29.未来を*アリス*
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「うん。そうだろうね。まあ、いろいろ利用したの。あ、あと桃李は能力を持つ遺伝子を持っているけど、力を持ってない。いざという時のために強く願わない様に言ってるの。どんな状況になるかわかんないから。今回みたいなこともあるしね」
何をどう利用したか深く話すのは私は避けた。九条君の態度に柏木君の目が私を探っているのに気づいた。どうして伝わらないんだろう。きっと桃李のせいだ。桃李が混じって来るから二人の時間がほとんどない。私だって柏木君といたいし話もしたいけど、桃李を邪険にすることもできない。
でも、九条君を加えたら柏木君の気持ちがさらに乱れそう。柏木君に自信を持ってもらわないといい加減愛想つかされるかも。
「そうなんだ。ああ、遺伝子だもんね。ということは、僕の家族も遺伝子が……」
九条君は黙った。きっと思っているんだろう。自分がこんな状況なのに家族の誰も力を手に入れていない事を。家族の誰もが彼を外に出そうとそこまで願ってないんだと。
「九条君、君を外へ出すのは超能力ような力じゃ何も問題は解決しないからじゃないの?」
桃李が言った。確かにそう。力ずくで部屋から出しても何の意味もない。ただ、私は彼の家族を見て話を聞いている。彼の家族は彼をどうするか戸惑っている。なぜ彼が外に出なくなったのか知ろうともしない。力ずくで出そうとしたらドアが開かなくなったのに、彼が自由に出入りできているのを不思議に思いながら、今度は食糧やトイレやお風呂を絶って出てくるのを待った。なのに彼にはそれも効果がないのだとわかってからは彼の事を放っといているのだ。
私には一見彼が家族に愛されているようには見えなかった。彼も進学校に行っていたのに、彼の兄ばかりに目を向けていたようだし。彼は自分を認めてもらえてない事で苦しんだだろう。彼の自信のなさはここから来ているのかもしれない。
彼だって進学校にいける頭を持っている。ハッカーになるまで知識を深めることもできる。見た目だってかなりいい方だし……。さすがに引きこもっていたからか、体格は劣っていて細身だけど、何も引けをとるようなことはないのに。
「僕の家族を知らないないから……」
突き放すように九条君は言う。
「ねえ。九条君。さっきはああ言ったけど、私達に加わるかどうかは、もう少し考えてからでいいと思う。あなたの命がかかっているから。ただね、学校はもう一度行って欲しい」
「な、何で君が……今さらだよ。同級生は三年で僕は一年だ……やっぱり無理だよ」
「一度試してダメなら、また来年行けばいいじゃない。私ね、小三で母を亡くしてから、この力を手に入れて、母の研究室に入ってこの力の事を知って、それからこの一ヶ月前まで一人でやってきた。でも、どうしても先に進めなくなった。自分の限界だと思った。桃李に説明するというか、説得というか、わかってもらって力になってもらいたいと思っていたんだけど、桃李は力を持たない。だから、こんな力が存在すること前提の話をどうやって話せばいいか悩んでいたの」
「確かにいくら兄妹でも、ふざけてるようにしか思えないよな。何言ってるんだってなるよな。特に君の力は……」
「私の力は千里眼。だから証明ができない。実際に見てなかった事を言い当てたって何か仕掛けがあるんじゃないかとしか思ってもらえない。そればかりかそんなの仕掛けてって怒られる」
「だよね。じゃあどうやって……」
「そう、そんな時に高校入学して柏木君に会った。彼は巧みに隠してたけど力を使っていた。私の近くで力を使うのは危険だったし、彼なら話を聞いてもらえる」
「自分の力の話だもんな」
「そう。だから先に柏木君に話して彼にどうするか選んでもらった。柏木君は危険でもこの先にある危険を考えて一緒にこの計画に乗ってくれた。その次は桃李に柏木君の力を見せて話を聞いてもらった。あんなに悩んでいたのにあっさり二人も味方になってくれた。でも、研究ノートは最初に柏木君に解いてもらった箇所以外進んでいない。私は焦った、だけど桃李に言われたのダメならまたやればいい、うまく行くまでどれくらいかかるのかわからないけど、失敗したらすぐ戦争になるわけじゃないんだからって言われて救われた。一人でやってたら焦るばかりだし、心配になるばっかりだった。三人いて進展はほとんどない。だけど、一人で何年もいろいろやって来た時よりも何でか心に余裕が出来た。進展なくても何とかなるって思えて来る。他の誰かがいるって、知識とかじゃなく、思いが一人の思いじゃないからそう思えるんだと思うの。
だから、ダメだったら、ダメなんだ、じゃあなくダメなら次あるよって思えばいいんじゃないかな。
簡単なことだとは思わない。友達が皆一年だし話し辛いだろうしね。
だけど、あと三年踏ん張ったらどうかなって思うの。私あなたが未来を放棄するのを黙ってられないの。だって、あなたを傷付けた連中は当たり前の未来を手にしてるのに、なぜ誰も傷つけていないあなたが未来を見失ってるの?」
「君はずっと一人でやってきていたの?」
「一人にならないとやって行けなかったから」
「君は自分から一人になったの?」
一人になることを選ぶしかなかった九条君……私もわざと一人の世界にこもった。
「そうだよ。一人にならないと見張っている人や場所が多すぎて頭の記憶容量を超えちゃうの。だから、一人の時間を増やした」
「何か君も大変なんだね」
九条君は痛みを知っている。一人になる怖さも。私も辛い時期があった。だから、孤独に閉じこめられた人を見ると放っておけない。自分を見ているような気持ちになるからだろう。何とか殻から出てもらいたいと思ってしまう。私には桃李と柏木君がいる。もう一人ではない。
九条君にもわかってもらいたい。彼の問題は学校だけじゃない。家にもある。彼が部屋のドアを捻ったのがその証拠である。彼はずっと家族にも会っていないのだ。会ってないというより彼が避けている。母に父に兄に会わずに生活をしているんだ。問題は学校というよりも家庭なんだ。私の推論があっているなら、彼にぶつけてみよう。




