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精霊国物語  作者: 物語
12/12

12.アイサの一日 【訓練編】

 精霊軍第二の本部。

 その形は六角形であり、中心に城が置かれていた。

 その城を囲むように様々な店が開かれ。

 本部より少し離れた地。


 獣が住む地。

 そこにシルフィアとアイサはいた。

 二人とも薄い装備で身を包み、手には魔法銃があった。


「シルフィアさん、もう限界なのですが……」

「限界はないのよ、限界の先、そこに到達するのも大事よ?」


 如何にも体育会系の発言にアイサはうなだれた。

 今日は、次の銃弾で6発目。

 普通の精霊士は20から30発は平気で撃つことを考えればとてもすくない。

 明らかに微量な魔力量だ。


「ぼ、僕の魔力はきっと少ない……だから、これ以上は無理だと思い――」

「そう? 皆最初はそうよ。私も最初は15が限界だったけど、今じゃ、倍の30発までは余裕で出来るようになったし、やっぱり、気合が大事なのよ」

「うへえ」

「もぅ、女の子がそんな声をあげちゃだめです! それに、この先5発が限界じゃあ、いつまで経っても上には上がれないですよ?」

「そ、それはそうですけど……」


 カルフに最強になると誓ったのだ。

 その為には限界を越える必要があることはわかる。

 だが、一日やそこらで強くなれるわけもない。

 それこそ、一日で限界突破など不可能だ。

 それは、シルフィアも知っていた。

 かつての自分がどれほどの辛い訓練で今の自分までたどり着いたか。

 それが茨の道だということも。

 だが、それでもシルフィアはその道を歩いた。

 苦しくも、逃げたくても、諦めそうになっても。

 ただただ、愚直に突き進んだ。

 その結果、中尉となった。

 だからこそ、アイサにも頑張ってほしい。

 諦めてほしくない。

 そう思うからこそ、嫌われようが、悪役を貫く。


「撃たないなら、今日の昼ご飯は無しとします」

「えええっ! う、嘘ですよね?」

「いえ、ほんとです」

「え、うーん、それなら、でも」


 昼食と疲労。

 その二つを天秤にかけ、アイサはぐるぐると悩んだ。

 あまりにも悩み、頭がショートしそうなどほどだ。


「わ、わかりました……えい――」

「おお、やれば出来るのよ――あっ、大丈夫?!」


 銃を撃つと同時にアイサは倒れた。

 最後の魔力。

 限界を越えて、その先。

 アイサは魔力枯渇により気を失った。


「あちゃー、失敗しちゃった――」


 気絶したアイサに申し訳なく思いつつ。

 シルフィアは何か他にいい手段がないか考えるのであった。



 ◇



「これは?」

「新しい練習の方法よ、魔法銃の構造は弾に魔力を流し込み破裂させ飛んでいくの。その量が少ないほど威力も小さい。けど、魔法銃は正直な所燃費が悪くてね――だから今日からはこのピンポン玉で練習することにしたの」


 ようは、魔法銃の燃費は悪い。

 だから一日6発しか撃てない。

 そのため、魔力消費が少なくてもできるピンポン玉で練習をしましょうということらしい。


「でも、ピンポン玉でどうするのですか?」

「ああ、これは内部に魔力を貯める練習かな、こんな感じね」


 シルフィアの手にあるピンポン玉が少しコロコロと動く。

 そして、少しずつ膨らみ、破裂した。


「うわっ!」

「大丈夫?」

「はい」

「まぁ、試しにやってみて? 最初はほんの少し、それこそ魔法銃の半分以下でも構わないわ」

「半分以下……えい――あっ、破裂したけど」

「そうね、少しばかり勢いが強すぎたみたいね」


 アイサが魔力を込めたピンポン玉は爆発し、そして遥か上へと飛んで行った。

 それを二人は眺めた。

 そして、しばらく待つとやっと落ちてきた。

 試しに手に拾うと一部分だけが破れていた。

 おそらくはそこから魔力が噴出し上空へと飛んでいったのだ。


「――これって、もしかしたら、魔力の扱いが下手なのかもしれないわ――つまりは、魔力量が少ないんじゃなくて、使い方が悪かったのかも」


 と、シルフィアは考えを言う。

 そして、再度新しい球をアイサに渡した。


「もう一度やってみてくれる?」

「はい――えいっ!」


 今度もピンポン玉が破裂したかと思うとあっという間に消え。

 そして同様に落ちてきた。


「普通は破裂しても手のひらから遠く離れた場所には飛んで行かないはずなの。だけどアイサの場合、魔力が偏ってしまっていて、つまりは、球全体に浸透するはずが、一部だけしか浸透しないからかも」

