11.雷蛇討伐
「貴方がカルフ大将で間違いはありませんか?」
「ああ」
イツラトゥスの国境線。
山々から連なる防御堤の一角。
そこにカルフはいた。
目の前には若い男が立ち、今回の討伐作戦の概要を説明していた。
「私はグレートン。サンゲン山、第一ブロックの指揮を一任されております。今回は、応援に来ていただき感謝の極みです」
「いや、我も精霊軍。民の命を守る仕事ならいつでも頼まれよう」
「ありがたい……それでですね、実は雷蛇が山の頂上に巣を作ってしまい、防衛の邪魔になっているのですよ。私たちもなんとかしようと努力はしたのですが……やはり、雷を抑えられなくて」
「――ああ、それで我が呼ばれたわけだ」
「はい。国最強の雷使いであるカルフ大将であれば、討伐も出来るかと考え」
「ふむ。任された。皆は危険だから下がっておけ。この戦、我一人で終わらせよう」
そう言うとカルフは背中に担いだ大剣を鞘から抜き。
大剣に雷を付与した。
「(雷蛇か……level4なら、一日で終わるか……)」
雷蛇。
Level・4。
大きな蛇であり、電気鰻のように前身に雷を覆わせる。
そして、口より繰り出す舌は雷を纏っているため、相当な一撃だ。
個体によりサイズは異なるが、過去最高はlevel・9.
神種。
名をイルルヤンカシュ。
ただ一つのみ。
「(それが、最大だったか。おそらくそこまでのlevelではなかろう。それこそ、level9など滅多に居ないのだから……)」
カルフは山を登っていく。
その遥か頭上、そこにいる雷蛇を殺しにと。
◇
「初めまして、拙者はクザヌキ。カルフ殿の案内を任されたのでござる。おおっと、拙者は戦うつもりなどないのでござるっ!」
少し歩いていると、いつの間にかに目の前に少年が立っていた。
警戒心を露わにしつつ、カルフは一応、剣を下ろした。
少年の姿は真っ暗だ。
と、いうのも全身を真黒い服で包まれていた。
顔も黒いお面を被っているため表情は読み取れない。
そして、手には何も持っていなかった。
だが、魔法を使えるかもしれない。
そのため、カルフは鋭い眼孔で睨み付け。
「我は、誰一人近づくなと言ったはずなのだが……何のようか」
「拙者は頼まれたので来たまで。文句なら、ドドン殿に」
「ドドン? 誰だ、それは?」
「ドドン殿は拙者の主であり、この山の持ち主でござる」
「持ち主……つまりは、山神のことか」
「そうでござる。主をご存じでござるのか?」
「ふん、ならば、さっさと姿を表せ、表さんと魔法を使う。――3、2、1」
「――ま、待ってくれ‼」
カルフが数を数え、0になろうかとした時。
誰かの声が場に響いた。
「まったく、大将はなんでこう、すぐに壊そうとしてくるかね、ああ、怖い、怖い」
「ふん、我の忠告を無視し、ここに現れたのだ。命の保証は出来んぞ、山神」
「まったく、君は変わらないね。昔のままだ。少しは成長したかと思ったのに」
「ふん、貴様こそ」
「二人は友でござるか?」
「「違う」」
「ふん、こいつは我の敵だ」
「大将は友では無い。親友だ……あっ、首を閉めるのはやめて、止めてくれ、しゃれにならない!」
「ふん、貴様など我の敵――人族の敵だ。今すぐにでも殺しても構わんのだぞ?」
「はぁ、僕が何をしたというんだい?」
「ふん、人族を壊滅に追い込んだ、人族を滅ぼそうとした」
「はぁ、昔の話じゃないか、まったく、いつまで覚えるつもりなんだか」
「――やはり、変わらんか。魔王ガフールよ」
「ああ、君を殺すまではね、この性格を直すつもりはないさ、英雄くん」
◇
