表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/55

16.恨み*アリス*

「桃李勝手に見ててごめんなさい。桃李に力があるのか誰かに狙われてないか見たかったの」

「いつ、どのくらい見てたの?」


 桃李は私を見ないでつぶやくように言った。


「この家にきて半年後くらい。桃李が高二の時ぐらいかな。期間は……二ヶ月」

「二ヶ月もっ。長いな」


 吐き出すように桃李は言う。何か考え込んでいる。きっとその時の自分の行動だろう。柏木君も同じようにしていたが彼はすぐに考えるのを諦めた。桃李は諦めきれないんだろう。


「ごめん。力が私みたいに見えないものだとすぐにわからないから。桃李には味方になって欲しかったから。見てた間の記憶は全部消したから。なにを見てたかは記憶には残ってないから」

「でも……俺の気持ちは覚えてるんだろう。だから、柏木と一緒のところをわざと見せた。俺が動揺するように。そして、必ず味方するように」


 やっぱりバレバレな作戦だったか。


「うん。ごめんなさい。私には桃李が必要なの。だからどうしても……」

「ずっと気付いてたのか……。柏木と会うより前に。俺の気持ちも遺伝子の引き合う力なのか?」


 桃李はどこか遠くを見る目だ。今までの私達を思い返しているんだろう。


「ずっと……ごめん。でも、こんなこと言い出せないし、終わらせないといけない。前に一緒に研究室入ったことあるよね。あの時に私は自分の本当の気持ちに気付いた」

「アリスもだったのか!?」


 桃李はやっと私を見てくれた。これからは桃李には酷な話になる。桃李を失うのは怖いが避けては通れない。素直に全てを話すのが一番だろう。


「私もずっと好きだった。だけど、あの研究室に入ったら気持ちが止まったの。出たらまた胸の鼓動はするよ。今だって今までだってずっと」

「柏木は?」


 桃李は今度は私から目を離さない。


「止まらなかった。柏木君もね。私の言いたいことわかる? やりたいことも?」

「俺を苦悩から解放すること。アリスも苦しんだから」


 苦しげに桃李は答えた。


「そう。この気持ちは違う感情なのよ。別の愛情。兄妹愛だよ」

「アリスは、だろ?」


 やっぱりダメか。


「桃李の気持ちだから私にはわからない。だけど、この胸の鼓動は遺伝子のせいだって思えば気持ち変わってくるかも。私はそうだった。苦しみから抜け出せたよ」

「俺はあの部屋でも……多分いつもと変わらなかったと思うけど、それは確かめない方がいいのか?」


 桃李は不安そうだ。確信が全く持てないからだろう。私のように何もかも上手くいく訳じゃない。こうなるのではと危惧はしていた。自分の気持ちすら整理出来なくて、あの部屋に入ってようやく自覚できたのだ。桃李の気持ちなんてわかるはずがない。


「うーん。これからあそこでの作業が出てくるっていうか、あそこで作らないとお父さんとかにバレるとまずいからね。だから、桃李には開き直ってもらう。どちらかに」

「どちらかって……、いいのかこのままアリスを想っていても? 柏木もいるのに」


 桃李は少しホッとした表情だ。その選択は辛く苦しいのに。


「人の想いまで規制なんてできないよ。でも、柏木君にはバレないようにしてね。桃李の事好きだったって言ってるから、何かの拍子に疑われたら嫌だから」

「この件から降りられたら困るもんな」

「違うよ。柏木君はそんな人じゃない。それに彼の気持ちを利用して家に、そして研究室に来てもらった。柏木君の気持ちが、そして私の気持ちがどうなるかなんてわからなかった。でも、話を聞いてそのまま放ったらかすような人じゃないってわかってたから、彼を誘ったの。勿論桃李にも参加してもらうには柏木君が必要だとは思っていたけど。一番は柏木君の性格にある。信頼できない人ならどんなに凄い能力があっても、この話はできなかった」

「随分信頼してるんだな。親しくはしてなかったんだろう?」


 桃李はやはり不服そうだ。私は自分の頭を指差し言った。


「ここで柏木君を見て来たから。柏木君誰にでも優しい。桃李みたいにね。そして私にはさらに。見えないとこで気を使ってくれて、そのこと全く言わない。今日も私の話聞いてすぐに決断してくれたし」

「ふーん。そうか。あいつ確かに皆に優しいし、見えないとこで皆の為にやってるな。いろいろと」

「でしょ」


 やっと桃李が柏木君を認めてくれた。


「だったら、何で俺の気持ちが柏木にバレるとまずいんだ?」

「だからっ!私は彼が好きなの。この遺伝子抜きで。嫌でしょ。これからは3人でいろんなことして行くのに、仲が変な風になるじゃない。桃李は開き直って私への気持ちを間違いだと言い聞かせるか、柏木君がいるんだから諦めるか、想ってるけどそれを表面には出さない様にするか、今までのように。私は柏木君を諦めないよ。だから、桃李にはすっぱり諦めて欲しい。だって、その想い……」


 桃李が最後まで言わしてくれなかった。


「想い続けてもどうしょうもないんだろ? ゴールなんてどこにもない。ただ苦しみがあるだけだ。せめてアリスが……って可能性も消されたしな」


 桃李はいつものさわやかな笑顔とは全く違う苦笑いをしている。心が痛い。桃李の苦しさ、何処にも持っていけない心を思うと辛くなる。私もそうだったから。しかも、桃李の気持ちを知った。もう、常識なんてどうでもいいじゃないか。血が繋がってないんだ、何が問題なんだと言いたかった。けれど、同じように苦しんでいるのに私にも他の誰にもその事を出さない桃李を見て、言ってはいけないんだと、何度も自分に言い聞かせた。あの苦しみよりもさらに辛い。桃李の気持ちを跳ね除け別の人といる、さらにこれからは三人でなんて、やっぱり酷いよね。


「桃李やっぱりいいよ。柏木君と二人でなんとかするよ。お母さんのノートもあるしなんとかなる。これまで通り桃李は兄さんなだけでいいよ。ごめんね。辛いことさせようとして」

「違うだろ? アリスは俺の苦しみを失くす為に全てを話、あんな形で柏木に会わし、この計画に参加させたんだろ。アリスが苦しみから抜け出た様に、俺もって」

「うーん。でも、上手くいかないよね。そんなに簡単な物じゃないよね」


 桃李ははじめていつもの笑顔になり、いつもするように私の頭をくしゃっと撫でた。


「大丈夫だよ。そのうち慣れるだろう。危ない事なんだ。アリスが心配だよ。おまえたまにブレーキ効かないだろ? それに柏木と二人でってもの気に入らないし」

「もうそれってヤキモチだよ。言わないでよ。柏木君の前で」


 桃李は今度は軽快な笑い声まであげている。頑張って普通を演じてくれている。申し訳ないような、ありがたい気分になる。桃李はどこまでも優しい。


「大丈夫だよ。ただの妹思いだって思ってるよ。今日も」

「そうだね。桃李キャラ変わり過ぎって感じで怒ってたもんね」

「そうだよ。急に冷たくなる方が変に思われるよ。ってことで、早く食べよう。冷めちゃったなー」


 桃李の優しさ、柏木君の優しさ、どちらも重くのしかかってくる。でも、実現させないといけないんだ。ねっ、お母さん。まだこんなこと託されたこと、この能力の事、恨まない気持ちがないでもないけど。恨む相手が違うんだろうけどね。誰を恨んでいいのかわかんないよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