「つまりは、どういうことですか?」

「ああ、ごめんね。ようは、アイサの魔力の制御が上手くなくて、本来は球全体に浸透しするはずが、一部のみに偏ってしまっているってことかな。これのせいで、魔法銃の弾全体に浸透するのに多くの魔力を使っている。ようは、効率がとても悪いのよ」


 つまりは、

 魔力制御が下手だから効率が悪いってことなのかな。

 全てを教えようとするあまりに細かすぎるのかも。

 なんだか、シルフィアさんは教えるのが苦手なのかもしれない。

 教えてもらっている立場でどうこう言えないけれど――。


「それって、訓練でどうにかできますかね……?」

「うーん、正直な所私ではわからないです。でも、アンナさんならわかるかもしれないです。アンナさんって、教えるのが得意ですから」

「そうですか、では、早速教えてもらいたいです!」

「ええ、まぁ、その前にお昼ごはんにしましょう?」

「はいっ!」



 ◇



「それで来たってことね~」


 精霊軍本部の食堂。

 全兵が座れるほどの大きさを誇る超巨大な食堂である。

 その窓際の席にシルフィア、アンナ、アイサは座っていた。


「ぼくに魔力の制御の方法を教えてください」

「うん、2回も言わなくても大丈夫さ、もちろんいいよ~」

「すみません、私の教え方が下手なばかりに……」

「ああ、それは知っていた。というか、こうなることを予想していたのさ~」


 シルフィアはそれを聞いてやっぱり、と自信を失い。

 それを見たアンナは豪快に笑った。

 それを見たアイサは黙る。


「それで、どこがだめだったの~」

「なんだか、ぼくの魔力操作が下手だから、一部分に魔力が集中してしまって。その結果、全体に浸透させるために、たくさん魔力を使用している、とシルフィアさんが言っていました」

「ふーん、なるほど~、ってことは、ピンポン玉の練習はしているってことでいいの?」

「はい、何が原因か調べるために色々と考えて、やってみてもらいましたよ」

「そっか、なら、次はミニ気球かな~」

「ミニ気球? それってどんな練習なのですか?」

「えーと、手のひらサイズの気球に魔力を送って浮かせる練習よ。私もやったことはあるけど、確かに魔力制御には関係しているかも――少しでも送る魔力の量が変わったら浮きすぎちゃうし、少ないと落ちてくるし」

「そういうことさ~これでもう少し練習して、それでもだめだったらもう一度来てみて」

「はい」



 ◇



 今日は一人だ。

 シルフィアさんもアンナさんも仕事らしい。

 僕はというと、暇だ。

 自室(相部屋)で魔力の制御の練習だ。

 これもそれも。

 戦力になるほどの力を持っていないかららしい。

 つまりは、弱い僕が居ても邪魔だということかもしれない。

 そう思うと泣けてくる。



「――えいっ! えいやっ!」


 様々な掛け声を気球に向ける。

 少し浮いた。

 少し沈んだ。


 ミニ気球。

 大気を越え天空に及ぶもの。

 それを限界まで小さくしたものがミニ気球だ。

 広げた手の上にミニ気球を置く。

 そして、魔力を送る。

 だが、浮かぶだけでその場でとどまらない。


「なんで安定しないの……?」


 何度やっても安定しない。

 少し浮いてもすぐに沈む。

 かといって力を入れすぎると遠くまで上がる。

 だが少なくても今度は浮かない。


 なんとも難しい練習だ。

 でも、これが出来ないといつまで経っても魔法銃が役立たない。

 ただの鉛の塊でしかなくなる。


「――へいっ! そいやっ!」


 今度は祭りみたいに掛けてみた。

 とはいえ、何も進歩は無い。

 平坦だ。

 真っ直ぐに成長しているだけだ。

 飛躍するどころか、地を這っているだけだ。


「これって、何がいけないの……?」


 魔力の安定。

 それをするには、効率よく高密に一定量の魔力を流し込む。

 これが大切だとシルフィアさんは言っていた。

 それを実践していると思うのだが、何も変わらない。


「――はぁ、お腹空いたな――今日はなにかな」


 気分転換にお昼にする。

 今朝、シルフィアさんに渡されたお弁当だ。

 木製の箱。

 その中にパンに具を挟んだ料理がギッシリと詰め込まれていた。


「どれにしようかな、あっ、これって、ハムかな……?」


 一つ、また一つと食べていく。

 ジャムやハムなどが挟まれていてとても美味しい。

 パンも柔らかくて歯に優しい。


「こんなの食べたことない――僕が知っていた世界は小さかったのか……」



 全部食べ終わった。

 今度作り方を聞いてみようっと。

 あ、そうじゃない。

 気球の制御を成功させないと……。


「でも、どうすれば――あっ、そうか、そうだよ」


 ふと、ある考えが脳裏によぎった。

 ようは魔力の量を安定させればいいのか。

 それなら、こうすれば……。


「で、出来た!」


 試しに、左手の下に右手を重ねた。

 そして、右手から魔力を、左手で魔力の量を調整してみた。

 これで上手くいった。


「両手で魔力を生み出す必要なんてないのか……」


 右手で魔力、左手で制御。

 これが大事なんだ!

