20.彼女
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今日は活躍できたようだ。鏡野がいるのでやはり緊張はするけど、だんだん三人でいるのにも慣れてきた。だけど、どうしても佐々木先輩が気になってしまう。ヤキモチを焼くなんてそんな必要はないんだけど、やっぱり気にしてしまう。鏡野が佐々木先輩を頼りにしている様子なので、このままだと僕がいる意味がなくなると焦った結果、以前何かの雑誌かネットか忘れたが、見たことがあるのを思い出したのだ。結果は良かったが、これからもこんな事が続く訳じゃない。今日はたまたまだったんだから。
鏡野は僕のこの能力の方を期待している。そりゃそうだ、佐々木先輩は能力をまだ持ってないんだから、僕にはこちらの方を期待するんだろう。この力を使うのはあのノートの解明が終わった後である。まだまだなのか、すぐなのかノートを少し見ただけではわからない。ただ、最後は完全に暗号化しているようだ。最後のページだけ数式なしの絵だけが描かれていたんだから。
途中にも何度か絵は出てくるが、最後は絵だけしかない。その絵は最初は、聖母と思われる人物が沢山の人に巨大な火の塊を見せていた。これが、ファティマの預言の奇跡の事だろう。そして富士山と思われる絵。葛飾北斎だったかの浮世絵を真似て描いている為に富士山だとすぐにわかる。鏡野はここから昨日僕に話した話を繋げているんだろう。多分途中から前に進まないから最後の絵を解明したんだろう。
そして、最後は雪の結晶が描かれていた。最後はこれだけ。このままではさっぱりわからない。鏡野はたどり着いているんだろうか。今日鏡野に聞こうかどうか迷っていたのだが、結局聞けずに帰って来た。ただの雪の結晶を見て、最後のページにたどり着いていないのに、いくらなんでもそこまではわからないだろうと思ったからだけど。途中鏡野は弱気になっていたし、良くない話はしない方がいいと思えた。
鏡野は今日も僕を見送ってくれているんだろう。空をひと仰ぎした。真っ赤な夕焼け空が広がっている。鏡野も見ているんだろうか。ふと思う。鏡野と一緒にいる時間が短い。鏡野は休み時間は監視している人たちの行動をチェックしたり、消したりしているからいつものように一人でいる。残酷な事や陰惨な出来事も見ているかもしれない。鏡野に早く普通の高校生活を送ってもらいたい。世界がどうの戦争がどうの組織がどうのとかよりも一番の願いはそれかもしれない。大きな目的の前に小さな目の前のことの方が人は思い描きやすいのかもしれない。
と、またもう玄関の前である。僕は気持ちを入れ替える。
「ただいまっ」
「おかえり。おそかったのねえ」
母が台所から顔を出して聞いて来た。
「ああ、先輩とちょっと」
佐々木先輩と居たんだから嘘ではない。
「えーっ、お兄ちゃん彼女と居たんじゃないの。今朝も迎えに来てたって」
「なっ! なんでそのこと」
あの時美咲は呑気にテレビを見ていたはずだ。なぜ今朝鏡野が玄関の前で待っていた事を美咲が知っているんだ。まさか美咲もなにかの能力があるんじゃ……。
「迎えに来た友達が見てたって。めっちゃ可愛いかったってー」
美咲は鬼の首を取ったようだ。
「いいだろ。別に……」
「そうなのー。見たいなあー母さんも」
母はその言葉どうりに心底見たそうで僕を見つめている。いやいや、今の鏡野は無理だろう。しかもそんな照れ臭いこと嫌だ。
「嫌だよ。それより、今日は汗めっちゃかいたから、先にシャワー浴びてくるから」
僕はカラの弁当箱と水筒を母に渡しながらそういい、風呂場に逃げ込んだ。食事中はその話題が出ませんように。




