10.アイサ編-02
精霊軍所属カルフ隊二等兵。
少しばかり長い肩書、それが今の僕だ。
「ふぁー、寝すぎちゃったな」
外を見てみると、そこは真っ白な装飾で覆われた壁が見えた。壁は、太陽の光が反射し煌めいている。
そして、部屋の内部には僕一人しかいなく、両隣のベッドはきちんと整理されていた。
どうやらもうシルフィアさん、アンナさんは出かけたようだ。
そして時計を見ると正午を過ぎていた。
「やっぱり広いし、良い部屋だよなぁ……」
なんでも、シルフィアさんの話では最初は数十人とルームシェアをするのが普通らしいが、僕はカルフ隊だということもあり、シルフィアさんとアンナさんの部屋にお邪魔していた。
目の前の椅子には軍服が置かれており、それを試しに着てみると丁度いい大きさだ。
「――あら、起きたのね」
「あっ……おはようございます」
衣服を着替え、何をするか迷っていると部屋の主の一人であるシルフィアさんが入ってきた。
所どころ服が汚れ、汗をかいている。
運動か訓練でもしていたのだろう。
「すみません、寝過ごしてしまいました」
「いえ、今日はのんびりと休んでください。昨日の訓練はきつかったでしょ?」
「は、はい……」
昨日。
僕は初訓練の途中に気を失い倒れた。
医者には軽い貧血と言われ、その日は休んだ。
シルフィアさん曰く、突然魔力を限界まで引き出したことが貧血に繋がったということであった。
だから、今日は休めと言われたのだった。
「それで、調子はどうですか?」
「はい、一日休んだおかげで、だいぶよくなりました」
「ほんとに? ちょっと失礼――」
そう言うとシルフィアさんが僕の額におでこをつける。
至近距離に顔が近づいたせいか、吐息が顔にかかりくすぐったい。
「うん、大丈夫そうね」
「――はい。そういえばこのあと、シルフィアさんの予定はありますか? 本部の施設の案内をお願いしたいのですが……」
「うん、いいよ。それなら早速行こうか」
「はい」
◇
精霊軍第二の本部。
名をフレム。
王都に次ぐ規模の戦力を保持する都市の名がそのまま軍の名である。
筆頭は年により異なり、今年は大将カルフだ。
そんな都市フレムの中心に本部は置かれていた。
本部には様々な施設が存在し、その一角。
クレープ屋と呼ばれる店に二人はいた。
「それで、これはいったいなんですか?」
「これはクレープ、小麦粉の生地に果物とクリームをはさんだお菓子よ。はやく、食べてみて?!」
「はい」
椅子に向かい合うように二人は座っていた。
一人はシルフィア。
綺麗な金髪であり、人間離れした美貌の少女だ。
それに加え、繊細な魔法制御に優れ、優秀な精霊士であった。
一人はアイサ。
つい先日入隊したばかりの少年だ。
とはいえ、愛らしい顔立ちをしており、また同世代に比べて低身長なのもあり、少年にも少女にも見える。
アイサは恐る恐るクレープをかじってみる。
口に入れた途端にクリームが融け、噛みしめると果物のフレッシュさと生地の甘さがマッチし、とても美味しい。
アイサは見る間に顔を綻ばせた。
「とっても美味しいです。こんなに美味しいのを食べたのは初めてかも……」
「そう? それなら良かったわ。連れてきたかいがあったというものです」
「特に、この果物が新鮮で、酸っぱいけど程よい甘さもあって、それに――」
「ふふっ」
「あれ? な、なにか変ですか?」
「いえ、ようやく本来の君を見られたなぁ、と思ってね、つい、ふふっ――今までどこか居心地悪そうにしていたから、心配だったの」
シルフィアは嬉しそうに笑い、そしてクレープを一口食べてみる。
するとアイサと同じく笑顔で微笑んだ。
「それじゃあ、次の店に行こうか」
「はい。それで、次はどこに?」
「うん、君の服を買わないといけないでしょ? だから服屋に行きましょう」
「服ですか? 軍服とパジャマはありますよ?」
「はぁ、君も女の子ならさ、すこしはオシャレに興味を持たなきゃダーメ」
「えっ? いつから僕が女だとわかっていたの?」
アイサはその日一番の驚いた顔をした。
確かにアイサは女である。
だが、小さいころから己を守るために口調を男みたいにして、自分のことも僕と呼んできたのだ。
そのため、何も言ってないのに、あっさりと看破され動揺が走った。
「うーん、最初かな? まぁ、なんか理由があるから、男の子の振りをしているみたいだったから私たちからは何も言わなかったけどね」
「そ、そうですか……」
「それに、アイサみたいに可愛い子が男のわけがないでしょ?」
シルフィアは少し声を強めていった。
そして辺りを見回す。すると、二人を眺めていた……アイサを眺めていた男共が さっと目を逸らし、一人、また一人と逃げていった。
それを呆然とアイサは見届けた。
「か、かわいい? 僕が?」
「うん、妹にしたいくらいにね」
「そ、そうでひゅか、あっ……」
「あははっ、照れたね! ははっ」
「もぅ、からかうのは止めてください!」
「いいじゃない、怒ったアイサもかわいい!」
「もぅー」
普段自分がカルフやアンナ、同僚たちにされるみたいにアイサもしてみる。
その反応を見て、シルフィアはようやく気が付いた。
「(これが、普段の私か……カルフ様やアンナさんはこんな感じだったのかぁ……悪くないかも)」
「もぅ、シルフィアさん、やめてぇええええええ!」
そして、アイサの叫び声が響き、より一層シルフィアにからかわれるのであった。




