19.兄妹*アリス*
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「で、三人で下校っておかしくない?」
桃李をなんとか振り切って柏木君と帰ろうとしたのだが、桃李に捕まってしまった。言い訳が難しいこの状態について桃李は一体どう考えているんだろう。
「どうせ道は一緒なんだから、いいだろ? この方がいろいろ見てなくて」
「そうだけど……」
「あのー、ずっと思ってたんだけど……」
柏木君が言いにくそうに聞いてきた。
「なんだ?」
桃李が挑発するように聞き返す。全然抑えてないじゃない。
「あ、あの、兄妹って言ったらって………言い訳というか、誤解を受けなくていいんじゃないかって思って」
そうなんだよね。そうすれば簡単なんだ。だけど……
「それが今さら言うのも何だし、というかずっと黙ってきたから言えないんだよなあ」
「えっ!それ……」
多分、柏木君はそれだけと思っているだろうが、それだけなんだよね。単なる桃李の、親が再婚したとか、苗字を変えてないとか、二つ下の妹ができたとかを言いたくないって事だけで、このややこしい事態になっている。昨日の反省はどこに行ったんだよ。
少しはこちらの事も考えてほしいと言いたいが、確かに今さら兄妹でしたとは、私も言い出しにくい。それに血が繋がってない上に仲がいいと、他人よりも変に思われるんじゃないかと、心配になるんだよね。実際お互いそう想っていたから、変に気にするんだろうけど。だからこそ柏木君は聞いてきたんだろうな。
「何だよ。結構言いにくいんだぞ」
「そ、そうですね。今更なら余計……」
柏木君はなんか言いたそうだけど、聞くのはよそう。触れられたら困ることがあるって結構やりにくいな。これからいろいろ三人でやっていかなくてはならないんだ。そう思うと一人の時に比べたらずっと気持ちが楽にはなったけど、二人の命、その家族の命、様々な犠牲を思うと軽くなった気持ちは再び沈んで行く。
さらにこの状態……。でも、やはり誰かがいるというのは心強い。そして楽しい。一人の孤独な日々に比べたらこんなことと思えてくる。母はよく一人で耐えて、さらには自分の死さえも受け入れている。なんて精神力なんだろう。
「……スっ!」
えっ! 考えごとをしていて全く二人の会話を聞いていなかった。
「アリス、どうした?」
桃李が心配そうに聞いてきた。柏木君も心配そうにしている。
「あーうん。大丈夫。ちょっと考え事してただけ」
「そうか。なら、いいんだけど。何かあったのかと心配したぞ」
「ごめん」
二人とも千里眼で何を見たのかと思ったんだろう。
実際は今の所私に張りついている奴はただの高校生活を見ているのだと思っている様子だし、柏木君も加わったことで、余計リアルな高校生活に見えているんだろうな。
そこからは、三人で話をしながら帰った。この方が警戒が解ける。計算尽くの最近の生活にうんざりしていた私にとっては、こうやって話をしながら気楽に帰るのは楽しかった。こんな日々を守るためにも、私はやらなくてはならない。母が私に託した事を。
家に着いた。今日は部活があったから柏木君は時間がない、私の部屋で今後どうするか話す事にした。ついでに母の研究ノートも見てもらいたかったので、研究室に取り行った。いくら暗号化されてるようでも、見る人が見れば直ぐにわかってしまうだろうから、いつも一番安全な研究室に置いている。
ノートを二人に見せながら私はこれからのことを話した。
「まずは母の研究ノートなんだけど、今は途中段階なの。あと少しなんだけど、柏木君は時間があまりないから私と桃李で解明するね。ノートは持ち出し出来ないし。複写も危険だから。で、装置の仕組みがわかったら装置の組み立てになるんだけど、多分だけどいろんな物をバラして、くっつけることになると思う。祖父の倉庫の一つを前から借りているんだけど、そこに物を注文し運び込んでもらう。その物を柏木君にこの家に移動してもらう。これなら何か作ってるかバレないでしょ? 祖父は倉庫を沢山持ってるし、私に貸している事は祖父以外知らない。祖父には目的を言ってないし、この目的の為にずっと前から借りていたからこの倉庫が誰かに突き止められる事はないしね」
「でも荷物の受け取りに行かないといけないんじゃ、荷物も相当な数になるだろうし」
桃李が心配そうに聞いてきた。
