15.無邪気なフリ*アリス*
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柏木君が帰り、彼の帰り道を監視しながら桃李から上手く逃れる方法を考えていた。きっと桃李は見られていたら私が気付いたであろう事を問いただすか、探りをいれてくるだろう。私達の関係を崩さないよにしないと。とりあえず柏木君を見張りながらだと会話しにくい。
「疲れたから、先にシャワー浴びて来るね」
「ああ」
桃李はあれから話をしない。何を考えているんだろうか。とりあえずお風呂に入ってシャワーを浴びる。今日は疲れた、話は明日にしたいが今から寝るまで桃李と顔を合わせる。朝も合わせるが、朝はとても話をする時間はない。桃李が部活が終わり家に帰って来るまで話は出来ない。さすがにそれは居心地が悪い。
明日からは柏木君と付き合うからテニス部も見学するつもりである。私は部活に入っていない。この能力を使い続けているから。柏木君の様に一瞬ですむ能力が良かったなあと、今更ながら思う。
この能力は最悪だ。人間の醜態を散々見せられる。だけど、消せば本当に記憶から消えてしまう。ただ気分が酷く悪いから酷いものを見たんだと予想がつく。ただし、犯罪行為の一部始終は残してある。後から何かの役に立つかと思って。吐き気がする程酷い光景だが忘れてしまうわけにはいかなかった。そんな時私は父の正義感を受け継いでいるんだと実感する。母の変人めいたところも受け継いでいるように見えるのは、その実はこの能力のせいなのに。
一人になる時間を多く必要とする。しかも、母の研究まで引き継いだのだ、今の知能で母の研究を理解するのは並大抵の事ではなかった。一人になりバレないように様々な勉強をした。一人で長くいるのは危険だった。精神的に。人と交わらないのはよくない。だからこそ、桃李の存在は大きかった。
桃李は私を一人の世界から救ってくれた。私が望む時にだけ桃李の部屋を尋ねたり、ご飯を食べる間は会話をする事が出来た。家の中に誰かの気配がするのはこんなにも温かいんだとわかった。母はほとんどの時間、研究室にこもっていた。だからだ、私は母を失って一人になってもその違いを感じられなかった。なのに、心はポッカリと穴が空いたようで、風が吹いて通り過ぎていくようだった。私はその隙間を本で埋めた。
もともと気の合う友達が出来なかった私は学校では話をするが、帰ってからは一人で本を読んでいた。だけど、それまで以上に本を手放せなくなった。まるで一人でいることを忘れる様に本を読んでいた。そしていつしか願うようになった違う世界を見たい、行ってみたいと。そして、知らない世界を見るようになった。
はじめはこれが現実だとは思わなかった。私の想像なんだと思った。けれど父を思い浮かべていた時、偶然父が家に電話をしてきたのだ。忘れた書類を人に取りに行かせるから、という内容だった。私の頭の中の父も同時に電話していた。電話かける前から父が鞄を探して、困ったという顔をして電話の受話器を取るところから見ていた。父がそういう時にいつも頼む人がたまたま休みだった為に、別の人に頼むのを見た。そうして、インターフォンが鳴り出てみると、画面には父に頼まれた人が名刺を見せながら確認をしてくれるようにと立っていた。父に言われていたように。
それからはこの力で見て確認を何度か繰り返し、これは私の想像なんかじゃないとわかった。それからこの力について調べる過程で、複数の録画や追跡またはその場所を監視し続けるなど、自分の力を確認していった。が、すぐにデータがいっぱいになり、私は倒れてしまった。
気付いたら病院にいて父に祖父母が勢ぞろいしていた。脳波が異常になり、しかも原因不明だった為に目覚めるまでかなり心配させたらしい。私は目覚めてすぐにデータが全て失くなっていることに気づいた。脳を守るためにかクラッシュしたためか映像は全て消えていた。もう一度探り直しだったが、この能力は削除しないといけないんだと知った。この能力を使って調べるという作業を続ける為にまた私は孤独の世界に入って行った。
そろそろお風呂から出ないと桃李が台所で落ち着きをなくしている。夕飯の味にも左右されそうなので慌ててお風呂から出た。めんどくさい、このまま寝てしまいたい。が、やはりそうはいかない。桃李に納得してもらわない困る。ドライヤーで髪を乾かしながら録画状態だった柏木君の映像を見ていた。困った顔をしている。まあ桃李と鉢合わせにしたんだから、問題はないがあまり深刻になられても困る。ばれたら元も子もないからだが、家に入る直前に気持ちを切り替えたようだ。
やっぱり私が見込んだだけのことはある。話の理解度も早かったし、その後の展開にも使命感を感じていた。この力を誰にもバレないようにしていたのも賢明であった。
桃李も正義感も強いが、どこか私のタイプではない気がしていた。兄妹になるまでは気にもしていなかった。桃李と一緒にいると楽しかった、孤独から解放されたようだった。
だから、兄妹になって思い悩んだ。気持ちを押し込めるのが辛かったのだ。桃李がモテるのも辛さの原因だった。誰かに取られるんじゃないかと不安でたまらなかったからだ。だから、母の研究室に入って自分の気持ちに気付いてホッとした。
春になり高校へ行き柏木君に出会い、桃李以上に柏木君に惹かれていく自分を見て、これこそが本当の恋愛感情だと実感した。柏木君の自分への気持ちを千里眼で知り、自分のと比較出来ないし、偽物の恋愛感情だったら方法を考えるしかなかった。ただ全く好意のない相手に持つものではないようだから、無下に断わったりしないだろうと思っていた。だけど、変わらず自分を想ってくれていて良かった。
手を握った時に耳を真っ赤にしていた。確かめることもなく、あの研究室の中でも想いが変わってないことがわかった。ホッとしたと同時に嬉しかった。
やっぱり一方通行は辛い………。
髪も乾き柏木君も家に到着したし、例の見張っていた男も帰って行った。一応ひと安心だ。いろいろなデータを消して、いい匂いがする台所へと向かう。
「美味しそう! さすが桃李、今日も美味しい!」
先程までの疲れより食欲が優った。つまみ食いをして止まらなくなりそうになる。今日のメニューは唐揚げだ。台所から家中に匂いが漂っている。
「アリス! もう出来てるから席について。ちゃんと食べろ」
「はーい」
しぶしぶ私は桃李の言葉に従って席についた。
「いただきます」
「いただきます」
声を合わせるようになったが、食べるペースは違った。私は勢いのままに食べ出したが桃李はほとんど手をつけない。まだ気にしているんだろう。もう無邪気なフリはしない方がいいかもしれない。




