13.瞬間移動
話を聞いてなかったのがバレバレである。鏡野はちょっと怒った声でもう一度繰り返した。
「柏木君、桃李の筆箱を移動させて。ただしこの家の中にしてね」
「わ、わかった。どこがいいかな。さっきの部屋は無理だろうし……」
僕は玄関から鏡野の部屋までの風景を頭に描いて見た。
「桃李の部屋の机の上とかだったら面白いのに」
そう鏡野が言った瞬間、僕の脳裏に部屋の映像が浮かんだ。鏡野の部屋とよく似ているが、少し小さくてテニスラケットやいろんな物があり、本はずっと少なかった。もしかして佐々木先輩の部屋? 僕は慌てて鏡野に確認した。
「今、僕に佐々木先輩の部屋の映像を送ってきた? ここに似てるけど本が少なくて、テニスラケットとか置いてあった。そう写真も! 鏡野と佐々木先輩と多分ご両親の写ってるのが本棚にあった……」
「嘘……それ桃李の部屋! ねえ、筆箱その部屋の机の上に移動してみて!」
鏡野も佐々木先輩も驚いた様子だ。本当にそうなのか? さっきのは僕の想像じゃないのか? 僕の力は思い描いた場所にある物を移動させる時に現実が違っていると移動が出来ない。反対もだ。だから、失敗してとんでもないところに行くことはないし、もし間違った場所に移動させても物が動く前ならもう一度こちら側に移動出来る。大丈夫やれる。
筆箱を見つめ、さっきの部屋を思い浮かべその机に筆箱を置いたところをイメージした。
「うわぁっ!」
佐々木先輩の驚きの声があがる。自分の物以外動かしたことはなかったので緊張したが上手くいったようだ。筆箱はテーブルから消えている。佐々木先輩は鏡野の部屋から飛び出して行った。慌てた足音はすぐそばで止まり隣の部屋のドアが開く音がした。
「んぐっ!」
どちらの部屋もドアが開いているせいか先輩の再度の驚きの声が聞こえてきた。そして、また慌てた足音を響かせながら戻ってきた、さっきの筆箱を手にして。
「す、凄い。手品とかじゃないんだよな。今のが柏木の力か。アリスは俺の部屋の映像を柏木に送ったのか?」
「そうみたい。他の人に送れるなんて思ってもみなかった。これはかなり計画に使える。柏木君と組めば安全かつ迅速に計画を実行できる」
鏡野はビジョンを送れたことで大満足のようだ。確かに安全性は格段に上がった。鏡野が見た危険人物を鏡野が見たビジョンの場所へ送れば命を狙っている人物のマークさえできていれば楽勝だ。それに計画している装置も世界中に送るのも鏡野のビジョンの指示で簡単に設置出来る。鏡野が上機嫌なのも頷ける。
「え、アリスの力は映像を送るんじゃないのか?」
未だ全ての説明が終わっていなくて宙ぶらりんの先輩は鏡野の力を知らずにいる。
「ああ、私のは俗に言われる千里眼だよ。人に送れるの知らなくって桃李への説明に使えないから、ずっと黙ってたんだけど。母の死をきっかけにね。あ、柏木君の理由は?」
「僕は中二の頃に妹と……」
「美咲ちゃんだね」
と、鏡野がかぶしてくる。美咲の名前何で知ってるんだ……。あ、僕のことを見てたからか。
「なんでそんな事まで知ってるんだ?」
佐々木先輩、僕もあなたも見られてます。多分いろいろと……。
「鏡野の千里眼ですよ。僕の力が何か探る為しばらく監視されてたんですよ」
「人聞きが悪いよー。監視だなんて。ちょこっと見てただけだよ」
鏡野はなんてことないってフリをするが、ちょこっとの見てただけでは僕の力はバレなかったはずである。僕は慎重に力を使っていたんだから。まあ、これ以上詳しく話を聞いて墓穴を掘りたくはないから、この話は終わりにしよう。
「その……妹の美咲と一緒にでかけていて、大きな横断歩道を渡っていた時に一緒に渡り終えたと思ってたんだ。だけど、美咲がキーホルダーを落としたのに気付いて、一人引き返して信号が赤に変わっているのに道路の真ん中にいたんだ。しかも、左折しようとしていた大型トラックが美咲の真ん前にいた。なのに、気付いたら腕の中に美咲が飛び込んでた。人には見られなかったらしく騒ぎにはならなかった。見てても一瞬の出来事だったから美咲が走って逃げたと思っただろうし。美咲本人がそう思い込んでた。僕も次に部屋の中で物を移動させるまで、違和感は持っていたけど美咲が走って僕のほうへ飛び込んだんだと思ってた」
「ふーん。そうだったんだ。そういうのを聞くとこの遺伝子を元に戻すのはいいことなのかって考えちゃう」
確かに鏡野にそう言われると、この力を使ってなければ今頃美咲は中学生になることもなく死んでいただろう。でも……。
「この力は危険だよ。使う人の心でどんな犯罪だって出来るんだから。鏡野や鏡野のお母さんの考えは正しいよ」
「やっぱり本当なんだな。この話は。なあ、アリス。俺は何をしたらいいんだ。俺はこの能力の遺伝子は持ってるんだろう? 何を願えばいい?」
佐々木先輩はさっきの僕の力を見たのと、妙にリアルな生命の話を聞いて信じてくれたようだ。鏡野に対する絶大な信頼も勿論あるのかもしれないが。鏡野の佐々木先輩がいる時と僕とだけいる時の態度の違いや、先輩の過保護すぎるくらいな鏡野に対する態度が二人の信頼関係がどれだけ強いか示している。とても2年しか兄妹ではないなんて見えない。
これも遺伝子の力なんだろうか。じゃあ、遺伝子を元に戻したらこの二人はどうなるんだろうか。
「何にも。まだ何も願わないで。これから危険なことが私に起きても柏木君の力と私の力で乗り越える。だから絶対桃李は願わないで。桃李の能力はこの作戦を進めていく上で必要な力が出てくるかもしれないし、何がどうなるかまだわからないから、そのままにしておきたいの。お願いね。その代わりその頭を借りたいの。あ、柏木君も。学年トップの理数系が得意な二人の」
なるほど、まだ装置はできていない。さらに複数設置する。そんな物をいくら勉強していたといえ一人で作るのは難しい。僕たちが通う学校は有名な進学校である。そこのトップだ。まあ僕のトップは鏡野が手加減してたからとれたんだけど。佐々木先輩も気付いたらしい。
「装置を作るんだな」




