い魔力でも扱えるんだ」


 これは『煙の王騎』と『聖王(ロード=オブ)(=パラディン)』のコアを調べた結果わかったことだ、


「だけど皇女ナイラーラが使っていた『聖王(ロード=オブ)(=パラディン)』は、特別に強い魔力の持ち主じゃないと使えない。つまり、皇女は特別に強い魔力を持っているということだ」

「待ってくださいな。ユウキ」


 オデットは考え込むように、額を押さえた。


「つまりこういうことですの? 皇女ナイラーラと『煙の王騎』使いの少女たちに違いはない。同じような姿かたちの人間の中で、特別に魔力が強い人間が皇女になっただけ……と?」

「ああ。そういうことだ」

「おそらく、皇女ナイラーラと『煙の王騎』使いは血のつながりがある。皇女ナイラーラは、その中でも魔力が強かったから皇女になることができた……」

「あの、マイロード。ひとつ気になることあります」


 アイリスが再び手を挙げた。


「これはカイン兄さまから聞いたことなんですけど……皇女さまがこちらの捕虜(ほりょ)になっているのに、帝国は返還(へんかん)の交渉にあまり乗り気じゃないみたいなんです。それって、帝国には皇女さまの予備がいるから……でしょうか?」

「たぶん。そうだと思う」


 帝国皇女ナイラーラよりも魔力の弱いそっくりさんがいるんだ。

 となると、帝国皇女ナイラーラよりも魔力の強いそっくりさんもいるだろう。

 より強い『王騎』をあつかえる者も。


「もっとも、今の段階ではすべて推測だ」


 そう言って、俺はお茶を飲んだ。


「これまで得た情報から想像したものでしかない。鵜呑(うの)みにしないようにしてくれ」

「わかってます」


 アイリスはうなずいた。


「聞いた話を鵜呑(うの)みにしない。興味があることは現地に行って確認しなさいというのが、マイロードの教育方針ですから」

「『フィーラ村』では実践的(じっせんてき)な教育がされてましたのね……」

「山の中だったからな。危険な場所もあったし、魔物もいた。頭の中の情報だけで行動すると命に関わるからな。実地での経験に勝るものなしってことだ」

「その教えを守っていたから、『フィーラ村』のみんなは魔物討伐(まものとうばつ)が得意だったんです」

「参考にしますわ」


 オデットは感心したように、うなずいた。


「でも、推測(すいそく)を確信に変えるには、どうすればいいのでしょう……」

「たぶんそれは……帝国との交渉次第だと思います」


 答えたのはアイリスだった。


「皇女ナイラーラに加えて、そのそっくりさんも捕虜(ほりょ)になったんです。そのことを伝えれば、帝国側を交渉のテーブルに引き出せるかもしれません。そのときに帝国がどう動くかで、相手が皇女やそっくりさんを、どうあつかっているかわかるでしょう」

「そのあたりは王家の仕事だな」

「はい! それとなくカイン兄さまに探りを入れてみます」

「わたくしの方からも、老ザメルに話をしてみますわ」

「帝国との交渉か…………そう考えると『獣王騎』の起動実験をするには、いいタイミングなんだよな……」


 王国側は帝国の出方を見る必要がある。

 となると、帝国や『聖域教会』がなにかしてきたときに、対抗するための力がいる。

 だから『獣王騎』をアイリスが掌握(しょうあく)しておくのは正しい。


 ……まったく。

 変なところで天才なんだよな。アイリスは。

 そのへんは前世から変わってないな。


「あの、マイロード」

「なんだよ。アイリス」

「ここは私をほめるところではないでしょうか?」

「調子に乗りそうだからやめておく」

「えー」

「なんだよ」

「今言ったじゃないですか。『獣王騎』の起動実験をするには、いいタイミングだって」

「そのメリットでプラス10点。事前に相談しなかったことでマイナス10点。心配させたことでマイナス10点。合計、マイナス10点だ」

「……そんなあ」

「アイリスの(かん)がいいのはわかってる。『獣王騎』の起動実験をするのにはいいタイミングだと読み取ったのもわかる。だけど、勘は外れることもあるんだ」

「……うぅ」

「そういうときにフォローできるように、俺に相談して欲しいんだ。わかるか?」

「はい。マイロード」

「わかればいい。あとで『不死(イモータル)ぞうすい』を作ってやるから」

「わーい。マイロードのごはんです!」

「……不思議ですわ。あなたたちを見ていると、200年前の光景が浮かんできますわ」


 うれしそうに両手を(あげ)げるアイリスを、おだやかな表情で見守るオデット。

 そんなふたりを見ながら、俺は宿舎に残っている食材を頭の中で確認する。

不死(イモータル)ぞうすい』の材料はあったはず。

 でも、マーサはもう夕食の用意をしているかもしれないからな。

 そのあたりは相談して決めよう。


 俺はそんなことを考えていたのだった。




 そんなことをしているうちに、時は過ぎて──




 アイリスが『獣王(ロード=オブ)(=ビースト)』起動実験を行う日がやってきたのだった。



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