25.理由(わけ)*ハッカー*
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僕の質問に彼女はなかなか打ち返してこない。……がっかりしたのかな? 怖いのかな? そりゃあ怖いよね。突然自分のパソコンに侵入されて勝手に操作されたら。彼女の表情も昨日は真っ青に変わっていたし、今日も強張っている。手も震えてるのか打ち間違いが多いし。
顔を見せたって彼女には探せないだろう。彼女の家は僕と偶然出会う距離でもなかったし、僕を追跡するのは無理だ。顔を見せようか迷っていたら返事が来た。
『ありがとう。見せてくれて。昨日の話のことなんだけど、ここで書くのは危ないから直接会えない?』
「嘘だろーっ!」
画面に写っているのを忘れて飛び上がってしまいそうだった。彼女はまたも何度も打ち間違いをしながらそう返してきた。僕の事怖くないのか? この前見た彼氏なのかなんなのかとはどうなった。いやいやそういう話をするんじゃない。ただ、彼女の情報を聞くためだし彼女もそうだ。でも、たぶん兄だと思われるあいつはきっとついて来るな。彼女以外のあの家でパソコンを持っているのは彼だった。
どう見ても彼女より年上だろうから兄だろう。検事の子供だ、ハッカーをそのまま放っておく事はしないだろう。捕まるのは目に見えてる。だけど、話を聞きたい。いや、それ以前に彼女に会いたい。こんな想いをしたのははじめてだ。どうしよう。
「今日は考えさせて、でいいか……。通報されて捕まるのも……この部屋から出るのも考えないといけないし」
そう呟き嫌な思い出が蘇ってきた。こうなったことや、この力のことは全ては高1にはじまった。
僕は強気な性格ではなかった。どちらかといえば弱気な性格だった。だけど、中学時代は友達にも恵まれ楽しい学生生活を送っていた。それが変わったのは高校に入学してからだった。最初はクラスメートの六人から、からかわれたり、パシリに使われる程度だった。それが次第に変わっていった。周りのクラスメートも気づいてるのに気づかぬフリをし続けた。
いつしか暴力や万引きの強制など完全なるイジメに変わっていった。ついに、万引きで捕まり親が呼ばれた。僕はこれで解放されるんじゃないかと期待していたが、父が来ていきなり殴られ、その後父は店主に謝り学校や警察への通報はしないで欲しいと必死に頼みこんでいた。結局、僕は厳重注意で解放された。
帰り道父は一言も口を聞いてくれず、帰ったら母になぜお前が行かないんだ、おかげで会社で大恥をかいたと怒鳴っていた。
最初は家や母の携帯へ電話したが留守電になるばかりだったのだ。店主に学校へ電話すると言われて仕方なく父の携帯番号を伝えた。
結局母は友達とカラオケに行っていたらしい。携帯が鳴っているのに気づかなかったみたいだ。父にそのことでネチネチ言われて母も不機嫌になり、僕の言い分を聞いてくれる人はいなかった。そればかりかいつも比較される兄を引き合いに出され、二人でまた僕を責め立ててその話は終わった。
次の日からは万引きがバレたことでさらにイジメは激化していった。死ぬことばかり考えていた時たまたまインフルエンザにかかった。一週間病気で学校を休んでる間、僕は天国にいるようだった。相変わらず家では嫌味は言われるが、イジメよりははるかにマシだった。学校に行ける日になったが僕は起きられず部屋から出れなくなった。そこから引きこもりがはじまった。
何日も引きこもってる僕を連れ出そうと、父が鍵を壊して部屋に入ろうとした。その時部屋のドアが曲がったのだ。ドアが開きそうになった時、ものすごい木の軋む音がしてドアはピクリとも動かなくなった。父は訳がわからなかったが、鍵をこじ開けたせいだと思ったみたいで、いろいろ手を尽くしたがドアは開かないままだった。だが、僕には僕がしたんじゃないかって思いがあった。それでトイレに行く時にドアを開けてみた。また木が軋む音とがしてドアは簡単に開いた。母が出かけると食糧を取り、トイレに行き、シャワーを浴びた。そのうちに冷蔵庫をチェーンで結び鍵をつけ、トイレも風呂場も鍵をつけられたが、僕の力で簡単に開けられた。
部屋で一人の時間の暇つぶしにパソコンをさわっていたらハマりだし、ハッキングまでできるようになった。
本当ならば僕はもう高三だ。この二年家からも出ていない。そんな時この力についてふと疑問に思い、いろいろ調べハッキングもした。その結果、彼女を見つけたのだ。この力を超能力と片付けずいろいろ調べ研究している彼女を。検事の家だったので守りは硬かったが、僕はその分やりがいを感じるまでになっていた。
彼女の姿を一目見た途端に忘れられなくなった。どうしてこんな気持ちになるのかわからなかったし、悪いとは思っていたがずっと彼女を見ていた。そんな時に例の彼氏らしいのを連れてきているのを見た。彼が誰なのか気になりだんだんと彼女に声をかけたくなった。それにこの力がただの超能力なのか彼女が何故そんなことを調べているのか知りたくなってとめられなくなった。だから、危険かもしれないが彼女に声をかけてみたのだ。
彼女の昨日の反応は予想していたが今日は驚いた。僕と話しをするなんて思ってもいなかった。そうなればいいとは思っていたけれど、まさか実現するなんて思いもしなかった。とにかく今日は考えよう。
『今日は考えさせて』
と、打ってから彼女を見るとなんだかさっきとは雰囲気が違う。やはり姿を見せたから安心したのかな。彼女は今度は打ち込みミスなしで返事を返してきた。
『わかった。じゃあ明日またこの時間に』
何だか彼女が出来た気分になる。明日どうするかということよりも、憧れていた彼女とこうして、チャットだし僕は覆面だが、話が出来たことを喜んでいた。




