23.作戦*桃李*
と、アリスは一人で話して何か思いついたようだ。千里眼で見張っていたアリスがパソコンで誰かに見張られていたなんて、皮肉な話だがアリスを盗み見ていたなんて許せない……あれっ、同じ回線で繋がっている俺まで見られてたのか? 父や母は回線に繋いでいない。情報漏洩を避けるためだ。つまり俺もヤバイ状況なのか? とにかく回線を切っておいた方がいいかとキッチンを出ようとして、ビデオカメラを持ったアリスが入って来た。
「桃李、携帯貸して」
「え!? あ、ああ」
携帯をアリスに差し出すとアリスはどこかに持って行き、すぐに戻ってきた。
「なんなんだ。携帯がどうした?」
「こういうことあんまり詳しくないからわからないけど、携帯にも入れるのなら今のこの会話を相手に聞かれてるかもって思って。もしそうなら困るでしょ。だから、居間に置いて来ただけ。それより、さっきこれに私を写したの。キッチンを出るからビデオの私を見ても鼓動が同じか確認して欲しいの。お願いね」
アリスは俺にビデオカメラ渡し出て行った。確かにアリスが目の前からいなくなると鼓動はなくなる。それをビデオカメラで試せということか。俺はビデオを再生した。……ビデオのアリスは無言でこちらを見ているという何の変哲もない映像だった。なのに俺の鼓動は再び躍り出した。ドクッドクッ。
時を見計らってアリスがキッチンに入ってきた。俺はビデオを消しアリスに頷いた。
「そっか。それじゃあ、それが使えるかも」
「どういう事だ?」
「相手はハッカーだけど、それだけじゃないと思う。私が調べてる事を何度も聞いてきた。この力って言ってたし、もしかしたらだけど、自分に力が芽生えたから、そこら中を調べてたんじゃないかと思って。そして私に行き当たった。じゃなきゃここをハッキングする理由がない。父や母の持ってる情報が欲しくてもここじゃあ無理だし、それに私にアクセスする必要がない。わざわざハッキングしているって告白してるようなもんだし。この家が検事局長の家だってことぐらい掴んでるはず。なのに、ハッカーがあんなにも堂々とこっちに話しかけるなんて、まあ相当自信もあるんだろうけど、やっぱりこの力の事を知りたいからなんじゃないかと思って」
「だから、それとビデオがどう関係する……アッ」
そうだ。さっき自分が経験した。あの鼓動を。相手にこの遺伝子があるならアリスに反応しているはずだ。確かさっき『かわいいね』と言ってた。変態の言葉だと思ったが、そう考えると……。力の事も知りたいがアリスに接触したくなるはず。アリスはそれを試したのか。
「わかった?」
「ダメだ。危険が大きいし、アリスに好意があるなら尚更危ない。どんな能力持ってるのかもわからないし」
「大丈夫だよ。こっちには柏木君がいる。それより、ネット内を探し回ってる。どこかの組織に見つかる前に彼を保護しないと」
「そんな犯罪者を守る為に危険な橋を渡る必要ないよ」
ハッキングは犯罪行為だ。でも、アリスは笑いながら
「彼も守る結果にはなるけど、私たちを守るんだよ。彼は私がこの力について調べてるのを知ってる。今まで隠してきたのに、桃李も柏木君もみんなバレてしまう。どの程度彼がわかってるかはわからないけど、間違いなく私の命はないと思う。母の研究があるからね」
「そうか………そうだな。でも、どうやるんだ? さっき追跡は出来ないって言ってただろ?」
アリスの命がかかってるのならやるしかない。アリスの態度なら勝算がありそうだ。柏木もいる。柏木の能力に勝てる者はそういないだろう。
「追跡するんじゃないよ。彼から来てもらうの。そうしないと彼と会うことは出来ないから」
「何をするんだよ?」
「彼に返信するの。顔を見せて、出来ないならせめて顔を隠しても構わないからと。こう言えばハッキングに自信があるなら顔を隠してならいいかって思うでしょ? それに遺伝子で反応があるならなおさら。でも本当に見たいのは場所と彼の映像。これを私が見て柏木君に送る。で、柏木君に彼を私の部屋に移動させてもらうの」
「アリスの部屋にか? 俺たちは……」
まさかと思うがそのまさかだった。
「二人ともリビングに居てもらう。私が一人で彼に会う、メリットは警戒心をなくさせる為と私の能力だと思わせる為。相手が能力を持っているなら柏木君と同じで話がしやすい。ただ相手の道徳心が心配なの」
「そうだよ。どんな奴かもわかんないんだから二人になるのは危ないよ」
最初にキッチンに駆け込んで来た時の恐怖心はどこに行ったんだ。アリスはすっかりいつもの調子を取り戻している。自分のパソコンをハッキングしてきた奴を理由はあるが仲間にしようとしている。しかも一人で。
「大丈夫だよ。柏木君にも桃李にも私が見てるリアルタイムな映像を送り続けるから、いざとなれば、助けてくれるんでしょ? 柏木君で無理ならきっと桃李は力を出すはずだしね。それに私の事はバレてるんだから今さら部屋に入れたってたいしたことないよ。最悪彼を元に戻せばいいんだし。それよりも、道徳心って言ったのは協力をしてくれるかって事だよ。だから、私だけの方がいい。誰がどんな力を持ってるかいきなり教えるのはマズイ。だから様子をみて話をする。この力の事を知りたいはずだからきっとそこまでは大丈夫。ただ、その後この計画の話をして協力してくれるかは全くわかんないからね」
「そうだな。柏木も俺もアリスもみんなこの力に脅威を感じて動いている。だけど、リスクも大きい上に直接の危害がなければ協力をしてはくれないだろうな」
これは危険が常に伴うのだ、先行きもどん詰まりにきている。こんなんで協力するなどと言う奴がいるんだろうか。柏木でさえアリスは手伝ってくれるか半信半疑だった。最後には柏木に力を使わないこととアリスの事は黙るという事で手を打つつもりだったようだし。今度もそうするんだろうか?
「そう。だから、信念がある相手ならそこをつく、なければ脅すだけ脅すのよ。突然の瞬間移動にさらに私が圧力をかける。いろんなところから狙われ一生人間兵器として使われるのが嫌なら、何も探さず力も使わずジッとするように言って、口止めをさせる」
アリスならばこんな作戦でもやってのけるだろう。ただ本当に奴がアリスの誘いにのるんだろうか。それがなければ話にならないし、次にパソコンにアクセスして来るかどうかもわからない。こんな不安定な作戦でいけるんだろうか。でもやらなければ奴が見つかるのも時間の問題だろう。そうなれば終わりだ。例えアリスが標的になるという最大のリスクを冒してもやらないといけないんだ。
「わかった。じゃあ、柏木には明日この計画を話そう。明日帰って来たらアリスだけ部屋へ、俺たちはリビングで待機する。念のため、俺のパソコンも電源もLAN回線も切っておく。携帯はそのままにするが、昼休みに屋上へは持ってこないでそこで柏木に話してくれ。携帯までいじると、もし携帯まで手が及んでいたら不審に思われて計画の妨げになるからな」
「そうだね。今日は慌てていたからこのままの方がいいよね。柏木君も近くにいた方が念のためいいしね。そうだ、桃李が一緒だと皆に変に思われるし、屋上も誰が見てるかわからないから、ビジョンを柏木君に送るわ。さっきの出来事と今の私と桃李の会話を」