「それで、何の用だ」
「うん、この先にいる子を殺すのを止めてほしいのさ」
「なんだと?」
「……あの子は可哀想な子なのさ。まだ、赤ん坊の頃に親を人族に殺され、ずっと一人ぼっち。それでも、なんとか生きているのを君は殺すのかい?」
「ああ」
「ひええ、これが英雄なんて終わりだね、人族は」
「我は人族の英雄。人族に害を及ぼす存在は殺すだけだ」
「どうしてもかい?」
「ふん、それが嫌ならこの山から出ていかせろ」
「はぁ、それが出来れば僕も苦労しないさ、当の昔にやって、嫌われちゃった、テヘペロ
――あ、ギブギブ、閉めるのはやめて……はぁ、つまりはさ、逃がすのを手伝ってはくれないか?」
「断る」
「ええっ、僕と君の仲じゃないか。少しは協力してくれてもいいじゃん! しないなら、人族をほんとに滅亡に追いやるよ?」
「勝手にしろ。貴様にはもう力はない。今の貴様では、死ぬぞ?」
「はぁ、まったく少年のときの君に施しをしてあげたのに、その恩は返してはくれないの?」
「施しだと? 人族に魔族の肉を喰わせ、挙句の果てに、魔族にさせようとしたことがか? あれは施しではなく、嫌がらせだ」
「僕としては、君が同族になれば――配下にでもなればずいぶんと楽ができて嬉しかったのに」
「ふん、ならば交換条件だ。赤竜の情報をよこせ……つい先日、殺したはずなのに消えうせた赤竜の情報をよこせ」
「仲間を売れと? 仕方ないか。まぁ、いいよ。君たちではあの子を殺すのは無理だからね」
「どういうことだ?」
「あ、これは秘密なのだった……ごめんね、これについては言えないかな」
「ちっ。まぁ、仕方ない、貴様の口の堅さは知っている」
「はぁ、それなら良かった。それで、赤竜だっけ? 言ってもいい情報は……3つかな」
「話せ」
「じゃあ、特別に前払いで一つ教えてあげよう。あの子は、他の赤竜とは違う、それこそ、赤竜では無い」
「ふん、言葉遊びか?」
「いや、これは本当の情報だよ。これも少し考えれば、アレス君ならば、あるいはわかるかもね」
「そうか、まぁ、仕方ない。貴様の協力など嫌だが、情報の為だ。ここは、引き受けよう」
「ありがとう、流石僕の友なだけあるね……あぁ、腕がおれる、折れるうううううっ!」
◇
「作戦はこうだ、まず僕が蛇をおびき寄せる。それをカルフ君の電撃で気絶においやる。簡単だろ?」
「なるほど、その後は任せてもいいのか? 我ではおそらく持ち運べないぞ?」
「それは拙者の仕事でござる。こう見えても、拙者は力持ちなので」
「ふん、そうか。それにしても。魔王の側近か……強いのか?」
「滅相もないでござる。拙者は新入り、怪力だけが取柄でござる」
「そうそう、僕の最近のお気に入りの鬼の子なのさ」
「鬼の子だと……?」
カルフは大剣を持ちあげる。
そして。
「ふんっ!」
カルフの渾身の一撃が鬼の子にあたる。
だが、ビクともしない。
大剣がまるで岩にでも当たったかのような衝撃が手に走り、思わずカルフは大剣を手から放した。
「さすが、僕の部下……やるねっ! ――あ、やめて、首をねじるのはやめて、取れるからっ!」
「こいつはなんだ? あまりにも頑丈すぎる。我の一撃を食らい、のけ反らないどころか、傷一つ無しだと?」
「それは、カルフが弱いだけじゃないの? それに、この子の情報は売らないよ?」
「拙者、得意体質で他の鬼に比べて、頑丈で怪力なだけでござるよ」
「なるほどな」
「はぁ、せっかく黙ったのに」
せっかく言わなかったのに部下が簡単に自己紹介をしてしまい。
魔王は頭を抱えた。
――――
――
「では行こうか」
