50.預言をしたのは*アリス*
「桃李誰なの? 何を見てるの?」
「祖母だ。……死んだ祖母。僕が生まれてすぐぐらいに亡くなった。病気で、当時も日本では珍しい伝染病で」
「伝染病……」
外国に行ったから?……過去の。でも……。
「一人でそんなに沢山の能力があるなんて……」
「だから、桃李君の能力がそんなに強いんじゃないか。過去に送り戻り、さらには過去も見える。お祖母さんの能力が強かったから、もしかしたら桃李君もっといろいろできるんじゃないのかな?」
八雲さんが言う通り、桃李の力は凄い。もしかしたら柏木君なしでも移動も出来るんじゃ……。
「あ、祖母が……」
「どうしたの? 桃李?」
「ちょっと待ってて」
桃李は私の部屋を出て行く。隣の桃李の部屋に入る音がしてしばらくして戻ってきた。一冊の本を手にして。それは……聖書だった。
「桃李それって……?」
「祖母の遺言だったんだ。俺に……紫苑の子、桃李にこの聖書を残すって。祖母は宗教を信仰していた訳でもないし、なぜか遺書は俺の生まれる前に書かれていたんだ。ずっと不思議だったんだけど、アリスの話を聞いて祖母にも力があったっんだぐらいに思っていたんだ。でも、聖書……気づくべきだった。遺言までされて遺されていたから、捨てる訳にもいかなくてこの聖書ずっと持ってたんだ。この家に越してきた時のダンボールに入れっぱなしだった。俺には必要ないし」
「で、これが?」
桃李の聖書を半ば奪う形で中にを見たけれど、何の変哲もない聖書だった。書き込みも何もない。
「ここだよ」
私から聖書を取り一緒に持っていたカッターナイフで裏表紙の内側の紙を切って行く。どうやらカッターナイフも自分の部屋から持ってきたみたいだった。二辺を切り終えてその中から一枚の紙を取り出した。それは手紙の様だった。
桃李はその手紙を広げた。
「読むよ」
桃李の言葉に皆が頷く。
「桃李へ。
この手紙を読んでいるという事は、私の姿を見てこの聖書にこの手紙を入れ封をしているところを見たのでしょう。
私はあなたに会えるのか会えても少しの命でしょう。こうして大きくなった孫に手紙を書く事ができて私は幸せです。この恐ろしい力を手に入れあなたの苦悩する姿を見て、何か出来ないかと様々な力を手に入れました。体の弱い私がまだ紫苑のお腹にいるあなたの大きくなった姿を見たいと願ったお陰です。ファティマの預言と奇跡は全てやり終えておきます。あなたはあなたの妹とお友達と一緒にこの恐ろしい力をどうか消し去って下さい。戦時中の外国は危険です。あなたの大切にしている妹を行かせる訳にはいきません。私の力で全てをなし終える事が出来ているようで安心しました。どうか心配しないで計画を実行して下さい。
まだ見ることの出来ない孫の桃李を見ることが出来、私の残り少ない命にも安堵が訪れました。私の遺言通りこの聖書を持っていてくれてありがとう。紫苑の幸せそうな日々も見れて安心しました。どうか元気に過ごして下さい。あなたの幸せを祈っています。
あなたの祖母より」
皆黙り込んだ。意外な人物の登場とその思いに驚きとその思いの深さを思って。
「……祖母は病弱だったみたいですね。だから、ファティマに行って病気にかかってしまった」
……皆黙っていた。命懸けでファティマの預言と奇跡を起こしてくれたんだ。母のように。
「どうやら柏木君の妹さんが力を持ち、桃李君に過去への移動と戻る能力を持ってもらう過程で過去も見れるようになるというのは、この手紙を読んでもらうためだったみたいだね。僕達に安心して次の作業に移れるようにするという事を教える為に」
八雲さんの言うとおり、桃李の力も美咲ちゃんの力も意味がなかったのではない。桃李が見なければお祖母さんの手紙を見ることはなかった。聖書はずっとダンボールに眠ったままだったんだ。そして、私はファティマの預言に悩みながら日々を送るところだった。
「過去に起これば変わるんだね。だから、ファティマの預言も奇跡も桃李の生まれるずっと生まれる前にはなかった……それがあったことになったんだ。この猫の写真のように」
私は安心した。そして過去を変えた時の不思議に思いをはせる。きっと桃李のお祖母さん以外ははじめから存在する出来事のように、記憶が変わるのだろう。これらの写真のように。
「この問題はこれで終わりだね」
「はい」
私は八雲さんの言葉に勢いよく答えた。やっといろいろ抱えていた悩みが晴れたように感じる。
「じゃあ、マウスを」
マウスを二匹をそれぞれのゲージへ入れて八雲さんが持って、二人はそれぞれ八雲さんの研究室と九条君の部屋に送られた。
私は柏木君を玄関で見送って、いつものようにキッチンへ向かった。桃李が黙々と料理している。
「桃李」
「不思議だな。今更だけど、不思議なめぐり合わせなんだな。これもそれも決まっているんだなんて。過去も未来も見るもんじゃないな」
「現在もね」
私の答えに桃李は私の頭をくしゃくしゃにしつつ言った。
「ああ、そうだな。アリスあと少しだ」
「うん。……正直言うとファティマの聖母が別にいてホッとしてる。美咲ちゃんのこともあるけど私も不安だった。そういうところ見られてたんだね。いつも見てるから不思議だな見られてるの。あ、でもお母さんも見てたんだっけ」
「そうだな。……ばあちゃん未来と過去が違ってたんだろうな……」
「ファティマの預言がなかったのに、未来ではあった……それを私達が過去に行こうとしていた。だから……」
「自分が行って預言と奇跡を起こしたのか」
未来と過去が違う。暗示のように……。まさか自分たち以外に母のようにこうなるように導かれている人がいたなんて……桃李のお祖母さんが……写真で見た記憶がある、優しそうな人だった。命懸けで桃李の苦悩を取り除き、そして私達にヒントをくれたんだ。本当に運命のようだ。全てここに辿り着くようになっていたんだと。
「桃李、私は本当に安心した。これが全て終わったらお祖母さんに報告に行かないとね」
「ああ、そうだな。うん」
不安はなくなった。あとは明日の実験結果と九条君のウイルス作成にかかっている。
美咲ちゃんを巻き込まなくて良かった。