 今までは両手で魔力を生み出していた。

 その結果、魔力の量の調整が出来ずにいた。


「でも、片手を魔力、片手を制御にしたら出来た!」


 嬉しくて思わずその場で跳ね上がった。

 着地すると、ドシンと床が響いた。


 早速、シルフィアさんに見せに行こうっと。

 いや、その前に魔法銃の練習もしてみようかな。

 うん、そうしよう。



 ◇



 魔法銃を両手で握る。

 昨日よりも軽く感じた、これも両手で持っているからだろう。

 そして、引く。


「うわっ!」


 火花が散り、銃口から赤く光る弾が飛び出した。

 それは木々を貫き燃えて消えた。

 そして、そんなに疲れない。


「これは成功? でも、わからないし――えいっ!」


 もう一発。

 先ほどとは異なる弾道で飛んで行った。

 少しばかり魔力を強く込め過ぎてしまったようだ。

 そのせいか、木々が燃えてしまった。


「あ、や、やばいかも――ど、どうしよう……?」


 予想外の出来事にあたふたしてしまう。

 その間にも木々から木々に燃え移り、辺り一面が燃え上がった。

 木々からは鳥たちが羽ばたき、地を這うように様々な生き物たちが逃げていく。



「――これはどういうことだ!」

「ああ、わかんねえ、だけど消さないと、【ウォーター・プレス】」

「ああ、【レイン】」


 呆然と見る僕の近くに男2人が走り魔法を使った。

 そして、瞬く間に消火されていく。

 そして、僕に気づいたのか近づいてくる。


「怪我はしていないかい?」

「歩けるかい? なんなら、部屋まで送ろうか?」


 二人は少しにやけながら話しかけてきた。

 正直変に思った。

 何が変なのかわからないけど。


「ぼ、僕は平気です。それよりも、木が……」

「うん? ああ、これくらいなら平気さ。明日には回復しているよ」

「ああ、そうだな」

「――どういうことですか……?」

「この木はね、特異体質持ちの珍しい木なのさ。それも燃焼に強いのさ、だからよく見たらわかるけど、内部までは燃えてない。それどころか、表面が少しだけ炙れただけなのさ」

「そ、そうですか」

「それで、君の部屋はどこだい?」

「うんうん、送るよ?」

「あ、ありがとう。えーと、A1なのですが――」

「A1? それって、カルフ隊の部屋だよね、ってことは、も、もしかして」

「はい、僕はカルフ隊の見習い兵のアイサでs」

「――うわあっぁあああ! す、すみません、まさか、カルフ隊の人とは露しらずに!」

「こ、これは違うのです。だから、二人には黙っておいてください!」

「はい、わかりました」

「あ、ありがとう!」

「サンキュー!」


 そう言うと二人は駆け足で逃げる様に行ってしまった

 なんで?

 僕がカルフ隊だから?