「大丈夫。柏木君に桃李を倉庫まで移動してもらうから」
「えっ! 大丈夫なのか?」
これは柏木君に聞いている。
「あーと人間というか生き物は移動させて無かったから……」
柏木君は困って私を見ている。
「最初に美咲ちゃんを動かしてるよ」
「あぁ、そうか!」
桃李の前では緊張する様だ。桃李が柏木君に対してあんな態度でいるから、柏木君、すっかり恐縮してしまっているじゃない。
「大丈夫なのか本当に……ていうかなんで俺なんだよ」
桃李が困惑するのも無理はないか。瞬間移動なんて誰も経験した事がない、それをたった一度の成功にかけるには不安になるだろうし。
「大丈夫。装置の実験の為にマウスもいるからまずはマウスで実験するから。柏木君は自分を移動は出来ないだろうから、それに私だと幼すぎて不信がられるよ。桃李は大学生でも通用しそうだから一番いいの」
「そのマウスはどうするんだ?」
「おじいちゃんに言って研究室に行くマウスの一部を回してもらうわ」
祖父は母に甘かったが私にはもっと甘いようで、何も言わず倉庫も貸してくれているし、マウスも言ったらくれるだろう。祖父には私が母以上の変人に映っているんだろうな。でも、気にしないどころかそういう所を気に入ってくれているみたいなのだ。倉庫の事を頼んだ時は上機嫌になっていた。
「あのさ、そういうのを購入する資金はどうするの?」
「ああ、それは母が私に遺してくれている。遺産にすると未成年じゃあ使えないから、わざわざ私の通帳を作ってそこに遺してくれたの。この目的の為にね。さすがに祖父に頼ってばかりだとバレるから。小学校二年生に莫大なお金を入れた通帳を渡すなんて完全に未来予知だったんだよねぇ。成功したのは見たのかな。失敗したのを見たなら他の手段を考えてるだろうし……」
話をしているうちにだんだん不安になってきた。こんなこと出来るんだろうかと。
「アリス! 大丈夫。それに安全だったら何度だって出来るんだ。俺らにはまだ時間があるはずだよ。例の預言がいつなのかは、アリスも知らないんだろ? そんなとんでもない力を持ってる人間がまだいるかわからないし、ここにいる二人ともそんな力ないんだ、まだ大丈夫だよ。きっと」
「そうだよね。二人を巻き込んだから焦っちゃって。二人とも部活も勉強もあるのに……」
「そんなの気にしないで。鏡野だっていろんな事を犠牲にしてきたんだろ? それに比べたらこれくらい平気だよ」
柏木君は笑って言ってくれた。桃李も励ましてくれた。やっぱり一人では無理だった。良かった二人に話して。
「ごめん。何か弱気なってた。話を続けるね。できた装置の威力で作る個数は変わってくる。作るのに時間を割きたくないから、出来るだけ強いものがいいんだけど、実験中に柏木君の能力がなくなると困るんだよね。だから実験は外国の荒野にでも装置とこの能力を持ったマウスを飛ばして、確実にどの範囲まで届くかみないと。地球全体に行き渡るように配置しないといけないからね。とりあえず今の所こういう計画かな」
話すと簡単みたいだが作業としては大変になる。だがやるしかない。
「わかった。ノートみたけど鉛筆で書き足してるのはアリスか?」
「そう。続きが止まってるでしょ? 桃李わかりそう?」
「いや、だけど何とかなりそうだな。もっと出来てないと思ってたから。あと少しじゃないか」
桃李はノートをペラペラめくってみながら言った。確かにノートはあと数ページで終わりになる。だけど、ここまで来て全く進まなくなったってしまった。桃李に望みをかけるしかない。と思っていると柏木君がノートを見ながら呟いた。
「それってどっかで見たことある」
「えっ! どれだ?」
桃李が慌てて柏木君にノートを渡す。私もシャーペンを差し出した。
「確かこんな感じで……」
柏木君が私の続きを埋めていく。二ページ進んだところで止まってしまったが、一日目にして上出来だよね。
「ふぅ。ここまでです。後はわからない」
「すごいよ。私ここから全然進まなかったのに。さすが理系だね」
「いや、たまたまだよ」
柏木君は照れている。可愛いなあ。
「よしこれであと五ページだ。なんとかなるだろう」
柏木君を称賛したのが気に入らないのかやたらと張り切った桃李がいる。
「じゃあ、これで今日はお終いにしよう。そろそろ時間だ」
今日は桃李がやたらと仕切る。部長になるのもこのせいなんだろうな。柏木君は慌てて立ち上がった。