「ああ」
カルフに二人? を加えた三人は山を登る。
山の斜面は草木で覆われ歩きにくく、苦戦しつつ上る。
「そう言えば、碧眼に負けたんだってね。まさか、僕の手よりも早く負けるとは思わなかったよ」
「ふん、あいつは変位種。Level8だった。我では無理だ」
「それを言うと、僕にも敵わないよ? なんだって、僕はlevel・15なのだからさ」
「それはまだ神種だった頃、500年以上前のことであろう。今のお前はlevel0だ。一瞬で殺せる」
「まぁ、殺すことは出来るかもね、だけど、僕が居なくなったら魔族、魔人は人族に総攻撃を仕掛けるかもねえ……くくっ」
「くそっ、やはり貴様は、最悪だ」
「他の二人よりはましだと思うけどね。暴殺の魔王なんかが政権を握ったら君たちが困ることになるし、僕が王に君臨している方が都合いいでしょ?」
「ふん」
この男を殺したところで変わりが出てくるだけ。
それをわかっているからこそ、カルフは怒りを抑える。
「主殿、やつのテリトリーでござる」
「そうかい。なら、僕がおとりをするから、カルフくん頼んだよ」
「いいだろう」
魔王だけが先へと歩いていく。
しばらくすると、遠くより悲鳴が聞こえ、地が震えた。
「あとはまかせた!」
「……任された――・【サンダー・ネット】・」
カルフの手から網状に組まれた雷が飛び出し。
そして、雷蛇に絡まった。
「シャァアアアアアアアアアアアアア!!」
「・【チェンジ、サンダーボール】・」
さらに雷の網が丸まり。
雷蛇を覆っていく。
雷蛇は必死に抵抗し、体から雷を放つも網に遮られ。
そして、全ての雷が収縮した。
「ほう、これが封印かい?」
「ああ」
「すごいのでござる」
三人が見つめる先で、雷蛇は暴れる。
だが、次第に雷の威力も弱まり。
――雷の球体へと変貌した。
「おいおい、これは生きているのかな? まさか、殺してはいないだろうね?」
「約束は守る。これは痺れているだけだ。だから、早く情報を教えろ」
「了解だよ。あ、悪いが先にこの子を運んどいてね」
「わかったのでござる」
「それじゃあ、赤竜について教えてあげるよ」
◇
「赤竜はlevel7以上、そして不死の生物。これが教えられる限界さ」
「level7以上だと? それは、普通ではないか。それが情報か?」
「ああ、赤竜は最大7さ、今回の赤竜は8かもしれないし、もしかしたら僕を越えるかもしれないよ?」
「ふん、そして不死だったか。不死ならば、忽然と消えたことも説明がつくか……だが、そうなると、それは赤竜ではないではないか」
「そうさ、だから言っただろ? 赤竜であって赤竜ではないってね」
「ふん、なるほど。まぁありがたくいただく」
「ああ、じゃあねえ」
「さらばでござる。ドロン!」
いつの間にかに鬼の子がカルフと魔王の間に現れ、そして言った途端に二人が消えうせた。
なんとも。
「(怪力。頑丈。転移。合計3つの異常値か……これは手ごわい相手だな。赤竜だけでは無く、魔王ら周辺にも気を付けるべきであるか)」
――
―
「討伐は終わった。我は帰るとしよう」
「いやぁ、今回は本当にありがとうございました。まさか、雷蛇を仕留めるとは……それで、死体はどちらに?」
「死体は焼いた。すまないな」
「いえ。獣の死体は新たに獣を呼ぶ可能性があるので、焼いていただき感謝しかありません」
「そうか、では我は本部に戻る。何かあれば、また応援で来るとしよう」
「いえ、このように手を煩わせることはもう二度とないように善処します」
「そうか、なら精進せよ」
「はい!」