 それとも、何か失礼なことを言ってしまったのだろうか。


「――でもまぁいいや。火を消してもらえたし……次からは気をつけないとだめだね」



 ◇



「なるほど、そうきたのね」


 所変わり、部屋。

 目の前にはシルフィアさんが座り、その正面に僕がいた。

 僕の手の上にはミニ気球があり、ぷかぷかと同じ場所に浮き続けている。


「はい、右手で魔力、左手で制御。これでできるようになりました」

「うん、悪くないと思うわ。それで謝らないの?」

「えっ!? な、なにをですですか」

「はぁ、隠そうとしても無駄よ? というか、隠すのが下手すぎだし――魔法銃を勝手に一人で使ったでしょ? それも、燃え上がるほどにね」


 シルフィアが少し怒り気味で言う。

 それを聞いて、僕は体が強張り、そして固まりそうになる。

 なんだか、初めてシルフィアさんが怖く感じた。


「す、すみません」


 あまりに怖く、あまりにも自分の行動がいけないことだったかを知り、泣きそうなのを堪えつつ、謝罪した。

 それを聞いて怒り顔ではなくなったが、それでもまだ、怒ってそうだ。

 でも、当たり前かもしれない。

 あの二人が来なければ凄い火事になったかもしれないのだ

 怒るのも当然のことだ。


「火事って危険なのよ……それで大丈夫?」

「えっと……?」

「ああ、怪我はしてない?」

「は、はい。でも、木を焼いてしまいました……」

「そう? でも、あれって燃焼耐久が強いから大丈夫よ? それに、あの木は練習用だから、別に消し炭にしても誰も文句は言わないわ」

「そ、そうですか……」


 あまりにも雑な扱いをされる木を哀れに思いつつも、そのことで怒られたということではないらしい。

 でも、それならなんで怒鳴られているのだろうか。


「?」

「まあ、怪我がなくて良かったよ」

「はい……すみません、でした」

「今回は許すけど、次からは勝手に行動してないで私かアンナさんに伝えてね」

「はい!」

「うん、ならば問題なし! じゃあ、行きましょうか?」

「どこにですか?」

「決まっているじゃない、魔法銃の練習よ」



 ◇



「えいっ!」


 魔法銃の銃口から一発の弾丸が弾け飛ぶ。

 弾丸は綺麗に回転しながら進み。

 そして、木にぶつかり、破裂した。


「おおっ! 最初よりも制御は上手いね――でも、まだ魔力消費量が多いかんじかな」


 シルフィアは弾を見つつ高速で解析していく。

 そして、腰の巾着からピンポン玉を取り出した。


「やってみてくれる」

「はい」


 小球を受け取ると、アイサは左手の上に小球、下に右手を重ね。

 そして、勢いよく魔力を注ぎ込む。

 すると、小球が小刻みに揺れ、そして手のひらで回転して破裂する。


「うん、前よりも良くなっているね。それに、魔法銃の扱いもだいぶ上手くなっているし」

「こ、これで僕も戦えますか?」

「あまいね、そんな簡単には戦えないのよ、まだ、魔法も使えないし、体力もないでしょ? 基礎力が低いうちはだめ。それこそ、一年くらいは練習だけかな」

「そうですか……」


 役立たずだと思いこみ落ち込みアイサ。

 それをシルフィアは懐かしく感じた。

 自分も最初は同じくらいだめで、カルフ様に呆れられたくらいだ。

 でも、今は違う。

 これも良き師に出会えたから。

 だからこそ、次は自分がなる。

 そのためにも、アイサに自分の知識、経験を教えていこう。


「僕は強くなれますか?」


 アイサが少しばかり不安げに訪ねた。

 手は震え、強く握りしめることで落ち着きを保とうとしている。

 だが、意志は弱くない。


「それはアイサ次第よ。才能なんて必要ない。必要なのは、覚悟、気合、そして、根性。この三つだけ――誰にでも強くなるチャンスはあるのよ。ただ、それを掴めるかどうかというだけでね」

「そ、そうですよね――僕、頑張って、いつか、シルフィアさんみたいにカッコいい精霊師になります!」

「ありがとね」


 私がカルフ様を目標としたように、アイサは私を目標としている。

 だから、私も頑張らないと。


「――そういえば、魔法銃の制御はどれくらい出来るのかしら?」

「制御ですか……? ちょっと、わからないです……すいません」

「えーとね、つまりは、魔法量の調節だけじゃなくて、向きとかも操れる?」

「向き? 向きって、銃口の向いた先しか飛ばないはずですよね……?」


 ああ、アイサはまだ知らないのか。

 魔法銃は、弾丸をも制御できる魔法道具だということを。


「魔法銃はね――言葉よりも実践のほうがいいね、よっ、と」


 魔法銃から発射した弾が真正面の木に向かって飛んでいく。

 だが、途中不自然なほどにくねり、曲がり。

 そして、二つ横の木の幹へと吸い込まれるかのように飛び込んだ。


「えっ? ま、魔法?」

「これが、真の魔法制御よ。弾に込める魔法の量や位置までを細かく決めることで、行き先を自由自在に変える。まぁ、小球みたいに、魔力を偏らせるみたいな感じかな」

「すごいです、僕もやってみます、えいっ!」


 アイサが持つ魔法銃から弾丸が一直線に飛び出し。

 そして、少しも曲がることなく、木へとぶつかった。


「あー、やっぱり難しいです。シルフィアさん、どうやれば、あんな綺麗に変幻自在に撃てるのですか? アドバイスをください」

「うーん、それが私もわからないのよ、こう、感覚的なものと言うか」


 呆然とするアイサに説明をしようと思うも、自分がわからないため、説明のしようがない。



 ――それもこれも、全てはシルフィアが魔法制御の天才だからなのだが、今まで誰にもこの技を見せてこなかったためか、シルフィアは気づかない。

 己が魔法制御の天才だということに。


 だからか、シルフィアはこう言った。


「まぁ、これは練習の成果かしら」


 と、明らかに才能であり、彼女だけが使えるオリジナルスキルなのだが。

 無詠唱魔法と同じくらい珍しいのだが。

 その時は、まだ、シルフィアは知る由もなかったのであった。




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