11.決意
「なんで、そうだってわかったんだ?」
鏡野の千里眼で世界中を探したんだろうか。それは不可能に近いように思える。
鏡野はパソコンから何かのデータを開いて見せてくれた。
「これは富士山の活動を記録しているデータなんだけど、ここに全ての原因があった。富士山は活動をやめた山じゃない。さらにキーワード、千九百六十年に聖母が第三の預言を発表していいと言ったこと。普通の判断なら、本当に暗殺が預言でもまだ起こってない法王暗殺事件、まして第三次世界大戦ならなおさらだと思うけど、千九百六十年にはまだ発表なんて出来ない。なのに聖母は封印を解くのをわざわざ1960年と言った。これは問題が千九百六十年にあるんじゃないかって。で、富士山の千九百六十年の動きを見たら、他の年とは違う動きをしていたの。まあ富士山に目をつけたのは母なんだけど。未来を見る力で見たのか、自力で探してきたのかはわからないけど」
「富士山の動きで人間の遺伝子が変わったって事? でも皆が皆変わってるわけじゃないよね?」
その条件ならこの関東地方は能力者だらけになる。
「条件があると思うの。それに当てはまった人にというか動物の遺伝子に変化が起こった。ちなみに動物は何かを願わないから変な事は起きないみたい。関東のマウスの中にこの遺伝子を持つのがいるから、母はマウスを実験に使おうとした。だから、沢山のマウスが研究室の中にいたの。今度は私が装置を作り、富士山の動きプラス条件付きのエネルギーの起こした遺伝子変化を逆にして元に戻す。ただし一人でも逃せば意味がなくなる。力の事を知る組織がまた能力を持つものを集めると困るから。例え一人でも子供にそのまま受け継がれてしまうから。そこから増やし強くする事は時間が掛かるけど可能な事。だから、地球全体でやる必要があるの。今は世界中に日本人が進出してる。能力を発動していない人も沢山いるかもしれない。しかも、組織に利用されてる人は海外に派遣されて仕事してたりもするから、絶対逃せないの。そしてさらに、普通に活動している火山の活動で条件が合えば遺伝子が変化してしまう。さっき言ったファティマに当時いたかって事はここにあるの。そういう人達は私は把握してない。だから、一斉に世界中に遺伝子を元に戻すエネルギーを出さないといけないの」
「だから僕が必要なのか」
鏡野は本当にこの問題を研究し観察し続け、計画していたんだ。僕は鏡野が一人孤独に教室で本を読み続ける姿を見ていた。でも、鏡野の問題はそんな簡単ではなかったのだ。僕の知らないこの世の悪を見て、これから起こる事を危惧していたんだ。その苦しみを開放出来るなら命がけだろうがなんだろうが、いいじゃないかという気分になった。どうせ狙われる危険もそして世界の終わりさえ迫ってるなら何をためらうことがあるだろうか。鏡野はパソコンの画面を閉じ、電源を消した。
「ここまで話をしたけれど、これは強制じゃない。預言だって本当かどうかなんてわからない。第三次世界大戦が預言なのかも。法王庁は伏せたままだから。私にも閉じられた文書は見えないの。だから、柏木君がいなくても桃李を味方につければ桃李に似た能力を願ってもらう。だから、無理する事はない。ただ柏木君が今後力を使わないって約束してくれれば……」
鏡野ははじめて弱気に言った。佐々木先輩にこの話を信じさせ、さらに願ってもその力がつくとは限らないじゃないか。力がどの程度強いかなんてわからないと鏡野は言っていたじゃないか。鏡野は無理をしている。
「僕は僕の為に鏡野と一緒に戦うよ。僕の大事な人達の為にも僕らの未来の為にも。例え預言がなくたって、それをする意味は今の状態でも十分にあるって思うよ」
「ありがとう」
と言って、鏡野はテーブルを回って僕に抱きついて来た。体が震えている。僕に説明しわかってもらえる様にするために必死だったんだろう。誰だって一人でこんな重たいものをずっと背負っていれば神経がすり減る。鏡野はずっと一人で耐えてきたのだ。僕を見つけた時にはホッとしただろう。密かに力を使ってて良かった。あれだけ仲のいい佐々木先輩にすら能力を持ってないからと、言っていないのだ。能力を使っているのを見られなければ僕に声をかけることはなかっただろう。
ところで、鏡野の部屋の中、抱きつかれて僕は手のやり場に困っていた。こういう時は優しく髪でも撫でるものなんだろうか。と、下の方で音がする。あれは、この家の鍵を解除していく音だ。誰か帰ってきた! この状況はどうすれば……。困ってる僕の姿を見ていたのか、緊張している体のこわばりで気付いたのか鏡野は少し笑いながら言った。
「帰ってきたのは桃李だよ。だから大丈夫。そんなに緊張しないで」
「佐々木先輩! いや、余計に……部長だし。そんな、大丈夫って。な、なにが!?」
僕はパニック状態だ。この際誰が帰って来ても緊張するだろうが、知っているだけに佐々木先輩は一番やりにくいんだが。というか鏡野は佐々木先輩を見張ってはいないのか? この状態になるように抱きついてきたのか?
「鏡野っ! 見てなかったのか? 佐々木先輩をっ!」
今更だよ。それを聞いたところで。ところで鏡野は僕から離れない。なんなんだっ!
「見てたよ。で、この展開をこのタイミングで持って来れてホッとしたよ」
「いや、返事がおかしいよ。どういうこと?」
無理に鏡野を離そうと腕を掴んだ。が、鏡野が顔をあげて僕を見上げてきたので手に力を入れれない。ち、近いよ顔。
「さっきも言ったけど、私の力じゃ桃李にこの能力を認めてもらえない。だけど柏木君の力はそれが出来る。目に見える能力だから」
「え、最初から引き込むつもりだったの!?」
何だよ。さっきの僕の決意は。
「柏木君がいなかったら難しかったから、本当に助かるよ」
鏡野はニコニコと僕を見上げている。もういい。鏡野が企んだなんかの作戦なんなんだろう。身を任せるしかないと、僕はすっかり諦めた。佐々木先輩の足音が鏡野の部屋の前で止まったのに、鏡野は僕から離れる様子がないからだ。




