2 社交界の噂の的になりました
第三部本編スタートです。
お時間があれば、第二部をお読みいただくとヴァンドールとペルラの出会いを見ていただけます。
⌘
王城にて。
王妃の茶会では、公爵子息ヴァンドール・ド・グラサージュと子爵令嬢ペルラ・クレサールの恋物語が披露されていた。
「そうなのよ。甥のヴァンドールの健康管理は王家のお役目でしょう。だから筆頭治癒師に側にいて貰えば安心だと思って婚約をさせたのだけど」
王妃の会話に高位貴族夫人達が聞き入っている。
「まあ、王妃様のお慈悲ですわね」
「それがね、公爵夫人によると魔獣退治の後、体調がよくなかったらしいの」
「え、筆頭治癒師がいたのに?」
皆が一斉にグラサージュ公爵夫人を見る。
「ええ、息子と婚約者の魔力の相性が良くなかったみたいでしたの。治癒後によく寝込んでおりましたのよ。息子が心配でしたわ」
「では、新しい婚約者の方は、相性はいかがですの?」
「それが息子は、会った瞬間に、魔力が呼応して離れられないと感じた、と言っておりましたわ」
「まあ、まるで運命の恋ですわね」
「確かに、あのダンスの時、うちの息子もデビュタントとして参加していたので、見ておりましたが、素晴らしく息が合っていらしたわ」
「私も見ましたわよ、一幅の絵画のような素敵なお二人」
「王妃様は、ペルラ嬢に王家婚約者候補の首飾りを渡してらっしゃいましたわね」
「ええ、ペルラ嬢はクレサール領でも治癒師をしていて民を助けていたと報告に上がっていたので、ジュリアスの婚約者候補に入れておりましたのよ。まさか甥っ子と魔力が合うとはね」
皆が相槌を打つ。
「うふふ。それで詳しく調べてみたら、ペルラ嬢には特級治癒師の聖魔法の力がありましたのよ」
「まあ、特級治癒師!近年治癒師が減っているとお聞きしていたので良かったですわね」
「前婚約者のアデリーヌ嬢には気の毒ですけれど、魔術師団長の健康は国の未来にも関わりますから」
「それで王命が」
「そうなのよ陛下が早い方がいいと仰って」
「それでご子息のご体調はいかがですの」
「ええ、息子はすっかり元気になっておりますわ。それに仲睦まじくて」
ご夫人方の黄色い声が華やいでいる。
⌘
王太子執務室。
私は今、前にジュリアス王太子殿下、左に婚約者ヴァンドール様。お二人に囲まれている。
「まあ、そう怒るな」
「あれは横取りだ、私の婚約者候補だったのだぞ」
「あの時、ジュリアスに譲ったとしても、ジュリアスは私のために、ペルラを紹介しただろう。前の婚約者には治癒を装って殺されかけた。それを治癒してくれたのは、特級治癒師である彼女だ。だから今回は自力で見つけたまでだ」
「ぐっ、わかっている」
「諦めてくれ。ペルラはもう私のものだ」
ヴァンドール様が、私の髪をひとふさ取り、口付ける。
殿下の前で、恥ずかしいです。
「ヴァン!私に見せつけるな」
「見せつけてはいない。ペルラへの愛情表現だ」
「全く!」
ジュリアス殿下は私を見て真剣に仰った。
「ペルラ嬢、どうか、ヴァンドールをよろしく頼む」
「ジュリアス王太子殿下、精一杯、ヴァンドール様を大切に、お守りいたします」
「ああ、ヴァンが羨ましい」
「ならばお前も早く婚約しろ」
「うるさい」
お二人は仲がいいのね。
今や、社交界で、私達の婚約劇を知らない人はいないらしい。
噂はこんな感じ。
——デビュタントの舞踏会で、公爵子息であり王立魔術師団長ヴァンドール・ド・グラサージュ様が、婚約者のある身で、王妃様から首飾りを賜った子爵令嬢と三回続けてダンスを踊った。
しかもその最中に、婚約者の令嬢が抗議しようとしたけれど、ヴァンドール様の結界に弾かれてしまった。——
とても衝撃的で派手な出来事として、社交界中の注目の的になってしまったけれど。
デビュタントの方々は皆さんも見てらしたわけだし。
「ペルラ嬢、しばらく騒がしいのは許してくれ。バルトランザ侯爵家を黙らせるために、あれしか方法がなかった」
「それに叔母上と我が母上が、あちこちでさりげなく恋物語を囁いているらしいな」
「ジュリアス、あれは囁きではなく撒き散らした、というほうがいいな」
「母上である王妃の茶会では、高位貴族のご夫人方の格好の話題だからな」
殿下が苦笑してらっしゃるわ。
私は事態が収まるまで公爵家から出してもらえず、全て伝え聞きなの。
自分の婚約のお話なんて恥ずかしくて聞けない。
「ではジュリアス、そろそろ失礼する。例の件はくれぐれも頼んだ」
「ああ、わかった。それからペルラ嬢、くれぐれも気をつけてほしい。王家主導の婚約とは言え、よく思わない者や嫉妬もあるだろう。ヴァンドールから離れないように」
「はい、ジュリアス殿下。肝に銘じます」
「ペルラ、行くぞ」
「はい」
殿下の執務室を出て、ヴァンドール様のエスコートで王城の廊下を歩く。
「ララ、一緒に来てくれて感謝する」
「何をおっしゃるのですか。なかなか外に出られない私を気遣ってくださり、ありがとうございます」
ヴァンドール様が、ふっと微笑む。
「クレサールでの治癒師としての姿を先に見ていたせいか、貴族令嬢としての姿が新鮮で眩しく映る。綺麗だ」
「そんな、田舎貴族ですわ」
「いや、王城で充分、通用している。他の男に見せたくない」
「ヴァン様しか見ておりませんから、ご安心くださいませ」
「ララ、クレサールの花畑に閉じ込めておきたい」
「ヴァン様ったら」
ヴァンドール様は、お優しく、私は甘やかされてばかり。
もっとお役に立てるように。
⌘
二人の後ろ姿を、柱の陰から憎々しげに睨みつけている令嬢がいた。
アデリーヌ・バルトランザ。
婚約解消され、筆頭治癒師の称号を失った女。
お読みいただきありがとうございます。
不定期更新ですが完結します。よろしくお願いします。




